親しくなってからぶっ壊れるまで 作:おおきなかぎは すぐわかりそう
試験投稿2回目。
書き出しまでが非常に長い・・・・。
激闘!! 氷床の大地 (戦闘描写はほとんどないよ!!)
氷点下をぶらつく極寒の地域。
景色は、しばらく青と白、あとは太陽と黒しか見ていない気がする。
曇り止めを塗ったガスマスクの中は、外気と違って非常に蒸れる。それに対して、動きやすさを重視した防寒着は煤けてボロ着のようになっており、寒さに対する気休めにしかならない。提督から概要を聞いていたはずなのに、その恨み節は留まることを知らず。北極の氷が溶け、環境問題が叫ばれていたのは過去の話。深海棲艦の登場で立ち消えとなってしまったが、ガリガリと砕氷船を引き連れなくてホッとしているのは複雑なところだ。
北極海。その範囲は随分と広いが、冬にでもならない限り、氷塊の侵食は大人しい。周辺を索敵していた艦載機を艦隊に戻せば、艦隊に情報を周知させる。それを小耳に挟みながらやる事は周囲の警戒、特に背後を隊列を崩してまで念入りに観察する。注意するのは、自分でもよく知って足る、一撃で多大な被害を被る魚雷だ。雷跡がないのを目を皿のようにして要確認する。
『北極全域の制圧を今確認した。作戦成功だ、帰還してくれ』
提督からインカムを通じて音が入るのに対し、雑多な返事が入り混じるなか、短く返答する。喜ぶのは二の次だ。ここまで慎重になるのは、致命打を与える一撃が、敵を殲滅し、安心しきっている今もっとも突き刺さるからだ。そうして全体を大きく見渡していると、視界の端に違和感が生じた。海を波をかき分けて、こちらに軌跡を数本残して直進してくる物体が見えたのだ。
『後方より魚雷! 数は3本! 回避行動!!』
私の号令に一斉に動き出す。追撃がないのと、周囲の安全をしっかり見定めた後、反撃とばかりに魚雷を飛び上がらせた。利き腕の四連装魚雷発射管を、天高く掲げる間に四連射。敵魚雷が残した雷跡に沿って、線を掻き消すように遠方に着水。潜ったそばから、豪快に海水を浮かび上がらせた。ダイナマイト漁をやり終えた後の如く、少なくない損傷を負いプカプカと浮いてきた深海棲艦に、お返しとばかりに艦隊火力が殺到。結果は....まあ話すまでもないだろう。それに満足した北上は、旗艦らしくゆる〜く指示を飛ばす。最も損傷を負った者を中心に輪形陣を取ると、ゆっくりと現海域を離脱するのであった。
アリューシャン列島連合艦隊基地。
アメリカ領アラスカ南部より細長く連なる、アリューシャン列島200海里以内は、軍関係以外は完全封鎖されていた。
北極作戦に際し突貫工事で建設されたこの施設は、傷付いた体を休める場所であると同時に、もう一つの意味を含んでいる。
大井はシンプルな白の色調で統一された個室で、病衣を身にまとってベットに腰掛けていた。深海棲艦による生物兵器利用の可能性。そもそも深海棲艦が何のために現れ、何を目的にしているのかすら確信が持てないのなら、最悪の事態に備える必要があった。各国の作戦参加の艦隊も、場所は違えど同じ状況だろう。
退屈だ。たとえ陰性だったとしても、一週間の経過観察がここのルールなのだ。直接は会えないが北上との文通、日に一度の入浴で気晴らし、防護服を着込んだ職員が食事を運んでくる。たまに定期検査の採血と問診が行われ、それら以外は口を開くことさえあまりない。ようやく解放の日になって、大井は北上に飛びつき、作戦成功を引っさげて鎮守府に帰還した。
執務室で久々に提督とあって間もなく、大井はにこやかに詰め寄る。
「みんな、お疲れ様。無事任務をやり遂げた部下達を俺は誇りに「提督」....何だ大井、その手を退けてィデデデ!!」
指揮官らしくカッコつけようしたところを、駆け寄ってきた大井が頓挫させた。キュッと握られた腕が、グッと締まる。誰の目にも、大井が静かに怒っているのは目に見えて分かった。こりゃたまらんとタップアウトを繰り返す提督。
「作戦内容とその後の展開は隠さず伝えていたはずだ! なにか指揮に不満でもあったのか!?」
身をよじりながら悲痛に訴える提督に、加えられていた力がフッと消えた。じんわりと血流が通う感覚に腕を振りながら、疑問符を浮かべて過去を振り返る。
「太ったんです」
「ん? なんだって?」
「ふ、太ったんですよ。基地の食事が、その、美味しすぎて」
恥ずかしがって言葉尻が萎む大井に、唖然として時が止まる。俺、全く関係ないじゃん。目線を整列する艦娘に移してみると、各々反応は様々だが、北上なんかは"たはは"と笑って頭を掻いていた。
「そ、そうなのか? そんな太ったようには見えないけどな?」
フォローのつもりで言葉をかけるが、男女の価値観が必ずしも一致するとは限らない。気が触れたのか、提督の両手と大井の両手がガッチリ組まれ、180度グルリと回転させながら力を加える。
「ま、待て大井! ギブ、ギブギブギブ!!」
首を左右に振りかぶり、およそ人の上に立つ人間がすべきでない拒否反応を繰り返していた。その情けなさに満足げに悪い表情を浮かべ、天誅を下した大井は笑顔のまま手を離す。仕切り直しと帽子を直す提督は、咳払いを一つ。大井の様子を伺って、こんな提案を寄越した。
「あぁ、えーと....。ランニングでも任務に組み込むか?」
一際大きく声が上がる。"女心が分かってない"そんな声に、口をへの字に曲げる提督を見て、"救いようがないな"と首を振る。そうしてまた、鎮守府に戻って来たそんな感覚を今一度実感するのだった。
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「秘書艦の任を解こうと思う」
ある日の執務室。突然の言葉に、次の書類に伸びた手がピタリと止まった。ちょっとしたショックを覚える。いや、この場合は北上さんを秘書艦から降ろすと言う事で、私には直接的な関係性は皆無なはずだ。それなのに軽い動揺を覚えるのは、私が少なからずこの業務に思い入れがあるからだろう。なんだか心の外壁を削り取られたようにもの寂しさを感じるが、いくら嫌いな事柄でも、長く勤めていれば情の一つや二つ沸く物だ。
その感情に蓋をして、気持ちを切り替える。北上さんと一緒に作業こそできるが、仕事の量も決して無視できないので、会話ばっかりなんて事も叶わない。これなら北上さんと海域の攻略や、遠征任務に精を出す方が、よっぽど健全的だ。
秘書艦を解任されたのは、まるで北上さんが実力不足と言われてるみたいで腹が立つが、提督と同じ空気を吸わなくていいのは清々する、いや清々した。
「う〜ん、そっかー。でも北上様的にはちょっと寂しいかな〜。ね、大井っち」
なんでそこで私に振るんですか北上さん。北上さん直々の指名だ、当然無視なんて高度なプレイができるはずもなく、三秒ルールに乗っ取って即座に返答する。
「はい! え、えと、その。わ、私もそう思います!?」
「だって〜提督ー。いや〜モテる男は辛いねー」
へ? あれ、私なんだかとっても恥ずかしい事しちゃった? やだ、なんだか顔が熱くなって来た....。
小さく縮んでゆく大井を他所に、会話は止まる事を知らない。やれ、彼女はいるのかだとか。やれ、気になる人はいるのかだとか。顔を伏せていても嫌でも聴こえてしまう。ふと、自分のリアクションに、提督がどんな反応をしているのか気になってしまった。自分に注目が向いていないだろうといった推測のもと、大井は少しだけ顔を起こし、探るように提督の表情を盗み見る。提督は、からかう北上さんを鬱陶しそうにあしらっていた。なんだかムカつく。私はこんな恥ずかしい思いをしているのに、当の本人は特に反応を示すでもなく、どうでも良さそうにいつも通りなので、自尊心が大きく傷付けられた。
茶髪の前髪から覗く提督を睨みつけると、拗ねたように反対側に視線を移す。....あれちょっと待って下さい。なんで北上さんがこんな提督の話題に食いついてるんですか? いやまさかそんな、からかってるだけですよね? でもこれって....!? それは万が一、億が一にもあってはならないが、ふと浮かび上がった疑念が、大井の中で急速に積み上がって一つの理論を叩き出した。 今までのことなどどうでもいいと言わんばかりに、徐に立ち上がった大井はツカツカと提督に歩み寄り、襟首を摘み上げて勢いよくおでこを密着させる。
「殺されたいんですか提督」
「何があったら上官の殺害予告に辿り着くんだよ大井、いや近い近い洒落にならない位怖いから大井」
ゴンと響いた頭蓋骨の音と痛みと鼻息に意識を向けつつ、提督は格式貼った椅子から腰を少し浮かせながら、とりあえず離れるべきだと顔を赤くしたり青くしたりしながら地面を蹴った。すると、キャスター式の椅子が先に逃げ出した。提督は空いた手でその動きを封じる。
「ちょ、タイムタイム」
「今ここで誓って下さい。北上さんには今後絶対に手を出さないと」
「わ、分かったから、誓約書でも血判でもなんでもするから」
ワーキャー騒ぐ二人を眺めて、北上はお茶を啜ってほぅと吐く。
「いや〜、平和だね〜」
ザラザラとした湯のみを摩って、お茶の温度を感じる。仕事も小休止に至り、微睡む時間だ。この穏やかな時間も今日で最後だと意識すると、やはり、どことなく寂しくなってしまうのだった。
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