親しくなってからぶっ壊れるまで 作:おおきなかぎは すぐわかりそう
ポカポカと陽気に日が照っている、午前帯のとある鎮守府の日常。
工房の前には語り合う二人の姿が。
一人は提督。つい先程、秘書艦に断りを入れて現在中抜け中のサボり魔だ。対するは軽巡の艦娘。提督が女遊びに現を抜かすようにも誤解されかねないこの状況は、この鎮守府ではよく見慣れた、いや、この施設所属の艦娘全てに覚えのある光景だろう。
大した事はない、ただ単に世間話を二、三個とくっちゃべって、提督は満足したように"それじゃあ"とその場を立ち去る。
問題なのは意地でも全艦娘と会話しようとする所。一部の引っ込み思案の艦娘には、それはそれは面倒極まりない悪習慣に映るだろう。
三日に一回は煙に撒かれ、次に会った時は過去に遡ってしっかりと精算するので、借金取りをモジって点呼取りのあだ名で一部から恐れられていた。
さすがに一日で全ては回りきらないので、あくまで業務を圧迫しないように、一、二週間単位でスケジュールを組んで対応。
ちなみに今日は軽巡の日(2)。
これがある意味、提督が変人と呼ばれるもう一つの側面だったりなかったり。とは言え、任務だったり出掛けてたりでそうそう予定通りにいかないのでは? なんて疑問が出るかもしれないが、スケジュールを組める提督がわざわざバラけた組み方をするわけもない。
本日鎮守府に所属する対象の軽巡は、内勤で全統一されている。....艦娘の数も増えて、薄々限界を予感している提督が必死こいて調整しているわけだが、周囲の反対に頷きながら、やめるにやめられないのが苦しいところだ。
そんな苦行も残すところあと二人、大井・北上ペアとの会話を終えれば、メモ帳の今日の欄に勝利の印が刻み込まれる。提督はチェックで真っ赤に染まった手作りの表を見ると、自分を奮い起こし、快速と二人の元へと向かうのだった。
工房から100mにも満たない場所で、周囲をキョロキョロとさせる困り顔の大井を発見した。
「よう大井、調子はどうだ」
「あら提督、またしつこく口説いて回ってるんですか? 懲りないですね」
「いや、上官の事を誰でもウェルカムのクズ野郎みたいに言うな」
「事実そうなんじゃ?」
「一体秘書艦の時に何を見ていたんですかねぇ」
「提督を起こして、しばらくすると仕事をほったらかす」
「ちゃんと断りを入れてたでしょうが....あとその時間の秘書艦は自由時間だったでしょ」
挨拶もほどほどに、予定通り駆逐艦を教導していた大井を発見。少しばかし先程のおしゃべりが長引いただけに、時間を気にする必要性が出てくる。
「あれ、北上はどうした?」
「そうなんです!! 北上さんが行方不明なんですよ!!」
同じく、魚雷教導任務に付いていた北上が何処に居るか聞いてみると、案の定見たまんまの報告を受ける。大井は両拳を小さく振って、その緊急性の度合いを示した。
「さっきまで一緒にいたんだよな?」
「はい、ほんの十分前には教室で一緒に....」
そんな短時間でいなくなるものなのか? チラッと海辺に目を向けると、ここからでもしっかりと、波が打ち付ける音が耳を掠める。
「まさか深海棲艦に連れ攫われたんじゃ....」
建物の中から、複数の幼い笑い声が耳に届く。理想のリアクションに笑みを浮かべ、大井に目を向け表情を確認すると、予想に反して心配になるぐらいに狼狽る姿が。
「そ、そそそそんな大変、直ぐに追わないと!?」
「冗談だよ、流石にこれは飛躍し過ぎた」
「....顔面アスファルトで擦り下ろされたいんですか?」
「いや、ただのジョークだって。場を和ませる」
一転して暗黒微笑を浮かべる大井に弁解する提督だったが、これは困った。目標達成はもちろんだが、これだけ取り乱す大井を一人にするのもなんだか気が引けるので、時間の許す限り付き合うことに決めるのだった。
「休憩時間を挟んで、次は三時限目だろ? 時間になったら戻ってくるんじゃないのか」
「そんな無責任なこと言わないでください! 北上さんが何処かで倒れていたらどうするんですか!!」
ズイっと詰め寄った大井に、提督は半歩下がって、一歩下がった。休憩時間は残り10分。さすがに鎮守府の敷地内から出るような真似はしないと当たりをつけ、北上がいるであろう候補を絞ることにした。鎮守府端にある教室から近い順に挙げていく。
裏手にある、鳳翔のとこの居酒屋。流石にまだ任務も残っているのに酒を飲んでるとは上官として考えたくないが、昼まで少々時間もあるので、軽食を摘んでいると考えればあるいわ....?
さっきまでいた工房。すれ違いになるが、魚雷好きの彼女がよく通っているのを度々見かける。大井も置いて消えるんだ、相当緊急の用事があったのか、大井を連れて行く価値もないような取るに足らないことだったのか....?
北上の自室。一コンマ50分授業を二時限目までこなしたんだ、疲れていたのかもしれない。軽巡寮は駆逐寮を挟んでちょっとばかし遠いが、どうせ休むなら自分の部屋でなんて理解できなくもない。まあ、大井が北上の不調に気付けないとは思えないが....?
最後に間宮の所の甘味処。つい最近、新作メニューを発売したらしい。偵察がてら様子を伺いに行ったのかどうなのか。態々授業の合間にある休憩時間に行く必要は無いと思うが、甘いのが好きなのは過去に大井を使いに出すくらいだから知っている。教室からまるっきり反対側にあるので、そこまでして行きたいのかは疑問が残るが....?
うーん。候補を出したはいいが、どれもいまいちだな。念のために大井にも候補を喋ってみるが、結果は沈黙と微妙そうな顔が教えてくれた。
「いなくなる直前の様子とか、何か喋ってなかったか?」
「特別変わったことは何も....。授業が終わって、ちょっと席を外して戻ってみれば、教室にはもう誰も....」
腕時計を見る。後5分....周囲をふたりして見渡すが人っこ一人いやしない。両者に緊張が走る。もしかしたら、大井の杞憂もあながち馬鹿にはならないかも知れない。
もし次の授業にも姿を見せなかったら館内放送で呼び出しをかけよう。それでも見つからなければ、捜索チームを結成して近いところからシラミつぶしに....。
もはや事件は迷宮入りかと思われたその時、少女の中でバラバラに散らばった点が繋がり、一つの可能性を導き出すに至る。
「提督、私わかりました!!」
「え?」
「北上さんが何処にいるかわかったんですよ!! 着いて来てください!!」
言うが早いが、提督の返答も置き去りにして駆け出した大井は、ある確信に向かってさらに初速を伸ばす。後方に小さくなる説明を求める声には既に意識は向いていない。
北上さんがそこにいる。必ずいる。絶対いる。早る気持ちに残った焦りを、一刻でも速く落ち着けるために、彼女は走る。
後少し、後少しで....ッ!。
振りまけれる長髪。上気する頬。ドクドクと絶え間なく脈打つ心臓に、目的の場所で一休み。呼吸を整えて....。
遅れてやって来た提督は、息も絶え絶えに膝に手を付いた。頭を垂れて、ゼイゼイと仕切りに空気を取り込む。インドア提督とアウトドア艦娘の圧倒的運動格差だ、運動する時間を真剣に取ろうかの検討会はまた後日、大井が消えて行ったその先に入って行く。
「お、提督も来た」
「もー北上さん!! 凄く心配してたんですよ!」
「ごめんって大井っちー。ちゃんと謝るから許してよ〜」
「で、でしたら今度、話題の恋愛映画を見にいきましょう!! 二人で、二人で!!」
「そんくらいだったら全然いいよ〜。あ、ポップコーンは私に選ばせてね?」
「もちろんです北上さん!!」
北上は特に変わりなくそこにいた。ほっとする反面、どっと疲れた。午後の座り仕事に支障が出ないことを祈りながら、残り時間を確認しながら解散を言い渡す。ブーブー文句を垂れる相手達に、今一度解散を言い渡すと、渋々と後片付けを手早く済ませ立ち上がる。お手手繋いでお土産と共に仲良く出て行く二人の背後を見送って、思い出したとメモ帳を取り出すと、一瞬躊躇ってチェックをつけるのだった。北上とはつい最近に随分と喋ったじゃないかと自分に言い聞かせて。
いつの間にか推理もの描いてました。
(これなんてホラー?)