親しくなってからぶっ壊れるまで   作:おおきなかぎは すぐわかりそう

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ストックはなくなったけど、投稿日当日に書ききったのでセーフ、セーフ。


鎮守府の闇!? 影で交わされる裏取引の真相とは!!

 

 

 多くの者が鎮守府を離れ、物理的に静けさをもたらす午後も昼過ぎ。

 

 鎮守府居残り組も、一日の終わりを祝いハメを外すにはまだ早いだろう。

 

 

 艦装の整備を終え、自室に戻り部屋の清掃でもと考えていた大井の肩を、何者かがトントンと唐突に叩く。突然の事態にビクッと首を縮ませ、ゆっくり振り返った大井が視界に収めたのは、パーソナルスペースを顔面で突き破る、首からカメラをぶら下げた重巡洋艦だった。

 

 

「どうも、お久しぶりですぅ! 最近また良いのが入ったんですが、よかったら見て行きませんか?」

 

 

 敬礼はお見事。ただファーストコンタクトで、その距離の敬礼は威圧感が凄まじい。それすらも何度も経験してしまえば慣れてしまうのか、上体をそらしながら冷静に対応する大井は、青葉の言葉に血相を変え目を光らせた。

 

 

「つ、ついに取れたんでふか!?」

 

 

「はい!! いやーかなり苦労したんですよぉー」

 

 

「見せ、見せて下さい!」

 

 

「もちろんです! ちょーっと待ってくださいねぇ〜」

 

 

 そう言ってスマホを取り出した彼女は、お目当てのデータを探して指をスワイプさせる。眼球の上下運動を二、三度繰り返し、横向きにしてお目当ての写真を眼前に降臨させた。

 

 

『鎮守府の海岸で、スカートを抑える北上の図』

 

 

 がっしりと大井がその写真に食らいつくと、青葉は得意げな顔を瞬時に作り、一気に釣り名人の顔へと変貌させる。鷲掴みする両手に例の写真が持っていかれないように、獣に語りかけるようになだめにかかった。

 

 

「はいしどうどう、はいどうどう」

 

 

 大井の手首を掴んで、せっかくの成果を灰燼に帰さないように、まず理性の呼び出しに全力を注いだ。呼吸を合わせ、一進一退の綱引きを繰り広げる。一瞬の気の緩みすら致命打になり得るだろう。元々は同じ巡洋艦。されど、肩や軽巡残るは重巡。オーバードライブぶちかましで短期決戦に臨むものの、徐々に青葉の方へと形勢が傾く。

 

 大井がタイマンのでは勝てないと理解すると、冷静さを取り戻し、やっとこさ理性が交渉のテーブルに着席。肩で息をしながら、大井はゆっくりと力を解いた。

 

 

「す、すみません本当。周りが見えなくなってました....」

 

 

「いえいえお気になさらずー」

 

 

 いつものことなので、の言葉が頭の中で反響する。そうやって、いつも通りの天真爛漫な笑みを浮かべた。

 

 いつかの日、提督にゴネて買ってもらった一眼レフカメラ。おかけで提督の財布はスカンピンとなり、初給料で買ったコンパクトデジタルカメラより始まった写真家人生は一気に開花へと至る。開かれる新しい世界。たぎる記者魂。カメラ雑誌を食い入るように眺め、光と闇のコントラストにため息をつき、使用されたカメラの値段にため息をつき。十万円以下のチャチな代物では、満足出来ない体になってしまった。とにかくお金が沢山、沢山沢山、湯水のように投じる事となるのが写真家の性なのか。

 

 目の前の大井は太客。目標の百万円を貯めるために、今日も頑張らなくては。

 

 

「つきまして、今回の生写真は通常の三倍は頂かないと、なかなか厳しい物がありましてですね?」

 

 

「通常の三倍ですか? ええ。わかりました、それなら問題ありません、買い取りましょう」

 

 

 ほんの少し思案を浮かべた後、どんな計算式を頭で巡らせたのか、快諾の返事を受け取った。清々しい程の澄ました顔には鼻の穴がピクピクと開閉を繰り広げ、もう既に彼女の頭の中では、この写真は彼女の所有物にでもなっているのだろうか。

 

 

「ぅへえ!? あ、あはは冗談ですよ大井さん。いつもご贔屓にして頂いているで、本日通常価格より三倍のところ、特別価格の二・五倍で販売させて頂きますよ!!」

 

 

「あら、悪いわね。別に三倍だろうと買ってたのだけれど」

 

 

「いえいえ恐縮です! これからも青葉の写真をどうかよろしくお願いしますね? ....それとー、もし宜しければ写真のセット販売などもー....そーですよね、要らないですよね! 大変失礼しました!」

 

 

 当初の予定では一度高いと印象を与えつつ、三倍を二倍にまで引き下げて好印象を与えるつもりだったが、あまりの即決と悪魔の囁きで販売価格を予定より引き上げてしまった。

 

 この人、通常ならお得なセット販売を主力商品として話を進めるのだが、どう言う訳か単品での購入を好んで利用してくるのだ。当然、ある写真に固定ファンがいると知れば、販売者側としては相場を上げていくなどをして対応し、需要と供給のバランスを保とうとする。

 

 一括での購入なら相場変動の影響を極力抑える事が出来るのだが、むしろ北上写真の吊り上げを意図的に行っているのが末恐ろしい所だ。他の人間の手に極力渡らぬようにする工作する意図と合わせて、北上そのものの価値を高めるための行動なのだろうが、罪悪感が強烈すぎてセット販売の勧誘なんて最後にしてしまっている。

 

 計算機で価格を割り出し、開示し、代金を頂戴する。

 

 

「一二三と....はい、丁度頂きますね! またいい写真が撮れたらお声掛けいたしますので、それでは!!」

 

 

 ピシッと決まった敬礼を最後に、彼女は脱兎の如くその場を後にした。

 

 後に残された大井は、その後ろ姿を最後まで見送ると、写真をペアにしてワルツを踊り出しす。喜びを全身で表すように、クルクルと両手で持った写真を軸にしながら鼻歌なんか口ずさむ。

 

 

「あー、言いそびれてたんですけどね?」

 

 

「うひゃぃ! あ、青葉さん。またいらして何ようですか!?」

 

 

「何やら提督との仲が大変良いともっぱら噂でして、どうです? 提督の写真も見てみませんか? 今なら出血大サービスしちゃいますよ!!」

 

 

「..........」

 

 

 すぐ背後で高鳴った声に情けない音で振り返り、頻りに髪を触りながら動揺を悟らせまいと視線を泳がせた大井は、次の瞬間にはプラスが一点、マイナスに大きく振り直していた。

 

 

 またなのか、と。

 

 

 最近何かと一緒にいる所を目撃されたからなのか、否定するのが億劫な程に会話の話題に上がる。なんとも短絡的で恋愛脳的な、単細胞チックな質問だ。

 

 男子禁制とまで言わないが、一番身近な異性が"アレ"なので、外界から入る偏った情報の数々によって、夢見がちな乙女がなんと多い事か。ウブな子から行き遅れまで、少ない経験談を共有し合い、どんな些細なことでも何処ぞの違法建築並みに盛るは盛るは。

 

 情報は錯綜し、微かな恋の匂いも嗅ぎつけて、一日あれば情報は鎮守府中に行き渡る。貪欲な食い足りないライオン。この言葉を例えとして使っても、差異それほど無いだろう。

 いや、この件は本来なら、スイーツ脳に浸れるほどに平和になったと喜ぶべき事案なんだろうが....。

 

 以前までなら舌打ちの一つ付いて、唾棄すべき捏造だと発言してたかもしれないが、今では嫌悪感も薄れ、結構良好な関係を築けている、あんまり強く否定して関係性を悪くしたくないのが正直な所だ。

 

 

「その....提督の写真は売れてるんですか?」

 

 

「いや〜、被写体がてら許可をもらって撮ったはいいものの、これが思ったより売れなくてでしてねー。在庫が....ですね?」

 

 

「あ、そうですか....あれ?? 思ったより売れてないって事はある程度は....?」

 

 

「提督変顔シリーズが一瞬ブームを呼んだんですがね? 本当に一瞬だったんですよー。おかげで在庫置き場を圧迫して、同室の笠にクレームを入れられてしまう事態に....」

 

 

 よよよと萎れる青葉。

 乗るしかないこのビックウェーブ。

 力を一点集中させたが最後、だが我が世の春は余にも短く、旬は瞬く間に過ぎ去っていった。

 残されたのは提督の写真。

 張り切り過ぎて、普通の写真も大いに紛れ込む。

 あまりの激写っぷりに、自分の写真集が出ると勘違いする提督。

 新しい価値の開拓を模索。

 提督、フツメンの顔。

 ジャニーズで目の肥えた艦娘に擦りもせず。

 プリントするのもタダではなく。結果、目標金額は赤字により敢えなく後退。

 しばらく塞ぎ込んでしまった。

 

 大井が提督のことを少なからず嫌っていない事は、ゴテゴテの脚色情報でも理解できた。すでに多額の損失からは立ち直り、いい加減写真を片付けないと、罰としてカメラ没収のお達しが現実のものとなるやも知れない。

 

 

「ぷふ! なんですかその提督を小馬鹿にするようなシリーズ名は。なんだか気になるじゃないですか」

 

 

「おぉ!! 興味出ちゃいましたか!? それなら是非私の部屋まで! 何十スタックでも大歓迎ですよ!!」

 

 

 ツボに触れたのか、悪く無い反応を確認した青葉は透かさず背後へと回り込み、背中を押して前進させる。一方の大井はと言えば、グイグイといつも以上の押しの強さに、呆れ笑いを漏らすのだった。

 

 

 

──────

────────────

──────────────────────

 

 

 

「ちょーっとだけ待ってて下さいね?」

 

 

 その言葉を最後に青葉は扉の向こうへと消えた。

 

 部屋の内部へと姿を消すまで、こちらへの視線を途切らせる事はなく、まるで折角の獲物から目を離したくないと訴えているようだった。

 ガン見で念を押していた割に、扉は三拍程で再び開かれる。

 

 

「どぞどぞ上がって下さい! まあ汚い部屋ですけど」

 

 

 部屋に入ると、両壁の壁に二段ベットがそれぞれ備わり、開いた四隅をそれぞれの自陣として所有しているようだった。

 

 個性が反映されるそれぞれの陣地に中で、一際ベットを飲み込むんじゃないかと錯覚してしまうような荷物が積まれた一角。青葉の領土である事は、想像に難しくない。残念な事に、収納の類は見当たらない。仮にあったとしても気休め、焼け石に水にしかならないのだろうが。周囲を見渡す大井であったが、んしょんしょの声の後、前方でズドンと鳴った重厚感のある音で意識は瞬時に持っていかれた。

 

「いやーみんな出払ってて助かりましたよ〜。ちょっとでも散らかすと領土侵犯だ! って袋叩きにされるんですよね〜 」

 

 

「ぇもしかしてその段ボールの中身全部....」

 

 

「はい!! ギッチギチに詰まってますよ」

 

 

 大きめのミカン箱を開けていくと、中から飛び出すのは輪ゴムで四重にも縛られた写真の束であった。

 

 見る人によっては誤解を招きかねない写真の量。それを青葉は事もなげに、それはまるで聞いて聞いてと駆け寄り、あのねあのねと語り出す、純真無垢な子供のように自慢げに告げるのだった。

 しかしその扱いは到底商品としての扱いではなく、ポイポポイポイと次々に段ボールから引っ張り掴んで放る。

 宙舞うそばから、ボトボトと輪ゴムで縛られた、写真で出来たタワーが床に落下。その場で数度バウンドする。大井はその光景を呆気に取られただ見守るしかなかった。

 

 ふっと正面に投げられた写真の束。

 

 ゴムの力が弱まっていたのか、床と衝突を繰り広げると、写真のタワーは辺り一体を覆い隠した。あ〜あ、と散らばった写真を両手でかき集めて、一枚を捲って見ると。唇を噛んで笑いを堪えた。

 

 

『うまくくしゃみができなかった提督の図』

 

 

 "ひどい顔だ"、始めの感想はこの一文に集約されている。

 

 上手く勢いを逃せず目は半眼、押さえ込む手も間に合わず、鼻水を棚引かせていた。

 

 

「私が秘書艦をしていた時の、執務室での一枚ですねー。提督がくしゃみしそうな時に、もしかして!! ってカメラを向けてたんですけどね! いやー我ながらナイスショットですねー」

 

 

 横から覗きこんだ青葉が写真の解説を始める。

 

 それを邪険に扱うまでもなく、大井は改めて青葉の写真技術に舌を巻くのだった。素人目から見てもベストショット。北上の写真と言い、一瞬を切り取るその行為は並大抵の技術と忍耐では到底なし得ない。このレベルの写真が無造作に転がっているのだ。

 同情や下心なしに、素直に応援したくなる。

 

 他にも青葉は散らばり写真を神経衰弱のように捲り、これは頭をぶつけた時の写真。それはストローを咥え損なった時の写真。あれは渾身のギャグが滑った時の写真。などと、まるで目の前で繰り広げられているのを実況するように、饒舌に語る。

 写真の技術や繰り出される提督の醜態の数々に、魅了されそうになった大井だったが、ふと見た時計が随分と経っている事に気付く。北上さんが帰ってくる時間だ、いつまでもこんなことをしている余裕はない。

 

 次を捲ろうとする青葉の手を大井は静止し、写真の説明はまたの機会にでもと提案し、本筋に戻るように言った。青葉は渋々閉口し、散らばってしまっていた写真を手際よく新しい輪ゴムで縛り上げると、本来の目的であった交渉を開始するのだった。

 

 

「いや〜ついつい喋りすぎてしまいました、申し訳ないです。てことでですね、大井さん買い取って頂けますか? いや寧ろ、部屋が片付くのならタダでもいいですよ?」

 

 

「流石にタダで貰うのは気が引けますよ」

 

 

「でしたら単品での御所望で?」

 

 

「いえ、それは癪に障るので微力ですが協力させて下さい」

 

 

「あっりがとうございます〜。どれくらいお詰めしましょうか?」

 

 

 青葉は背後から紙袋を二枚取り出すと、無造作に置かれた写真の束の一つに手を伸ばした。紙袋を二枚取り出した時点で沢山貰って欲しい魂胆が見え見えだが、まあいいだろう。収納をちょっとばかし圧迫しそうだが、北上これくしょんコンプリートのためだ、その程度我慢しよう。

 

 

「外に出た奴全部で」

 

 

「は〜い、毎度ありがとうございまーす」

 

 

 テトリスブロックのように容量よく紙袋へと写真が消える背後に、どう考えても有り余っている在庫を溜め込むミカン箱を見遣る。少しだけ残った写真の下は白い紙で仕切られていて、底を拝むのはもう暫く先の事となりそうだ。

 

 

「まだ片付きそうにないですね」

 

 

「いえいえ!! あれは何の面白味も無い失敗作の集まりですから、いやーお陰様で大分すっきりしましたよ! なので、お気になさらずに。それよりも代金のことなのですが」

 

 

 サッと差し出された重そうな紙袋に、両手でその重さに警戒する。青葉を見るとニッコリと人当たりの良い笑みを浮かべ、計算機も出さずに破格の値段を口にした。今日大井が買った北上写真の十分の一以下、紙袋一杯に詰まった写真の値段なのかと、北上写真に恐怖すればいいのやら提督写真に恐怖すればいいのやら。

 

 

「安過ぎやしませんか?」

 

 

「いや〜これが需要と供給の現実でして〜」

 

 

 面目ないと恥ずかしそうに、馬鹿にしたような青葉の発言に、大井は内心複雑な心境で代金を渡した。会話もそれくらいに、お釣りを受け取った大井は退出する。

 

 扉が完全に閉まるその時まで、青葉は手を振るのをやめなかった。

 

 

 

 




競争の原理ぃ…。
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