親しくなってからぶっ壊れるまで   作:おおきなかぎは すぐわかりそう

2 / 51
提督はメンタルがお強い

「おう!この後の訓練もがんばれよ!」

 

 この施設の最高責任者はそう言って、手を大袈裟(おおげさ)にブンブンと振った。ある程度見送った後、開戦以来身に(まと)っている白い軍服からメモ帳を取り出すとチェックを付けていく。

 

 

────俺もだいぶ慣れてきたな。

 

 

 そんな事を考えながらメモ帳を仕舞うと食堂へ向かって歩き出す。

 

 

────今日はうどんの気分かな。

 

 

 最近は忙しくて部屋に缶詰め状態だったので、何か食いごたえのあるものでもガッツリ食べようと考えていたが、さっきの話を聞いて気が変わった。

 (しばら)くうどんもお目にかかれてなかったから、天ぷらマシマシ七味ぶっかけ提督スペシャルを久しぶりに食べよう。まあ、七味をかけすぎて周りの艦娘に引かれるのは結構(こた)えるが、それも話のネタになって面白いだろう。

 すれ違う部下達へ、無難に挨拶(あいさつ)を返していると目的地に着く。食堂の扉を開ければ(みな)(みな)、思い思いの時間を過ごしていた。昼時を少し外したこの時間帯、席は半分程()まってはいるもののほとんどの者が食事を済ませていて、こちらの姿に気付くと軽く会釈(えしゃく)された。

 それに手を軽く上げて応えると、何とは無しにある人物を探してしまう。

 

 

────いた。

 

 

 列に並ぶ問題児に近付くと、こちらに気付いたのか正面を向いたまま顔を露骨に歪められた。

 

 

「よう、大井」

 

 

 声を掛けてみるが返事は無い。無視を決め込んだらしく注文したサバの味噌(みそ)煮定食をトレーに載せると、ささっと離れていった。

 

 

────あいつらしいな。

 

 

 軍帽のツバを掴んで顔を隠すように影を作ると、口の端が吊り上がり笑い声が漏れ出さないように体を震わす。

 

 

「あの~。提督さん....注文の方を....。」

 

「あ~、悪い悪い。うどん大盛り天ぷら全部乗せね」

 

 

 厨房(ちゅうぼう)からの声で我に返ると、若干引いている店番の子に注文する。トレーを取り、備え付けのテーブルから箸と七味を持って来ようとするが......。ない、七味がない。赤いキャップの三分の一しかない、せめて半分は欲しかった。

 

 

「すみません。今ちょっと七味切らしてるんですよ」

 

 

 状況を察したのか厨房(ちゅうぼう)から声がして、空になったと思わしき容器を回収するために手を差し出す。提督はそのことに全く気が付かずに「これで我慢するか」。と呟き、箸と軽い音を(かな)でる七味をトレーに載せた。

 

 

「ん?」

 

 

 大井がこちらに向かって早足で向かってくる。

 謝りにでも来たのかと考えていると、備え付けのテーブルから箸を乱暴に取り出し、自席にさっさと戻って行った。帰り際に耳が赤くなっているのを見た。

 うわー、ドジだなー。と思いながら前を向くと、手を差し出したまま固まった店番の子が、苦笑いを浮かべて立っていた。さっきより心の距離が開いているのを感じた。

 




1176
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。