親しくなってからぶっ壊れるまで 作:おおきなかぎは すぐわかりそう
北上さんは心配です
勢い良く送り出した親友は、妙にソワソワと落ち着き無く帰ってきた。これでも長く一緒に過ごしてきた仲だ、いい知らせであることは態度で解っちゃうんだな〜これが。
連れ去られた時は何事かと飛び出しそうになったが、どうやら不要な心配でしたねこれ。
ベットの上で雑誌を広げていた北上は、内容もろくに理解していないページを折り畳み、いつもの調子で”おかえり〜”と言った。
いつもなら花の咲くような笑顔を見せる大井っちなのだが、出会って間もない頃のようなよそよそしさで返事した。一直線に自分のベットに潜り込んで、布団の丘を作り出す。
それを見て、ベットから飛び起きると、大井っちの元へダーイブ。親友ながらに羨ましい、柔らかい豊満な体を堪能しながら、しつこい追求が始まった。
「うひぁ!? 北上さん、あ、危ないですよ」
「提督なんの用事だったの? ねえなにしてたの? チューはもう済ませた?」
「ぅへ! い、いや、普通でしたよ。ただの業務連絡です」
「ふ〜ん」
突然の奇襲を受けた大井っちは、すっころんで頭でも打たないか心配して顔を出した。まるで小さい子供を持つ母親のような注意の仕方だ。
そこに待ってましたと私が問い詰めるが、大井っちが対抗するように顔を近付けて、変なことは何もなかったと訴えた。腕を引っ張ってまで連れ去った提督が、ただの業務連絡でそこまでするのかと猜疑心は募り、どうしても納得できないと唸る。
なおも体を近付けようとする大井っち。まるで何かから遠ざかって欲しいといった願望が、体から出てしまっているようだ。
大井っちの背後。端に寄せてクシャクシャになった掛け布団に、疑いの目が向けられると、大井っちのディフェンスを掻い潜り真実を解き明かしにかかる。
必死にベットから引き剥がそうとしてくるが、これではここが怪しいですよと言っているようなもの。腰にしがみ付いて来る大井っちに適当に返事しながら、手探りで異物を探していると……ん? 何か硬いものが。
「何かありますね〜」
「き、北上さん!! あのその、それはあれなので! だから、ダメなんです。本当にダメなんです〜!!」
箱のような物を掴んで手の甲を返すと、それは青い箱だった。
一瞬、これがなんなのか理解できなかったが、ケースを開けるとなんなのかすぐに判った。リングケース。いや、この場合はマリッジリングケースって言えば良いのか。噂では聞いていたものの、実物を拝むのは初めてだった。
「これってカッコカリの指輪だよね? え、もしかして大井っち告白されたの!?」
「あーえっと、はい……」
「でも、提督っていろんな艦娘に声掛けて振られてたよね? 今日何度か玉砕してるの見た気がするんだけど……」
「そ、そうなんですよ! それを見て私、なんだか提督が可哀相に思えてきてしまって……。なので仕方なく、仕方なく貰ってあげたんです!!」
「ふ〜ん仕方なくね〜」
その割に、大井の表情には悲哀の影が差していない。う〜んこれは。一応探りを入れてみよう、ちょっとからかってみるか。
「大井っち、君のことを愛しているんだ、この気持ち受け取ってくれ」
手に握った指輪を相手に見立て、キザ男のようにキメ顔をしながら愛を囁いて見せた。
すっと視線を大井に移してみれば、何か思うことでもあったのか、前髪を弄りながら縮こまり下を向いていた。
あ〜これは完全に惚れてますね。恋は盲目なんて言葉の通り、見た所たくさん言い寄った中の一人だと言う認識が薄いようだ。寧ろ提督の好意を受け取ったのを言い訳にして、気持ちをごまかしているようにも見える。
「ちょっと残念なお知らせなんだけどね大井っち、見てらんないから今まで背中を押してきたんだけどさ? 今、大井っちは冷静な判断ができてないと思うんだよね。だから、私が言うのもなんだか出過ぎた真似かもしれないんだけどね? 一回その指輪返してみて、もう一回考え直してみない? ね?」
「……確かに、提督が他の艦娘に言い寄ってたのは事実です。でも、その、私の時は違ったって言うか。他の方の時は押し付けがましく告白していたのに、私の時はその、誠実に告白してくれたと言うか……。なんだか、誰かにオッケーをもらわない限り、辞めないのかなとか何となく考えてみたら、提督が惨めに思えてしまって……。それで……北上さんの安全を確保するためとからかいの意味を込めて、貰ってあげてもバチは当たらないかなと思いまして……」
提督の行動によって不信感を抱いた北上は、一度距離を置いて冷静に考えようと提案する。一方の大井は顔を伏せたまま、今度は手遊びをしながら緩く反論するのだった。
う〜ん。思い出を主観で語っている以上、美化してないか心配になるが、ちゃんと言い訳を練り出す頭の容量があるのなら、一先ず安心かな。
提督のことで頭が埋まってないのが判っただけでも良しとしますか。友達を信じてあげれるのが、戦友でもあり親友の本懐だろう。
だが、もし大井っちを泣かせるような事をするのならば容赦はしないぞ、と心に決める北上であった。
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大井の戦績が回復した。
これは指輪を送ってすぐの、即効性のある出来事であった。
なるほど、ふざけた名前とセンスの代物だが、どうやら効果の程は絶大のようだ。艦種に頼らない普遍的装備は、量産体制さえ整えば一気に戦力の底上げに貢献する。これには開発局も今頃ウハウハだろう。
同封されていたチェック用紙にサラサラと文字を書きこみながら、提督は最終的な評価を下す。
これならば大井の転属も必要ないだろう。即刻、海域攻略に組み直し、問題ないようだったら今まで通りに戻ってもらおう。
提督は引き出しの書類をファイルから取り出し、躊躇うことなくシュレッターにかけた。これで今日の秘書艦が在庫整理を終えて、先程連絡の入った入渠システムのトラブルを確認したら、今日の業務はおしまいかな。
……なるべく複雑な問題じゃなきゃ良いんだけど、早く駆けつけた方が良いかな?
「失礼します」
ノックも予備動作もなく開かれる扉と、たった今話題にしたばかりの人物の声に、呆れながら目を向ける。嫌なタイミングだな。緊急の案件じゃないようだし、後回しにさせてもらおう。
「大井か、何か緊急の用事か?」
「いえ、そう言ったのじゃないんですけど……」
「じゃあ後で良いか? 入渠システムが壊れたとかで対応に行かないといけないんだ」
「す、すぐ終わることなので」
「?」
執務室の電気を消しながら催促するようにして向き合うと、大井は背後にあったある物を両手で包むようにして提督の眼前に差し出した。
「あの……これ、提督につけてもらいたくて……」
「え?」
青いケースにはめ込まれた指輪だ。いや、ちょっと待ってくれ。 わざわざ指輪をはめてもらう為だけに外したって言うのか? 違うだろ、今まではめてなかったって考えるのが普通じゃないか? 確証がない、そうじゃない、戦績は事実上がっているんだ。だから問題ないはず、提出用の書類に虚偽はない。そもそもなんでつけにもらいに来た? 儀式? 験担ぎ? 明日の出撃の不安を紛らわせに来たのか? いや今それを論じている場合じゃないだろう、そんなことよりも入渠トラブルの方が重大だ。作戦計画に狂いが生じるかも知れないんだぞ。
提督の頭の中では、様々な憶測が飛び交っていたが、目の前の問題を解決するために無意識のうちに体は動く。
「いいえ違います。跪いて……そうです、私の指にはめて下さい。指は……わかりますよね?」
言われるがまま、なすがまま。糸に引かれたマリオネットのように、提督は純粋に大井の要望に応えていく。
ハッと気が付く時にはもうすでに全ての事は済んだ後で、片膝ついて大井を見上げるこの姿勢が、明らかに上司と部下の関係性を逸脱していると感じ、頭を振って立ち上がった。
大井の用事は片付けた、次だ次。中身を失った指輪ケースを差し出すが、指輪に視線を固定したまま反応はない。仕方ないと手を取って強引に握らせると、一瞬ビクリと反応する大井であったがそれを無視して、一声かけてから退出するのだった。