親しくなってからぶっ壊れるまで   作:おおきなかぎは すぐわかりそう

26 / 51

先週分です。お納め下さい。


あなたに届け!! カササギの橋

 

 

 

 ドゴォ──────────ン!! 

 

 

 澄み切った青空に、耳をつんざく霹靂は轟々と鳴り響いた。

 

 腹の底をも震わせる余韻は、在りし日の面影を有無も言わせず連想させる。

 

 咄嗟に犬歯で唇を噛み、爪を食い込ませて白手袋を丸め、向き合うべきは今この瞬間、この戦場であると体に言い聞かせた。

 

 

「弾幕を張りつつ後退します!! 負傷艦は先導にしたがって行動を!!」

 

 

「陸奥さん側面から敵です!! どんどん圧力が増してきてます!!」

 

 

「全速で後退して態勢を立て直して!! 殿は私が務めます!! 貴方なら出来るわ大淀」

 

 

「そんなことしたら、陸奥さんが孤立しちゃいますよ!!」

 

 

「大丈夫、早く行って」

 

 

「後で……いえ、御武運を陸奥さん。今から遊撃艦隊が援護に回ります! 護衛部隊は敵に構わず即時離脱を!!」

 

 

 どうしてもあの日の風景との共通点を探してしまう。

 

 現世で人の姿を模っても、運の悪さは折り紙付き。不幸自慢をするつもりは毛頭ないが、前世と張り合えるんじゃないかと自傷気味に笑う。

 

 もしかしたら、パッと燃え盛って消してくれない今の方が……。

 

 エンジン音は低く唸り声を上げ、タービンが逆転を始める。砲撃が止んで静まり返った大海原に、憎たらしい日本晴れ。一緒くたのキャンバスに断りもなく、油然と黒点は浮かび上がった。

 

 

──────

────────────

──────────────────────

 

 

 今日はいい天気だ。

 

 こんな日は、特に根拠もなく何か良い事が起きる予感がする。

 

 提督は、小さな駆逐艦に両手を引かれて、鎮守府正面玄関入ってすぐの広場に来ていた。

 

 他の目的もあるが、まずは本来の目的である日課を片付けることとしよう。狙い澄まして来た甲斐もあり、今日は丁度よく駆逐艦の日(5)だ。

 

 ちびっ子の会合はオープンな場で行われることが多い。何とも健康的で微笑ましく、引きこもってばっかりの一部艦娘も見習って貰いたいものだが、内緒話やエグい話が飛び交わないことが関係するのかも知れない。

 

 腰の辺りで繰り広げられる集まり。その渦中に引き込まれ、わっと彼女らは群がった。

 

 舐められてるのか、遠慮なく股下を潜る傍若無人さに若さを見出して、効果はないだろうが形だけ叱っておく。背中をよじ登って、顔面をパン生地の如くこねくりまわす艦娘にも注意する。さっきから四肢を引っ張って、牛裂きの刑を実行しようとする艦娘にも口を尖らせる。

 

 便乗して、みんなの優等生兼まとめ役の子がみんなを再び叱ると、効果があったのかピタリと止んだので、偉いぞと撫でてやる。

 

 その光景を物欲しそうに眺める視線に気付いてしまえば、少しばかり躊躇って、結局みんなの頭を撫でることとなった。

 

 こういったところが舐められる由縁なんだろう。上司の忠告より姉妹艦の苦言の方が効果抜群なのはいかがなものか。

 

 破顔して喜ぶ、片手で治ってしまうような小さな頭。そんな光景を見ていれば癒されて、まだ積み上がっている議題から暫し現実逃避できる。

 

 ペットを飼っているような感覚なのか、それとも娘を持つような感覚なのか、どちらも経験がないので判断はつかない。……こんなことしているからロリコン判定が下るんじゃないだろうか。

 

 小さな会議はいつしか、今日は何して遊ぶかの相談へ。ディスク仕事で鈍る体には、かけっこなんかは丁度いい運動だ。

 

 目標を大方達成した今、あとは本来の目的にシフトするべきなのだが、正門を見た所どうやらもう暫く暇しそうだ。バキバキ鳴り過ぎて心配になる体を他所に、部下との交流をより深めていくのだった。

 

 

 

 

 

 温まり体も伸び始めた頃合いを見計らったように、深緑色の軍用トラックが鎮守府内にタイヤを乗り上げた。”ちょっと外すぞ”と一声かけた後、激しく乱れたわけではないが衣服を正し、提督は保酒横に乗り付けたトラックへと歩みを寄せる。

 

 突然の離脱に、比較的甲高いブーイングを白い背後に浴びるが、その声に混じって指摘の声が。そんなこととも露知らず、面倒だからと決して振り返らないその背中には、上り調子の足跡がクッキリと主張していた。

 

 

「お疲れ様です、輸送科の皆様」

 

 

「提督殿。毎回ご足労頂き有難うございます、お疲れ様です」

 

 

「判子、押させていただいても?」

 

 

「あーそうでしたな。えぇっと、これが今回のリストとなっています。ご確認下さい」

 

 

「……問題なさそうですね、はい」

 

 

「ありがとうございました。荷下ろし終わり次第出発しますので」

 

 

「いえいえ、そんなに急がなくても」

 

 

「ここんところは特に仕事が舞い込むようになりましてね、いやはや仕事があるぞと喜べば良いのやら、サボれないぞと嘆けば良いのやら」

 

 

「兵站もようやく全力で回せるようになりましたからね。人材不足で首が回らないのは、どこも変わらないみたいですけども」

 

 

 他愛の無い話を手伝いをしながら繰り広げていれば、トラックから吐き出された生活物資や食料、娯楽用具が詰まった段ボールが積み上がる。そのほとんどが保酒裏の倉庫に収納された。小さな港湾と、首都から見る見る先細って引かれたインフラ。この両方にこの鎮守府は支えられている。

 

 今回は売店の定期便なので数こそ少ないが、本来なら中型輸送船からトラックが大挙して押し寄せることとなる。本当に忙しいのか、トラックはすっかり軽くなったその身を早々に翻して、追い出されるように去っていった。

 

 排気ガスを見送って、取り残された提督。さて、と。早速目星をつけていた段ボールを開封すべく手を伸ばすと……。

 

 

「商品はお金を払ってから持ってって下さい」

 

 

「あぁ明石か。悪い悪い、別に窃盗しようなんて気持ち微塵もないんだよ、ホントに」

 

 

「だったら表の保酒から購入してって下さーい」

 

 

「いや、こればっかりは、な?」

 

 

「……あーなるほど。今週号のシーパワーですか」

 

 

「店に並ぶ前にチェックしておきたいんだよ」

 

 

「そんなに大事なことが載ってるんですか? 提督ほどの立場であれば、よっぽどの重要機密でない限り自由に手に入るんじゃないですか? ……」

 

 

「……」

 

 

「て、まだお金もらってませんよ。はいはい! たとえ提督であろうと立ち読みは禁止です!!」

 

 

「金は払う、払うから、ね?」

 

 

「何が”ね? ”ですか、職権濫用ですよ全くもう。ただ、お釣りを出さないその心意気だけは認めてあげます。丁度お預かりしますね、毎度ありー」

 

 

「ありがとう明石。今度、浮いた予算工房に突っ込んでやるからな……」

 

 

「本当ですか提督! いや〜権力には巻かれてみるもんですねー」

 

 

 ヒャッフーとクネクネして全身で喜びの舞を披露する明石に、これで予算拡大の催促がなくなって暫くは安泰だと、ホッと胸を撫で下ろす提督であった。

 

 

 

 

 

 新しい雑誌を小脇に抱え保酒を出る。その周囲を、小さな不良が取り囲んだ。

 

 待ってましたとばかりに近寄るのは、先ほどまで遊びに付き合っていた駆逐艦達。互いに円陣を組み、こじんまりとした包囲網を形成する。何でもレディーを蔑ろにする提督に裁きを下すのだそうだ。

 

 午後の部がまだ残っている故、スルーしようと思えばできるのだが、如何せん後々の影響を考えるとぞんざいにも扱えない。彼女らは鎮守府の基盤を担う重要な役回り、若さも相まってストレスも幾らか溜まることだろう。定期的に相手してガス抜きしてやるのも提督の役目……か。

 

 大人しく裁かれようとするその態度に、感心感心と満足げな表情を浮かべると、全員集合の号令の後に丸くなって作戦会議が始まった。どんな刑を執行するのか決めてなかったのかよ……。紆余曲折ありながら、およそ三分程の協議の結果、俺にはデートごっこの刑が決まった。

 

 ??? 

 

 次に誰が相手をするのかの協議再開し、最終的にジャンケンでの解決方法で選出。

 

 

「やあ司令官、デートはこの不死鳥がお相手するよ」

 

 

「響……これが悪ノリって奴か?」

 

 

「司令官は、もう少し乙女心を理解する必要があるよ。そして私達は異性との経験を積める。どうだい、悪くない条件だと思うけどな」

 

 

「ん? まあ一理あるか。あるのか?」

 

 

 年端もいかない少女に、抵抗もなく説得されている辺りやっぱり提督だ。追い詰められたように考え込む提督に、透かさず響は滑り込む。

 

 周囲から見れば、親子と見間違う程の身長差。スッと上方へ差し出し、握られる手のひら。提督からも握り返してやれば、野次馬のちゃかしは色を増した。

 

 取り巻きの一人が、ついでに邪魔になるだろうと持っていた雑誌を取り上げ、執務室までの配送サービスを受け持ってくれるらしい。まだ熟読しておらず、尚且つまだ正式販売されていない雑誌だったので不安にかられる提督であったが、ピシッと決まった敬礼を信頼して任せてみることにした。

 

 暖かな熱を帯びる、小さな手の先に向き直る。

 

 

「午後の仕事も残してるから、そんなに時間取れないぞ」

 

 

「元からそのつもりさ。鎮守府を一周したら解放してあげるよ」

 

 

「仕事の邪魔してる自覚はあったんだな」

 

 

「私達だってそこまで鬼じゃないさ。仕事もあるのに、少ない時間でも相手をしてくれる提督に感謝しているんだよ」

 

 

 そう言った後、互いに探るように一歩踏み出した二人。よく見れば少し背伸びした歩幅の響と、遠慮気味な小幅な提督。両者の特徴が合わさって、うまく噛み合ったのか、外周からは眺めば良い塩梅を醸し出していた。

 

 

──────

────────────

──────────────────────

 

 

 デートと言った体裁は整えられていたが、両者の間に会話らしい会話が発生することはなかった。

 

 いや、彼女の性格上この選択肢が正しいのだと自分に言い聞かせて。日照った鎮守府を手を介して繋ぎ散策する。

 

 特に代わり映えもしない、自らの居城。だが久しく見ていなかったためか、所々小さな変化が見受けられる。外壁の一部が錆びていたり、コンクリートが妙に削れていたり、新しい花が植えてあったり。時間の経過をまざまざと思い知る。最近は体の衰えをダイレクトに味わう自身としては、俺もここに来た時より随分おっさんになっちまったもんだ。

 

 

「心ここにあらずって感じだね。デート中なのに感心しないな」

 

 

「ん? いや鎮守府を眺めていたらこう、時間の流れは残酷だなって」

 

 

「うん、そうだね。見たところ最近、司令官何だか元気ないもんね」

 

 

「んー響にもバレちゃうなんてな。ダメだな俺、疲れてるのかもしれない」

 

 

「司令官は私達に昔のことをあまり語りたがらない。どうだい、よかったら私が話し相手になろうか?」

 

 

「気持ちは嬉しいんがだがすまない、遠慮させてもらうよ。語る思い出がないだけで、過去に未練はないからね」

 

 

「そうか……」

 

 

 そう言って彼女は口は閉じた。何か間違えを犯しただろうか。

 

 どこか重苦しい空気から逃れるように、空を仰いで青を吸う。ため息と気取られないように、薄く薄くゆっくり吐き出して定位置に視線を戻せば、景色のその向こうにいた大井とバッチシ視線がぶつかった。

 

 なに見てんだよ、なんてヤンキー台詞を吐くつもりないが、確か次の時間は授業があったような気がする。不思議に思い凝視する傍で、繋いだ手が途切れる。

 

 

「そうだ司令官、ボルシチの残りがあるんだ。よかったら食べてくれないかい?」

 

 

「そ、そうだな。丁度腹も減ってるし、頂こうかな?」

 

 

「すまないね司令官。ちょっとだけ待ってておくれよ」

 

 

 宿舎へと消えていくその後ろを見送って、さっき見えた大井を視認しようとしたその時には、すでに大井の姿は見当たらなかった。神出鬼没だなこれは。

 

 駆逐艦と仲良くしているのをネタに、また何かしらの形で揺さぶってくるかもしれない。ただ単に面白がってロリコン認定したいだけかもしれないが。ボルシチで多少腹は膨れるから、昼食の時間は圧縮できる。いつも通り、翌日には持ち越さずに業務を終えられそうだな。

 

 

「提督」

 

 

「うひゃい!!」

 

 

 間抜けな声で返事して。飛び上がり首を捻って見れば、してやったりと顔を興奮させた大井が、したり顔でそこに立っていた。

 

 この距離を短時間で移動してきたのか、提督は驚愕の表情をこの時浮かべていたことだろう。注意深く大井を見れば、胸を深々上下させ、高速移動の代償を覆い隠すように呼吸しているのだった。

 

 片方の脇に、次で使うであろう資料が挟まれていることから、やっぱり次は授業の筈だと気を取り直して喋る。

 

 

「確か、次の授業はもうすぐのはずだったよな? 大丈夫なのかこんな所で道草食ってて」

 

 

「後十分ほど時間がありますので、大丈夫でしょう」

 

 

「その油断が命取りだぞ。根を詰め過ぎるのもいけないが、逆にだらけすぎるのも問題だ。何事もバランスだよ、指導する立場なら尚更な」

 

 

「さすが現在進行形でサボってる提督は格が違いますね、言葉に重みがありますよ。駆逐艦の選り取り見取りバイキングですか?」

 

 

「……」

 

 

 なんでこんな突っかかってくるんだ。

 

 わざわざ教室から離れてるここまでくる意味は? 乙女心は複雑怪奇。なんだか一生解き明かせないブラックボックを相手取っている気がしてきた。何も発言せず黙っていると、大井がさらに噛み付いて来る。

 

 

「響ちゃんと手なんか握っちゃって、自分の立場をもう少し自覚して欲しいですね」

 

 

「……手ぐらいなら良いだろう」

 

 

「……はい」

 

 

「?」

 

 

 いきなりそう言って差し出された手に、何を意味するのか様々な憶測が飛び交うが、意図が分からずに凝固する。察しが悪いと、旋毛を曲げた大井は、はっきりと声に出して要求を告げた。

 

 

「手ですよ手! 手ぐらいなら良いんですよね!!」

 

 

「……は?」

 

 

 前のめりになってそう訴え始めた大井。必死さを思わせるような、重要なことのように、相変わらず赤い顔をググッと近付ける。

 

 自分より一回、二回り小さい駆逐艦と、大きいもしくは同等の戦艦や空母と手を繋ぐ。そうなった時、明らかにハードルが低いのは駆逐艦の方だろう。ようは手を繋ぐ一つとっても、相手によって重さの度合いは違って来るのであって、大井は何か勘違いしてるんじゃないのか? 

 

 ……もしかして遠回しに馬鹿にしているのか? 少しピキリそうになったが、そこは気合で揉み消して、気持ちの高騰を察知されないように平静を装う。大体、手を繋いだからなんだってんだ。今俺は響とボルシチを待っているんだよ。よく分からん茶々を入れる暇があるんだったら、今日やる授業の内容でも頭に叩き込んでおけ。

 

 動かない提督に痺れを切らし、何が恥ずかしいのか、前に突き出した手をゆっくり引き寄せ慰めるように手を揉む。あらぬ方向を見て、口を結び、切なげにしかし燃えるような赤い顔。なにがしたかったのかさっぱりわからない提督は、大井に変わり時間を気にかけてあげることしか出来ずにいた。

 

 

「なあ大井、流石にそろそ「提督お待たせ。ん? 邪魔しちゃったかな?」

 

 

「あーそんなのじゃないよ、これが響が作ったボルシチか? 美味しそうだ」

 

 

「うん。一晩寝かせてさらに美味しくなってるから、熱いうちに食べてよ司令官」

 

 

 響きとのやり取りの中で、大井はようやっと教室に行く気になったのか弱々しく動き出す。宿舎の方へ。

 

 ? そっちからいくのか? 最短距離から外れたルートに、忘れ物でもあったんだろうと適当に納得を打ち、だからあれほどだらけ過ぎは良くないと……。いやもうそれは良い。

 

 供するマグカップを受け取って、傾いて入れられたスプーンを握り、真紅色のスープをかき混ぜ口に含んだ。ボルシチと言っても、味の根幹を担うのはトマトで、ビーツ・セロリ・人参・玉ねぎ・キャベツが調和する酸味あるトマトスープだ。朝は軽い食事ですませていたことも手伝って、パクパク速いペースで胃袋に収まる。

 

 

「ん、うまかった。御馳走さん響」

 

 

「良い食べっぷりだね。それでこそ司令官だよ」

 

 

 本当だったらタバスコをモリモリ投下したかったが、それを言ったら空気がシベリアになりかねないのでお口チャック。だがうまかったのは確かだ、この事実だけは嘘偽りなし。

 

 マグカップの底。丸い淵に、温度を失った赤が薄ら溜まっているのを覗き込み、響は重ねて断ってから片付けをしに自室へと戻った。機嫌が悪いと感じたのは気のせいだったのかな? まあ良いか、過ぎたことだ。

 

 後半周すれば俺も晴れて自由の身。気分転換もできたし、午後からも気合を入れて頑張らないと。振り返り、誰もいないことを確認して服装を正す。せめて部下に気取られない程度に精進せねば。

 

 ふっと背後に体温を感じる。いきなりのことで軽く驚いてしまったが、別に時間をとるようなことでもないか。

 

 背を向けていたため、沈痛な表情を窺われなくて助かった。デートの続きだと、そっと手を差し出して、響の出方を待ち惚ける。不自然に空白の時間は流れ、なにかあったのかと顔を向けそうになるが、既のところで問題なく手は繋がる。

 

 先走るように歩き出す響に慌て……あれ? なんか手が大きくなってないか? 成長期なのかな? と半笑いで、若干冗談染みて真実を直視すれば。

 

 ……なんで大井がここにいるんだよ。授業はどうした授業は。不満げに睨む大井といえば、ひんしゅく顔で鼻の穴をピクピク開閉を繰り返し、視線を肌で感じたのか外野に向かって薄い頬紅。提督をすっと盗み見て、チョイチョイと腕を引いて、二人でできたアーチに寄り添いかける。

 

 

「もう授業始まっちまうぞ」

 

 

 だらりと力が抜けたのも束の間。確かめるように提督を見て、泡を食ったように目を瞬かせて、顔面蒼白の元で脱兎の如く最短ルートで離脱する大井。

 

 そのあまりにお間抜けな態度に、何か助言をと伸ばした腕は惜しくも届かず。取り敢えず発せられた言の葉は"あ〜ぁ"。ドジなのは相変わらずだなと、なぜか安心してしまう提督であった。

 

 

「お待たせ、司令官」

 

 

「おかえり響。少し遅かったんじゃないか?」

 

 

「ちょっと暁がごねるていてね……」

 

 

「なるほどな。んじゃ、エスコートしますよ」

 

 

「フフ。レディーの扱い方を心得てきたんじゃないかな?」

 

 

「いやまだまだだよ。艦娘がなに考えてるかなんて、もうさっぱりだ」

 

 

「そうかい? それでもわかってあげようと苦しむことは、きっと無駄にはならないよ。その努力はいつかきっと報われるさ」

 

 

「……ありがとうな、響」

 

 

「なに、デートに付き合ってくれた御礼さ」

 

 

 大人だから一人前になるのではない。結局は子供、大人もみんな、歳食った子供だ。

 

 小さな手の平に励まされ、昨日の自分よりちょっと強くなる。

 

 まだまだ至らない点を再度自覚すれば、やはり自分には陸奥が必要なんだなと痛感し、遥か彼方の海洋に耳をそば立てた。

 

 

 




艦これチョメチョメ裏話

週間シーパワーが執務室に届くことは終ぞなかった。
配達を頼んだ、とある駆逐艦を聴取した所『雑誌を読みながら執務室に向かっていたら、姉妹に声をかけられ、読み終わったら執務室に届けることを条件に譲ってしまった』と供述。
最終的に十九人を追跡し事なきを得た。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。