親しくなってからぶっ壊れるまで   作:おおきなかぎは すぐわかりそう

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恋愛編のネタ尽きた。


後ちょっとは、待てちょっと

 

 

 北上さんのいない部屋で過ごすのはこれで何度目か。

 

 やがて訪れる朝陽。その到来を待ち侘びるように深い眠りへと落ちようとするが、どうしようもなく寂しさがこみ上げてきた。

 

 こんな時北上がいれば、まるで私の心を見透かしているように、何も言わずに抱きしめてくれる。ただ今日に限っては運悪く、部屋に彼女の影はない。

 

 寂しさに寝返りを打つその傍ら、ふと思い出されるのは提督が駆逐艦を連れ込んで、添い寝をしていたであろういつかの光景。なんだかモヤモヤしたこの思いを打ち消すように、気付けば熱がこもった布団を抜け出していた。ぐっすりと眠る幼子に、果たしてあの堅物がちょっかいを加えていなければいいが。

 

 ここは抜き打ちチェックと、真意のほどを明らかにしないと。パジャマのまま、軽い羽織りものとスリッパのようなもので軽装して、いざ出発。なに、ちょっと覗いて、暇を潰して帰るだけだ。

 

 

 

 

 

 深夜の鎮守府とは、どうしてこんなにも心細いのだろう。

 

 二の腕をさするように歩く、暗闇が続く廊下をいく。

 

 私はここにいるぞと自分の存在を主張するように、スリッパを地面で鳴らしながら前進する。

 

 軽巡洋艦であろう私でもちょっと尻込みする暗さなのに、本当にあの小さな彼女達が通っているのだろうか? この恐ろしさを無視してでも、彼との添い寝にはそれほどのなにかがあるのだろうか? 脇道には赤。ボウっと揺れる消防灯が、怪しく光を放っている。

 

 振り返って見る。自分が来た道ですら識別は効かない。とっくのとうに消灯時間は過ぎているので、それも当たり前かと早足に切り替えて残りを詰めれば、ようやく目指した場所が微かに見えてきた。

 

 迷い無く開かれる、執務室の扉。そして立ち塞がる最後の扉。本当に入っていいのかと一巡するが、ここまできて何もしないのもまた変だ。ゆっくりとドアノブをひねって、ついでゆっくり押し込んで起きてるかどうか伺う。その動きは緩慢で、提督に起こすまい、あるいは気付かれまいといった配慮があった。

 

 部屋は真っ暗。気配の色からもどうやら眠ってしまっているようだ。

 

 一息ついて寝室への道が完全に開かれれば、足音を殺して忍び寄る。抜き足差し足、人の輪郭がハッキリと定まれば、そこには背をむけた提督一人だけ。

 

 なんだ、誰も来ていないじゃないか。丁度一人が悠々横になれるスペースに手をついて、寝息を立てていることを確認。これなら狸寝入りなんてこともないだろう。今日は誰も連れ込んでいないようだ。

 

 無駄足だったな。落胆もなく体を起こして、提督を見下ろす。ここから引き返すのを想像すると、なんだか途端にげんなりした。震える体、気付かれないかと緊張していた体に、冷気の感覚が蘇る。視界に入るのは、呑気に眠りこくっている提督。

 

 ……ちょっとだけ暖を取ってから帰ろうか。なんのことはない、ただ罪を逃れた罪人が、ぬくぬく眠りこけているのにはらがたったかったのだ。猫が布団に潜り込むように慎重に態勢をかがめて、振動をできるだけ伝えないようにして接近する。

 

 履き物をかかとをすり合わせて脱ぐと、暖気を逃さないように布団の端っこを持ち上げ、足を滑り込ませるように潜り込む。起こさないように、慎重に、慎重に。

 

 けれどもやはり、完全には冷気の進入は防ぎきれなかったのか、みじろぎして声を漏らして、来訪者の存在は残念ながらバレてしまった。すでに半身が領土に侵入していたので、気付かれるんじゃないかとビクリと体を震わせるが、ここで声を上げたり逃げ出せばそれこそアウト。最小限の動きに止め、収まりが着くまでその場で待機する。

 

 動けない。ここでパッチリ目を開けようものなら、記憶抹消のために物理的制裁を加えなければならないことになる。握り拳でスタンバイしていると、提督は寝返りも億劫だと背を向けたまま声を発した。

 

 

「? 眠れないのか?」

 

 

 そう言って、彼は静かにスペースを広げると、それに満足したのかまた静かに寝息を立て始めた。バックバックと心臓の音を沈めるように、残りの半身を上手く布団へと格納すると、暖をとるように向かって前方に身動ぎを二回ほど。

 

 ・・・・どうやら駆逐艦の誰かと勘違いしてくれているようだ。私だと気づかれていないのなら暴力を振るう必要もない。しかし悲しきかな、いつふりかえるやもしれない提督への警戒は怠って良いわけではない。いつでも目潰し出来る体勢を意識しつつ、闇に溶け込むように呼吸も忘れて影に潜んだ。中は外より数段暖かかった。北上さんの布団に潜り込んだ時よりも、温度は高い気がする。結構長い時間寒さにさらされていたので、私の気のせいかも知れないが……。

 

 収まりがついたのを合図とするように、突如ベットが軋み始める。寝返りを打ちこちらを向いた提督にびっくりし、潰されないようにさっと手を引き戻す。怪しまれないように、狭いベットの上で、できるだけ体を縮こまらせた。呼吸が止まる思いで布団を首を縮めて待っていると、モゾモゾと布団の大地はうねり始め、お腹の辺りを触り始めた。

 

 

ひやぁ

 

 

 漏れ出る声。跳ねる体。いけないと口元を抑えて成り行きを見守っていたが、不審には思われなかったのか特に反応はない。お腹にやられた手が離れたのは、そのすぐ後だった。

 

 

「ぁ……」

 

 

 離れる手に、名残惜しげに腕が伸びそうになるのを途中で中断させて、やっぱり気付かれてるんじゃないかと訝しんで提督を伺っていると。

 

 

 ポン

 

 

 今度はさすがに驚きはしなかった。でも、これは、もしかしたら……。

 

 

 ポン

 

 

 これ、もしかして……提督にあやされてる!? 等間隔に温もりがくっついては離れ、くっついては離れ。怖がらせまいと優しく、しかし温かみは与えようとしっとりと。それは親が子にしてあげるような、添い寝の姿でもあった。

 

 

 望んでいた展開とは大きく違っているが、いつ気付かれてもおかしくない状況。今この状況で一番の得策は、提督が疲れて寝落ちしてからここを離脱するのが最も安全。彼が眠りに落ちるまで、このお腹を差し出す意外に方法はない。

 

 上になぞれば、およそ駆逐艦だとは言い張るのは難しい双丘が。下になぞれば、同じくふくよかな肉付きの下半身が。お腹も少し怪しい限りだが、事故を起こさないためには、不動のリスク管理が必要であろう。

 

 吐息が耳をかすめるのを避けて、声がでないように口は一文字に強く結び。あまりに強く口を閉ざすもんだから、蛇がのたくるような波々の開口部。羞恥と息苦しさが合わさって、暗闇では計り知れないが、顔はおそらく真っ赤に近しい。空気を出入りをコントロールして、解放された口からゆっくり放熱すれば、山場は超えたと一安心。

 

 

 ポン

 

 

 ポン

 

 

 ポン

 

 

 健気に繰り返される献身は、本来なら小さな体が独占するもの。それを黙って受け取って、罪悪感がないと言えば嘘になるが、それも今夜限りの短い間。満足して、気持ちよく眠りの落ちるまでの間、私がお腹ポンポンで寝付かなければいい話だ。

 

 

 ポン

 

 

 だから。

 

 

 ポン

 

 

 寝るわけないだろう。

 

 

 ポン

 

 

 もし寝てしまったら。

 

 

 ポン

 

 

 提督にどう言い訳するのか。

 

 

 ポン

 

 

 だから。

 

 

 ポン

 

 

 絶対に。

 

 

 ポン

 

 

 寝る。

 

 

 ポン

 

 

 訳には。

 

 

 ポン

 

 

 訳には……。

 

 

 ポン

 

 

 ……少し、休むだけだ。

 

 

 ポン

 

 

 本の少ししたら、すぐに出ていく。

 

 

 ポン

 

 

 すぐに、出ていく。

 

 

 ポン

 

 

 すぐに……。

 

 

 ポン

 

 

 ……

 

 

 ポン

 

 

 ……

 

 

 ポn

 

 

 ……

 

 

 ポ……

 

 

 ……

 

 

 p……

 

 

 ……

 

 

 ……

 

 

 ……

 

 

 ……

 

 

 ──────

 ────────────

 ──────────────────────

 

 

 p……

 

 

 pp……

 

 

 ppp……

 

 

 pppp pppp pppp

 

 

ぁうん?」

 

 

 いつもとは違う目覚まし時計を不思議に思う。寝起きの頭でとりあえず目を擦り、起き上がってふと横を見た。

 

 

「へ?」

 

 

 見慣れた女神とは明らかに逸脱した半裸。はだけた寝巻き。そこから覗く肌色。口も呑気に半開き。脳の処理速度を上回る情報量に、一時思考停止で対応する。

 

 え? した? どこまで? いや、覚えてない、あれ? うーん? あ……。

 

 この間も部屋には起床せよとの号令が飛び交っている。とにもかくにも止めなければならない。今まさに鳴き止まない目覚まし時計を止めなければ!! 焦って時計に飛びついて盛大にズッコケて、いまどき置き時計を使っていることに腹を立て、黙らすスイッチが見つからないことにも腹を立て。にっちもさっちも行かないとひっくり返したり、シェイクしたり試行錯誤をしていると、掛け布団をひっぺがす音が耳に届いた。

 

 ガッツリ見られてる。目覚まし時計を弄ってる所を、提督にガン見されてる見られてる。しかし、手元を止めるには至らない。一刻も早く音を消して、この部屋から退散しないと!! 

 

 

「……そこ、正面の下、小ちゃくて黒いやつ」

 

 

「は、はい。正面の、小ちゃいやつ」

 

 

 

 

 

 正直に言う? 夜人肌恋しくて布団に忍び込んだ? 違う冗談じゃない。そんなの、恥ずかしすぎる。私のプライドが絶対に、ゼ──────タイに許さない。なんとか、なんとか誤魔化す言い訳はないだろうか? こういう重大な局面に限って、頭は全く働かない。不気味な沈黙を引きずって、一方からの強すぎる視線を一身に受けて、だんだん余裕がなくなっていく。

 

 

「あぇ、あ、き、北上さん。そう、北上さんは元気かしら? ら? す、すぐに見に行って上げないと……」

 

 

 大根役者の三文芝居。誰に言い聞かせるのか、何もない虚空に咄嗟の捨て台詞を吐いて、不自然な足取りで寝室を退出。バタンとなったその直後、奇怪行動の反動がやまびこの如く到来。ついさっき寝起きのはずだったのに、脳を沸騰させ、注意も存ぜぬドタドタ音で戦線を離脱した。

 

 ひと騒ぎ落とした大井は、まだ半分夢の中であった北上を無視して、布団にくるまる。くるまってうずくまった暗闇で、三日三晩悶え苦しむ勢いで、ひたすらのモゾモゾと奇声を上げ続けるのだった。

 

 

 




そろそろむっちゃん入れまひょかー。
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