親しくなってからぶっ壊れるまで 作:おおきなかぎは すぐわかりそう
人気も少ない第二資料室で、北上を教師に仰いで指導と呼ばれる契約を実行に移す。真面目さの象徴である眼鏡を気怠げにつけ、教鞭にあたるものは精神注入棒で代用。
……ギャップ萌えだとかふざけたことを口にすれば、すかさず鈍器が飛んできて、打撲の怪我を負うんだろう。負うんだろうな……。
任務の合間や大井がいる時の限られた空き時間に集結するためか、目を揉み込んでお疲れの様子だ。あれだけ不真面目な印象が強い北上がここまでやるのは、大井のなせる技なのか。二人揃って、本当に面倒事な魚雷だな。
「渡した資料はちゃんと読んでくれてるのか? あまり進捗の方は聞いてないんだが……」
「私だって大井っちに勘付かれないように、自室じゃなくて資料室でわざわざ読んでるんだよ? こっちの苦労も考えてよ」
「あ、そうだったな。悪かった」
「……はぁもういいや、でも方針は決まってるよ。一歩一歩目標に近付くには、なによりも心を開いてもらうのが必要不可欠」
「だがどうやって心を開かせる」
「それは……二人の共通点とか? 楽しく会話するとか、そんな感じ? まあそこはなんとかしてよ」
「やけに大雑把なアドバイスだな……」
心を開かせるために、共通の話題を出して会話を盛り上げる。
それが北上が提言した、対陸奥戦略の前哨戦にあたる部分であった。といっても、もうすでに共通認識の昔の話である鎮守府運営全般、仕事関連の話は喋り尽くした。こいつ仕事の話ばっかかよと思われるがいやで、世間話を混ぜながらなんとか引き伸ばしてきたが、どうやらそれがいけないと指摘を受ける。
いわく、相手の好きなモノで興味を引いて、そっから話を膨らませろと。出し惜しみするな、全力であたれ軟弱野郎とアドバイスを受けた。
北上の口の悪さは変わりなく、あんまり趣味とかそういった個人的な類の話はタブーに触れる気がしたので、怖くて今まで手が出せずにいた。こんなことでは会話にならない。なにかないかと頭をひねると……ああそうだ、とっておきの話題がある。
もっと仲良くなってからと出し渋りをしていたが、俺はとっておきの切り札を投入する決意を固める。よく彼女が口にしていた激辛料理を話題にあげよう。そうだ、思えば陸奥との接点を作りたくて、ろくに興味もなかった激辛を口に運んだんだ。激辛は今ではもう俺の本分。
本当はもっと舞台が整ってから投入したい話題だったが、この際仕方ない。陸奥との橋渡しになった激辛を使って、会話を盛り上げていい雰囲気にしてやろう。そうと決まれば動きは早い。すでに一歩引いている北上がもう二度後方に引くほどに、提督は今まで集めてきたロードマップを掘り起こし、会話の流れに構築に着手するのであった。
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「……少数でも大打撃を与える作戦要項。机上演習を始めましょうか」
ハワイの周辺の地図を引き、アナログな象徴模型を用いて仮想空間での攻撃を開始する。
最新のオワフ島の情報によれば、島全体の外見は、ハワイ攻略時と比べなんら変わりはないようだ。しかしこれは、もう二ヶ月も前になる話で、今もそのままなのかといった保証はない。最終決戦の動きは敵方も察知しているのか、前線では新たな敵増援の姿を見なくなったとの報告も上がっている。
その余剰分の配備先は、言わないでも察せれると思うがハワイ周辺に分厚い防衛網を築くに至っている。大規模な支援でもないと強行偵察もままならないのが今の現状だ。ただ奴らが無策で正面からぶつかるとは到底考えられないので、これまでにない激しい戦いが予想されるな。
「戦力の逐次投入は愚行だが……我々の艦隊が敵軍に無視できないほどの打撃を与え、敵の本丸が出張ってきたところで、大将閣下率いる連合艦隊が先制攻撃権を得る。とはいえ、艦隊の規模を大きくすると撤退時に迅速な行動が出来ず、また逆でも一人頭に殺到する炸薬量は甚大だ。前提として、まずは航空機優勢を一時的にでも維持する必要がある」
「打撃の定義が曖昧ね。まずはそこからすり合わせましょう」
「そうだった。ここでいう"打撃"は敵艦隊ではなく、その生産設備およびその物資だ。いくら深海棲艦といえど、無から有を生み出すことはできまい。この作戦が失敗に終わっても、戦力の補充は遅らせることができる。追い詰められた奴らにとってそれは死活問題だ。人類側の設備を上書きしていることによって、その耐久度は外装に比べて脆いのは報告書の通り。沿岸設備は魚雷の射程で、内陸は主砲で吹き飛ばすことができる」
「けれど、接近し過ぎれば敵の懐に入りにいくようなもの。ここは戦艦の超射程、つまり私が突貫すべきです」
「……その結論は早すぎる」
「本隊の位置を悟らせないようにするには、敵の警戒網の外で待機しなければならない。とても敵中で救援が間に合うとはとても思えないわ」
「それならなおさら、戦艦を配備するのには反対だ」
「なんで私の肩を持つの? それほど恨んでいるとでも言いたいの?」
「いや! 違うんだ陸奥!! 何も君を恨んでいるわけじゃない! むしろ君こそ死に場所を探してるんじゃないのか!?」
「誰だって両手一杯に救える命があるのなら無茶だってするわよ。欲張りなんでしょ? 人間って」
「それを今この場で出しても意味はない」
「……お互いに駄目ね。つづきは明日に持ち越しましょう」
御託をコネ回すが、結局は陸奥の命を一番に考えているだけだ。もしも百人の他人と陸奥一人ならば、俺は迷わず身内をとる。だって仕方ないだろう、赤の他人のために涙を流せるほど、俺はできた人間じゃない。
両者は熱が入ってきてしまい。冷静な議論ができそうにない。よって、陸奥は会議の中止を具申した。提督もこのまましゃべっていても平行線を辿るだけだと同意して撤収の準備を始める。
「なぁ陸奥」
「……何かしら提督」
「犬と猫だったらどっちが好きだ」
「……どうしたのいきなり」
「犬派かネコ派か?」
「そうね……どっちかといえば。犬派かしら」
「洋食と和食だったら?」
「洋食?」
「カレーとハンバーグだったら」
「ハンバーグ……かな? ねえ、心理テストのつもりかなんかなの?」
「いや違う」
大きなハワイ地図を手で丸めた提督は、そう一区切りおくとその場で止まった。陸奥にはすっとんきょんな提督が何を考えているのかわからず首を傾げる。
「今からハンバーグ食べに行かないか? 激辛のいい店を知ってるんだ」
「あなたから誘ってもらえるなんてね」
「昔みたいか?」
「いいえ。変わってるわよ、二人ともね」
目を見開いて驚く陸奥は、激辛の言葉になおも驚く。昔みたいだなとちょっと笑って、提案を受け入れるのだった。