親しくなってからぶっ壊れるまで   作:おおきなかぎは すぐわかりそう

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やだもぉ〜。文字数の多さでワシの好みバレちゃうじゃないの〜。


偏愛編
ヤンデレの思考回路は異質なものではなく理解ある現実味のある行動だと私は非常にクルものがある(オタク特有の早口)


 

 

 

 最近の提督と陸奥さんの距離が段々と近くなっていること。それに比例するように、私のことを提督がキッパリと拒絶することが多くなったこと。はじめはめげずに付き纏ってみたりもしたが、最近は彼の前ではうまく笑うことができないでいる。

 

 そこにいい雰囲気の二人を目撃してしまうのだから、知らず知らずのうちに陸奥さんへの嫉妬が募っていった。そこは私の居場所のはずなのに。提督と昔からの戦友ってだけで特別扱いされて、あんなに楽しそうな彼の顔を向けられて、それでもどこか迷惑そうにしている彼女が妬ましい。提督に愛されているくせに、それをさも当然のように、むしろうんざりしているような顔の陸奥さんが憎い。

 

 しかし考えれば考えるほどに、自分がこの状態から提督に並び立つ情景が浮かばないのが一番残酷だ。私が彼女だったら、絶対に尽くす自信があるのに、それでも提督はそんなおざなりな彼女を追いかけ続ける。

 

 もう嫌だ、こんな状況。私がいくら提督に愛される努力を重ねたところで、全部が無駄なのか。そんな卒倒するような現実を前にして、滲み出てきた感情は怒りだ。これだけ私のことを振り回しておきながら、最後には昔馴染みに正妻の座を明け渡すなんて、なんて自分勝手な男なんだ。私に告白をしてくれた事実なんてない振る舞いをして、本当は私のことなんか頭にはなくて、陸奥さんが加入するまでの繋ぎだったのか。

 

 両者に向かった怒りの根源。ただ唯一の救い、北上は自分の味方でいてくれる絶対の自信が大井に正気を保たせる。北上さんに泣きつこう。そして新しい恋を始めるんだ。あんな正しさが備わっていない提督なんかに負けない、もっと素敵な男性に嫁いでやるんだ。そう固く決意した大井は、段々と提督から距離を取るようになる。

 

 提督が視界に入れば北上が遮るようになり、提督の声が聞こえれば、北上の音量が被せるように大きくなったり。そうやって、改めて北上さんという存在のありがたみを噛み締める日が続く中で、事件は起こる。

 

 きっかけは些細なことだった。北上さんが、普段ならしないであろうメガネをしていることを指摘した時だ。それに対する北上さんの印象が、すごく印象に残っていた。はっとしたかと思えば、さっと外して言葉はない。あれでいて、結構抜けた所のある彼女の行動に、その時は不思議と突っ込むようなことはなく、気にも止めないでそのままスルーしたが、今になって胸がざわつき始めた。

 

 休日が重なる時は、大抵部屋にいる北上さんが、最近は部屋にいないこと。いま私の唯一の依存先と言っても過言ではない北上さんの姿が目の見えない位置にいるのは、この時ばかりは寂しい気持ちが強く出てしまう。辺りを探すが姿はなく、人に聞いても目撃情報こそあるものの、その姿を明確に決定付けるようなものではない。普段なら来ないような、資料室を覗き込んで、やっぱりいないやと背を向けたその時、プレートもついてないような寂れた部屋から、誰かと会話しながら退出する北上さんを目撃した。

 

 

「とにかく、引き続き計画はやってもらうから」

 

 

 ピシッと指差した指が、室内に向けられて、場所もそうだがあの時のメガネをつけているところが気になった。こちらに気付いていない北上さんに声をかけるべく、ため息をつきメガネを外す彼女に駆け寄っていくと、驚くような顔をされる。

 

 

「北上さん探しましたよ。こんなところで、誰とお話しされてたんですか?」

 

 

「いや、ちょっとした作戦会議だよ」

 

 

「それだったら、私も混ぜてくれてもいいんじゃないですか?」

 

 

「い、いや〜大井っちにはあんま関係ないことだからな〜」

 

 

 慌てたように手元を回し、タハハと笑う北上さんがおかしくて笑みを溢すと、彼女は何かを探るようにこちらを見つめてくる。あれ、いつもと雰囲気が違うな、ちょっと恥ずかしいかも……。同じように見つめ返していると、北上さんが始めに折れた。

 

 

「もう用も済んだしさ、帰りに間宮さんの所よってこーよ。ね? ね〜?」

 

 

「こんなに北上さんの押しが強いのは初めてかもしれませんね。いいですよ、甘いもの食べて帰りましょうか」

 

 

 急かすように差し出された腕を取って、両者はきた道と反対の方向に歩き出そうとする。ふっと大井はさっきまで押さえ込んでいた疑問、何をしていたのだろうかとドアについた窓を見てみると、何かが慌ただしく引っ込んだ気がした。不思議に思って体を向ける大井に、北上はそっちに行ってはいけないと手は外さずに前進を促す。

 

 

「いま、提督が見えたような気が……」

 

 

「エー……それは大井っちの見間違えじゃないかな〜?」

 

 

「じゃあ……いったい誰とお話ししてたんですか?」

 

 

「やだなぁ〜大井っち疑ってるのー」

 

 

「いえ、そういうのじゃないんですけど……」

 

 

 確信とは呼べないが、これでも提督のことを見つめてきた身。切れ端だとしても、それが提督と認識するのは難しい話ではない。頭の中では、あれは提督ではないかと八割型わかっているのに、信頼に足る北上さんの助言は正反対。

 

 これでは頭が混乱するのも仕方のない話で、このモヤモヤを後から思い出したくはないので、扉を開けてはっきりさせておきたい大井であったが、北上の笑顔がそうさせない。

 

 その事実に薄ら寒い感情を抱き、一度疑いをかけられてしまった北上は、疑念が完全に払われるまでいうことを聞いてくれまい。なので、こんな変なことを聞かずにはいられなかったのだ。

 

 

「最近、提督のあたりが強くなっている気がするんですけど、北上さんもしかして関わったりしてませんよね?」

 

 

「エェー。アイツそんなひどいことしてるんだー、いややっぱりダメだよねアイツ。どうせなら一緒に謀反起こしちゃう〜?」

 

 

「真面目に答えてください北上さん。私からの信頼が崩れていってるのに気が付きませんか?」

 

 

「……」

 

 

 あれだけ私のことを考えてくれたはずの北上さんは、問い詰めるとオロオロと目を泳がせて黙り込んでしまった。

 

 それに対する私の対応は、また騙されるのかと噴火の兆候を見せる。プルプルと拳を震わせて、なんで何も言ってくれないのだと叫んでしまいそうになる。北上さんはなんで"違うんだよ大井っち"と声を張り、扉を開け、自らの潔白を証明してくれないのだろうか。無実を証明するのなら、たったそれだけ。たったそれだけもできないのか。

 

 もう何も言わないでもわかってしまう。初めから私は一人だったんだ。はじめて人を好きになっても、あっさりと鞍替えして、用済みとばかりに関わってくれなくなった提督。つい最近編入されたはずなのに、添い遂げたいと願った彼を興味なさげに連れ回す、昔馴染みが取り柄の陸奥さん。すがりつくように信じていた、私の背後を任せるのにふさわしい親友とも形容し難い北上さんですら、私を影から笑っていたのか。

 

 悲しい。悔しい。まるでお前の価値なんて、これっぽっちもないんだと宣言されているみたいじゃないか。今までなんとか噴出を魔逃れていた怒りは、もはや最後の最愛であった人物に全部向き直る。これだけ人のことを馬鹿にしておいて、このドテン場ですらもう一度騙そうと画策しているのは、なんて腹立たしいんだ。

 

 怒り悲しみ後悔叱咤憤怒が頬を伝い、かつて北上さんと引き裂かれそうになった以上に敵意を向ける。ほんの数分前までは、絶対的な自分の味方だと、背を向けていた人物に。キッと睨んで拳はグー。渾身の一撃を込めて、害意を預けた制裁は飛び出した。艦装を身につけていたら勢いで射撃してしまうような気迫で、後の関係性の修復を無視した決別の瞬間。

 

 ただ北上は、親友のまたとない怒りに竦み上がって諦めるように許しを乞う。彼女の行動が、いかに大井を傷付けたのかを承知の上で、その哀れな行為には涙が浮かんでいた。

 

 

「や、やめろ大井!!」

 

 

 もうごまかしきれないと白状するように、扉を押し倒すようにして出てきた提督は、一刻も早く止めに掛かろうと飛びかかった。しょうがあるまいと飛びついて大井を押し倒し、未だ惚けている北上に怒鳴る。

 

 

「離れてろ、北上!!」

 

 

 まるで北上と関係を持っているようにも聞こえたその一言が、大井の火に油を注ぐ。タッタッタと去る足音に、金切り声を轟々と上げて、人の尊厳だとか体裁だとか理性のリミッターを外して暴れ回る。そこには配慮や遠慮の二文字はなく、ただ自分を不快にさせる存在に向けた負の感情しか備わっていない。提督への一撃は、顔面、眼球を突いて。

 

 拘束を解く提督の腕は直後、逃すまいと締め上がった。腰のあたりを両手が縛る提督は現状サンドバックと相違ない。この状態は、大井の底知れる怒りで意識を手放すまでつづくのだった。

 

 

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「……ここはどこだ? あれからどうなった?」

 

 

「あ、起きた」

 

 

 うまく開かないまぶたを上げて、鈍い痛みで記憶を呼び起こして、ことの顛末を不安視する。そんな独り言に答えたのは、盛大に嫌われている北上であった。何か様子がおかしいなと思考が止まったが、無事な様子にひとまず安心。最悪の事態である、内部崩壊だけは免れてようだが、念のために確認を取る

 

 

「大丈夫か? 怪我とかしてないか?」

 

 

「……一応助けられた身だからありがとうって言っとくけど、その押し付けがましい所は気に食わないかな」

 

 

 なんとでもいえ。"そうかー"と一人成し遂げて満足する横顔を、北上は複雑な表情で見つめているのには気付かずじまい。そんなこととは露知らず、提督は次の杞憂に移るのだった。

 

 

「仲直りは……できそうか?」

 

 

「……」

 

 

「あいや、聞いて悪かった。空いてるベットはあるから、必要なら後でそっちに移ってくれ」

 

 

「うん」

 

 

 嫌なことを思い出してしまったのか、力も弱く頷いた後、北上はそそくさと医務室から退出した。案の定また残された提督は、次の心配事である業務の遅れを心配するのだった。

 

 

 

 

 

 異様に腹が立っていた。それには第一に、あの時ビビビィときてしまったことが全ての始まり。あんなに私を信頼してくれていた大井っちが牙を向いた瞬間。その時は足がすくんで、ただ下される罰を待っている存在でしかなかった。でも提督が私を守ってくれた時、不覚にもドキドキしてしまったのだ。彼は決して見逃すことなく身を挺して止めに入ってくれた。それはただの、鎮守府を維持したいがための自己保身の行動なんだと言い聞かせるが、理屈に反して心はかき乱される。混乱する脳みそに、違うそれは違うと頭を抱え。

 

 

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 お玉を一かきするだけで、大鍋で混ざり合った豊潤なスパイスが鼻腔を刺激する。

 

 それがくしゃみを誘発して、とっさに振り返って控えめな一発、おまけと二発。鼻を啜ってマスクを直した。

 

 大鍋でじっくり煮込まれた本格カレーは深みを存分に増し、各々鎮守府が秘蔵するレシピによって味には細かな違いを見せる。今日の私は食堂の当番であり、そしてみんな大好き海軍カレーの金曜日だ。金曜日と定まったのは週休二日制が導入されたつい最近のことで、海上で長期に任務する隊員達に、曜日感覚を無くさないようにする試みから始まる。カレー自体海軍とは長い付き合いで、かつては西欧料理店のみで食べられる高級なものであったが、カレー粉が普及したことで広く一般に広がった。

 

 基本の材料に醤油と砂糖を加えると肉じゃがにも出来る汎用性。肉と野菜バランスよく食べれるカレー。食べて良し、補給良し、栄養良しと海上の兵士達には最高のご馳走であった。給食の子供のようにテンションの上がる駆逐艦達は当然として、そこに混じって年長者もおちゃらけるのだからカレーの力はそのくらい凄まじい。艦船によってもレシピは変わるので、お盆に配膳されるカレーにみんなは何を思うだろうか。魔女の釜を混ぜる気分で、ゆっくり一周させてからすくい上げる。流れ作業の要領で、体格に合わせて配膳するのにはもうとっくになれた。最近はいやしんぼのクレームも聞かなくて良くなった。

 

 そこにふと見慣れた影が差す。

 

 間違えるも何もないか、この鎮守府を切り盛りする提督が、私の前で配膳を待っているだけだ。なので私は、至って普通のベトコンベアの機械のように、ただただ無言で自らの役割を全うする。

 

 渡されたご飯に、カレーを荒々しくすくい、開いたスペースにぶちまけた。皿の縁を汚し、ご飯には茶色が飛んで、それでも沈痛な表情をしたままの提督は横に逸れていった。お前も苦しいかもしれないが、こっちだって苦しんだぞといってるような気がして、静かな怒りが音を増していく。

 

 折り返し地点に差し掛かったあたりだろうか、今度は北上さんが姿を見せた。話すタイミングを伺うように、チラチラと私のことをしきりに見て、段々と世界の終わりのような顔を作る。こちらから声をかけてやる義理もない。結局は北上さんも、裏で絡んでいたんだ。その事実だけで避けるのには十分すぎた。列の最後尾を眺めがなら、明確な孤立を実感して泣きそうになる。周りの人たちに気付かれたくないと洗い物を買って出て、一心不乱に食器を磨いた。

 

 

 

 

 

 単純作業に手を取られながら、頭では色々なことを考えていると、提督が食器を戻しにきた。"ご馳走様"と一言いって。それが懺悔のつもりだろうか、陸奥さんと北上さんを侍らせて、なんていい身分なんだろう。

 

 最終的に怒りが行き着く先は提督であった。提督さえいなければ、こんな苦しい思いしないで済んだのにと怒りの炎を燃やして。逃げるように去っていく提督の背中に怨念を乗っけた。食器返却口に返された、きれいに平らげられたカレーのお皿。気が付けば私は提督が使ったスプーンを手の内に隠して、仕事を放棄して厨房裏に逃げ去る。罰だ。そんな身勝手な提督には罰を与えなければいけないんだ。そう自分に言い聞かせると、ドキドキと使用済みのスプーンに舌を伸ばす。

 

 

「んん……」

 

 

 艶っぽい声を漏らして、恍惚の表情で無防備な顔面を晒す大井。カピカピとその銀の表面に乾く唾液。その味は、ほんのりとカレーを感じる禁断の味。そんな自分をみた提督を想像すれば、大井は股下を密かに湿らす。幻滅したような、まるで汚物でも見るような顔。そうだ、それでいい。もっと気持ち悪いと罵れ。これは、提督の気分を多いに害する罰なのだ。今まで散々弄んでくれたお礼に、今度は私が仕返ししてやるんだ。

 

 

「けへ、いひひひひ……」

 

 

 ゆっくりと口内を離れるスプーンを、興奮冷めやまぬと見つめる。正義の執行と勝利の余韻、禁府を犯す背徳感に征服感、あらゆる感情を昂らせておかしな笑いが自然と出てしまう。

 

 

「大井さ〜ん? どうかされましたか〜?」

 

 

「な、なんでもないですよ」

 

 

 とっさに背後へと隠すスプーン。顔の色合いが通常と違うのに気が付く伊良子は、不思議に思うも"ちょっとだけめまいがしただけ"と言い訳した大飯をそれ以上の追求はなかった。"何かあれば遠慮せずにいってくださいね? "という最後の言葉に、内心焦っていた大井は一旦の落ち着きを見せる。その後の皿洗いは、滞りなく進行した。

 

 

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 今日の業務も終わりを迎える。なかなかに最終決戦の戦略は決まらない。なかなか決まらないのは、より最善を見出すためであって、何も自分の経験不足だとは思いたくないな。

 

 大井と北上の仲違いは痛い。エースを追い出した後ということもあるが、何よりも魚雷二十発一斉掃射の火力それも二人分を連携させられないのが痛烈に響く。誰がこの火力を担うんだ? 特殊訓練の訓練期間はどうする? 時間は一日一日すぎるごとに、まさに真綿で首を締めるが如く苦しくなってくる。正直いって今すぐにも変わりを立てるのが賢い選択だろう。

 

 

「提督どうかしたの?」

 

 

「いや、大丈夫だ。なんでもないよ、お疲れ様」

 

 

 だがそうなった時、一体陸奥はどうなる? 俺への評価は? せっかく昔みたいに喋れるようになってきたのに、これでは今までの努力が水の泡じゃないか。そうならないためにも、一番手っ取り早い方法が大井と北上を仲直りさせて訓練に突っ込むことだが、そううまくいかないのが世の中だ。最悪の事態を想定して手は打っておかねば。

 

 最近は疲れているのか、風呂に入っても着替えが足りなかったり、突然眠くなったら口元が乾燥していたりと、ボケてるのかと疑いたくなるような出来事が相次いだ。陸奥を誘って晩酌でも、そう息巻くはずの提督の姿はそこにはなく。ただ確実に迫ってくる、夢から覚めるのを恐れる子供のような心境で、なんとか策を練り出そうと一人苦心するのであった。

 

 

 

 

 

 夜の浮浪者。行き場を見失った人々の止まり木『居酒屋 鳳翔』。

 

 今宵も眠れぬ子羊を酒と手料理で優しく出迎える。

 

 のれんを潜ると、暖かみを感じる提灯の光と、緩やかな色彩が提督を出迎えた。"い、いらっしゃい"の声に軽く答えて、カウンター席に進路を取ると、一人で晩酌する北上の姿を認めてしまった。嫌われている北上に声をかけたところで、当然負の感情しか出力されないはずなので、そんなマゾマシーンには近づくまいと離れたところに着席。視界をメニュー表で隠して、一時の安全地帯とする。

 

 ただ完全に意識から外すことはできないので、どうしても気になる。

 

 それも、こちらを何か理由ありげに見つめてくるように感じたから、流石に居心地悪いと北上を見てみると視線が交差した。含むような沈黙が出来上がり、何か答えを得ることが出来たのか、北上が手元に視線を移したところでやり取りは終了した。なんだったんだ? ポカーンとする提督は、鳳翔さんに声をかけられメニューを注文。仕切り直す。

 

 ……そういえば、北上の相部屋の様子は大丈夫なんだろうか。だれとでも上手くやる北上のことだから、あんまり配慮することができなかったが、もし何かあるならいって欲しいと北上を見る。墓穴を掘ったといえ、北上も大井のために尽くした被害者だ。業務上は嫌悪な仲でも、最低限のマナーがあるはずだろう。

 

 見れば、北上と再び目が合う。何かあるなら伝えて欲しいの思いは虚しく、再び北上から視線を切った。少し嫌な気分になっていると、料理が運ばれてくる。落ち着いた時間を過ごすはずが、北上一人のためにかき乱されている。あぁ、そうか、北上は俺に出て行って欲しいんだな? 人の目もあるから、大っぴらにいえずに手をこまねいているのか。

 

 そんな仮説の元で三度北上を見遣ると、やはりと言うか、お約束のように北上の仏頂面を拝む。と次の瞬間、馬鹿にするようにクスクスと笑い出した。……あぁ、心配して損した。そんな感じで酒につけようとすると、視界の端では何者かが立ち上がって近づいてくる。面倒ごとはなしだぞと一応心の中で宣言したが、その行動は虚しくも意味を失った。

 

 

「その顔まだ治らないの?」

 

 

「……誰のおかげでこうなったと思ってんだ」

 

 

「いや〜ごめんごめん。でも乙女一人守れたんだから満足でしょ」

 

 

「まぁ……そうだな」

 

 

 そういってだし巻き卵を口に頬張って、酒で流し込む。

 

 隣からの声はピタリとやんだ。いつもなら"キモい"とか"偽善者"とか"話しかけんな"とか聞こえてきそうなので、どういった心境の変化だと難しい顔して下唇をめくり出す。なんてことを考えているうちに、北上が追加の酒を注文するようになると、いよいよわからなくなってきた。

 

 気まぐれのように話しかけられて、頭を悩ます答えが導き出されるわけもなく。納得のいく答えは出ずに、酒を飲みながら項垂れるのだった。酒には弱いんだ、ここでセーブしておかないと。

 

 

 

 

 

「綺麗だな……」

 

「へやぁ!? い、いきなりんなんなの提督。クズの分際で、はぁ……」

 

 

 いきなりの愛の告白にも似た何かに、北上はつけそうになっていた杯をおいて、提督に向き直った。一体どんな用件でこんなことをいったんだという思いのもとでみた光景は、提督がだし巻き卵を箸で摘んで、芸術品を舐めるように見つめていた。

 

 

「は? 卵なんて見て何いってんの? てかなんなの? うっざ」

 

 

「いやこの焦げ目一つない立方体。並大抵の腕前でないと、お見受けする……腕を上げましたな、鳳翔さん」

 

 

「ふふっ、ありがとうございます提督」

 

 

「はぁ〜!? なに口説いちゃってんの?」

 

 

「綺麗で、味も最高だと言うことなしだな。どれ北上、料理チャランポランの後学のために、おひとつどーぞ」

 

 

「!? もしかして提督、酔ってんの?」

 

 

 最後の一つが眼前に運ばれてきて、ハタキ落としたくなる衝動を抑え込んで、どうすればいいのかとワタワタする。鳳翔さんを悲しませるわけにはいかない。かといって逃してくれそうもない。

 

 前回も似たような状況はあったが、心理状態は真逆といっていい。結果、北上の出した結論は、手でだし巻きを掴んで口に運ぶ、折れた形での妥協案であった。よって、北上は小さな敗北感をその身に宿す。反撃の狼煙をあげようと画策していた北上。すると、横ではドサリと倒れ込む音が。

 

 

「お〜い提督〜生きてるー?」

 

 

「なんだ? 俺はもだまだいけるぅぞぉ……」

 

 

「あらあら酔っぱらっちゃいましたか? おかしいですね、提督さんいつもはちゃんとほろ酔いで帰っていきますのに」

 

 

「あちゃ〜私が寂しい思いしてるんだから付き合って、っていったのが悪かったかな〜」

 

 

 ポンと自分の頭に手を乗っけ掻いてみるが、特に現実に影響を引き起こすことはなかった。酒に弱い提督をいじめてニヤニヤしていると、そろそろ店じまいの時間が迫ってきた。

 

 

「あらもうこんな時間。すみません、お店閉めたいので提督さんをお願いしてもよろしいですか?」

 

 

「あぁ〜うん。まあ私のせいでこうなったんだから、私が後処理するのは当然だよね〜。鳳翔さんに迷惑かけられないし」

 

 

 そういって、裏方に下がった鳳翔を見届けて、北上はどう料理してやろうかと想像を膨らます。大井との関係が断たれて、鬱屈したところに転がり込んできたおもちゃだ。せいぜい存分に楽しんでやろうと提督の腕を、自分の肩に回す。

 

 

「あ〜もう、ちゃんと自分の足で立ってよ。酒クッサ! 口こっち向けないで!」

 

 

「北上〜大丈夫か〜」

 

 

「大丈夫って思ってんだったら、一人で歩いて帰ってよ」

 

 

「……悪い、視界が回ってるんだ」

 

 

 北上が支えとなって、提督を引きずるように居酒屋から出ていく二人。女の子一人に頼るなと、弱くなった足腰に喝を入れるためにバンバンと背中を叩いてやる。

 

 

「部屋では上手くやれてるのかー北上〜」

 

 

「……そういうところが本当に嫌い」

 

 

 喋りかけようとこっちを向く提督の顔を、頭部で押しのける。近い。お酒を飲んだせいか、息遣いがすぐそこで聞こえるぐらいにキモい。もっとも解せないのは、こんなに密着されて胸に体重を乗っけてくるし、お尻に手を回してくるところだ。シラフなら頭かち割り案件であったが、今力を抜いてしまうと二度と起き上がれないような気がしてならない。

 

 一応の上官であるので、寒空の下に放置するわけにもいかず、開いた片腕を提督の背中に叩きつける。はぁー、本当に世話が焼ける。すると、なんだか異変があるのに気がついた。

 

 

「ひ、ひぐぅ。お、俺だって頑張ってんだよ、根畜生ぉ」

 

 

「はぁ!? なに泣いてんのさ提督!!」

 

 

 酒によって、感情の吐露が緩くなってしまったのか、涙脆くなってしまった提督が弱みを見せる。突然の決壊に、北上は"あり得ない"と呟きながらも、叩きつける腕を背中をさする腕に変えてなだめる方法をとった。呆れた。大人のくせに、クズのくせに、なに偉そうにないてんだか。誰かに見られてないかと周囲を見渡しながら、提督の寝室へと急いだ。

 

 

 

 

 

 運んでくるのは疲れた。ベットに放り込もうかとも考えたが、口が臭いのは上官としていただけないので、せめて口をゆすぐようにと洗面台に持っていく。平静を取り戻して恥ずかしくなってる提督を笑ってやって、布団に入ったのを見届けてホッと一息。

 

 ……駆逐艦の間では、寝た提督の懐に入るのがブームというか、そんな話を小耳に挟む。

 

 

 ………………。

 

 

 フッ馬鹿馬鹿しい。私と提督が仲良くできるわけないでしょ。だって、提督は自分のことしか考えていないクズ野郎なんだよ。そんなやつに私が惹かれるはずがないじゃん。

 

 

「まっさかね〜」

 

 

 視界から提督を切って、急かすように扉を開ける北上。閉じるその瞬間、提督の方へ目配せするが、プライベートの扉が両者を遮断した。

 

 

 




自分会議の結果。ハーメルンの優先順位を落とすことに決めました。
理由は、毎日投稿をたとえやり遂げたとしても、懸命に取り組んだとしてもフィードバックの恩恵が少ない。ようは成長しないってことですね。

ハーメルンが決してくだらない場所だとか、飽きたってわけではなくて、もっと有効なものに時間を割いて自分のレベルを上げたいなってことです。

これだけだとサボる言い訳になるので、次の鍛錬の場所を宣言すると、サグーライティングが今のところいいかなって思ってます。

小銭ていど稼げて、非承認三千円位食らったけど、こっちに力入れた方が自分の成長を実感することができそうなのでこっちに力を注ぎたいです。

このウンチ小説を生かすも殺すも作者の勝手ですが、一応こういう形でご報告させていただきます。
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