親しくなってからぶっ壊れるまで   作:おおきなかぎは すぐわかりそう

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ウンチ、ウンチ!!


自分を外需ではなく内需の民だと自認した

 

 

 

 大規模作戦メンバーの期日が迫っている。悩みの一つ、作戦概要は陸奥との協議を重ねついにその形を帯びてきたが、肝心の主要メンバー内で仲違いが発生。修復の改善を見込める算段はいまだつかず、急遽メンバーの入れ替えが検討されるが、戦場の一番槍を担う関係上簡単に変わりを見つけることは相当苦労する。

 

 執務室のファイルをめくり、これはもう外部から人を引っ張ってこないといけないんじゃないかと渋い顔。人材を追い出したとおもったら再び囲い込むなんて管理能力を疑われてしまいかねないな。なにより一から誰を招くのか考えなければならないのが非常に面倒だ。薄暗い執務室の机に書類をばらまき、こんな情けない姿は見せられないと、陸奥には適当な理由をつけて執務室から追い出している。

 

 

「やーやー大変そうだねー提督〜」

 

 

「北上か。今それどころじゃないだ、あっちに行っててくれ」

 

 

「は〜? なに偉そうにしている訳? 元はと言えば提督の自業自得じゃん、自分で自分の首絞めてるくせして被害者意識だけは一丁前だね」

 

 

「いや、それは……」

 

 

「はぁ〜もういいよ、結局口開いたところで言い訳しか出ないんだからさぁ。ほら、私なんかに構ってないで、さっさとオシゴト片付けたら?」

 

 

「……」

 

 

 仕事自体は山場を超えたために多少の余裕を残しているが、いかんせん決まりかねた計画をひっかき回すのはどうも気後れする。利害調整の再度検討。上手くやらないと、最悪大幅な加筆修正で作戦計画段階からのスタートも選択肢に加えなければならなくなる。そんな害悪を振り撒く行為なんてしたらどうなるか、場を引っ掻き回す愚か者は初めから存在しなかったこととして処理されるに違いない。要は事実上の左遷が決定するかしないかの瀬戸際なのだ。

 

 

「あれからどうだ、その……」

 

 

「大井っちとの仲? フッ、それ私のこと煽ってる訳?」

 

 

「別に煽っちゃいない……」

 

 

「そんな気持ちがなくても、相手にそう取られたら煽ってることになっちゃうんだよ〜」

 

 

「仲直りはできてないんだな、わかったわかったよ」

 

 

 いつもの冷やかしで余裕さえあればこれも業務と付き合ってやるのだが、今はそれどころではないと適当に対応して、手をヒラヒラさせて帰れと示す。それでも北上はそんなジェスチャーは見えてないとばかりにその場を動かない。ここまで来ると筋金入りのお邪魔虫だ。

 

 

「私、見ちゃったんだ……」

 

 

「今日の予定はと」

 

 

「大井っちが陸奥と一緒に喋ってるのを……」

 

 

 一瞬手元が狂う。慌てて平静を装うが、視界外の北上が明らかに我が意を得たりと破顔する様子が容易く想像できる。内心の動揺を少しでも気取られないように、一種の催眠をかけるようにして耐えていたが、残念、俺はそんな高等テクニックもってなかったんだ。引っ張られる好奇心に負けて、北上の術中のまんまとはなるのだった。

 

 

「俺をからかってるのか?」

 

 

「え〜違うよそんなつもりじゃないよ〜」

 

 

 

「急用を思い出した、ちょっと席を外すぞ」

 

 

「直接話の内容を聞いても無駄だと思うけどね〜」

 

 

「……どうしてそう思うんだ?」

 

 

「ん〜結構深刻な話っぽかったから、のろりくらりと躱されるのがオチだと思うけど?」

 

 

「……北上はその内容を聞いてるのか」

 

 

「どうだろう、聞いてるっていえば聞いてることになるし、聞いてないって言われればそれも間違っていないよ。一から十まで全部って訳じゃないけど、ま、断片的になら……。プ、クスクスクス」

 

 

「なにがおかしい」

 

 

「いや〜別に、なんでもないよ?」

 

 

 口元に手をやったと思いきや、コテンと首を傾げるさまが心の底から俺のことを馬鹿にするように見えた。ヌボーとしているが、そんな仕草さえ様になっているのが余計に腹が立った。ブサイクがやるのとはベクトルが異なる腹立たしさだ。

 

 いや、これも策略のひとつなんだろう。相手の心をかき乱して、冷静な判断を奪う気か。北上から教えを請うのは恥と知れ。そうだ、陸奥が大井なんかに惑わされる筈ない。俺は全幅の信頼を彼女に寄せているんだ。もし逆だったら? 陸奥が大井に何か喋ることがあるか? 完全な初対面じゃないから、取っ掛かりがないわけでもないし……。

 

 勝手に考えを巡らせて、思考の迷宮に誘われる。これはいかんと提督は首元をさすって、キッパリ断るのが正解ルートだ。

 

 

「詳しくその話聞こうか」

 

 

「え〜なにその態度。凄く偉そうなんだけど〜」

 

 

「いや、俺提督なんだけど」

 

 

 出口の見えない会話。餌だけぶら下げて、ちょっと手を出せば引っ込められる釣竿。そんなことを繰り返されようものなら時間の無駄だし、第一ストレスが溜まってくる。ならばさっさと話を進展に持ち込むのが吉であり、提督は強引なパワープレイしか知らない。

 

 

「ちょっとこっちこい」

 

 

「は? なに腕引いてんの? 懐柔でもする気?」

 

 

「俺のことを心底嫌っていることは十分に理解できたからそうだな、取引といこうか」

 

 

「ちょ、ワイロとかじゃ靡かないからね。私そこまで安い女じゃないから」

 

 

「間宮の新作、抹茶プリンパフェスペシャル」

 

 

「……へ〜少しは頭が回るんだね。でもやだよ、提督と逢引なんてキモいだけだから」

 

 

 いきなり腕を掴まれて、あまつさえ引っ張られれば誰だって抵抗する。御多分に漏れず、北上の目は早くも拒否の形状となり、こちらの提案をコテンパンに叩く言動を繰り返し罵倒を続ける。

 

 離せ離すまいと互いに力がこもるのもしばらく、やはり脳筋の提督はさらなる説得にかかるのだ。掴んでいた腕を、手に変えて、それでも足りぬと空いた反対を足して熱烈な握手を使う。

 

 

「頼む! 触りの部分だけでいいんだ! 教えてくれないか!?」

 

 

「はぁ〜!? 必死過ぎて引くんですけど! あとさわりの部分ってほぼ核心部じゃん……」

 

 

 ズイ₍₍(ง˘ω˘)ว⁾⁾ズイと詰め寄って、尚も引かない提督の熱は、冷静を備えた北上を持ってすら異質に見えたらしい。対抗するように声を上げれば、少なからず周りに聞かれまいかと気を使う。

 

 それがあの時の、映画館に提督を連行する流れだと気がついた時には、もはや悠長にことを構えるのは寧ろ危険だとの結論に至るのだった。大井にこの現場を見られたのならば、今度こそ修復不可能な関係になるかもしれないとの危惧が頭を駆け巡った。……それと、スイーツにも少なからず惹かれていたのも控えておこう。

 

 

「たのむよ北上……」

 

 

「あぁもうしつこい! 教えるからさっさと離れて!」

 

 

 提督の熱に今更のように恥ずかしさを覚え、押し除けるようにタックルする。それでも日頃の行いが悪いのか信用されず、ニッコリ笑った提督は間宮さんへと繋がる道を、手を繋いだまま綱引きするように引っ張るのだった。離せの命令無視に、北上は接続部を数度叩き、それでも満腹太郎のように笑みを崩さない提督に抗議する気もうせて、せめて嫌そうな顔をしようとしかめっ面。

 

 ……顔が赤いのは、単に突然運動したからだと自分に言い聞かせて。

 

 

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「ん〜あまーい。しぶーい、とろける〜。……あ、提督にはあげないからね」

 

 

 敵を眼前にしてもなお、スイーツの魔力は侮れない。甘いものを食べながら怒鳴り散らす人間が存在しないように、間宮の空間には一種の人を綻ばせるオーラが漂っていた。物欲しそうに見つめる提督の視線に、子供のようにブー垂れる北上に苦笑い。そっちじゃないと弁明したかったが、尚のこと目標まで遠ざかりそうだったので閉口するのだった。

 

 

「はぁ……さっさと本題に入ってくれないか北上」

 

 

「むふ〜ん♪」

 

 

「はぁ……」

 

 

 少々イライラし、指で机を小突いてリズムを打つ。これには流石ののんびり屋も気がついたのか、早く喋れの圧を適当にいなして、自分のペースで語り出すのだった。

 

 

「二人を見たのは昨日のこと、場所は閉店間近の食堂で。陸奥から大井っちに声を掛けた感じだったけど、席に着くまで会話らしい会話はなかったよ……私が知ってるのはここまで」

 

 

「大好きな大井が絡んでるんだろう? もっと詳細を知りたいと思わなかったのか?」

 

 

「いや、普通に考えて閉まるギリギリの食堂なんてそんな人いないじゃん。そんなだだっ広い場所で突っ立ってたら向こうに気付かれちゃうよ。距離もあったし、気になったけど私じゃどうすることも出来なかったよ。大井っちに気付かれてこれ以上嫌われたくはないし……」

 

 

「……わかった、ありがとう、疑って悪かった。だが悪く思わないでくれよ、北上は俺のことが嫌いだから、その、な? 」

 

 

「うん……」

 

 

 肯定をへて理解を得ようとしたが、肝心な所でどうも歯切れの悪い態度を取られて違和感がした。せめてしっかりと、そうだよ! と言い放っておくれよ。なんだかいらない心配もしそうになってきたいので、半分ほどを胃袋に収めた北上を放置し、にべもなく提督はその場を立ち去ろうとした。

 

 

「ぁ……」

 

 

「? どうしたまだ何かあるのか?」

 

 

「いや、別に……」

 

 

 からかられたと感じた提督は、一層その場を夜逃げのように去った。せっかく間宮に来たのに、コーヒーの一杯も注文しないで去った提督に、本当に陸奥のことしか頭にないんだなと感想を抱く。いやそもそも、私が提督を嫌うように、向こうも私のことを嫌っているのだから当然かと独りごちる。なんだか腑に落ちない感情の渦に、アイスの冷たさが孤独を分け与えるのだった。

 

 

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 仕事に戻った提督に休みはない。タイムリミットは刻一刻と迫りつつあるのだ。もはや自分の無能を晒すしかない。連絡網を片手に、まず足掛かりとしてあいつに連絡するかとダイヤルをプッシュ。直後、慌しくも自信に満ちた様子で扉が開かれる。

 

 

「失礼します提督」

 

 

「お、大井? どうした突然。も、もういいのか?」

 

 

「その件でお願いしたいことがあるんですが……」

 

 

 そういって、改まった大井はかつての態度を見せつけるようにやけに早足で近づく。そして、男子学生の告白のように、こう切り出すのだった。

 

 

「私を次の大規模作戦で使ってください、お願いします」

 

 

「お、おい。急にどうした」

 

 

 頭を直角90度曲げての最敬礼。この手を握ってくれと片腕を差し出す様を幻視する。だがこれは好機だ。大井の問題が解消できれば、あとは滞りなく歯車は回りだすだろう。

 

 もしかして陸奥が説得してくれたのではないか、いやしてくれたんだと俺を想っての行動に内心小躍りしながら、いやいや部下に助けられるとは無能と変わりないぞと戒めを込めて大井と向き合う。

 

 

「正直言って嬉しいよ。なんとかして穴を埋める人員をさがしていたんだが、どこも忙しくてそれどころじゃないから。一定以上の実力も備えてないといけないから、余計に今の時期煙たがれるんだ。だが……本当に大丈夫なのか、北上とは縒りを戻せてないと聞いたんだが……」

 

 

「一時の感情で北上さんに強く当たりすぎました。頭を冷やして、今なら冷静に向き合えると思います。……提督のことを殴ってしまったことは今この場で謝罪します」

 

 

 再びの最敬礼に内心満足しながら頭を上げるように大井に駆け寄る。

 

 

「いや、いい。大井の言葉を信じよう。だが時間が惜しい。早速で悪いが訓練に参加してくれ、詳細はこの資料に纏めてある」

 

 

「あの……」

 

 

「なんだ?」

 

 

「あの、陸奥さんが秘書艦を辞退したいと……」

 

 

「……今外れてもらったら困るが、陸奥が簡単にすっぽかす筈もない、代役は誰を選んだんだ?」

 

 

「ここに正式な陸奥さんの推薦状があります。引き継ぎも問題なく終え、いつでも取り掛かれます」

 

 

「しかし、大井は重要な訓練があるだろう。そっちはどうするんだ? まさか、両方に手をつける気なのか? あまり賢い判断だとは言えないぞ?」

 

 

「それは……北上さんに手伝ってもらいながら何とか……」

 

 

「その北上も訓練で忙しいんじゃないか。本当にその陸奥の書類は本物なんだろうなぁ? ちょっと見せてみろ」

 

 

 大井に取って都合が良すぎる展開に、提督が怪しく思うのも無理はない。眉間にしわ寄せ、真偽を問い合わせるのに対して大井は吠える。

 

 

「陸奥さんも大規模作戦に参加してる筈です! なのに秘書艦業務を受け持ってたじゃないですか!」

 

 

「いや、あれは」

 

 

「陸奥さんは大規模作戦のメンバーです、いい加減自覚してください。仕事の峠を超えてることは陸奥さんから報告を受けているので」

 

 

「わかったわかった、現刻をもって大井を補佐に任命する。……これで満足か?」

 

 

「えぇ、あの……改めてよろしくお願いします、ね?」

 

 

「……あぁよろしく頼む」

 

 

 羞恥心に顔を薄く染め、おどろおどろしくも控えめに差し出されるは大井の手。それに提督が一拍遅れて応じると、ねっとりと握手が交わされるのだった。

 

 

 





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