親しくなってからぶっ壊れるまで   作:おおきなかぎは すぐわかりそう

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物語も残すところあと僅か。予想よりもだいぶ短くなってしまったことで伝えきれていない北上の魅力とか、大井に関連した話とか、妄想が爆発してウンチします。

※物語本編には一切関係がなく、あくまで便所の落書きだと思ってご覧ください。


ボツネタのごった煮

 

 

 手を繋ぐ

 

 

 提督と陸奥が横に並んで歩いている。たびたび交わされる会話、盛り上げようと画策する提督。その目は時々、近くて遠い陸奥の右手を視界に捉えていた。

 

 関係性の進展。どことなく焦るように急かすように自分に言い聞かせ、けれどもその先の未来を案じて一歩踏み出せないでいた。別段、可能性のない話ではない。何かの拍子に、今まで思い悩んでいたことが好転することは珍しい話ではない。

 

 けれどもより求めれば求めるだけに、行動はぎこちなさを覚え、後一歩の代償にうろたえていた。こうしてまた貴重な機会を失う。変わらない日常に肩を落とし、また変わらなかった日々に安堵し、二つの感情を混在させながらも別れを告げた。

 

 

「ハー」

 

 

 下手しても陸奥には聞かれないように、小さく思い詰める。次があるとは安易に思いたくない提督であった。そんな背中を見つめる影。さっきのを奇怪な提督の姿を黙って見るに、その淡い恋心が自分に向いていないことに気を落とし、しかしこれはチャンスではないかと独りごちる者がいた。

 

 

「なーにしてんのー提督〜」

 

 

「ん? 北上か。んや、特に。なにも?」

 

 

「へぇ〜ほんと〜?」

 

 

 体をクネクネとよじりながら、ニヤニヤとまるで全てを見透かしているぞと告げるように提督の回りを一周して、時折その視線を提督の左手へと向けてる。

 

 

「なにか困ってんじゃないの?」

 

 

「いや、これは俺の個人的な……いや、北上には今更か。どこかで見てたんだろ大方。それで? 感想は?」

 

 

「キショイ、キモい、ブザマ」

 

 

「はは……そりゃどうも」

 

 

 やけくそまじりの感謝の言葉。それにニンマリ頬を緩めた北上は、表情を悟れないように顔を伏せた。と思えばすぐさま顔を上げ、懇切丁寧にサポートを始める。

 

 

「駆逐艦のことは出来るのに、どうして戦艦とはできないのでしょ〜か?」

 

 

「それお前……気持ちの問題だろう」

 

 

「それじゃあ抵抗感をなくす為に特訓すればいいんだよ」

 

 

「特訓たって……」

 

 

「はい、こゆこと」

 

 

 そう言って並び立った北上は右手を差し出す。嫌いなんじゃないのかと困惑するように顔を見る提督に、まどろっこしいともう一度手を振る。それでもしぶる提督に、段々と強くなるイライラを隠した北上の声が握手を促した。

 

 

「こんなんでつまずいてたら、いつまで経っても進展しないよ?」

 

 

 ほれほらと揺れる手。一理も二理もある北上の文言に、ついに折れる形で提督はその手を取った。手の大きさが駆逐艦ほど小さくないから緊張する。

 

 そしてなんといっても手の柔らかさ。自分の手が石で出来ているのかとつまらない冗談を浮かべるほどに、相手にとの違いがあった。北上はそんなこと気にする様子もなく、ブランブランとまるでブランコでも漕ぐように前後前後。

 

 どお? とでも言いたそうに上目遣いで提督を見ていた。こんなところで緊張してどうするとブルリと頭をふり、気恥ずかしさに多い被さるように力強くその手を握ると、反対に北上は少し驚いたように顔を強張らせる。あれだけ柔らかいと感想を持った手に力が抜け、なおさらその感触が頭にこびりつく。

 

 

「どんな感じ?」

 

 

「いや、恥ずかしいな……」

 

 

 その返答に満足しながらも、確かな手応えを感じた北上はさらに攻める。仄かに赤びた頬を近づけ、提督の動揺につけ込んで、握った手を一度解く。ついで、腕を絡めるように急接近し、手の平をあわせて互い違い重なり合った。俗にいう恋人繋ぎである。

 

 

「……ッ」

 

 

「フフッ」

 

 

 あまりの恥ずかしさに顔を背ける提督と同様に、責めに転じていたはずの北上も居た堪れなくなって顔を伏せれば、なんとも奇妙な空間に仕上がった。

 

 

 

 

 

 王様ゲーム

 

 

 険悪な仲が続いていた大井、北上の冷戦は、陸奥と呼ばれる驚異の元についに結託した。

 

 

「提督に取り入るためには、私たちが争ってちゃダメだよ。ここは共同戦線を張って、いったん休戦ってことにしない?」

 

 

「……確かに私たちがいがみ合ってても不毛な戦いですものね。……わかりました、同盟を組みましょう」

 

 

 提督をめぐっていがみ合っていた大井と北上は、お互いの利害の一致が重なって、協力して提督を協力しようと動き出す。とはいえ、現状は陸奥圧倒的力の前に手も足も出ていない状態で、どうにかこうにか恋の導火線をつけるそのきっかけを模索する。

 

 

 ──────

 ────────────

 ──────────────────────

 

 

「てことでさー提督。王様ゲームしようよ〜」

 

 

「……全く脈絡がないんだが、仕事はどうするんだよ仕事は」

 

 

「えぇ〜そんなん後で必死こいてやればいいじゃん」

 

 

「誰が鎮守府を運営しているとおもってんだ。今この瞬間も命を賭して戦ってる艦娘もいるんだぞ? 国民から支えられて金をもらっている以上、せめて勤務時間内は「あ〜はいはい御託はいいから、私と大井っち提督と、後は陸奥が参加する予定だんだけど?」

 

 

「……ちょっとだけだぞ」

 

 

「やた」

 

 

 計画通り、と小さく両手でガッツポーズを決めて。ここまで提督がの扱いがわかりやすいと、取扱説明書もいらない。肝心の陸奥の方は、大井が説得してくれていることだから。後は大井の報告を待つばかり。

 

 

「しかし、四人でやってちゃんとゲームが回るのか?」

 

 

「提督やる気満々じゃん。まぁそこんとこは別途調整しながら試行錯誤って所で」

 

 

「……いや、一応勤務中だということを忘れるなよ?」

 

 

「乗り気の提督がそれいっちゃう?」

 

 

 そんな会話をしていると、執務室の扉が開かれる。

 

 

「お待たせしました北上さん」

 

 

「おー大井っちお疲れ〜。あれ? 陸奥は?」

 

 

「しばらくしたら来るそうですので」

 

 

「あ〜そうなのかー」

 

 

「例の計画は順調ですか?」

 

 

「ん、バッチリ」

 

 

 例の計画とは、鏡を執務室の特定の場所に鏡を設置。ようはイカサマをしようとしているわけだ。

 

 

 ガチャ

 

 

「おぉ! 陸奥。待ってたぞ」

 

 

((一番提督がテンションたかい))

 

 

「じゃはじめようか」

 

 ガサゴソと、ポッカリ穴の開いた特製の穴から、四本の棒が飛び出す。一から三の番号と、独裁者を示す王冠がそれぞれの先端にとりつけられている。

 

 

「「「「王様だーれだ」」」」

 

 

(や、ややややりました北上さん。私が王様ですぅ──────)

 

 

(良かったね大井っち)

 

 

 陸奥から意識を逸らすまでなら、二人は共通の目的を持った同志。仲間のチャンスを祝う程度の余裕を二人は持っている。そんな中大井は、北上が密かに設置した鏡へと視線を動かす。その計算し尽くされた角度は、提督の持つ番号をハッキリと写していた。

 

 

「で、では。その、二番は王様の目を見て、名前をいってくだしあ……」

 

 

(お題軽ッッる、しかも噛んでんじゃん)

 

 

「二番は……俺か、目を見て名前を呼べばいいのか? 大井?」

 

 

「いえ、ちょっと、もうちょっと真剣に。凛々しい感じで……」

 

 

「注文が多いなぁ……。……大井」

 

 

「は、はぃぃ……」

 

 

(ちょっと! 何怖気付いちゃってんのさ!)

 

 

(し、仕方ないじゃないですか。今のは軽いウォーミングアップです)

 

 

「なあそろそろ次に移らないか?」

 

 

((一番提督が乗り気……))

 

 

「んじゃいくよ〜。せーの」

 

 

「「「「王様だーれだ」」」」

 

 

「お、あたしじゃん」

 

 

(北上さんの采配……。目に焼き付けておこう)

 

 

 作戦立案に抜群の才能を発揮する北上。いざ提督へのなんでも券を手にすると、ムムムとどれが最善の選択かと考え込んでしまう。しかし、長く待たせるわけにもいかない。ここは、自分の信じて、一歩を踏み出す。

 

 

「んじゃ……、四番はゲームが終わるまで王様を膝に乗っける」

 

 

(ズッコー!)

 

 

「あ、俺四番じゃん」

 

 

「ふふふ、それじゃあ失礼して……んしょ」

 

 

 スカートが広がらないように両手を押さえつけ、まるで熱湯のお風呂に浸かるようにゆっくりと腰をかがめた。提督視点では、チラリチラチラと背後を窺う北上が見える。しっかりと提督の膝上に重きを置いた。

 

 

「動きづらいな……」

 

 

「フフフ。よきにはかれえ〜」

 

 

「……このまま続けるのか?」

 

 

「当たり前じゃん。ゲームが終わるまでだよ」

 

 

「これ自分が引いたやつが見えちゃうんじゃ?」

 

 

((提督のはもうとっくに見えてる……))

 

 

「それなら提督と北上を一人としてカウントしたらどう?」

 

 

 目的を理解している陸奥が助け船を出すと、速攻で提督が反応を示す。

 

 

「ん? う〜む? まぁいいか、それでいこう」

 

 

 借りてきた猫みたいにムッスーとした北上が、体を擦り付けて気を引こうとしているが、陸奥とのあれやこれを望む提督には見えていない。まさに恋は盲目。

 

 

「……んじゃいくよ、せーの」

 

 

「「「「王様だーれだ」」」」

 

 

「お? 俺かぁ……」

 

 

 感嘆符を漏らすように、驚きと喜びが滲んだ声で、次に選択肢に顎を擦る。三番の棒を引いたから後は二分の一。プラプラと足を揺らして寛ぐ北上には悪いが、ここは提督に発言権があってもいいだろう。

 

 

「そうだなぁ……」

 

 

「一番は王様のことを……下の名前で呼ぶ」

 

 

「あら、私ね」

 

 

「「「!!」」」

 

 

「じゃあ、いくわよ?」

 

 

「お、おう……どんとこい」

 

 

 緊張の面持ちで構える提督に、北上と大井が渋い顔を披露する。ぷっくりと柔らかな唇が持ち上がると、その隙間に提督は見入ってしまう。

 

 

『警戒警報発令! 警戒警報発令! 鎮守府近海に深海棲艦が出没! 第一種先頭配置! 第一種戦闘配置!』

 

 

「くッ一旦切り上げるぞ!」

 

 

 グワングワンとなり出すサイレン。提督は忌々しくもサイレンに意識を向け、提督としての仕事を再開するのだった。その動きに付き従うように、他の三人も意識を切り替える。

 

 

 

 

 

 姉・妹

 

 

「ほら北上起きて、遅刻するわよ」

 

 

「大井ねえ朝からうるさいよ〜」

 

 

「また遅刻したら、今度こそ夜中ベットに縛りつけますからね」

 

 

「ひぇ〜」

 

 

「提督も起こさないと……全く、なんでうちの家族はこんなにだらしないのかしら」

 

 

 ズンズンと風を斬りながら隣室の提督のもとへと向かう。

 

 

「提督ー起きてるー。開けちゃうわよー」

 

 

 踏み出した一歩に、食べかけのスナック菓子の袋をふんでしまう。暗くて状況がよく見えないが、片付けられていないのは明白だった。

 

 

「あぁもうこんなに散らかして、ゴキブリが湧くからあれほど」

 

 

 カーテンを壊す勢いで開け放ち、提督を日光で消毒してやる。吸血鬼の如き提督は、頭が焼かれるのに耐えかねて布団をかぶった。

 

 

「いつまで呑気に寝てんのよ」

 

 

「はい、おはよう。朝ごはんできてるからさっさと着替えて食べちゃって」

 

 

 着替えるために起き上がるが、大井に退出する気配はない。人の目がありながら着替えるのは気がひけると、大井姉さんに声出しする。

 

 

「乙女みたいなことぬかしてんのよ、あんたがいつまでも散らかしてるから片付けてんでしょうが! はいはいはい大体ゴミ大体ゴミ」

 

 

 そこらへんに落ちていたコンビニの袋になにもかもぶっ込んでいく。これではゲームのカセットとか、大事なプリントなんかも燃やされる気がしたので慌てて止める。

 

 

「私が帰ってくるまでに片付けておいてね? もし片付けてなかったら、床に落ちてるもの二度と拝めなくしてあげるから」

 

 

 有無も言わせぬ圧力に、提督はただ”はい”と返事して、今日は直行直帰で帰らねばと心に誓う。

 

 

「大井ねえ昨日買ったエクレアどこー」

 

 

「あぁもう、戸棚の一番端!」

 

 

「はじ? はじってどっちのはじだようぉー」

 

 

「着替えたの? ならさっさと部屋から出て朝ご飯!」

 

 

 なんてことない家庭の、朝の一幕。

 

 




次回最終章

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