親しくなってからぶっ壊れるまで 作:おおきなかぎは すぐわかりそう
いや、長かったなここまで・・・・。
前哨戦
田舎の早朝に、万歳三唱の声が響く。
その眩しいほどの姿に出来ることは、偉そうに励ましの言葉を掛けるか、三唱に混じる。あるいは手を振ることしか知らない。
彼女らは、最前線に向かうのだ。それも、最も危ない役を押し付けて。俺が、俺自身が明確に死地へと向かわせたのだ。彼女が無事帰ってきますようにと、ただただ水平線に隠れゆく黒点を眺め続けた。
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目前に迫る決号作戦を前に、訓練に精を出す彼女たちの目は真剣そのものだ。
それもそのはず、ようやく長く苦しい戦いの日々にも終わりが見え、勝利へのカウントダウンは目前までせまっている。
しかし、窮鼠猫を噛む事態が怒らないとも限らない。追い詰められ手段を選ばなくなった深海棲艦ほど、恐ろしいものはない。
志願した過酷な任務も、陸奥が生き残らなければそれこそ意味はない。迫る日々に心は締め付けられ、一時は作戦の辞退も真剣に考えたが、その行動は彼女の懇願によって無駄に終わった。
「提督? 顔色が悪いですよ? 大丈夫なんですか?」
「いや大丈夫だ。戦場に比べればこんなもの……」
気持ちが悪くなるのを必死に押さえ込んで、精一杯の強がりを見せる。上に立つ者がこの調子でどうするんだ。そう自分に言い聞かせて
「……無理はなさらないでくださいね?」
フッと大井が顔色を伺おうと覗き込む。調子が悪いのは自分が良き理解しているので、うっとしそうに顔を背け、話題をすり替えにかかる。
「大井はどうだ? 決号作戦に心配とかはないか?」
「やるだけのことはやりました。あとはもう、どうにでもなれです」
「そこは安心させる意味でも、必ず帰ってきますぐらい言ってくれないと……」
「戦場に絶対はありませんよ」
「それもそうだが……」
せめて成功させますと励ましてくれても、バチは当たらないじゃないか? そんな無責任なことを考えていると、こっちの様子を機微に感じ取ったのか、神妙な面持ちで大井が口を開いた。
「あぁ陸奥さんが気になっているのなら心配はいらないと思いますよ? 超弩級戦艦は耐久力ありますし、彼女が沈むってなると一番最後ですから」
「縁起でもないこといわないでくれ」
今一番聞きたいくない言葉だった。彼女なりの励ましの言葉だったんだろうが、余計に揺さぶられる感情に顔を覆った。表情に出すまいと両手でぴっちり顔に扉を作って締め切り、項垂れる。
「そんなに陸奥さんの能力が劣っていると?」
「そんな馬鹿な! 陸奥はよくやってくれている! 至らないのはいつまでも俺なんだ……」
「じゃあ、約束します」
「?」
違う、いつも原因は自分にあるんだ。そんな思い出溢れ出る感情に、大井は同情的な目を向け、腰を屈めて視線を合わせた。まるで子供にでも言い聞かせるように、優しい声色で大井が続ける。
「提督のもとへ陸奥さんを無事に帰還させるって。はい、指切り」
「いや、でも「いいから! 手、出して下さい」
そんなことに意味がないことなど、ついさっき言葉に出していたじゃないか。
それなのに、おまじないを持ち出すのは、自分がそれだけ追い詰められているからか? と考えずにはいられない。けれども励まそうとしてくれている気概は感じる。
その感情をぞんざいにはできず、大して意味のないまじないでしか支えられない自分の精神に嫌気が差してきた。
「指切りげんまん嘘ついたら針千本飲ーます、指切った」
「……」
「提督の重りを、部下の私にも背負わせてください」
「……責任は頭が取らなきゃいけないだろう」
「そういう問題ではなくてですね……」
「いや、そうだな。悪いな大井、気を使わせちゃって」
部下に甘えてばっかりだ。自分の身勝手な行動と理念で目の前の少女を理不尽に追い詰めているのなら、北上のいったこともあながち、間違ってはいないのだろうな。
「少し外の空気吸いましょう。潮風に当たれば少しは気も紛れますよ?」
「一端、休憩にするか」
「私は提督の味方ですから」
「……」
こちらの身を案ずるように微笑みかける大井に、果たして自分は彼女に相応しい人間なんだろうかと自虐してみた。
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「私達はこれより、敵勢力圏内を避けながら真珠湾を目指します。周囲の警戒を厳として、深海棲艦に遭遇した際はこれをすぐさま撃滅。Aポイント到着後、航空支援を得ながらハワイ、オワフ島まで進出。敵生産設備を出来るだけ破壊し、作戦成功の尖兵とします。時刻フタサンマルマルで時間合わせ、……五、四、三、二、一、今」
本日は晴天なり。天気は軍事機密に指定されるほど重要な要素らしく、戦時中ラジオから天気予報の一切が消えたとかなんとか。夜もこれから深まる時間帯。各種の点検を手近に済まして、陸奥号令に皆一様に時計に手を添えた。
「第一打撃艦隊、最大船速」
最後の戦いが始まる。