親しくなってからぶっ壊れるまで 作:おおきなかぎは すぐわかりそう
夜中に本土を出港した私達は、西経157度、北緯21度に位置するハワイへとゆっくり進路を取った。
先行している補給部隊の待つA地点で補給後、万全の状態で敵基地オワフ島に強襲を仕掛ける。
比較的安全な場所を航行するとはいえ、それでも深海棲艦から奇襲を警戒し、それを作戦が終了するまでの長期間。順調に物事が進んでも六日間。速度を気にし、方角を気にし、海面を上空を注視してと結構余裕がない。
それでも陸奥さんは短いスパンで休みを取らせ、全体を常に警戒し続ける私に、肩の力を抜くように言った。長期戦になると告げられれば、まだ制海権を維持出来ているここで休まないと、後がつっかえる。
先導艦に引っ張られながら、ここで息抜きと遥か彼方上空を見上げる。色んな戦場で、色んな星空を眺めるのが好きだ。航海する人間には欠かせない、北斗七星。昔の人々はこの星を頼りに、自分のおおよその現在位置を把握していたのだ。
いつでも、どんな時でも、見上げればいつもの星空が私の居場所を教えてくれる。自分がまだこの世にいるのだよと、そして艦娘として生きているのだよと、教えてくれる。
「ふぅ、よし。あの無人島で三十分間休憩しましょう」
予定の工程を早めて進行している甲斐あってか、心に余裕の表情がある。嵐の前の静けさ。こうやって腰を落ち着けている時の方が、かえって立ち上がるときに辛い。休憩する方が航行している時よりも苦しいとは、おかしな話だ。
「大井っち中腰じゃなくて、ちゃんと座った方がいいよ? 先は長いんだから」
「……そうですよね」
北上さんのアドバイスを受けて、変に意地を張っていたのが馬鹿らしくなる。これは戦闘なんだ、一個人の感情を殺して、一つの歯車として機能するのが兵士の理想像。それに比べたら私は、やっぱりまだ兵器になり切れていない節がある。
「北上さんは……この戦争が終わった後どうするんですか?」
「なにそれ死亡フラグ? ……うーん、特には決めてないかなー。まぁどっちかって言うと、そこらへんでぐてーってしてるんじゃない?」
随分とザックリとした説明。
けれども、人とうまくやっていける北上さんならどこに行っても大丈夫だろう、と変な偏見が出ていた。
……陸奥さんに提督のことを任された身ではあるが、別に一人で支えろなどとはいっていない。過去に夢に見ていた、三人で助け合いながら生きる生活。戦争が終わっても、提督は陸奥さんに縋り付くだろうから、協力者は多い方が良いに決まっている。
「もしよろしければなんですけど……みんなで一緒に暮らしませんか?」
「!?」
「陸奥さんから、提督に付き纏っていい許可をもらって……私、子供みたいに喜んじゃったんですよ。でもよくよく考えてみたら、それはただ陸奥さんから許しを得ただけで、本当に振り向いてもらいたい提督には全く関係のないものだったんです。だから、その……私一人では提督を振り向かせることができないので……北上さんにも手伝ってもらいたいんです」
「わ、私は別に暇だからいいけど。大井っちはいい訳?」
「私だけでは彼を振り向かせることは難しいでしょう。だから北上さん! 手伝っていただけませんか?」
「……わかった」
雲のない空は、穏やかに星空を写すのみ。鉄の嵐が吹き荒ぶ、その瞬間まで。