皆様夏休みをいかがお過ごしでしょうか。僕は特に変化なく炎天下の中テニスをしています。と、見せかけて水風船を投げ合って遊んでいます。熱中症とかなったら洒落にならないので。それにテニス自体は早朝の涼しい時間にやって、熱くなってから水風船大会なんですよ。楽しく体力作りですね。
それはさておき、久々のオフの日に家で寛いでいたんだが、それがいつもの如く妨害されました。そこまでは予想通りだった。リビングに呼び出されるまでは。予想外だったのは、姉ちゃんが纏う雰囲気がやたらと重たいこと。こんなに重たいのは、昔にピアノのコンクールで失敗した時以来だろうか。
なんにしても、黙っているままでは時間を無駄に浪費するだけ。強く迫るわけにもいかないから、軽く言葉を投げかけるとしよう。
「姉ちゃんどうしたの? NFOのデータでも吹っ飛んだの?」
「ううん。……そんな、小事とは比べ物にならないことをね……しちゃってたの」
「えーっと、じゃあ俺の部屋に監視カメラ仕掛けてたことを話す気になったのか?」
「そんなプリント一枚無駄に使っちゃったくらいなことでもなくてね?」
「俺のプライバシーはプリント一枚程度か!?」
なんかトンデモナイことを言われたけど、それは今だけは置いといていい。後で詰め寄るけども、今は流すしかない。俺のことよりも姉ちゃんのことだ。少しは顔色が良くなったけど、相変わらず重たい感じ。姉ちゃんの言葉を待つとしよう。
「あのね……実は、お姉ちゃん
──留年してたの」
「うん?」
ふむふむ、ほうほう。留年とな。留年というと、同じ学年を二度するという留年だよね。他国に学びに行くのが留学で、姉ちゃんが今言ったのは留年と。
さて、俺はなんて声をかけたらいいのだろうか。怒ればいいのか、それとも慰めの言葉でもかけたらいいのだろうか。……たぶんそれは違う。どっちも違うんだ。見てわかる通り、姉ちゃんはめちゃくちゃ反省してる。そんな人にわざわざ怒る理由なんてない。だって何が駄目だったのか分かってるんだから。そして、同情して慰めるとか、傷口に塩を塗るようなもの。追い打ちに過ぎない。
だから、俺は自然と浮かんできた言葉をそのままに言ってやればいいんだ。格好なんてつけずに、俺なりの言葉を。
そう、たった一言。四文字だけを。
「知ってた!」
「…………へ?」
なんで知ってるのと言わんばかりに、姉ちゃんがキョトンとしてる。どうやら演技ではなく、本当に理由が分からないらしい。
「えっと……実は
「それも知ってるわい! ポピパ、アフロ、パスパレ、Roselia、ハロハピの25人でしょ? 気づかないわけがないわ!」
「ど、どうやって気づいたの?」
「どうもこうもないわ! だって季節が2周してるのに全員学年変わってなかったんだぞ!? 留年以外の理由が思いつかねぇわ!」
花女と羽丘が、実は四年制なんじゃないかと窺ったこともあったけど、それにしても学年の数字が変わらないのはおかしい。調べてみてもやっぱり三年制。それなのに変わらない学年の数字。これはもう確定でしょ。
「で? なんで留年なんてしたわけ? 姉ちゃんって別に勉強苦手とかじゃないでしょ?」
「そうなんだけど……バンド活動と衣装研究とゲームに夢中になってたら二年経ってたんだ」
「言い訳にならねぇよ!?」
「ちなみに、みんなの言い分も聞いてきたから、それはVを見てね」
「楽しんでんじゃねぇか!!」
「再生するね」
さっきまでの重たい雰囲気はどこへやら。姉ちゃんはウキウキしながらリモコンを操作して映像を再生させた。ちゃっかりバンド毎にチャプターできてるし、編集とかも楽しんでたな?
『私達には音楽だけがあればいいのよ。勉学なんて小事だわ』
「誰!? 顔全体にモザイクかかってるわ声が加工されてるわで分かんないんですけど!?」
「友希那さんだよ? ほら」
姉ちゃんが指を差すと同時に画面にテロップが出てくる。そこにはたしかに湊友希那の文字が。
「テロップないと分かんないわ! なんでこの人こんな事になってるの!?」
「Roseliaの絆を深めるためにクイズ大会をしたら、私達のライブの様子とポピパさんのライブの様子を写した写真を間違えたの。それで罰ゲームが必要だって話になって、加工することにしたの」
「初めからこれ作る気だったでしょ!?」
姉ちゃんにツッコミを入れている間に、友希那さんからリサさんに代わった。友希那さんとは違って、モザイクがかかってないからひと目で分かったよ。相変わらずギャルっぽい乙女だよね。
『いや〜、友希那が一人なのって心配じゃん? だから一緒にいられるようにしたらいいかなーって』
「過保護通り越してますけど!? そこまでいくと怖いわ!」
『日菜との関係を改善させようとしていたら、二年かかっていました。体感的には一年だったのですけど』
「ここでポンコツ発揮する!? ポンコツすぎるぞ風紀委員!」
『中学3年生を2回できるのって新鮮だよね! 修学旅行も2回行けちゃったもん!』
「そんな馬鹿な話があるか!!」
中学の修学旅行なんぞ一回しかいけねぇよ! 義務教育だぞ!? 浪人生になるのが当たり前だろ!? エスカレーター方式でも、普通は留年したら同じ系列の高校には行けないはずだろ!
てか、あこはちゃんと2年経過してること自覚してたんじゃん……。
「あこちゃん可愛いよね〜」
「そうっすね」
うっとりしてる姉ちゃんを適当に流す。Roseliaの次はポピパみたいで、戸山さんが……。
「なんで目の部分だけモザイクかけてんだよ!!」
「ドラマ性出るよね!」
「理由なしかよ!」
『高校生活ってキラキラドキドキしてるな〜って思ってたら、同じ学年2回してました〜! どうりで見たことある問題だな〜とか思ったんですよね! 解けませんでしたけど!!』
「バカなだけじゃねぇか! なんでドヤ顔してんだよ!」
戸山さんへのツッコミしんどい。市ヶ谷さんっていつも大変な思いしてるんだなー。……そういえば美咲も市ヶ谷さんに親近感抱いてるとか言ってたな。バカの相手は疲れるとかなんとか。俺の顔を呆れた様子で見ながらだったけど。
その件の市ヶ谷さんが映る。場所は普通の教室でもない。生徒会に入ったとか言ってたし、生徒会室なのかな。…………留年した人が生徒会に。姉ちゃんも生徒会長だし、花女は大丈夫なのだろうか。
『や、やるからには完璧にしたいっていうか。中途半端な習熟度で学年を上げたくなかったというか……』
『市ヶ谷さん、本音をお願いします』
『か、香澄と違う学年とか、考えられなかったんです……!』
『ふぉぉぉ! ごちそうさまですー!』
「ツッコミどころが多すぎる!!」
建前が完全に欧米方式だし! 本音はただの惚気だし! それを聞き出した姉ちゃんは限界オタクみたいにテンション上がりまくってるし! こんな生徒会でいいのかよマジで!
『チョココロネになってたら、ですね。手も足も動かせなくて……それでテストを受けられなかったんです』
「チョココロネになるって何!? あなたしょっちゅうライブに出てましたよね!? やまぶきベーカリーに毎日通ってるの知ってるからね!?」
『みんなと離れ離れになるのが嫌だったので……。もう、仲のいい友達とは離れないって、そう心に決めてますから』
「重い!! ただひたすらに重たいですよ山吹さん! ギャグの中にシリアス入れられるとは思ってませんでした!」
『ポピパは5人揃ってポピパだから』
「うさ耳外して言いやがれ! 内容は山吹さんと変わらないのに! うさ耳つけてるせいでシュールギャグだわ!」
くそっ! 姉ちゃんめ、緩急つけてきやがる! テンションの上がり下がりがひたすらにしんどいぞ。
『……それってつまり、あたしの事を下に見てるってことですか?」
「実際留年してたら下だよ美竹さん!」
『カロリーをひーちゃんに送ってたら学力まで消えました〜。これが等価交換の原則なんですね〜』
「デメリットしかない錬金術ならやめちまえ!」
『ダイエットとスイーツで戦争していたら、いつの間にか2年が……』
「運動しやがれ巨乳め!」
立て続けにツッコミさせられてる意味がわからない。いや、そもそもツッコミをする必要もないんだけど、内容が内容のせいでツッコミをさせられる。ここまで仕込んでるなら全員共犯か! 留年してまでこんなことするとも思えないけど!
『えっとー、つぐり過ぎてたら進級を忘れちゃいました。てへ』
「羽沢さんはかわいいなぁ〜〜! 癒やされるわ〜! けど進級忘れるって何?」
『ソイヤソイヤ! ソイヤ? ソイヤソイヤソイヤ!!』
「日本語を喋りやがれ!! あとこれこそテロップいるだろ!? なんでつけないんだよ!」
「誰も翻訳できなかったから」
「アフロは普段どうやって意思疎通してるんですかねー!」
ソイヤ姉さん爆誕とはまさにこの事! てか完全に油断させられてたわ! 羽沢さんでワンクッション置いてからのソイヤとか、計算高いなほんとに。
『勉強についていけなかったんです……はい……』
「……丸山さん……本当に馬鹿なだけなんだ……」
ツッコミもできねぇよ! ツッコミ殺しをしてこないでくれ!
『まさか教師陣が手を切ってくるとは……。完全にぬかったわね』
「どこに根回ししてるんだよ! それでいいのか芸能人!」
『おねーちゃんと一緒に卒業できないとかるんっ♪ てしないでしょ? だから留年したの。教師陣ってホントちょろいよね〜。弱み握ったら簡単だったよ!』
「活用法がおかしい! 白鷺さんはそれを失敗して留年してるのに! 日菜さんあなた、成功して留年させるって何!?」
「ほら、日菜さんが解けない問題って地図記号だけだから」
「おのれ天才め!」
天才というかもはや天災。羽丘の教師陣が可愛そう。それはそうと、たしかこの人生徒会長になったよね。それも根回しですかね。
『機材を弄っていたら、テスト期間が過ぎてたんですよね〜。日菜さんも教えてくれませんでしたし。フヘへ』
「フヘへ、じゃないでしょ! 機材弄っていたらってなんだよ! 職人かな!?」
『実は……1年生の科目で分からないものがありまして、お恥ずかしながらそれをできるようになってからでないと、学年を上げるべきではないと判断しました。押忍!』
「欧米方式を導入しちゃったよ! イヴちゃんだけ本格的に欧米方式やっちゃってるよ! けどここ日本だからね!? 日本の方針に従ってよ!」
ハーフであることがここに来て仇となるとか。いや、まぁ、欧米じゃその選択が当たり前らしいし、恥じることじゃないみたいなんだけど。
『同じ学年を2回できるのよ? それって凄いハッピーなことだと思うの!』
「ハッピーなのはお前の頭だこころ!」
『答案用紙が私の儚さに酔いしれてしまったようでね。私の手を遠ざけたのさ。あ~、実に儚い!』
「解けなかっただけでしょ!?」
『うちのコロッケは世界一美味しいよ! 食べに来てね〜!』
「ただの宣伝じゃねぇか! 言い訳はしないんだな! 潔いなぁ!」
ハロハピの三馬鹿は、正真正銘の馬鹿だった。これはもう紛れもない事実。覆しようがない。
『え、えっと……迷子になってたら……テストが……』
「自分が行く学校ぐらい辿りついてくださいよ!」
『あと……蓮くん、あとで覚えててね?』
「怖い!!」
何する気? え、花音さんあなた俺にいったい何する気なんですかね? 映像終わった時には真後ろにいる、とかいうホラーはやめてほしいんですけど!
『……こころに巻き込まれた』
「美咲ー! お前は本当にただの被害者だなぁ! テストも問題なく解いてたもんなー!」
「そんなわけで、私達は留年していたの」
「俺もうツッコむ気力ないわ……。はぁ、姉ちゃんと学年同じになっちゃったとか……。父さんたち卒業式の時大変だな」
「そうだね〜。……あ、学年が同じなら双子キャラでいけるね!」
「これ以上属性を増やそうとするな!」