朝の10時に駅前に集合。それがあたしが
「グッドモーニングマイハニー!」
「もっと発音を練習してよね。それとそんな大声出さないで、恥ずかしいから」
「ごめんごめん。それより早いね? まだ10分前だけど」
「そういうこともあるよ」
朝から元気溌剌な挨拶をしてくる蓮を窘める。本当に同い年の彼氏なのかなってなるけど、これでも同い年の彼氏。眩しい笑顔を弾けさせて、でもこっちの些細なことにもなんだかんだで気を配ってくる彼氏。バカだけど馬鹿じゃない。そんなとこにも愛着が湧くんだけど、これって惚れた弱みなんだろうね。
「それじゃあさっそく移動しようか」
「へ? 行く場所は決めてなくない?」
「遊園地行こうぜ! そんな気分なんだよ!」
「えぇ……。まぁ、いっか」
「ありがとう!」
当然のように、そして自然とあたしの手を握って優しく引っ張ってくる。豪快なとこが多いくせに繊細な気遣いをするのセコいよね。ギャップで心がトクンってなるじゃん。
少し早くなった心音を感じながら軽く手を引っ張り返す。それで蓮は分かってくれて、あたしの隣にいてくれる。言葉で言ってほしいとは言われるけど、言えないことだってある。今回の場合は単純に恥ずかしいから。でも、小さな行動で察してくれるのはホント好き。分かってくれてるんだなって思えるから。
「ところで遊園地ってどこにあるの?」
「がくっ、行きたいって言ったの蓮じゃん……」
「ごめんごめん。行きたいけど場所は調べてなくてさ。美咲と合流する寸前に思いついたし」
「はぁー。やっぱそういうことだよね。蓮はそういう人だよ」
本当に悪いと思っているのかと疑いたくなるような爽やかな笑顔で謝れる。けど、それに不満は抱かない。だって蓮がどういう人なのかは分かってるんだから。蓮は口で軽く言うだけで、心の中で十分すぎるほど反省する。たまに見てられなくなるんだけどね。滅多に試合に負けないけど、負けた時とかヤバイ。なんでそんなにって思うぐらい自分を責める。だから、彼女であり、蓮の側にいられるあたしが支えないといけない。本当は弱い心をしているこの蓮を。きっとそれが隣にいようとする人の役目だから。
「……美咲、いつもありがとな」
「へぇっ!? ど、どうしたのいきなり!? 熱でもあるの!?」
「ないない。ないからその柔らかくてヒンヤリしてる手をデコからどけてー」
「ぁ……。うん」
蓮が平常運転なのを確認して手をどける。触ってみた感じ熱もなかったし、とりあえず熱があるってわけじゃなさそう。それならなんで蓮はいきなりこんなことを言ってきたんだろ。
「美咲をいつも振り回しちゃってるだろ? それでもいてくれてありがとう」
「……馬鹿。好きでそうしてるだけだから」
「ははっ、嬉しいね〜」
バカのくせにこうやって言ってくる。ほんっとにズルいんだから。でも、それでもそこが魅力の一つ。本当の馬鹿ならあたしはきっと蓮を好きにならなかった。蓮がやってくれたことがきっかけ。あの時のことがあたしにとって大切な出来事。蓮はどう思ってるのかは知らないけどさ。
『あ、ミッシェルだー!』
『へ? あたしはミッシェルじゃないよ? (中の人ではあるけど)』
たしかクラスメイトの子の妹さん。ミッシェルが大好きなんだとか。だけどあたしは今はミッシェルじゃない。着ぐるみに身を包んでないから。今のあたしはミッシェルじゃなくて奥沢美咲。
『何言ってるの奥沢さん。奥沢さんがミッシェルの着ぐるみしてるんでしょ?
それなら──
『……ぇ……?』
──だから、一緒にいたクラスメイトの子が言った何気ない一言が深く胸に刺さった。
──無自覚の暴力。どう対処したらいいっていうの……
いつもなら気にしないで済むのに、何故かは分からないけどこの時はこのたった一言だけでグッサリと深く突き刺された。
この人は悪気があって言ってるわけじゃない。妹さんの小さな夢を壊させたくなかったんだ。あたしがミッシェルというのも、間違いとは言い切れないとこもあるわけだし。でも、それが分かっていても心に刺さってしまったのも事実。だけど、あたしはこの空気を壊せなくて、乾いた笑顔を浮かべるしかなかった。そうしてやり過ごすしかなくて、そうしようと実行に移した。
『ちょい待ち!!』
そんな時だった。蓮が乱入してきたのは。この時はそこまでお互いの認識はなくて、お互いテニス部って程度にしか思ってなかった。そんな蓮が間に入ってきた。これにはあたしを含めて三人とも唖然としたね。
蓮は、普段のふざけた様子がなくて、むしろどこか怒ってそうな雰囲気であたしとクラスメイトの間に立った。そのせいでさらに混乱する。
だけど
蓮が言った言葉にあたしは頭を殴られた感覚がした。
『こいつはミッシェルじゃねぇだろ! どっからどう見ても──
──
こんなこと、関わりの薄い蓮に言われるなんて思ってなかった。それでもすっごい救われた。あたしを
単純な話だよね。たったこれだけのことであたしは蓮を好きになったんだから。
「ん? どうした?」
「なんでもないよ」
「美咲はすぐそう言うからなー。言ってくれよ?」
「本当に何かあったらね。それに蓮だって似たようなもんじゃん」
「……知らねー」
「バカ」
繋いでいた手は指を絡めてる。まだ目的地についてないけど、既に心が満たされてる。抱え込む同士。お互いにお互いを支える関係。歪なのかもしれない。危ないのかもしれない。だけどあたしにはこれが居心地のいい関係なんだ。
無自覚って怖いですよね…