こころとのドタバタ以外は普通の合宿だった。食べに行く焼肉が高級な場所だと決まったことで、みんなの殺る気が青天井。練習相手を仮想敵に見立てて顔やら溝内やら膝やら狙ってた。それをダイレクトに拾ってやり返すという狂気のラリーが始まって、花女の人たちがドン引き。こころは目を輝かせてた。
「美咲!私もアレやりたいわ!」
「あんたはこっちで普通のテニスしようねー。アレは参加するもんじゃないから」
そんなやり取りをしてたらしいんだが、俺もそれを気にしてる余裕なんてなかった。俺の練習はもっと地獄絵図になってたから。どこから聞きつけたのか知らないけど、こころと付き合うって情報が回って、1対2で狂気のラリーをしないといけなかったから。しかもボールが二つ。一人は部長でもう一人が烈だった。
「キサマハ奥沢トイウアイテガイナガラァァァー!」
「名前呼ぶ時だけ正気に戻るんですね!!」
「部長に付き合うの面白ぇからくたばれ!そして燐子さんをよこせ!」
「まずは烈から潰してやらぁ!!」
この変態どもめ!部長はいつも通りの嫉妬だからいいんだよ。同士だと思っていた副部長に裏切られたと知った時の反応の方がヤバかったし。凄かったぜー。ハリウッドさながらの動きをするリアル鬼ごっこが始まったから。壁走って2階に上がるとか、窓に申し訳程度についてる雨避けの上を走るとか、体育館の屋根の上を走るとか、窓突き破って逃げるとか。それでいて副部長が、逃げる時に巻き込みそうになった女子を気にかけるから、部長の言語能力無くなったし。アレが野生に返るってやつだよな。
そんなことより烈は処刑だ!情状酌量の余地などない!姉ちゃんを狙うやつなんぞくたばりやがれ!!…いや、姉ちゃんが幸せになるならいいんだけどな。俺が認められるような男じゃないと許さないから。姉ちゃんに言い寄る輩がいたら、そいつの悪い所全部見つけ出して周囲に拡散するから。しかもそいつが知られたくないような相手には、より酷く解釈されるように情報ばら撒くから。
─そもそも!
「烈!テメェは氷川さんの奴隷になってりゃいいんだろうがよぉ!」
「アアァン!?…それもそうだな!燐子さん繋がりで俺をいい感じに氷川さんに紹介してくれや!」
「初対面がアレだと手遅れだわ!」
「馬鹿野郎!あの酷さだからこそ奴隷になれるんだろうが!」
「あーね!」
「アカギィ、オマエモソチラガワカァァ!」
「部長それは誤解だ!俺はまだアプローチかける側!あんたと同じ位置だぜ!」
「シィィネェェエエ工!」
そうして始まった自陣内での殺戮ラリー。関係なくなった俺はコートから離脱。ウズウズしてたこころと平和なラリー…はできませんでした。あの子運動能力高すぎるよ。初心者がツイストサーブ打つんじゃないよ。
その後もおかしなとこは特になかったな。狂気のラリーを続けてる馬鹿たちを放置して一人で大浴場を満喫してたらこころが入ってきたくらいだな。顧問と二人で飯食っても悲しいから、花女に混ざらせてもらったよ。
で、二日目なんだけど、この日には帰るからね。練習も午前中だけ。なんだけど、なんかこころと奥沢の様子がおかしいような気がする。だから、帰る前に話しかけてみることにした。
「こころ」
「あ、蓮!合宿はもう終わりなのね!」
「まぁね。花女もでしょ?」
「そうみたいなの!あたしもみんなといっしょに帰るわ!」
「その方が楽しいからでしょ」
「もちろんよ!」
こころの方が近かったからこころに話しかけてみたけど、昨日と同じ笑顔
「奥沢と何かあった?」
「…!すごいわね!なんでわかったの?」
「まずこころが昨日と違う笑顔だったから」
「ぇ…」
「んで、奥沢もなんかいつもと違う感じがしたから。…他にも理由はあるけど、とりあえずそんなとこ。それで、何があった?」
「美咲がね…笑ってくれないの」
「奥沢が?」
「そう。美咲と一緒にこの合宿を過ごせたら、とーってもハッピーになれるって、美咲もハッピーになってくれるって思ってたの。昨日も途中まではそうだったのだけど…、いつの間にか笑ってくれなくなっちゃったわ」
「なるほどね〜。んー、ま、俺達の
「そうかしら?」
「ああ。そもそもさ、こころがハッピーじゃないと奥沢もハッピーになれないぞ?」
「!それもそうね!美咲ー!」
昨日と同じ、見る者も笑顔にさせるような眩しい笑顔をしたこころが奥沢に特攻しに行った。奥沢が何やら文句を言ってるみたいだが、こころが問答無用で奥沢を連行。俺も烈を腹パンしてから連行。役者じゃないけど、数合わせにはちょうどいいからな。
二人を連行した場所はテニスコート。テニス部の合宿で来てるんだから、ちゃっかり活用しないとな。
「はぁー、で?これは何なわけ?」
「ん?奥沢が元気ないみたいだから、テニスやろうかって話」
「…余計なお世話」
「不貞腐れてても面白くないぞ?」
「誰のせいだと思ってるのよ」
「美咲!あたしダブルスっていうのをやってみたいの!勝負しましょ!」
「なんで?」
「笑顔になれる気がするもの!あたしは蓮に組んでもらうから!」
「…好きにしなよ」
今更に機嫌悪くなったような…。ま、細かいことは置いとくとしよう。烈は変態で馬鹿なんだけど、こういう時はちゃんと察してくれるんだよなぁ。だからアイコンタクトで「貸一つな」って言ってくるだけだった。ところで男とのアイコンタクトとかって需要ないよな。やっぱやるなら女子だろ。
俺と烈の力は拮抗してるから、勝負を決めるのは奥沢とこころの動きになる。奥沢は経験者だけど、こころは天性の身体能力がある。ラリーを続けているうちにどんどん上手くなっていく。
「美咲!テニスって楽しいのね!」
「今あたしは楽しいなんて思ってないけど、ね!」
「あら、ナイスよ蓮!…なんで楽しくないのかしら。美咲はテニスが嫌いなの?」
「嫌いじゃないよ。むしろ好きだし。今だから楽しめないの」
「なんで?」
「…あんたに言っても分からないよ」
「そうかしら?言ってもらわないとそれすらも分からないと思うのだけど」
「分からないって分かってるからいいの。こころには絶対にわかんないよ!」
あ、点取られた。まぁ勝負はまだまだこれからだからなんとでも巻き返せるし、それ以上に大切なことがうまいこと進んでる。烈のサーブをこころがレシーブしてそのまま上がる。俺は入れ替わるように後衛につく。俺は後衛の方が得意だしな。
「絶対に美咲には話してもらうわ!そのためにもこの勝負勝たせてもらうわ!」
異常と言えるぐらいの横飛びをしてこころがボレーを決めた。烈は後衛だからもちろん拾えず、前衛にいた奥沢は完全に出し抜かれる形になった。
「…テニスで負けるわけにはいかないね」
「美咲?」
「勝つのはあたしだから」
「チームだから俺もカウントしてくれね?」
「赤木くんは変態だから駄目」
「扱いヒデェ!だがこれも悪くない!」
「あたし…初めて変態さんを見たわ」
「いや、鏡見たらいつでも見れるでしょ」
「鏡?鏡にはあたししか映らないわよ?変態さんはいないわ」
「…そうだね」
この勝負は最初からタイブレークでやってる。簡単に言ったら7点先取した方の勝ちだ。そしてサーブが俺の順番になる。本気でサーブを打つも烈は当然のように返してくる。全員がテニスに集中し、途中から点数をカウントすることを忘れた。こころの頭上を越す小ロブを俺が飛び込みながらスマッシュを決めたとこで一息つくことになった。
「まさか後衛があんな飛び込んで来るとはね」
「わりとやるぜ?決めれるって確信がある時だけだが…、あえて言わせてもらおう!白金スペ「それ以上はダメ」えー!…それより奥沢」
「なに?」
「楽しそうな顔してるな」
「これは…まぁ、うん。楽しいからね」
「よかったよかった。やっぱ奥沢は笑ってる時が可愛いよ」
「なっ…!」
動揺する奥沢にこころが抱きついてまたもや百合ゆりした展開になる。鬱陶しそうにこころを離そうとするも、その顔はどこか楽しんでるようだった。
「美咲が笑顔になってくれてよかったわ!蓮に付き合ってもらったおかげね!」
「…なにそれ」
「あたしテニス分からないもの!美咲がよく言ってた蓮に会ってみて、蓮なら美咲とハッピーなことするために協力してもらえるって思ったの!」
「…ちょっと待って、どういうことか分かんないんだけど」
「だから、蓮に
「…は?合宿の間?」
「そうよ!」
「付き合うって、彼氏彼女のやつじゃなかったの?」
「もちろんよ!」
なんだ、俺とこころがカップルになったと思ってたのか。勘違いも甚だしいぞ。確かにこころは天使だし、可愛いし、一緒にいて凄い楽しいし、天使だけども、それでも俺がそういう関係になるわけないだろ。
奥沢は勘違いしてたことに動揺してるのか、頬を引きつらせて乾いた笑い声を出していた。時間もギリギリになったところで、奥沢を花女のバスへと連行…しようと思ったんだけどな。うちの高校も花女も先に帰っちゃってた。こころのとこの黒服の人たちに送ってもらうことになった。最初に烈と別れて、次に俺と奥沢が降りた。奥沢の家の前に降ろされたんだが、俺は残り徒歩ですか。そうですか。
「こころの目的にはいつから分かってたの?」
「最初から。そんな感じがしたから」
「あっそ。聞くんじゃなかった…」
「今度は俺の質問に答えてもらおっかな」
「……なに?」
「俺に
「っ!な、ないから!」
「いや、あるってのは分かってるから。それを言ってくれ」
奥沢の目をじっと見つめようとするも、奥沢はずっと目を泳がせて全然合わせようとしてくれない。少し頬が赤くなったと思ったら、やっと目を合わせてくれた。
「あ、あたしはあんたのことが…」
「あ、わかった。嫌いなんだな」
「違う!好きなの!!…ぁ」
「え?」
「いや、あの……。…好きなの、白金のことが」
「落ち着け落ち着け、ここはクールに行こうぜミッシェル」
「白金が落ち着きなよ」
「冗談は言っていいのと悪いことがあ、んん!?」
「んっ…ちゅっ、…こ、これで分かったでしょ。本気なんだから」
(唇柔らけぇぇー!!)
いやいやいやいや、待てまて落ち着け白金蓮。状況を整理しよう。まずなぜか奥沢に
─
落ち着くんだ俺ぇー!!賢者タイムに突入すればいいんだ。
そうだ。ここは
「奥沢」
「な、なんんっ!?…ちょっ…んっ、…そとっ…あっ」
「…間違いない」
「はぁはぁ、なに…が?」
「唇だけなら姉ちゃんに勝ってる!」
「……は?」
「奥沢…いや美咲」
「みさっ!?」
「病みつきにされた。
「え?え?」
混乱してる美咲をそのままお持ち帰り。奥沢家にだけど。車がないってことはご家族は出かけてるようだ。
条件はクリアされた!白金蓮!これより
結論から言おう。
姉ちゃんに勝ってるのは唇だけなのにな!!
「蓮くん」
「何?姉ちゃん」
「奥沢さんとヤッてきたみたいだね」
「どうやって把握してんの!?それと姉ちゃんそんな言葉使わないで!!」
「蓮くんの童貞はお姉ちゃんが貰おうって決めてたのに!」
「エゲツないことカミングアウトしないでよ!俺は初めての相手が姉ちゃんとか嫌だよ!?姉ちゃんのことは好きだけども!」
「お姉ちゃんは蓮くんじゃないと嫌だから。蓮くんと結婚したいってわけじゃないけど、蓮くん以外の人に処女あげたくないの。ともかく、これで条件は揃ったね。蓮くんの初めては奥沢さんが貰ってくれたもんね♪」
「そういう問題じゃないからね!?絶対にヤんないから…って!どこからそんな力出てくんの!?」
はい。家に帰ったら姉ちゃんに襲われました。もうね、姉ちゃんはヴィーナスからフレイヤに変わったよ。あ、でも相手が俺だけならフレイヤでもないか。ところで近親相姦する女神って誰だっけ?
これで終わりです。この作品はもうこれ以上書きません。
ネタは無くはないけども短編だからこれで終わり。
他のに集中したいですし。
そうそう、票が入ると悪い方向で作者が荒れるらしいです