東方小話集   作:尖った耳

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※輝針城後


香霖堂

自分自身でこう考えるのも、自画自賛のようで、もとい自画自賛でむず痒いのだが、頭に浮かんでしまったものは仕方が無い。だから、僕が僕の店を誉めても何の問題も無い。そうだろう?

そこで考える。この店の品揃えは中々の物だ。あらゆる……と言っても"ここ"では殆どのそれと同一の一品が無い為であるが……まあ、珍品奇品の類が揃っていると言って良いだろう。

埃を被ってはいるが異界の堂々たる雰囲気を感じさせる、商品、もといコレクションが堆く積まれた店内からは、宛らここだけが時間から乖離してしまったかの様な錯覚を覚える。

うん、素晴らしい。月並みではあるけれど。僕の集大成と言って良い。

 

「それでは、だ。どうしてこの店を訪れる人間が最近少なくなったのか、それについてなんだが」

 

「勘違いしないで欲しいのは、決して売上を求めているわけでは無いってことだ。寧ろ売る気が無いと言える。この店は僕の集大成だけれど、店という言葉を字義通りに受け取るのであれば全くもって機能不全だ。僕の理想にある店というのは、博物館と言うか、美術館と言うか。兎に角、他人にこのコレクションを見せて、驚いて貰いたい。そんな理念が根底にあるんだよ」

「魔理沙」

 

「何だ、気付いてたのか」

 

「君には独り言を長々と喋る趣味でもあるのかい?」

 

「有るわけ無いだろ。香霖にも無いだろ?」

 

「無いね。だからその手に持っている"僕の集大成"をこっちに寄越してくれないかな?」

 

「死ぬまで」

 

「貸さないよ」

 

躊躇っているな。どうしてそこで逡巡するのか、善良な半妖怪には理解しかねるが。

 

「全く……入り用なら言えば良いのに、どうして取り敢えず盗んでみようとするんだい」

 

彼女がうちから物を盗ることは……ままある。しかしこの様子はどういうことだ?

思い当たる節は……。

 

「成程、そういう訳か。良いだろう、それならこっちで工面しておくよ」

 

「良いのか?」

 

「別にそれくらいなら困らないさ。今では毎日のように、情操教育を欠かしたことを後悔しているけれど」

 

「嫌味だな」

 

「一日も忘れたことは無い、って言ってるのさ」

 

「それは嬉しいな」

 

顔が笑っていないぞ、魔理沙。

 

 

 

 

 

雨樋から大粒の滴が滴る。

未知の生物で飽和しきった森には、些か不似合いな光景だろうか。その不自然な、言うなれば和洋折衷を取り違えた様な住居には、湿気で錆びてしまった薄い金属版に「霧雨魔法店」の文字。

菌糸や蘚苔にとっての天国に、長引く秋霖。種族:人間であれば嫌煙するであろうそこに、雲行きの不機嫌さを跳ね除ける様な上機嫌で、店主が帰ってきた。

 

「まさかこうもすんなり行くなんて。始めっから寄越せって言えば良かったかな?」

 

愛用の箒と、雨具代わりのマジックアイテムを玄関に放って、片付けなどそっちのけで戦利品に目をやる。

 

「こいつがあれば、今回は大丈夫な筈。香霖様々だ」

 

それにしても、と思う。どうしてタダで譲ってくれたりなんかしたんだろう?自分の知っている彼は、少なくとも泥棒に、はいどうぞと言う程おかしくはなかった筈なのだが...…。

 

「まあ、いいや。貰えた物は貰えた物だし、幻想郷ならちょっと位気が触れても不思議じゃないだろ、多分。早速霊夢の所に行くかな」

 

 

 

 

 

 

魔理沙に"カセットコンロ"と言うらしい道具を譲渡してから数時間。言うらしい、などとは言ったものの、僕の気に入りの道具の一つでもあり、用法が確り分かる数少ない道具でもある。

"フロッピーディスク"や"ぶら下がり健康器"程では無いが、どうやら外の世界では廃れてきた様で。この店には私用の物を含めて数台有った筈だ。

 

あれはどうも、緋々色金の話を仕掛けてきたあの時の、その魔理沙に近い。

彼女は手癖が悪いが一線を弁えている。僕や親しい友人に「一生借りるぜ」と不適に笑うことは有れど、見知らぬ他人の物を盗ることは無いと断言出来る。あれはあれで、傍迷惑な話ではあるが、彼女なりのコミュニケーションの様な物なのだろう。

その魔理沙があの様子である。普段ならば走って逃げて箒に乗って飛んでいってしまうものを。これは何か理由が有ると見て良いだろう。

 

それに、だ。

彼女があれを衆目に晒してくれたなら、それはそれで都合が良い。

 

さて、予想が正しければ、きっとそろそろ霊夢か魔理沙が...…。

 

「香霖、宴会だぜ!神社に集合な!」

 

的中するとは。

 

 

 

 

 

龍神像の眼の通り、先程まで降り続いていた雨も地面の泥濘になった様だ。石材で造られた参詣道に僅かに残った秋雨の 残滓は、雨雲から顔を覗かせた夕陽に輝いて、少しばかり眩しい。

もう直に夜が来て、妖怪の時間...…いや、この神社に関して言うなら宴会の時間だろうか。何せ昼夜に拘わらず妖の跋扈する怖い場所だと、そんな噂が人里ではまことしやかに囁かれているのだから。

つい先程到着したばかりである。魔理沙は年季の入ったこの建築物を、神社としてどころか知人の住居としても理解しているか怪しい。事実彼女は到着するなり炊事場にどかどかと駆け込んで、そのまま出てこなくなってしまった。

 

御神体が無いとは言え、一応ここも神社である。半ば惰性ではあるが軽く参拝し、手伝いに向かった先。霊夢と魔理沙の二人が仕込みをしている脇に、カセットコンロが鎮座していた。どうやら僕のコレクションは活躍出来ているらしい。

 

「あら、霖之助さん」

 

「やあ。何か手伝えることは有るかい?」

 

「うーん...…そうね、それじゃあそこの八卦炉擬きに火を入れて、こっちの鍋を」

 

ん?......ああそうか、あの様子は霊夢達のせいだったか...…。

僕は確認の意味も込めて、もう一度聞き返す。

 

「八卦炉擬きっていうと、それかい?」

 

「そうそれそれ、霖之助さんのところの物よね?」

 

「便利だろう」

 

「なあ香霖、霊夢酷いんだぜ」

「火口が足りないからって八卦炉貸せってさあ」

 

「あんただって茸汁茹でる時に使ってるでしょうが。人数が多すぎるんだからしょうがないじゃない」

「...…でもまあ、代わりの物見付けてくる程嫌だったとは思ってなかったわ。ごめんね」

 

「いや、少し前なら気にならなかったんだがな。神社で保護してるあいつの一件でな…...」

「ああ...…そういうことね」

 

どうやら彼女達の興味は僕の知り得ない事へと移ってしまったらしい。大人しく鍋作りに

 

「こんにちは!これ差し入れです」

 

「早苗じゃない、気が利くわね」

 

取り掛かろ

 

「来たわよ魔理沙」

 

「悪いなアリス、そっちを任せる」

 

...…ここを神社として認識しているのは、よもや僕一人では無いのか?

 

 

 

 

 

「ほら、牡丹鍋が出来たぜー」

 

宴も酣、もう日付が変わる頃だが、ここに居る殆どの者にとっては昼前と言っても良い時間だ。僕は半妖であるし、そもそも成育しきった生物であるから多少の夜更かしは問題にならないが、思春期(有るのか?)真っ只中の一部の少女も平気で騒いでいるのは、やはり人外染みた戦闘力の持ち主と言ったところか。

 

「わあ、これ外の道具なの?」

 

「そうですよ、私も何回か使ったことあります。カセットコンロって言って、用途はまあ、見たまんまですね」

 

「やっぱり外は色々便利なのねえ」

 

「ですねー。でもここの河童の科学力も...…」

 

ここまで呑んでも呂律が回っている。偶々酒豪しか居ないのか、"強い奴は大体酒豪"なのか、幻想郷特有の体質なのやら。

 

宴会料理として鍋はこの上無く便利だ。余り物で簡単に作れて、長く間を持たせることが出来る。その上酒の肴になるから、夏でも出てくることが有る程だ。

つまり、それだけこの道具の出番も多い。魔理沙に持たせれば幻想郷の実力者達の目に留まって、香霖堂の宣伝に繋がる筈だ。

 

最近山にやって来た神によって、下界の技術が次々に伝わってきた。それと同時に、すぐ身近に有る外の技術への好奇心が強まって、結果より離れた下界への興味は薄れてしまった様に思う。奇特な人間の客が少なくなってしまったのは、きっとそれが原因だ。

しかし、彼女らの技術は生活から離れすぎている。ただそこに漠然と何か凄い物がある、というだけであり、河童や天狗なら兎も角、人間を惹き付けるには弱い。

こうして、"ここにある"技術をアピールしていくことで、僕がコレクションを自慢出来る相手…...我が香霖堂の客足も回復していく筈である。

 

ふと、魔理沙に目をやった。

 

「どうだ、凄いだろ?これ香霖がくれたんだぜ!」

 

満面の笑みを向けられた。

自分の目元が緩んでしまうのが分かる。

 

 

...…もしかすると、こんな理屈は言い訳に過ぎないのかもしれない。




12/29 三点リーダーや段落等の修正
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