「紅魔館に行きましょう」
届いた真っ赤な封書に、目を通す。
「食事のお誘い、か」
「レミリアとの茶会も乙なものだしね」
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年中霧の立ち込めるひんやりとした湖の畔に、異様な存在感を放つ館が聳え立っている。
私が門に来ていると言うのに、美鈴の姿は見えない。昼下がりとなると、食堂でシエスタでもしているのだろうか?
構わず門を開けて中に入った。庭園には何時も通り、赤い紅い花ばかりが咲いている。
庭の奥に人影。なんだ、サボりじゃなかったのか。
「あっ」
「ねぇ!一緒に遊ぼうよー!」
美鈴と遊んでいたらしいフランが、こちらに声をかけてきた。
「御免なさい、少し用事があるの。また後でね?」
「仕方無いなぁ」
「それじゃ美鈴、今度はかくれんぼしよ?」
フランの相手も務めの一つであるとは言え、門ががら空きになってしまう事に多少の罪悪感を感じるのか、美鈴の表情は少しぎこちない様に見える。
「(構わないわよ)」
笑顔を向け言葉には出さずに伝えると、緊張が解れたのか。
「よーし妹様!それじゃあ私、今から10数えますからねー」
仲睦まじく遊んでくれているようで。
茶会が始まって暫く経った頃。
「あわわ、妹様!ちょっと待ってください!そっちでは御嬢様とさとり様がお茶会の最中で」
凄まじい爆音。そこから飛び出すカラフルな弾幕。
「あー...もしかして私"やっちゃった"?」
壁が壊れた。と言うより、吹き飛んだ。
「すみません御嬢様、さとり様!直ぐに片付けます!」
「弾幕ごっこに凝るのは良いけど、程々にね?そもそも、美鈴相手じゃ勝負にならないんじゃないの?」
「うっ」
「あはは、そうだね"お姉ちゃん"。」
「それじゃあ美鈴の代わりに、相手してくれる?」
そう、それで、私はフランが大好きで
「ええ、負けないわよ」
フランも私を好きで居てくれて
「やったぁ!お姉ちゃん大好き!」
............。
地上からやって来た闖入者によって、旧地獄は変わった。
取り決めによって交流は絶たれていたと言うのに、紫は事も無げに「必要なのは形式だけだから」などと言い放ち、表面上"だけ"はクローズドサークルの社会。それがここ。そもそも私の妹は私が気付いていないだけ(気付ける者はまず居ないが)で普段から地上に出ていた様だし...
地霊殿で扱わなければならない案件も比例的に増えて、 それを実質一人で片付ける私の負担も大きくなってきていた。
疲労。少し休憩したいな、そんな折に。
(さとり様、郵便です)
ある意味、渡りに船と言えただろうか。その色を激しく主張する封筒には「紅魔館」の宛名書。
幻想郷の新興勢力の一角として、是非旧地獄の主に御会いしたい。延いてはこの日この時間でどうか。
大体そのような内容が、威厳を持って、しかし溢れる好奇心を抑えられない様子で、目一杯丁寧に書かれている。
「挨拶相手に伺わせるだなんて、地上には随分斬新なマナーが有るのね」
ぼやいてはみたものの、それら一連のインパクトに私は釣り上げられてしまった訳である。思い返してみれば、彼女の術中に嵌まっていたと言えなくも、無い。
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結論から行くと、初の対談は大成功であったと言える。対談と言えるか甚だ疑問では有るが。
レミリアはそれなりに齢の有る妖怪であったが、やはり少々子供っぽい。しかし組織のトップであること、名の知れた妖怪であること、それと...妹が居ること。
そう言った話をするうちに、彼女に興味を持った。興味を持った、と言うと遠回し過ぎるだろうか。
何せ彼女は、私に心を読まれても気にしないどころか、能力について根掘り葉掘り尋ねてくる。そんな対応は初めてで、つまり。レミリア=スカーレットに好意を持った。そして私だからこそはっきりと確認出来る事であるが、彼女も私に好意を持ってくれた。
数回も会合を重ねると、話題は次第に絞られてきた。妹について、それが私達二人にとって急を要する案件で有ることは明白だった。
「こいしは見付けることさえ難しいけど、貴女の妹は少々気が触れているだけでしょう?」
「そうね」
「それなら一度しっかり話して謝れば」
「...私は、あの子に嫌われているから」
それが、最近の彼女の口癖になりつつある。 月並みな御託をいくら並べてみたところで、彼女の問題が解決することは無い。
「私が謝って、それでフランが許してくれたとして、それは許されたんじゃない」
「私に譲歩することで私と関わらない口実を作る、その手段でしかないわ」
「ええ、そうね」
フランにも何度か会った事がある。正確には見掛けた事、だが。光の灯らない、焦点の合わない目をして、フラフラと廊下を歩いていたり、かと思えば屋敷の一角が狂気を孕んだ笑顔に吹き飛ばされたり、正気とは言い難いものだった。
幽閉という手段を取ったレミリアの判断は決して間違っていない。
しかし彼女にとって唯一の肉親と呼べる存在でも有るのだ。決断を下したレミリアの苦渋は如何程の物であったろう。
「悪魔がこんなことを言うのも何だけどね」
前置きをして、レミリアが言う。
「私は贖罪を求めているわけでは無い」
「ただ随分昔の、ちょっとクレイジーではあったけど、私を好きでいてくれたフランが少し懐かしい」
「それだけの事よ」
強がりだ。
心の中には妹の居る幸せな風景しか無い癖に。
「そう」
「だから私は謝ったりしないわ。ただあの子が自分を取り戻して、それでいて私を好きで居てくれたら嬉しい」
「そう」
「読んでもいい?」
「...やめてよ、判ってる癖に」
「ねえ」
「私達、もう戻れないのかもしれないわね」
「...やっぱり、そうなのかしら」
「..........。」
流水は苦手なんでしょう、レミリア。