桜吹雪がまう季節になった。ある男の頬に桜がつく。
その男はその桜を払うように手を振る。桜は飛んでいったがまだ次の桜が飛んできた。
流石に満開なので全てを振り払うのは無理だと分かって諦めた。
その男は周りを見回す。ランドセルを担いだ少年少女が手をつなぎながら歩いている。
兄妹なのかは、どうでもいい。全く持って興味がでない。
そして歩いていると今度は走っていく青年を見かけた。
時計を見ながら、鞄を握り締め走っている。かなり慌てている。どうやら新人の会社員のようだ。
時間厳守。会社は酷そうだ。とその男は思った。
また男は歩く。すると今度はジャージを身に纏った女子が此方に走ってきた。
どうやら部活をやっているのだろう。こんな朝早いのに良くやるな、と男は思った。
勿論、部活動に入れば自分も朝練をするだろう。男は苦笑した
そしてある学校の目の前に着いた。
高く目の前に聳え立つような、立派な学園だった。
私立白鳳学園高等学校。新設三年目の新たしい高校だ。
施設は勿論新しく、校舎も新しい。女子に人気がある、そうこの男は聞いていた。
この男の名は亜流翼(ありゅうつばさ)。ここ、私立白鳳学園の新入学生だ。
4月8日。この日、白鳳学園の入学式だ。亜流は立派な門の前に立ち止まった。
彼が興味があるのは、勉学ではない。女子に人気が有るといったが、女子にも興味が無い。
正確には、興味はあるが、そんな暇がないと言うことだ。
この男は中学時代、「グリーンフォールズ」と言うチームで野球をしていたのだ。
打者としては強烈なスイングを有し、投手としては左から135キロを超える剛速球、そしてあの変化球。制球力の悪さを補えるほどの実力だったのだ。
実力は十分。しかし亜流は、名門高校の推薦を切ってこの学園に入学したのだ。
なぜこの学園に入学したのか、それは今後話す機会があるだろう。
……その時になればこの男の口が開くだろう。
彼は門を潜る。自らの持つ黒き翼を羽ばたかせるために。
01 再開と出会い
白鳳学園の門を潜ると、生徒達が学園前の張り紙で、自分達のクラスの場所を確かめていた。
亜流も自分のクラスの場所を捜すために、その人ごみに紛れる。
白鳳学園はかなり人数が多い。女子に人気が有り、毎年500人ほどの生徒の内、350人ほどは女子が入学する。
女子に人気がある。それは先ほど上記に述べた通り、施設や外壁、校舎が新しいという理由があるらしい。
亜流は上から順番に確認する。「あ」なので上から探したほうが早い。
そして見つける。
「よし、行くか」
黒髪をベースに、前髪に茶髪がかかった男。亜流翼が教室へ向かい歩みだした。
………
……
…
亜流は、「自分は二組だったよな…だったよな」と呟きながら歩いていた。
階段を上り終え、自分のクラスを発見し、そのドアを開けた。
周りを見渡す亜流。
そこには新しい生徒達。
自分が知らない男子女子。
同じ出身校のやつらは一緒に会話を楽しんでいたり、もう机でうつ伏せになっている生徒もいた。
そして亜流が驚いたことが一つ。
張り紙に知り合いの名前があったのだ。
「どこ受験する?」など一つも連絡を入れなかったのにも関わらずだ。
亜流はその内の一人に向かって歩みだし、その男の前で止まった。
どうやらこの男もうつ伏せになっているみたいだ。
亜流は頭を叩く。起きる気配は全くない。
仕方ない、と呟き今度は肩を叩きながら声をかける。
「よう、山倉」
「………Zzz」
「おい、山倉!」
「……?……ふあぁぁぁぁ」
ようやく目を覚ましやがった男。
亜流は少し嘆息し、元気良く挨拶を交わす。
「よぉー、久しぶりだな、山倉!」
「あー!……誰だっけ?」
亜流はずっこけそうになった。
うつ伏せになっていた男、山倉愁(やまくらしゅう)は起き上がって、欠伸をしながら亜流の方向へ向いた。
山倉は、茶髪に整った顔立ち。
女子が多いこの白鳳学園だ、黙っていれば自然と寄ってきそうな雰囲気をかもし出している。
そんな山倉は頭に指を当てて数秒唸る。
「おおー!思い出した思い出した!」
「お前酷いな。あれだけ俺のボール受けていたくせに、半年したら忘れるなんてどうかと思うぞ」
「うるせいやい!俺がどれほど長田をなだめたと思っているんだ!お前のことなんぞ、記憶から吹っ飛ぶわい!」
その瞬間、亜流の顔にかげりが浮かぶ。
当時グリーンフォールズに所属していた亜流には、三人の仲間がいた。
そのうちの一人、長田と言う少年との約束を破ってしまったのだ。
亜流は苦笑いを浮かべる。いや、苦笑いしか出来なかった。
「ああ……、すまんな」
「……結局、長田は野球を続けるみたいだ。城野の思いを受け継ぐんだとさ」
「そうか……」
「まあ仕方ないさ。俺もその話に乗ったんだ、お前だけ悔やむのは駄目だぜ」
「すまないな、山倉」
「いいって事よ。ちなみに長田に会うときには気をつけとけよ。お前、刺されるかもよ」
「まじか。……いや、そう、かもな」
山倉によると、仲間のもう一人は超名門高校に進学、長田も有名校へ。
そして二人は白鳳学園へ進学し、仲間達はバラバラになった。
この超名門校に進学したもう一人の男子、またそれとは別の城野と言う言葉、そして長田。
彼らのことはいずれ、いづれ分かるだろう。
山倉はいい加減その話を辞めにしたいのか、「置いといて」のポーズをした。
ようするに、両手を真っ直ぐにして横にずらすような動きだ。
「それにしても、久しぶりだなー!半年振りくらいか?」
「おう、本当に久しぶりだ」
それにしても、やはり知り合いがいるとやりやすい。亜流はようやくまともな笑みを浮かべていた。
「そう言えば、お前も同じクラスなのか?」
「いやいや、違ったら何で俺はここにいるんだよ。名簿見ろ、名簿。俺の名前、珍しいから目立つだろ?」
「確かに。何で気が付かなかったんだろう」
山倉は冷静に「むー」と唸りながら数秒。手をポンと叩いた。
その理由は単純明快だった。
「あ、そうや!忘れとったからや!!」
「……自分でノリ突っ込みするなよ」
亜流は、本日二度目の嘆息した。
山倉愁。基本的には陽気な性格だ。捕手としてのリードも亜流と息が合っていて投げやすい。
しかし、たまにボケか天然か分からないが、関西弁が入る。自分でもなぜかは分からないらしい。
話題を変えようと、山倉は部活動の話をした。
「勿論部活は野球に入るんだろ?」
「ああ、勿論だ」
「じゃあお前が投げるときは、当然俺が捕手をやるぜ!」
「そうだな、頼むぜ相棒」
「任せなさい!」
虹中学から白鳳学園へ来たが、二人の考えは変わらない。
当然野球部に入るのなら、目標は甲子園だ。
実力はあるつもりだ。135を超える一年生など滅多にいない。
共に勝ち進み、優勝して、甲子園を目指す。新設三年目だが何だが関係ない。目指すのは一つ。
いや、亜流には二つ、野球をする理由がある。あいつらの姿を見るために。
一人は野球部に入部しているあいつ。長田のこと。
もう一人は、思い返したくない。あの試合の因縁。あいつをぶっ潰すために。
………
……
…
入学式が終了し、担任紹介も終わり、自己紹介も終わった。
そして部活見学の時間帯、二人はグラウンドへ向かった。
流石に新設校だけであって設備は良さそうだ。
亜流と山倉はじーっと野球部が練習しているグラウンドを眺めていた。
バットから快音が響く。
そのバットから弾かれたボールをキャッチする野手。
声が出ている。「もういっちょー」と威勢のいい声がグラウンドから聞こえてくる。
次の金属音。鳴り響いたかと思えば、外野のネットまで飛んでいった。
「ハッハッハッ、すまんすまん!」と声は低く音性だったが、非常に熱さが伝わってきた。
どうやら新設三年目でやる気無い野球部では無さそうだ。皆活気で溢れている。
それだけ分かれば十分だ。やる気がなかったらどうしようかと思ったくらいだ。
亜流はふっと笑い、その場を立ち去ろうとした。
山倉は慌てて彼の後を追う。
「お、おい翼。もういいのか?」
山倉が亜流に声かけた。
恐らく、山倉が言いたいのは「体験入部をしないのか」だろうと、亜流は表情で分かった。
そんな山倉に亜流はにやりと笑う。
「そんなもん、アレを初日でばらす訳にはいかねーだろ?」
亜流は翻し歩みを再開した。
「お、オイ待てよ翼」
歩みだした亜流に向かって山倉は亜流を追った。
………
……
…
亜流が、白鳳学園に入学して数日が経過した。今日から部活開始だ。
亜流は、用意した黒い金属バットやスパイクなどを所持し、家の玄関を潜った。
部活の始まりだと思えばうきうきする。緊張はしない。楽しみが沢山だ。
そう思いながら歩いていた、その時だった。
ドンッ!
「いてっ!」
「キャッ!」
亜流は尻餅をついていた。
何かにぶつかったのだろうか、そう思いながら起き上がった。
かたやぶつかったと思われるのは、亜流の前方に居る女子学生。
亜流はどこかで見たことがある制服だな、と思い思考をめぐらせていたが、白鳳の制服じゃないかと思いだし、止めた。
何故か起き上がらない女子生徒。仕方ないなと思い亜流は手を伸ばす。
「大丈夫ですか?」
一応敬語を使いながら話しかけた亜流。もし上級生だったらの話だが。
「え、あ、はい。私はだいじょ……うぶ……」
女子生徒は顔を上げ、亜流の顔を確認した瞬間、固まってしまった。
カチンコチンと硬直している。眼は亜流を捕らえたまま動かない。
とりあえず、亜流と彼女の面識は無い。記憶をめぐらせてもあった記憶などない。
ちょっと頭が痛くなってきた。ぶつかった衝撃だろうと自己完結し、亜流は彼女に声をかけた。
「あ、あの?どうしました」
とりあえず一言声を発する亜流翼。
ようやく気づいたのか、首を何度か振る女子生徒。
そしてまた亜流をまじまじと見つめる。その表情は驚きに満ちている。
亜流はげんなりしながらも、一応女子生徒を凝視していた。
すると水色の髪の毛をした女子生徒は、口をもごもごさせながらも、声を出し始めた。
「あ、あの……」
「ん?なに」
「あ、あのあの……。ぉ……、お……」
「………、お?」
そして次の瞬間、女子生徒は思わぬ言葉を口にした。
「お兄ちゃん!!」
亜流の思考が止まった。
女子生徒は、その言葉を出した瞬間、目をきらきらと輝かせている。
そして数秒後、我に返った亜流はこんな言葉を口にした。
「はぁっ!!!??」