ダンボール戦機 〜another story〜   作:白銀の狼

2 / 2
オペレーション・デイ・ブレイクとは八神英二が考案した世界の夜明けをかけた檜山蓮、イノベーターとの最終決戦のことである。


オペレーション・デイ・ブレイクのその後

 

 

イノベーター事件から数日経った頃。テレビや新聞、ネットでは毎日のように色々なニュースが飛び交っていた。

 

 

 

海道義光の死が世間に公表され、新しい先進開発庁大臣が財前総理の指名で別の人間へと変わった。これによりオプティマと呼ばれる先進医療技術の認可が降りて、たくさんの人の命が救われた。

 

 

ーーーそれは山野淳一郎の助手であった石森里奈の妹も例外ではない。少しずつ回復の目処が立ち、3ヶ月後には動かなくなった両足は再び動かすことが可能になり、大地を踏むことができるだろう。

 

 

 

 

イノベーターに関わっていたほとんどの人物が投獄され、犯罪の痕跡がない者もそれなりの罰を受けた。しかし、このことは世間に公表されることは無く、政府と警察が秘密裏に行った。

特に海道義光との関係が濃厚だった神谷重工会長は懲戒免職にされ、神谷重工も別会社に吸収される形となった。またLBX開発部門は神谷会長の息子、神谷コウスケを筆頭にクリスターイングラム社へと召集された。

神谷重工の生み出したデクーとアヌビス量産機は、後に市場に売り出されその扱いやすさから人気を博す。インビットは当初の企画通り警備会社での警備用LBXとしてデビューすることになる。

 

 

 

自爆したサターンは太平洋沖に沈み、それの回収作業が始まった。そこにはタイニーオービット社長の宇崎拓也も立ち会っていた。

彼はあれだけ巨大だったロケットのような飛行船がこの広い海に散り散りになったことに改めて海の広さを感じる。そして、彼の親友だった男もこの海の中へと消えていったことを思うと彼は目頭が熱くなる。

 

 

 

「檜山......」

 

 

自分は親友だと思っていたが、あいつは自分のことをどう思っていたのかと疑心暗鬼の気持ちに苛まれる。だがもし、あの時自分に電話を入れてきたのは.....そう考えても、檜山蓮はもういない。その為、答えは永遠に分からないままだ。

 

 

 

最後にあいつの作ったコーヒーが飲みたかった。

 

 

 

拓也はもはや叶うことの無い願いを心にしまい、作業員達に背を向ける。彼はヘリポートへと向かう前に共に来ていたTO社の技術開発主任の結城に声をかける。

 

 

 

「結城、作業の進行具合はどうだ」

 

 

 

「予定より少し遅れているようです」

 

 

結城の報告にそうかと短く答えると拓也は手に持つアタッシュケースを見る。この中には自分達が命を懸けて守ろうとしたエターナルサイクラーの再現品がある。これを持って総理大臣の所へ向かい、地殻動発電計画を完全に消滅させるのだ。

 

 

 

「これでやっと兄さんの戦いが終わるんだ」

 

 

拓也は瞼を閉じて、かつてこれを守ろうと命を落とした亡き兄のことを思い浮かべる。父が死んでからは反目し合っていたが兄が死ぬ間際までは共に海道義光と戦ったのだ。兄の願いだけでも叶えるために彼は結城に声をかけて共にその場を去る。

自分の親友が作ろうとした世界を作るために。今、自分が出来ることをやろうと身を引きしめた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、世間はイノベーターなどという組織がいた事など梅雨知らず、穏やかな時が流れていた。よくテレビで見かけていた大臣が死んだり、謎の飛行船が沈没していたりしようと彼らの日常が揺らいだ訳では無い。

だから、彼らはいつも通りの日常を過ごす。

 

 

 

 

逆に悪の組織と戦うことが日常となっていた少年たちは、本当のあるべき日常の生活へと回帰していた。

 

 

 

 

「いってきまーす!」

 

 

「バン、気をつけるのよ!」

 

 

分かってるって! と元気のよい返事に見送った母親は笑顔をうかべる。それを家の中で見守っていた父親も同様だ。

 

 

約4年ぶりに実家へと、妻の元へと戻った山野淳一郎とイノベーターとの戦いを終えた山野バンは彼らを待っていた母、真理絵と共に家族として当たり前の生活に戻っていた。

淳一郎は僅かな休暇を家族とすごしつつ、TO社に赴いてはエターナルサイクラーの完成品を作っていた。それも彼の設計が完璧だったため、もう時期終わろうとしている。

 

 

しかし、それが終わっても淳一郎が家にいるのはバンに心のケアが必要だと思ったからだ。聞けば拓也の兄、悠介が死んだ時に息子がLBXを叩き壊そうとするまで心を病ませていたのだ。今回は息子が慕っていた檜山が死んだのだ。中学生の少年がそれをまともに受け止められるのかと不安だったのだが。

 

 

 

「...どうやらその心配は無さそうだな」

 

 

 

住宅街から学校へと駆けていく息子の姿を見ながら淳一郎も真理絵のように微笑むと、自室へと戻った。そこには至る所にグラフやデータの書かれた紙が散乱し、真理絵が見たら一触即発の状況に陥ってもおかしくはなかった。淳一郎はそろそろ纏めるかと、苦笑し腰を下ろして紙を拾い集める。

 

 

 

「こうしていられるのもあと半年か...」

 

 

淳一郎は『Mチップ』『オメガダイン』と書かれた資料をファイルに綴じながら深刻そうに呟いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

イノベーター事件が終わってもう1人、家庭の事情が変わった少年がいた。それは山野バンの持つエターナルサイクラーの設計図を内蔵するプラチナカプセル奪取のために送り込まれ、彼とのLBXバトルを通してその楽しさを知り、仲間を知り、諦めない心を知り、そして義祖父の悪行を知った少年がいた。

 

 

 

その名を海道ジン。彼は今、解体されていく海道邸を見上げる。ここには多くの思い出があったが、義光は忙しく共にいたのはほんのひと時で、1番長い時を過ごしたのは執事だった。その執事はイノベーターの悪行を知っていたが加担していなかったとして、罷免を免れていた。だからこうして今もジンのそばに仕えているのだ。

 

 

 

「おぼっちゃま、そろそろ」

 

 

 

「あぁ」

 

 

理由はどうあれ、自分を絶望の淵から救い上げてくれた義祖父を恨むことは彼には出来なかったが、義理の孫として果たす使命はたくさん存在した。この作業を依頼したのも彼なのだ。解体した後は土地を売却し、義祖父により被害を被った人々の謝罪に送るつもりであった。それで彼が許されるとは思わないが、ジンとしては彼から育ててもらった身としてその責任があると感じていた。幸い、義光の持っていた遺産は莫大で、彼が血の繋がった孫や子供を持たなかったためそれは全てジンへと相続されることになった。

 

 

おかげで執事を伴ってA国へと留学することが出来る。まだ中学生なため、働くことの出来ない彼からすればありがたいことだった。最も、それがなくても彼には支援してくれる人間が少なからず2人はいるのだが。

 

 

 

「行こう」

 

 

 

ジンが執事にそう声をかけるとエンジンがかかり、車が動き出す。窓から遠くなる壊されていく我が家を見つめながらジンは目を伏せると、正面へと目を向けた。彼がこれから向かうのは自分に大切なことを教えてくれたライバルであり親友の所へ。

着く頃には学校が終わる時間だろうか。ジンは時計を見つつ変わりゆく外の景色を見つめる。その目に悲しみや憂いはなく、これから未来へと向かっていくという希望に満ち溢れていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10についてはそれぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。