くわぁと背を伸ばして太陽の光を体一杯に浴びる。不詳私こと雪乃の細やかな日刊である。だが、今日は一段と違った意味を持っていた。
栄都学園との練習試合なのだ。流石に出場は出来ないと思うけど先輩たちのプレーが見られるとあってはテンションが上がるのだ!
事実、天馬が河川敷に駆けていくのを発見した。
「朝から元気だね~」
爺臭い?仕方ないじゃないか。なにせ、僕のやる気は全くと言って良いほどなかったのだから。
「3-0で雷門の負け。従わなければサッカー部の廃部、ね」
昨日偶然聞いてしまった先輩たちの会話だ。先輩たちの雰囲気が余りにも変だったからちょっと盗み聞きしたけど、しなきゃよかったと後悔している。
「フィフスセクターと管理サッカーね。二年前までに相次いで学校が廃校になったり新設したりと世間が慌ただしかった背景がまさかサッカーによるものだったなんて。」
サッカーが人の価値を決める。
それ程までにこの国でのサッカーの位置付けは高い。弱ければ淘汰され強ければ全てを得る。富も名声も。
「サッカーによる弱肉強食の世界。いや…中学生だよ僕ら。」
神童先輩すら僕達と一歳違いなはずなのに、妙に大人びていたのは従来の性格に加えて大人顔真っ青の社会の荒波に揉まれたからか。
「そりゃあ、天馬に
羨ましいんだろうな。難しい事とか、メンドクサイ事とかを何も考えずに全力で大好きなサッカーに打ち込める天馬の事を
「練習試合、面白くなればいいんだけど…………これは無理かな。」
ハァと零した溜息に苛立ちを乗せて全身の力を抜くように歩き出す。負けるのは良いけどつまらないのは時間の無駄だな~なんて思いながら雷門中へ向かう。
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まあ、予想道理だよね。予想外だったのは栄都学園に対して取引を持ち掛けた先輩達―—名前忘れた―—が試合前に退部した事。まあ試合前に派手に喧嘩したからね。神童先輩は厳重注意で済んだけど向こうはそうでもなかったらしい。詳しい事は知らんけど。
で、代わりに天馬と信助が代わりに試合に出たけど、先輩たちは態と手を抜いている。天馬達も違和感に気付いたのか先輩たちを見渡している。最初に観客アピールとしてある程度の盛り上がりを見せたから観客たちは気付いていない。ピッチの上に立っている彼等だけが、燃えるような歓声の中で壁がある様に冷めた目でサッカーをしているんだ。
結局、2-0と言う結果で前半終了だ。て言うか、あれだけ手を抜いたのに3点取れなかったのかよ。逆にそっちに驚いてたりする。ちらりと視線を横にすれば天馬がこの試合の真相。そして、管理サッカーに対して説明を受けていた。
学校を守るために、そこに在籍する生徒を守るために「勝敗指示」をだす。サッカーで価値が決まるからこそ「公平な勝ち」を分け与えなければいけない。勝敗指示を無視するとはつまり
その学校に在籍する生徒及び職員を、未来ある少年の道を奪うに等しい。それも、百人単位の。
………ホント、難儀な
「お前に何が解る!!」
うひゃあ!?何だ?
突然、神童先輩が響き渡る声で天馬に声を荒げている。あー天馬は地雷踏んだかな?
「俺達がどんな気持ちでサッカーをしているのか!シュートを入れられているのか!お前にわかるのか!!。俺達だって思いっきりサッカーがしたい。でも、フィフスセクターに逆らえばサッカー自体が出来なくなってしまう…。」
「偶に。勝敗が決められていない試合もある。そんな時は思いっきりサッカーができるんだ。だからこそ、俺達は……。」
神童先輩の悲痛な本音と霧野先輩の宥めるような―—惜しさを押し殺したような表情で―—妥協に天馬は項垂れて沈黙を返すしかなかった。
「お前、知ってたのか?」
「倉間先輩。ええ。盗み聞きしてちょっと。」
「盗って、まあいい。悪いな。こんな胸糞悪い事に付き合わせちまって。」
「…………フィフスセクターは……いえ、何でもありません。そろそろ試合が始まりますよ。足首を挫かないように気を付けて下さいね。」
「は?お前なぁ。たく、ホントに分かってるのか?」
頭をガシガシと書いて神童先輩に話に行くと言って行ってしまわれた。さて、俺もマネージャーの手伝いをしますかね。
そう腰を上げた時、久遠監督が声を上げた
「後半からは選手交代だ。天城に代わって漣を入れる。ポジションはDFに入れ。」
思わず笑みが零れてしまった。御免なさい倉間先輩。ちょっと暴れますね。
ピッチに行く途中、未だに暗い表情の天馬の肩を叩く。そして一言。
「相手が三点目を取ったら
僕の言葉にハッとした表情になって心底驚いた表情を見せている。ふふ、ちょと面白いかも。
「さ、漣……」
「試合指示には”取りあえず”従う。さっき音無先生が言うには栄都学園が勝てばいい。でも、雷門が点を取っても良いじゃない。」
「は?えっと?」
「この先は天馬が考えてね。全力のサッカー。見せてよね。」
そう言ってポンポンと肩を叩いて位置に着く。おお、悩んでる悩んでる。でも、もう暗い顔じゃない。
うんうんと僕がある程度満足すると試合開始のホイッスルが鳴り響く。
観客の声援をBGMに、僕は笑みを隠し切れなくなった。
ホイッスルが鳴ってからも変わる事は無く、いや、天馬がボーとしたように雑さが出たかな。あっという間にボールを奪われてフォーワードに態と攻めさせる。
「パーフェクト・コース!」
ゴールポストギリギリを的確に狙うシュートに三国先輩は反応できず―—本当は止めそうになった―—―ゴールネットを揺らした。
さて、これで三点目。まあボチボチ始めますか~と思っていると、どうやら天馬も奮起しボールを取りに行くらしい。
「やっぱり、やっぱりこんなのは間違ってる!これじゃあ、サッカーが泣いてるよッ!!」
そしてダッっと僕に駆けてきたと思ったら”決意”を持った眼差しで僕を見つめる。
「漣。俺は負けるなんて絶対に嫌だ!だから、俺と一緒にボールを取ってくれ!!」
「りょう、かい!ドリブルは任せたよ。」
「そちこそ。ディフェンスしっかりね!」
まったく。天馬は人をやる気にさせるのが上手いな~。アレも才能の一種なのかね?疑問を頭に残しつつ両太ももを叩く。やっぱり、彼は面白い!
「これじゃあ、手を抜けないじゃないか。」
雷門からのボールでキックオフ。先輩達フォワードが神童を軸に上がっていくが肝心のボールを神童が捕られてしまう。
「どうした?手応え「せやああ!」
相手選手が余所見をした瞬間に天馬がスライディングでボールを奪う。
そして
「神童先輩!!」
「え………?」
予想外なのか神童先輩がボールを溢してしまった。それを見て雷門の選手は天馬が何をさせたいか理解した
「アイツ、神童にシュートを撃たせる気か?」
「何やってんだ、
零れたボール球は相手選手が拾うが場所が近いからかすぐに天馬が奪う。そして、また神童にパスをだす。
「・・・・やめろ」
今度も取り損ね大きく転がっていく。そこを栄都学園のFWが拾う。今度は天馬すら間に合わない距離だが
「よっと。なんだ簡単に取れちゃった」
まるで粉雪が吹き付け、通り過ぎたかのように自然に漣がボールを奪い、ワザと挑発する。
「如何したの?そんなんじゃ内甲点が下がっちゃうよ?」
「ッ!コイツ!!」
相手が挑発に乗って仕掛けて来るが下がって来ていた天馬にパスを出す。そして神童にボールを出そうと上がっていくが、倉間や三国たちにヤメロと言われる。
―—だが
「嫌だ!俺は、絶対に嫌だ!!」
「さっきからチョロチョロと、ボールを渡せ!」
痺れを切らした栄都の選手が仕掛けるも、天馬が風を纏ったかのような、そよ風が吹き抜けるような鮮やかなドリブルで軽々と躱す。
「何ッ!」
「いまのは………」
それが必殺技だと気付くのは少数の選手だけで。神童と天馬の間には邪魔する者はいない
「キャプテ――――ーン!!」
天馬が大きくセンタリングを上げ神童に絶好のシュートチャンスを与える。それは、神童が理性とキャプテンの立場で押さえつけていたサッカーへの情熱を呼び覚まさせるようで
「…!やめろ!!うおおおおお!!!」
「なに!?ムーンサルぐわああ!」
絶叫と共に放たれたシュートは今までの比ではなく、ゴールキーパーの必殺技すら容易く突き破りゴールネットを激しく揺らした。神童のシュートに観客の盛り上がりは最高潮を迎え、実況すら唾を飛ばすほど。
それとは反対的にピッチの選手たち、特に神童は自分が行った結果を信じられないと言う様に震えている。
「俺は、なんて事を」
まあ、対照的に天馬は大喜びで僕の手を大きく上下に振っているんだけどね。ちょっと天馬さん痛いです!!
「やった!やったよ雪乃!!」
「うん。うん。良かった良かった。ところで天馬君、手を………あ、聞いてない。」
ちょっと肩が声を上げたのは黙って置こう。
「マズいですよ。フィフスセクターの指示に逆らって点を取っちゃいましたよ。」
「神童!どうしてシュートなんか打ったんだ。」
霧野の目から見ても、神童が撃ったシュートは今まででトップクラスに入る位凄まじい物だった。だからこそ、何故今なのか
「あいつが……松風のボールが俺を責め立てるんだ…。あいつのボールは俺に言っていた。サッカーに…向き合えと。」
「だからお前は、ついシュートを打ってしまったというのか…………」
神童は場違い?にはしゃいでいる松風をジッと見る。漣が引き攣った笑みで何かを言おうとしているが松風は喜び過ぎて気付いていない。それは年相応で、でもサッカーに真っ正面から向き合う姿で神童が抑え付けている感情で
ほんの少しだけ、羨ましいと思った。
必殺技っぽい描写があったけど気付いてくれると嬉しい。