「久遠監督が監督を辞めた?」
「うん。今日の朝に連絡が合って、前の練習試合で勝敗指示を守らなかったから責任を取るって。」
「なんだそりゃ。」
昼休みの時間に天馬達が駆け込んで来て何事かと驚いたけどそういう事だったとは。むー流石に責任の一つは来るかな?と思っていたけどまさか監督に来るか
「それで、新しい監督はフィフスセクターの人かい?」
まあ、十中八九そうだろうなと思っていたら信助がふっふふとご機嫌に腕を組んでおる。
「えっと、信助くん?何か、得意げだね。僕は昨日日直だったから部活には顔を出せなかったけど、何か良いとこ合ったの?」
僕がそう聞くと天馬まで目がキラキラし始めた。それより、お弁当冷めちゃうよ?
「何と、新しい監督はあの『円堂 守』さんだよ!あのイナズマジャパンのキャプテン!!」
「昨日は河川敷で練習したんだ。サッカー部皆が集まって勝つための特訓をするんだって!!」
「そ、そうなんだ。」
身を乗り出すほどぐいぐい来る気持ちも解るけど箸は危ないから置いてね。それでも日本のサッカー界に激震を走らせた円堂さんが新しい監督とは。もしかして久遠監督が仕込んだのかもーなんて。
「でも、あの試合以来キャプテンが練習に来ていないんだ。試合で指示を無視した責任を自分でも取るって言って。」
「あー。さっき神童先輩が校門に向かって行ったのはそれが理由かも。」
「え!?雪乃は神童先輩を見かけたの?」
「うん。すっごい落ち込んでたから気になって覚えてた。まるで、大事な物が失ったみたいな顔してた。」
あれは見てる方も応える程に悲惨な顔をしていたね。周囲の生徒とも声を掛けれなかったし。神童先輩は以外とメンタルが弱いのかな?
「・・・・・やっぱり神童先輩は」
「天馬?」
「俺、神童先輩の家に行ってみようと思う。」
「急にどうしたのさ?それに、行ってみてどうするの?」
「神童先輩にはサッカーを続けて欲しいんだ!先輩の『神のタクト』でサッカーをしてみたいんだ!だから先輩を説得に行こうと思う」
以外と強情な。でも神童先輩も強情だと思うけど。あと、絶対メンタル弱い。猫を抱いてベットに寝転がってそう。でも、神童先輩がサッカーを続けて欲しいって言うのは僕も賛成。あの先輩だってサッカーと本気で向き合いたい。でも失うのが怖いって思ってる
憶測だけどね。
「雪乃も手伝って欲しいかなって」
「良いよ。」
は!?僕は何を。若干上目遣いのおねだりには弱い僕の弱点を突いてくるなんて、天馬恐ろしい子!
あと、僕はホモじゃない
で、三国先輩から神童先輩の家を聞いて二人で向かっているところ。信助くんは日直の仕事があって来れないらしい。進学校の日直は地獄なんやなって(白目)
「神童先輩の家は・・・あれ?」
「あれだね。家と言うか、お城じゃん。」
日本有数の財閥とは言ったけど本当の大金持ちとは。庭は手入れが行き届いて綺麗な花を咲かせているし壁は白一色で汚れが見当たらない。
「取り敢えずインターホンはっと」
「ゆ 雪乃は堂々としているね」
「説得は天馬の仕事だからね。僕は見てるだけ。」
「ええ!?そんな~」
僕が人の心をケアするとかどの口が言うんだと憤慨するし、何より僕の一番苦手な分野だ。逆に天馬はそこら辺信用できるけど自信がないからなー。
そんなこんなで神童家に入った僕達は神童財閥の財力驚いたり猫がすり寄ってきて癒されたり書斎の部屋が雷門中の図書室顔負けで変な声が出たりしたけど、ようやく神童先輩に会うことが出来た。
ずっと聞こえてきたピアノの音は神童先輩が弾いていたから。でも、何処か荒れている気がする。
僕が言い様のない不安を抱いていると天馬が一歩でて神童先輩に話しかける。
「神童先輩の音楽、凄く綺麗だと思います。キャプテンの神のタクトの原点に出会えたようで。俺、まだ未熟ですけど、いつかはキャプテンの神のタクトで試合したいです!」
天馬は神童先輩にサッカーを辞めて欲しくない、凄い指揮の元でサッカーがしたいと一心に伝えるけど、神童先輩は
「俺はもうキャプテンじゃない。これ以上サッカー部にいたら俺はきっとサッカーを本当に嫌いになる。」
「・・・・・!」
「それに南沢さんだって言っていただろ。サッカーを辞めたって、俺は別に・・・・。もう情熱なんて無いんだ。」
「・・・・嘘つき」「そんなの嘘です!!」
僕たちが神童先輩の
「お前に何が解るんだ!いいからもう帰れ。帰ってくれ。」
後半から泣きそうな声で言われて僕達はたじろいでしまう。どうやら僕達は踏み込みすぎたらしい。天馬は項垂れて神童先輩に頭を下げた。僕もそれに続こうとしたが
「最後に一つは、お願い良いですか?フォルテシモを見たいんです!今からグラウンドで練習するんで信助にも見せてやって下さい!あいつもビデオ見て盛り上がったんです。」
「・・・帰れって言ってるだろ」
「何を怖がってるんですか?」
ちょ!天馬君踏み込みすぎ!!僕が慌てて止めて神童先輩が使用人を呼ぶ前に急いで家を出る。あ、僕も言いたいことがあったんだった
「神童先輩が責任とってサッカー部を辞めて済むほど雷門サッカー部は柔な存在じゃないと思います。最後の一秒まで諦めない。それが雷門サッカー部の信条らしいですよ。」
「・・・・・!」
「キャプテンが真っ先に諦めてどうするんですか」
言いたいことを言ってスッキリした僕と説得出来なくてどんよりしている天馬は練習があるから部室に向かう。それにしても、思ったより神童先輩のメンタルが弱い。豆腐くらい柔らかい。ホントにどうしようか?
今日はグラウンドで練習らしい。じゃ移動しようと腰を上げた時、天馬がホワイトボードのしたから手帳を見つける。
名前はーーー神童拓人
僕達は首を傾げながら開くと
サッカーの戦術や試合をしたチームの記録が空白なんて見あたらない位ビッシリと何ページにも渡って書かれていた。英都学園での試合のための対策も書かれており、それは
「すごい」
「キャプテンはこんなに努力してたんだ。だから、あんなに凄い神のタクトが使えるようになったんだ」
僕は言葉を失って手帳を捲る。そこには内申書に書きたいからとサッカーをする者じゃない。心の底からサッカーが好きで好きで堪らない気持ちが溢れていた。こんな人が何であんな言葉を・・・・
手帳の最後のページは水で文字が滲んでいた。
「・・・・そんな筈があるわけないよ。サッカーを辞めたいはずないのに。」
天馬はいつの間にか涙を流していた。さっきの神童先輩を思い出しているのかもしれない。天馬以上にサッカーが好きで堪らないのにそれを自分から距離をおく。それはどれだけ悲しいことなのだろう。
僕にはーーー
ガタッ
「!?誰!」
突然響いた物音に急いで振り向くと、見覚えのある灰色の髪が
「今のは、神童先輩!?」
「追いかけよう!」
「うん!」
扉に体当たりするほど強く飛び出て廊下に出ると立ち去ろうとする神童先輩がいた。どうやら余りの勢いに驚いて立ち止まったらしい。そんな神童先輩に天馬は説得する。
「キャプテンはサッカーが大好き何ですよね?だったら辞めちゃダメです!大好きなサッカーが悲しんじゃいます!」
「サッカーを友達見たいに言うのは辞めろ!俺達は英都戦でフィフスセクターに逆らった。それが学校全体にどれだけ迷惑を掛ける事になるのか分かっているのか!」
「俺は間違った事なんてしていません!」
「な!?」
理論で攻め立てる神童と感情で訴え掛ける天馬。この場に有利なのは、どちらがサッカーに真っ直ぐ向き合っているか。
「俺、あの英都戦の一点ってすっごく大事な一点だと思っています。キャプテン。今のキャプテンは・・・・悩んで苦しんで、それでもがいているように見えます。」
「神童キャプテン。なんで大好きなものから逃げているんですか。」
「・・・!煩い!俺にかまうな!」
そう言って走って行ってしまう。酷く動揺した顔で。僕達は急いで追いかけると、サッカー棟の下にある木の影
に佇んでいた。
「キャプテン!俺、あの円堂監督となら本当のサッカーがやれるって思います!サッカーは待ってます。俺達が本当のプレイをしてくれることを。」
「本当のサッカーってなんだ!今のサッカーに何の価値がある!支配されたんだよサッカー界は・・・!サッカーの事なんかこれっぽっちも愛していない奴らに。俺だってそうだ。言っただろ?俺にはもうサッカーへの情熱なんて無いんだ。」
何処までも否定する神童先輩に天馬はあの手帳を突きだした。
「キャプテンはサッカーが大好きなはずです!これが証拠です!この中にキャプテンがサッカーを大好きって気持ちが詰まってます!」
「本当に情熱なんて無かったら、この手帳は涙で濡れていませんよ」
滲んだ所はある言葉を隠すように線も引かれていた。でも、僕には分かってしまった。
『やめたくない』
「・・・!」
自分の気持ちから目を背けるようにその場から逃げ出す神童先輩を僕たちも追いかける。林のなかに神童先輩はいて
泣いていた
「キャプテン!キャプテンがサッカーを辞めるのはおかしいです!」
「そうです!まだ本気でやってないじゃないですか!」
「今のサッカーに・・・・今のサッカーに本気になる価値なんて無いんだ!」
振り向いていい放つ神童先輩は悔しさを隠そうともしなかった。何度も説得して、やっと見せてくれた神童先輩の本音。
「俺には勇気が無いんだ。お前たちみたいにサッカーと向き合う勇気が。キャプテンの資格が無いんだ・・・・」
神童先輩の本音に僕達は声がでないでいた。なんて声を描ければ言いか、産まれて十数年しか生きていない僕たちには分からない。
でも
「あるさ。お前にはキャプテンの資格がある。」
元雷門中のキャプテンなら、わかる
「サッカーが好きで好きで堪らないという気持ち。それがあるから涙が出てくる。そうだろ?」
「円堂監督。・・・俺だって、本当は勝ちたいんです。これ以上、不様なサッカーをやりたくないんです!」
その言葉に円堂監督はニッと笑って神童先輩の肩に手を置く。
「その言葉を待ってたぞ、キャプテン。」
「お願いします!力を貸してください、円堂監督!」
「僕達は、本当のサッカーをしたいんです!」
円堂監督はおう!と頷くと天馬に古い鍵を渡した。どうやら僕たちに見せたいものがあるらしい。いったい何だろうか?
僕達が旧サッカー部室に行くと他のサッカー部員も集まってきた。皆は神童先輩がいることに驚いたけど安心した顔をしている。なんだかホッコリしながら天馬が扉を開けると、そこは古くても懐かしい香りがするようだった。綺麗に整頓されているようで当時の使ったままのような。僕たちが見渡していると、置くの扉から円堂監督が顔を出してきた。
「良いところだろ?本命はこっちだぜ。」
そう言って手招きしたのでその部屋にはいると、皆が壁を見つめていることに気付く。そちらに向けば、壁にでかでかと『絶対優勝』の文字と文字の数々。
「円堂監督。ここは」
「ここは俺達、雷門サッカー部の優勝のための落書きかな。」
「ちゅーか円堂監督たちサッカー好きすぎでしょ。」
「そうか?でも、お前らだってそうだろ?」
その言葉にはっとする雷門のメンバーたち。皆が思うところがあるように僕にも負けられない理由が増えたね。
僕達が本当のサッカーを取り戻したら、もっと面白くなる。
「さあ皆!ホーリーロード一回戦、絶対に勝つぞ!」
「「「「はい!!」」」」