インフィニット・ストラトス〜還るべき空へ〜   作:PRANA

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梅雨明けはもう少し先。


適切

 仏の顔も三度までというが、直徒は人間。

 その時その時の気分で天井は二にも一にもなる。

 既にセシリアからは卑族と褒め言葉を受けていた。

 待機形態の春雨から端末に録音データを移動、会社と平手補佐官宛のメールに添付して送信。

 やられたらやり返す。

 その脅威が抑止力となる。

 雛鳥からの情報には馬の性能だけでなく主の人生も載っていたが、知ったことではない。

 若くして遺産相続で苦労すれば人種差別(極東の猿)他国への侮辱(文化的に後進)も許されるのか。

 送信完了の文字を見て倉持技術開発研究所第一研究所副所長は手を上げた。

 扱う商品の性質上、家族(社員)は皆日本人。

 夢は十分見せただろう。

 

「──構わん、倉持」

「えー、オルコット代表候補生の先程の発言について日英関係維持の観点から本国に確認の必要性ありと判断、内閣官房の平手総理補佐官に報告しました。いずれ先生方お二人にもヒアリングが行くと思うので、共有しておきます」

「はあっ!?」

 

 途端に貴族の顔から余裕が消えた。

 真耶が慌てて視線を向けるも、壇上の千冬はジッと腕を組んだまま動かない。

 学園長から直徒を入学させた意図を聞いていながら、彼より先にセシリアを止めることができなかった。

 仮に最後は動くつもりだったとしても、所詮言い訳だ。

 現役時代の一匹狼から何も成長していない。

 去年まではそれでも世界が回ってくれた。

 花と蝶だけの楽園。

 何かあれば隠し事のプロもいる。

 大罪人(白騎士)には不相応な夢だとしても、もう少し長く続くと思っていた。

 せめて弟一人なら。

 夜明けは彼女にも訪れたということだ。

 

「そ、そそそんな嘘を言ってわたくしを脅そうとしても無駄ですわ!」

「脅したら犯罪になっちゃうじゃーん。だから問答無用でチクってやったゼ♪」

「ISを奪ったことといい、あなたどこまで姑息で卑劣なんですの!!」

「だから日本が取引したのはIS委員会であって、イギリスじゃ「お黙りなさい!!」はーい黙ってまーす♪」

「く、くううぅぅぅううぅっっ!!!」

 

 完全に掌上で弄ばれているセシリア。

 やり取りを見る女子達の中で、代表候補生に抱いていた憧れが一気に冷めていく。

 時間が惜しいと教科書を開く者まで現れた。

 考えなしに一夏を指名した面々は結果オーライと安堵。

 好き嫌いも立派な決め手。

 だからこそ、殺人への忌避は別として沈まぬ太陽を推薦できないのが惜しい。

 副代表があれば。

 

「……ISに乗っていなくても容赦ないな、お前は」

「女の方が強く偉い時代ですからね」

「教師を含む三人がかりを退けておいてそう言うか」

「金剛石姫なら生きたまま無力化します。容易に想像できるでしょ?」

 

 確かに、と言いかけて真耶が寸前で飲み込む。

 死亡した梨香とは同期だった。

 仲が悪くも同じ高みを目指した者だからこそ分かる。

 彼女の実力は本物。

 それを機体の性能差があったとはいえ無傷で撃破するとは。

 明乃に師事したというだけでは腑に落ちない。

 が、今は一人客の去った舞台で踊り続けている哀れな少女を何とかすべきだ。

 千冬もそう思った。

 

「はぁ……オルコット、私もあまり我慢強い方ではない。自薦でいいから後々悪いようにされたくなければ座れ。それとも────極東の猿の言葉は理解できんか?」

「ひっ!? わ、分かりましたわ……」

「はいはーい織斑先生♪」

「何だ倉持、まだあるのか」

 

 ようやく己の発言の拙さに気付いたか、顔面蒼白で座るセシリア。

 どう考えてもユニオンジャックに泥を塗るどころかナイフを突き立てるレベル。

 女王陛下の耳に入れば家の取潰しまでは免れても、代表候補生の地位剥奪は確実だ。

 同様の振舞いを他組相手にされては堪らない。

 直徒の意見に女子の半数以上が同調した。

 彼は自薦して千冬に蹴られた。ここで千冬がセシリアを庇えば筋が通らない。

 クラス代表は一夏に決定。

 椅子から崩れ落ちたセシリアは保健室に運ばれたが、肩を貸した者曰く、ベッドが空いておらず診察台に寝かされたとのこと。

 何のための開放回線か。

 呆れながら副所長はメールチェックを再開した。

 女性が歪めた時代は女性の手で元に戻さなければ意味がない。

 だが直徒がそれを託すのは白雪姫。

 逆恨みしてセシリアが銃を向けてくるなら、太陽も躊躇なくイカロスを焼く。

 翼もろとも。

 一次移行したISは皆主と同罪だ。

 

 

 

 ◇

 

 

 

 悩み抜いた結果が『それでも!』ならそれでいい。

 昼休み、直徒は席で沈んだままの一夏を尻目に教室を出た。

 食堂は使わない。

 調理場にまで思想が入り込んでいるとは考えにくいが、人の心など容易く変わるもの。

 明日からは前日の夕飯の残りをパンに挟む。

 相手が先に目的地に着いたのを感知。

 姉と違って別段懐かしくもない、ただ面倒臭いだけの波長。

 だが二月と三月の十四日は譲らなかった。

 虻人からも仲良くするよう頼まれている。

 ならば恋と依存の違いが分かるまで付き合うのが男の度量というものか。

 網を広げて警戒対象の位置を探知。

 猫は自分の教室から動いておらず、狐は上も下も食堂。

 猪は職員室。

 そして三年の『小雨』は体育館裏で未確認の波長と二人。

 二年前に千鳥の式典で米国代表候補生として挨拶された時、妙な懐かしさを覚えたので気になっていたが、その正体はまさかの幽霊。

 道理で足がないだけに自称天才のハッキングでも掴めなかったわけである。

 さてこちらからは進んで絡まないが、春雨と聞いてどう出てくるか。

 

「ちょっとあれ……」

「うーわ、マジで沈まぬ太陽じゃん。なんであんなのがここにいんのよ。学ぶことなんて何一つないくせにさ」

「学生相手にマウント取りに来たんじゃない? 俺ならそのプログラム◯分で組めるよーとか。超性格悪いよね」

「男のくせに三つ編みなんかしちゃって、キッモ」

「ねぇ、今度やっちゃおっか」

「無理無理。聞いたんだけどさ、朝あいつ襲って逆に殺られたの早乙女先生らしいよ。ファンの子がわんわん泣いてた」

「早乙女先生って元代表候補生じゃん! 何!? あいつそんなレベルなわけ!?」

「付いてた二人も操縦科の三年生だったんだよね。それで勝つとか……化け物」

「あたしらなんかじゃ天地がひっくり返っても無理だよ〜」

「くっそ腹立つ」

 

 道中後ろから聞こえる嫉妬と悪意。

 慢心してはならないと気を張るよりも、慢心してしまう自分を認めた方が肩の力が抜ける。

 真の世界最強と幾度も死合い生き延びた、その事実があれば十分だ。

 心を宇宙の如く平静の極致に保っていれば、相手が誰だろうと負けはしない。

 ちなみに凪では雛鳥と夢で会った時の景色と似ているせいか、春雨の反応が鈍くなる。

 中々気難しい相棒。

 だが、安易に答えを得て堕落するよりは多少不便な方がいい。

 

 

 整備室に着くと、一人の少女が壁に背を預けて座っていた。

 

 

「お嬢さん、お待たせしました」

「私も今来たところ。……何度もメールしてごめんね?」

「コア・ネットワーク切れてますし、構いませんよ。てっきり人殺しとは食べないものかと」

「……事情は聞いた。登校途中に三人がかりは明らかに殺意あり。お兄ちゃん(・・・・・)の命を狙うなんて絶対に許せない」

「魔闘気漏れてますよー。ほら、スマイルスマイル」

「や、やめふぇおにいひゃん。のふぃる、ほっふぇがのふぃる〜」

 

 相変わらずレアチーズパンみたくモッチモチ。

 姉がこの場にいたら鼻血を噴いて倒れていただろう。

 互いに弁当箱を開け、中身を空にしながら寮の部屋でのルールを決めていく。

 ベッドの窓側内側、入浴の順番、掃除は毎朝実施。

 直徒が食堂を使わない点は了承された。

 料理は自宅=職場になって以降作る機会こそ減ったが、切る焼く煮るは一通りできるので問題ない。

 

「そういえば、四組の代表はお嬢さんが?」

「うん……専用機持ちは私だけだからって、殆ど無理矢理。弐式のレポートとかで忙しいのに」

「上がりたては要領を掴むまでがね。形式分からないなら、里奈さんからccで来てるメール見てパクったらいいですよ」

「……大丈夫なの?」

「何事も最初は真似から。どんなに出来のいい資料も期日に間に合わなければただのゴミです。評価するしない以前の問題」

 

 簪が『お兄ちゃん』に求めているのは助言ではない。

 だが直徒にとってその呼称は、約束された安寧を捨て更識を出た覚悟と現在の自分を否定されているのと同義だ。

 ゆえに彼は『お嬢さん』の想いを受け流し、あくまで一人の人生の先輩として簪に助言を送る。

 虻人との約束は守られる。

 

「ファイルがPDFのみだと編集できないので、春雨のを送っておきます。クラス代表の方は去年やった人に……いや、姉が邪魔だな。やっぱ担任の先生に聞きましょう。それがいい」

「あ、ありがとう……」

「二足の草鞋は大変でしょうけど、頑張って。自分の能力を正しく把握して、そのキャパだと若干辛い量の仕事をスケジュール立てながら何とかこなしていくうちに、できる範囲が広がる、つまり成長していくんです。説教臭くなっちゃいましたけど、ISを降りた後の人生の方が長いってことを忘れないでください。どんなに能力が高くても約束が守れない人を、組織は絶対に欲しいとは思いません。無論、倉持技研もね」

 

 残り十分になったため別れて教室へ。

 四限目は冒頭学園長から全校放送で襲撃事件の報告と発生経緯の説明があり、続いて倉持技研に対する謝罪声明が読み上げられる。

 余程のナルシストでなければ再び自主休講するところだ。

 戻ってきた廊下で兎の妹を連れた一夏と鉢合わせた。

 太陽を直視できないあたり、どうやら答えはまだ出ていないらしい。

 それでも食事が喉を通るのは純粋に才能か、或いは織『斑』ゆえか。

 成る程、感情豊かにもかかわらず直徒の自己紹介直後と現在で波に差がないのも頷ける。

 

やっはろー(はろはろー)、デートの帰り?」

「っ、えっと……」

 

 何故か眩しくないはずのポニーテールが目を逸らした。

 大和撫子と言いたいところだが、生憎その別称は四十院神楽に販売済。

 再入荷の予定はない。

 

「篠ノ之さん、イイ女になるんだね」

「いっ、いきなり何を!?」

「あっはっは、んじゃお先ー♪」

 

 さて、女の愛撫で白き英雄復活となるか。

 扉が開くと、直徒の席の前に先程ドナドナされたはずのセシリアが立っていた。

 余程診察台の寝心地が悪かったのか、額に青筋が浮かんでいる。

 

「……先程はよくもコケにしてくれましたわね」

「立ち直り早いねぇ。パイロットより営業の方が向いてるんじゃない?」

 

 

 

 何かが切れる音がした。

 

 

 

「倉持直徒────わたくしと決闘なさい!!」




アンチとは敵味方問わず扱いが雑を意味するのではないかと思う、今日この頃。
評価、感想いただけると嬉しいです。

続くかは分かりません。悪しからず。
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