インフィニット・ストラトス〜還るべき空へ〜   作:PRANA

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色んな人が、通り過ぎていきました。


誤算

 雛鳥が親離れした二月二十三日時点で、遺伝子強化試験体の専用機持ちは三名。

 ドイツ軍特殊部隊シュヴァルツェ・ハーゼ隊長ラウラ・ボーデヴィッヒ、亡国機業実動部隊モノクローム・アバター隊員織斑マドカ、そして篠ノ之束の侍女クロエ・クロニクル。

 生体同期型ISの是非は本人が決めることだ。

 寄せては返す波の音。

 倉持春夜の亡骸は遺言により火葬後、全て海に葬られた。

 万一骨を奪われその中に欠片でも生きたものがあれば、彼女の最期が母親でなくなる。

 夫が我が子を更識に置いたまま一度は忘れようとしたのも、偏に親心だった。

 

「武器を手にすりゃ皆対等。どんな立場も背景も関係ない」

『分かっている! 私も子供に銃を握らせている大人の一人。今更地獄落ち怖さに赤の他人を憐れんだりはせん。ただ……不憫とは思わんのか。生まれた時から親を知らず、ただ戦うための道具として扱われて──』

「その道具にすらなれず消えてった命が山ほどあるんだよ、俺達の作ってるISのせいで。自己満足の懺悔ならせめてそっちにしない? 家族が多くて腹を切れない代わりに、白騎士事件の真実と兎の首を手向けてさ」

 

 誰しも罪を抱えている。

 ISが元々宇宙服なら、何故篠ノ之束はそれを女性にしか動かせないまま放置しているのか。

 欠陥ではなく故意と見抜いたうえで、直徒は彼女と同じ道を歩んできた。

 己の抱く『インフィニット・ストラトス』を共に実現してくれる者と出会うために。

 数多の男が女尊男卑の闇に呑まれていくのを見ながら。

 あの日彼がXY(オス)にもかかわらず零式を纏えたのは、束があらかじめ一夏のデータを入力しておこうと〇〇一の縛を解いたからだ。

 母は間男を許さない。

 ならば無益な殺生にならぬよう大義を見繕うのが商人。

 俊哉も社員さえ路頭に迷わなければ倉持の看板に拘るつもりはない。

 所詮は己のため────些か癪だが、とうに息子は自分を超えている。

 同時に人の域もではないかと不安になった。

 

『……そうだな。我々は神ではない、ただの人間だ。人間でたくさんだ』

「銀髪二人の寿命(テロメア)が短いのも、向こうの親がやったこと。丸める頭もないのに責任感じてんじゃないよ」

『うるさい! さっきやっと注文した品が届いたんだ。今度は必ず生える!』

「ちゃんとスキャンしたんだろうね? 髪に祈りましょう、アーメン」

 

 何故強化人間から頭皮の話になるのか。

 同志よ、神の姿が見えたことは誰にも言わないように。

 宇宙(そら)からの口直しである。

 

「公務員の黒兎は当然NO。一応入管のサーバーにお邪魔してここ数日の出入記録を調べたけど、やっぱ空振りだった。偽造パスでISを持ち込めるようじゃ日本は終わりだ」

『千鳥の御披露目も里奈君らに警備を手伝ってもらったからな。もう二度とやれんぞ、あんな派手なことは』

「分かってるよ、あれを成功させたのは偏に明乃さんの人徳だ。けどあの人は……俺が十年前の決断が正しかったことを証明するのと引換えに自由を失った」

『社を挙げてやった結果だ、お前一人が気に病む必要はない。二股は別だがな』

「幽霊さんにあんな高いステルス技術があるなら、奪った機体は一つや二つじゃないはず。決まりだね。……とうとう動き出したか、天災」

 

 恐怖はある、元暗部で沈まぬ太陽で依巫の直徒にも。

 虻人、ヒカルノ、明乃、平手兄妹────今の彼には失ってはならない木綱が増えすぎた。

 だが買ったのが雛鳥なら、売ったのは自分。

 太陽炉を女権団に渡さないための選択だったとはいえ、一夏の現在負っている苦しみが決して他人事でないことは、肝に銘じておかねばならない。

 

(箱が開けば世界中に火の手が上がる。人種も国境も越えた男女の争いで地球が焼かれるのは本意じゃない……けど、それでこっちが守りに徹した挙句すり潰されちゃ本末転倒だ。戦うべき時は戦う。やられてなくても殺り返す! 焼けた所には、また植える。汚い花火で母さんの命日を祝ってくれた礼だ……その首掻っ切ってやるよ、先輩)

 

 狙われる者より狙う者の方が強い。

 試験会場での一人目爆誕も彼女の仕業と露見したら、どうなることやら。

 箱に追加しようと雛鳥が閃いた。

 

「目的は俺の偵察か? だったら人質の多いあの状況で何故ワールド・パージを使わなかった?」

『お前を害すれば箱が開くと分かっているのだろう。彼女にも家族はいるからな』

「だとしても白騎士事件を起こした女だ。我慢比べはそう長くは続かない。……向こうも戦いに備えようとしている? ならこの学園にあって、俺から妹や織斑君を守る剣になり得るものは──!!」

『成る程、こちらも急ぐとしよう。悪党が慰謝料を十五億(分の一)も引っ張ったお陰で、懐には多少余裕がある』

AI()エナジー()にも何割かずつ分けておこう。横の繋がりはキープしたい」

『明日役会で決裁する。が、お前は織斑君との訓練に集中しろ。たとえ付け焼き刃でもないよりは遥かにまし。対抗戦で晒し者になれば今度こそ彼の心が折れる、それは我々も望まぬことだ』

「ああ、しっかりボランティアするよ。それじゃ」

 

 狙いは地下最深区画に眠る暮桜。

 あらゆるエネルギーを消滅させる零落白夜が復活すれば太陽炉搭載型の脅威になる。

 盗みに来る日は十中八九、学園中の視線と悪意が一点に集まるクラス対抗戦。

 既にネットの掲示板は呪いコメントの嵐だ。

 直徒なら春雨で直に乗り込み破壊することも可能だが、もしそれで当日何も起きなければ世間からの目は中二病の妄想癖。

 沈まぬ太陽も奈落の底。

 よってここは奪還しようとしてテヘペロが得策。

 脚に付いた砂を払い寮に戻る夕暮れの先を、右手にボストンバッグを持ったツインテールが息を切らしながら駆けていった。

 

 

 

 ◇

 

 

 

 早朝の鍛錬を終え、シャワーを浴びて朝食。

 簪を通した第二のお袋の味に胃袋を引き戻されぬよう、絹美の田園風景と塩むすびを思い浮かべながら咀嚼する直徒。

 身に付けたスキルは無駄にはならない。

 魚もフライパンで焼けば後始末が楽。

 余らせた焼き鯖とレタスをトーストに乗せ、醤油マヨネーズをかけて挟めば完成。

 魚といえば鰹の明乃も唸る一品。

 しかし第二研究所のある北杜は埼玉同様、どんなに歩いても海がない。

 

(量産化に踏み切れば、肩の荷を下ろしてもらえるかな……)

 

 水出しコーヒーをボトルに詰め、食器を洗った。

 

「ねぇ聞いた? あの話」

「二組に転校生が来るんだって。さっき職員室で聞いた子がいるらしいよ」

「叩かれまくってるのに物好きだよねー。うち親が帰ってこいってうるさくてさぁ」

「うちも、頼んでないのに資料取り寄せてんの。しかもフツーに共学だよ? マジありえない」

 

 萎れた花は宛らクエスチョンマーク。

 初日の事件で炎上中の学園に入学してくる輩が、ただの一般人であろうはずがない。

 他国のエージェント、企業スパイ、或いはハニートラップ。

 始業までONAMOMIの散り具合をチェックする副所長に、左隣の女子が恐る恐る声をかけた。

 

「あ、あの……やっぱり倉持さんと織斑君が目当、でしょうか」

「だとしても来週の試合に然程影響はない。出る面子はもう決まってるからね」

「で、でももしその子がすごく強くて、代表が変わったりしたら──」

「百パーセント変わらない。そもそも一週間遅れなら、転入じゃなくて遅刻だ。担任の榊原先生も初日の時点でそのコの経歴は把握してたはず。俺なら端から代表に据える。後で変えて周りに痛くもない腹を探られる(一夏潰しと思われる)のは癪だし、それで一組も代表が変わったら自分がアンチに恨まれるでしょ? よって今のコが自薦か他薦かはともかく、二組の代表に変更はない」

 

 ピッとドヤ顔で人差し指。

 殺したり笑ったり語ったり中々天才的だが、話しかければ普通に返してくれる。

 

「……オルコットさんの時もですけど、エスパーみたい」

「あっはっは♪ 女心はさーっぱり読めないけどね」

 

 彼女はいるのか、四組代表とはどういう仲なのか。

 沈まぬ太陽に憧れる全員が興味を持った。

 

「転校生か……あいつ、元気かな」

「む……誰のことだ?」

「ああ、幼「一夏っ!! 幼馴染が会いに来てやったわよ!」っ、鈴?」

 

 扉が開き現れたのは、昨晩朱髪が夕暮れの中で見た少女。

 中国代表候補生凰鈴音。

 激しそうな気性と右腕の赤黒いブレスレットがよく合っている。

 織『斑』と顔見知りの『ゼロ(ling)』に一瞬直徒は気を高めるも、下調べと改めて感じる人間の波長にシロと判断、一夏が目当てならそれでよしと仕事に戻った。

 誘惑は箒の姉が許さない。

 よって人質が学園から出ることもない。

 

「鈴……お前、鈴か!?」

「そうよ。例の事件を聞いてヘコんでないか心配してたんだから! ちょっと痩せた!?」

「あ、ああ。けど箒に色々世話になってさ、だいぶ持ち直したよ。あ、箒ってのは──」

「一夏、何だこの女は! 幼馴染とはどういうことだ!!」

「アンタこそ一夏の何なのよ! こっちが話してるのに割り込んでくるんじゃないわよ!!」

 

 朝に似つかわしからぬ愛の劇場。

 男の頭上で牙を剥く猫二匹。

 絵に描いたような修羅場に大興奮の思春期達。

 鬼より怖い波長の接近にビッグバンを予知する少年。

 そして────世界が揺れた。

 

 

 

 バッシィィィィン!! 

 

 

 

 ちなみに予鈴はまだ鳴っていない。

 

「うあああ痛っっったぁ〜〜〜!! どこのどいつ「もうSHRの時間だぞ」ち、千冬さん……」

「織斑先生だ。積もる話は休み時間にしろ。さっさと帰らなければ首根を引き摺ってでも連れていくぞ」

「す、すぐ帰ります!」

 

 足早に帰っていくツインテール。

 小さいのにタフな奴と皆が感心する中、直徒は確かに和風美人の歯噛みを聞いた。




長く間が空いてすみません。
去年ほどではありませんが気が滅入っており、休日は一人で海や山に行ってました。
評価、感想いただけると嬉しいです。

続くかは分かりません、あしからず。
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