インフィニット・ストラトス〜還るべき空へ〜   作:PRANA

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短いですが、どうぞ。


依巫

 髪を乾かし終え自室(ラボ)でコーヒーを飲んでいると、警備部長の大塚虻人が駆け込んできた。

 コスタリカの香りに釣られたか? ──否。

 世界中の情報と手の平で繋がる時代の中、第二研究所所長との対戦用に直徒がテレビを置いているのを知っている三十二歳は、口で言うより早いとデスクのリモコンを掴み電源を点ける。

 当然、黒一色の画面。

 右上隅にはHDMIの表示。

 ほどほどにしとけよ、分かってますって──天才の条件が悲劇と孤独なら、自分は生涯偽物のままか。

 ハンガーに固定された打鉄零式の両眼が光る。

 どうやら確かめる手間が省けたらしい。

 

『続報です。東京都内で行われている全国高校入試の受験会場で一人の男子中学生がISを起動させた事件で、日下官房長官は先程緊急記者会見を行い、他の受験生に混乱が起きないよう事態の収拾に全力を上げてほしいと述べました。尚、保護された少年については現在事実確認中であり、コメントは差し控えるとしています。繰り返しお伝えします』

「ふーん、ISに乗れる男か。夢があって結構だね」

「何他人事みたいに言ってやがる。確かに爆弾付きのモルモットに涎垂らすほどこっちは飢えちゃいねえが、委員会が太陽炉のデータ欲しさにお守りを直でうち(倉持)に投げてきたら終わりだ。断われば世間様からの批判とお上の顔潰し、受ければ半強制的な技術供与と女権団からの更なる熱視線。どちらを取っても大損だぞこいつは」

「出先で展開状態の機体を放置、部外者の接触を許したか。どんな女神様だろうね?」

「けっ、寝落ちと朝シャンが可愛く思えるぜ」

「朝シャンは別にいいだろー……っと、お嬢さんからメール……やれやれ、余程人手が足りないらしいなIS学園は。『明日の実技試験、ノルマは完封です。弐式は大塚が責任を持って入学までに仕上げますので、どうぞそちらも内から生じる重力(重圧)を御堪能ください』と」

 

 鬼かテメエ、と直徒から携帯を奪おうとする虻人。

 が、視線を反対の手元に移した瞬間ギョッと目を剥いた。

 普段なら年相応にお子様なカップの中身が、今日は黒。

 第一研究所で勤務している所員にとって、直徒の飲むブラックコーヒーは不吉の象徴だ。

 レディー・ファースト(女性権利団体の正式名)の抜打ち視察などまだ可愛い。

 初代国家代表の電撃引退に伴う次席候補生の招聘延期、太陽炉搭載型一号機の披露前日に起きた某国組織による襲撃事件。

 そして直近が一ヶ月前、政府高官立会いの下行われた打鉄零式の稼働試験における暴走事故。

 功を急いだ更識簪が強引に機体出力を上げたのが原因だった。

 一号機で対処していなければ本店(一研)が灰になっていた。

 二つの太陽が赤々と輝く様は、まるでこの世の終わりだった。

 

「……悪い夢でも見たのか?」

「年上好きにはね。白いワンピースの幼女に口説かれちゃった」

 

 最後の一口が飲み干される。

 空腹で会議に出るなとサンドイッチを与えれば、自然にカフェオレで上書きできるか?

 映像が現場からの中継に切り替わり、虻人は視線をテレビに戻した。

 白衣の下のウェットスーツには気づかなかった。

 

『あっ、今車に乗る少年の姿が見えました! 中々整った顔立ちですが、誰かに似ているような……って、ちょっと邪魔しないでよスクープなんだから! カメラ塞ぐんじゃないわよ男のくせに!! この私を誰だと思ってるの!! 帝都新聞一の美人レポーターと名高い──』

「……」

「誰かにって、戦乙女だよな」

「コーヒーおかわり。ミルクと砂糖入りで」

「は? あ……ああ、そうだな! ついでに俺も貰うか!」

 

 渡したカップを手に給湯室へ走る背中を見送る。

 織斑千冬に弟がいるのは知っていた。彼が先述した次席候補生招聘延期の遠因であることも。

 今や情報は自ら盗りにいく時代。

 獣相手にルールなど不要だ。

 そしてこの件は間違いなくIS開発者、篠ノ之束が裏で糸を引いている。

 加えて恐らく、彼女は既に長女(〇〇一)の居所を掴んでいる。

 兎は臆病で凶暴な生き物だ。自分以外の誰かが檻の中に足を踏み入れたと知れば、なりふり構わず敵を排除しようとするだろう。

 相手の住む世界もろとも。

 そうなれば──

 

「大損どころの話じゃないなこりゃ」

 

 消した直後の黒い画面を鏡に、結う三つ編み。

 昨夜少女には後払いも分割払いも不可と言ったが、元より道は一つと考えると少々阿漕すぎたか? 

 これで何も起きなかったら爆破すべし。

 脱いだ白衣を背もたれにかけ、直徒は初期状態の翼に手を触れた。

 

 

 ──生体認証開始

 ──操縦経験値取得

 ──皮膜装甲展開

 ──外部より停止命令|拒否

 ──スラスター正常

 ──ハイパーセンサー最適化

 

 

 流れ込んでくる情報の中から、必要なものだけを順次脳に焼き付けていく。

 空の高みを知らないはずの体に、十年錆付かせていた操縦の勘が蘇ってくる。

 進化と改造は別物だ。機械仕掛けの羽衣を纏ったところで、人はどこまでも土の恵みと共に生きる存在。

 だが、外から見なければ地球の真の美しさは理解できない。

 

 

 ──武装特性情報取得

 ──バイタルチェック|脳量子波規定値クリア

 ──EEGシステム起動

 ──コアと太陽炉の同調率安定

 ──GN粒子生成開始

 ──初期化しようとしています|排除

 ──『箱』の鍵を倉持直徒に譲渡

 ──コア・ネットワーク切断

 ──全システムオールグリーン

 ──打鉄零式改め【春雨】最適化処理完了

 

 

 読まれたか。やはり賢い子だ。

 今はISでも届かない所にいる母の名から『春』と、彼女が生前語っていた知人の名から『雨』。

 急場凌ぎでウェットスーツを着ているためか、装着の感触を確かめると『思考→命令→挙動』の流れに僅かなラグがある。

 無い物ねだりしても仕方ないと機体を解除し、呆然と立つ虻人から二杯目を受け取った。

 

「若大将、お前……」

「弐式は頼むね」

 

 この日、世界で二人の男性操縦者が発見された。




文才と根気、どこかに売ってないかな。
続くかは分かりません。悪しからず。
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