インフィニット・ストラトス〜還るべき空へ〜   作:PRANA

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書いているうちにサマになる、と言いつつ約一ヶ月ぶり。
相変わらず短いですが、どうぞ。


服毒

 IS学園理事長室で倉持直徒の入学に関する委員会からの通達を読んだ織斑千冬は、その内容に露骨に顔を顰めた。

 

 監視、盗聴の禁止

 公式戦以外の場での許可なきデータ採取の禁止

 在学中の免責特権とISの任意使用権限の付与

 学園内外の有事における独自行動の容認

 授業料その他の免除を含む特待生待遇

 技研所員としての研究活動及び経済活動の優先

 以上六点が遵守されない場合、即単位認定のうえ卒業扱いでの自主退学を認めるものとする

 

 いかに特記事項に守られた学園といえど出資者の意向には逆らえないのが現実だが、こんな横暴を許す根拠がどこにあるのか。

 目的は一人目こと織斑一夏の精神的負担軽減と、第三世代分野に疎い教師陣の危機意識向上。

 事実だとしても白々しい。

 確かに噂の二号機には興味があるが。

 

「貴女の弟さんがISを起動させた経緯を突かれました。既に決定事項です」

 

 問う前に学園長の轡木十蔵が答えた。

 出先(試験会場)で展開状態の機体を放置、部外者の接触を許す。

 仮に織斑一夏が『被害者』側の人間ならどうなっていたか。

 武器が展開できなくとも、ISの装甲で殴れば人は殺せる。

 自爆すれば貴重なコアが失われる。

 不注意や想定外で済む話ではない。

 現に当時の監督官は今も寮で謹慎中だ。

 抑止力の要であるISをかくも杜撰に扱っておいて何故壁の中は安全と言えるのか──そう日本政府に論破された委員会は、太陽炉搭載型のデータ欲しさに全ての要求を呑んでしまった。

 

「彼は倉持技研の跡取り。裏でどのような取引があったかは知りませんが、自分以外の人生にも責任を負う立場なら今は無用な『外出』は控えるべきということぐらい分かるはず。何故自ら城を出て敵地に飛び込むような真似を」

「根が防人ではなく狩人なのでしょう。春雨の造形を見る限り私はそう感じました」

 

 老眼進めど慧眼は衰えず。

 世界最強の隣に立つ学園最強がギクリと身を強張らせた。

 打鉄零式の名を出さないのは彼なりの配慮。

 ならば初めから言うな、と千冬には目で非難されてしまったが。

 

「失礼。本件で委員会から日本政府にIS七機が譲渡され、うち二機が倉持技研に、一機が平手工業に渡りました。手引きしたのは総理補佐官の平手明夫氏。平手工業の会長であり現国家代表平手里奈さんのお父上です」

「更識、お前の調査か?」

「……いいえ」

「平手補佐官本人が教えてくれました。更識さんの家は二年前から沈まぬ太陽の身辺警護をしており、入学前(学園外)の情報については守秘義務があります。どうか責めないであげてください」

「警護と言っても、やってることは後片付け(死体処理)雑巾掛け(痕跡除去)なんですけどね」

 

 あはは、と自棄気味に笑う霧纏の淑女。

 対暗部用暗部の当主であり常に飄々とした掴み所のない雰囲気を持つ更識楯無だが、今日は目に見えて覇気がない。

 まるで魂が抜けた人形のようだ。

 兆候はあった。妹が起こした零式の暴走事故、錦の御旗を狙う女権団の暗躍、二人の男性適性者の出現、織斑一夏の保護、反発する一部の在校生や教職員達──ここ一ヶ月の間に学園内外で重大な事案が立て続けに起きたこともあり、情報収集と対応に当たる彼女の疲労は限界に達していた。

 偶然に救われたものもある。一学年上に優秀な側近がいなければ、とうの昔に倒れていた。千冬も十蔵も、二人目の名を報道で知った時は耳を疑うと同時に安堵した。

 更識簪は五体満足で後遺症もなく、追って別の専用機が用意される。

 ますます喜ばしいことだ。

 故に楯無は倉持直徒に大きな借りがある。お互い様とも言えるが。

 ではそれだけが理由か? 

 彼の入学を警戒している。

 否、恐れている? 

 秘密を暴くこと、隠すことに関してはこの世で右に出る者のいない『楯無』が。

 いかに特異ケースといえど、たった一人の男、それも十八の少年にその名が持つ仮面を剥がされている? 

 改めて二人目の経歴に目を落とす千冬。

 やはり何度見返しても不審な点はないが、彼の写真と目が合った瞬間、言い様のない寒気が体を通り抜けた。

 悪友とよく似た雰囲気。

 少なくとも手先が器用なだけの子供ではない。

 ISの光も闇も知り尽くし、その全てを飲み込んだうえで世界を遥かな高みから見下ろす天才(天災)

 成る程、確かに防人では歩けぬ道だ。

 向けられたのは見えない悪意だけではないはず。

 故に一つ確信した。

 

「……やはり事実なのか」

「あー……ひょっとして、織斑先生も彼のことを?」

「ああ、過去に女権団から奴の始末をと泣き付かれたことがあってな。無論取り合わなかったが」

「沈まぬ太陽の伝説ですか」

「っ、理事長もご存知で!?」

「焼かれた者の中には当学園の卒業生もいます。無論自業自得ですがね。ISを女性権力の象徴と曲解し、レディー・ファーストのような反社会勢力の拡大を助長する愚か者には似合いの最期かと」

 

 淡々と語る姿に戦慄する千冬と楯無。

 確かに一部世間ではIS学園を女性至上主義の温床と揶揄する声もあるが、よもや学園長がそれを認める発言をするとは。

 義務教育より先の学びは原則自己責任だ。千冬もドイツでの経験上、心技体の心については半ば諦めている。

 戦乙女の諦めは他の教師達に伝播する。

 良い悪いの問題ではない。教える側もまた、数字に現れる評価が全て。

 自分達が生活の糧を得るために働いているのだ。

 卒業生の就職先は大半が女権団の支援企業。

 間に大学を挟んだところで同じ。まともな風土の会社ほどIS学園のブランドを敬遠する。

 先述の平手里奈は有事における即応性の確保を主張(建前)、兄や直徒と同じ聖ガブリエル学園に進んだ。

 十年前の贖罪という千冬の志も、気付けば遠い記憶の彼方に消えていた。

 弟の適性発覚と入学で再び火は灯ったが、既に遅し。

 十蔵は倉持直徒という名の毒を受け入れた。

 千鳥の勇姿は三人とも肉眼で見ている。代表候補生が落馬した二号機を素人が僅か一月で馴致するなど夢のまた夢だが、此度の件、愚かな姉妹のみ救われるのは神が許しても御天道様が許さない。

 楯無にはそれが分かる。

 沈まぬ太陽と春雨、はたして戦乙女の腕でも互角に相対できるかどうか。

 

「新たなイカロスを出さないため、我々は今度こそ本気で教え導かねばなりません。でなければ──」

「学園内での人死にを許すおつもりですか!!」

「学園外なら構わないと? ISの現状は兵器。教え子達の悪意に汚れた銃で、悪意に汚れた剣で、未来ある誰かの命が失われることなどあってはならない。白騎士(あなた)も同じ思いでは?」

「……っ」

「更識さん、彼から伝言を預かっています。お気になさらず、と」

「……分かりました」

「では引き続き、二人の(・・・)男性適性者の入学準備を進めてください。本日は以上です」

 

 春の訪れまで、あと少し。




後で良いサブタイが浮かんだら変えるかも。
続くかは分かりません。悪しからず。
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