インフィニット・ストラトス〜還るべき空へ〜   作:PRANA

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待たせたなッ! え、待ってないって!?


破瓜

 花粉管のように伸びた連絡橋を走る一台の車。

 行先に浮かぶのは男子禁制の楽園。既に織斑一夏の侵入を許した胎は二番目の種を受け入れるのか。

 更識が護送したという事実を残すため、ハンドルは虻人が握っている。

 僅か三十分(横浜〜東京)の距離でも旅気分を味わいたい直徒。

 一人目は警視庁が先導したと食い下がる県警には、平手補佐官が総理、公安委員長経由で圧力をかけた。

 面子云々など知ったことか。

 女性による犯罪件数は年々減少(隠蔽)し続けている。前後から撃たれるリスクを背負う方が余程危険だ。

 

「さーて、無事に渡り切れるかな」

「縁起でもねえこと言うなよ。今日は大安でエイプリルフールなんだぜ」

「所々微妙に路面の色が新しいだろ? ISで狙撃した痕だよ」

「……造りが直線の桁橋なのもそのためか」

「俺達は『被害者』でもなければ『幽霊』でもない。まだ花の散った痛みは残ってるだろうけど、誤射は勘弁願いたいね」

「気のせいか? 鬼ヶ島に見えてきたぜ」

「ああ、白雪姫が行くような所じゃない」

 

 平手里奈とは昨晩、電話で話した。

 幼馴染兼商売敵の看板娘。

 新たに獲得した二機を含め、倉持技研のISは全て直徒が兎の臍の緒(コア・ネットワーク)を切っている。

 できるのは周辺の音声を拾うことだけだ。

 自分の父が沈まぬ太陽を売ったと聞いて責任を感じていたらしい。

 何らかの罰を与えた方がお互い早く休めると直徒が下した命は、恋をすること。

 気高さも度を超えれば傲慢。

 彼女の『白』に新たな女性至上主義の聖像(イコン)を見る者は少なくない。

 そして、国家代表という肩書は引退後も死ぬまで当人について回る。

 良くも悪くも。

 恋とは他者の中に己にない価値を認め、欲することだ。

 強引に白で塗り潰すだけなら兎や猪でもできる。

 自分とは異なる色を知る中で他者の世界を尊重することを覚えれば、やがて里奈自身も気高さの中に静謐と余裕を合わせ持つ『魅力的な白』へと変わっていくだろう。

 白馬の王子には出会えないかも知れないが。

 

「国家代表に説教か。偉くなったもんだな」

「彼女がいたから金剛石姫(プリンセス)は約束通り一年で引退できたし、千鳥も無事産声を上げた。銃央矛塵も教師の道に進めた。皆感謝してる」

「本人は貧乏くじだろ」

「だから暇人共の相手(殲滅)は沈まぬ太陽が引き受けてやった。これからも同じさ」

 

 今頃は生徒会長として、聖ガブリエルの壇上で新入生に歓迎の式辞を述べている。

 政官財の子息令嬢が集うエリート校。

 当然偏差値のみならず学費もエリートだが、高い山だけに空気(思想)は麓より澄んでいる。

 鬼ヶ島を蹴った白雪姫もいる。

 たとえ彼女の選択が商人の打算を含むものだったとしても、その行動は間違いなく他の後進達に大きな波紋を呼び、自分達の進む道について冷静に考える切っ掛けを与えたはずだ。

 何のためにそこを目指すのか。

 IS学園でなければ学べないことなのか。

 更識の次女も考えてほしかった。

 打鉄零式を他国や女権団の手から守るために。

 追うなら姉の影ではなく、里奈の背中を。

 だが予想通り、願いは届かなかった。

 

「あなたは無能のままでいなさい、か」

「……思うところはあるだろうが、仲良くしてやってくれ」

家族(所員)を守ってもらうためにね。──それより」

「ああ、分かってる。こっちの膜は」

「破れるのは千鳥だけさ」

「結構」

 

 懐かしい空気が車内を満たしていく。

 入学案内の通りなら、こちらも既に式が始まっている時刻。

 混乱を避けるため遅れて来いとは学園の指示だが、壇上に立つ楯無も、恐らく副担任の銃央矛塵も今は体育館の中。

 不幸な事故が起きるなら今だ。

 ゴール地点に戦乙女が立っていようが関係ない。

 寧ろ自分が女権団の信者なら、神に近付く不届者を排除すべしと考える。

 沈まぬ太陽の伝説を知って尚揺るがぬ忠誠、狂信。

 神の一族である織斑一夏は受け入れよう。

 だが倉持直徒が織斑千冬に会った時、今度こそIS学園という名の花は本当に散る。

 穢らわしい雄の臭いで蹂躙される。

 それだけは断じて許してはならない。

 網を揺らす気配にハイパーセンサーを開くと、十時の方向に花から飛び出す三つの機影が見えた。

 後から追いつく春雨の警告音。

 虻人が隣で驚愕の表情をしている。

 依巫になったことで、十八番の索敵と危機察知能力が更に拡大したか。

 雛鳥は何も言ってはくれない。

 恋と同じで、考えるのを止めてほしくないのだろう。

 

「巻き込んですまない」

「口調がマジになってんぞ。篝火お姉様のデカ乳でも想像しやがれ」

「明乃さんの芸術的なヒップも捨て難いな♪」

「へいへい、心配した俺が馬鹿でした」

 

 倉持直徒は果報者である。

 二秒後、眼前でGNフィールドが敵の三十ミリに細波を立てた。

 

「おし、行ってこい若大将!」

「これが本当のレディー・ファーストってね!」

 

 開いたサンルーフから車外に飛び出し、春雨を纏ってGNハンドガン《篝火》を両手に構える。

 初弾を防がれた虫達は不規則に旋回しながら三方向より車ごと春雨を包囲、アサルトライフルを連射してくる。

 GNフィールド広域展開。

 波は囁く──鬼は外、蚊帳の外。

 青い瞳が指揮官と思しき武者鎧を捉えた。

 反抗期の子供がそのまま大人になったような顔。

 それを見て不敵に笑う朱い三つ編みと雪肌の少年。

 手入れ不足の眉が急角度に跳ね上がった。

 御蔭で目で追わずとも敵意の位置が分かる。

 VRより実戦の方が楽とは、これ如何に。

 

「やっはろー♪ 倉持技研の御坊ちゃまに打鉄を向けるとは、いいセンスだね」

「黙れ異端者め!」

「神聖なISに男が乗るなど汚らわしい!」

「我々の世界を脅かす不届者に天誅を!」

 

 再び銃弾の雨。

 社名で借りたレンタカーに傷が付けば始末書だ。

 だが、付き合わせた相棒をお荷物に防戦一方など論外。

 加えて眼前の三匹を生かして返せば、今後の『時は金なり』に悪影響が出るは必至。

 冗談ではない!! 

 倉持直徒は商人である。

 入学式こそ不参加だが、四月一日を迎えた時点で既に規定上は学園の生徒。

 免責特権も、ISの任意使用権限も有効。

 あとは舞台の幕が上がるのを待つのみ。

 

「最後の警告だ。邪魔すると……殺しちゃうぞ♪」

「くそッ、くソッ、クソッ!! 何なのよあの堅いバリアーは!? 更識の小娘が乗ってた時の動画じゃ、あんなの──」

「ああもう鬱陶しい!! このままじゃ学園に入られちゃうじゃない!」

「奴は仲間を庇って動けない……なら、一斉にかかれば! ──早乙女先生! 愛美!」

「ええ、合わせるわよ!」

「男風情が! 串刺しにしてやるわ!!」

「若大将、俺にはちゃんと聞こえたぜ」

 

 その声で狩人は引金を引いた。

 疾風の噴き始めにGNハンドガン。

 瞬時加速にタイミングを合わされ、防御も間に合わず三拍子(ワルツ)の外へ弾き出されるラファール。

 回る景色、明滅する視界、男に一撃喰らわされた怒り。

 それでも早く体勢を立て直さねばと己を叱咤する中、仲間の声に混じって『燐』と流星が駆け抜けるような音を聞いたのを最後に────愛美という少女の刻は止まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 気が付くと、胸から下が無かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「……え?」

 

 GNバスターソード《夢斬》。

 太陽炉搭載型の推力にISの瞬時加速を乗せた、まさに刹那の一閃。

 絶対防御とて防ぎ切ることは叶わない。

 斬撃特有の力の凝縮が、少女の体を機体ごと真っ二つに切り裂いた。

 

「あっ……あぁぁあああアアアアアアアっっっ!!??」

「いやあああっ!? 愛美いいいいっっっ!!!」

 

 悲鳴を上げ、血液と臓物を撒き散らしながら深緑が海に落ちていく。

 それを抱き留めようと追いかけるもう一機のラファール。

 美しい友情だが、御蔭で暫しの間打鉄と一対一。

 即死させれば割り切られる可能性があった。

 倉持直徒は兵士である。

 怒りの形相で七時の方向から迫る武者鎧を篝火で牽制。

 間一髪で避けるも、正確な狙いの背面撃ちに驚愕する教師。

 沈まぬ太陽の伝説は聞いていたが、何故空でもこれほどまで戦い慣れているのか。

 明らかに異常────ここにきて首謀者早乙女梨香はようやく、自分達が狩られる側であることを認識、恐怖した。

 だが、最早後には引けない。

 配下の生徒を操り謹慎中の寮を脱走、アリーナの格納庫より訓練機を持ち出した時から。

 二ヶ月前、当学園の試験会場で監督官の職務を忘れ爪塗りに熱中、迷い込んだ一人の少年をISに触れさせたあの日から。

 レディー・ファーストの若き幹部でありながら自分達の世界を脅かす男性適性者の出現を幇助、地位も権力も全て失ってしまった、あの日から。

 

「太陽に近付く者は、皆燃え落ちる。──アンタも無に帰りな」

 

 得物をGNビームサーベル《陸奥》に持ち替えた緋い悪魔が、ゆっくりと振り向く。

 あの日から、女神は死にゆく運命にあったのだ。




初の戦闘回、いかがだったでしょうか。
橋のイメージは東京湾アクアラインです。
中途半端ですが、視点を変えるためここで一区切り。

続くかは分かりません。悪しからず。
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