投票の結果、セルジオとなのはの恋人ifでした。
イノセントのアミタヒロイン、クリスマスパーティを押しのけての一位でした。
これは番外編です。
二章を終わったあたりに読むと良いかもしれません。
聖夜をあなたと
窓からさした光になのはがもぞもぞと身動ぎをした。その身体は完全に大人と言い難いながらも、膨らんだ胸や括れた腰はしっかりと女性的魅力に満ちている。
いつもはサイドポニーでまとめてある栗色の艶やかな髪が流れるように頬を撫でた。
「ん、にゃ……」
すっかり冷たくなった冬の気配を感じさせる外気から逃げるように手を伸ばして、近くにいるはずの存在を探す。未だ眠さで開かない目のまま手探りすれば、どうやらなのはに背を向けて寝ているらしい。
なのはが布団の中で自分よりか幾分大きな背中に身を寄せて、はにゅうと安心したように声を漏らした。
顔は見えないが触れ合う背中から温かさが伝わってきて、柔らかい眠気がまたなのはのことを占拠する。
「……ん」
「あー」
だが、そのタイミングを狙い澄ますようにベットの端に置いてある目覚まし時計がやかましく鳴り始めた。
(起きちゃった、かなぁ)
なのはが引っ付いていた人物は身を震わせると手を伸ばして時計を止めるとむくりと半身を起こした。
がりがりと癖のある淡い金髪を掻いた彼は未だ眠気の宿る翠の目でまだ眠たそうななのはに目を向けた。
「……おはよう、なのは」
「んー、おはよう、セルジオくん……」
二人の間で名前と名前が呼び交わされる。けれど寒さのせいかどちらも反応は芳しくなく、気を抜けば二度寝しそうであった。
セルジオが欠伸を噛み殺してベットから抜け出した。素足で触れた床が冷たくて体がびくりと震えたが、そのおかげか思考が随分回り始める。
「なのは、早く起きろ。今日出かけるんだろう?」
「だけどまだねむいのぉ……」
「けどいつまでもベットにはいれないだろう。ほら起きろって」
「やだぁ、寒いもん……」
「冬は寒いもんだ。我慢しろ」
「じゃあセルジオくんがリビングまで連れてってよ……」
「……仕方ないな」
まだ半目のなのはが、ん、と手を伸ばすと、セルジオが呆れたようにため息を吐いた。だが、その表情は柔らかく、どちらかと言えばなのはの我儘を喜んでいるようにも見える。
両手を伸ばすなのはをひょいと横抱きにして抱える。
「えへへ、お姫様だー」
「これが一番効率的なだけだよ」
ほにゃと笑ったなのはがセルジオの首に手を回すと、セルジオの鼻孔をなのはの花のような芳香がくすぐった。鎌首を持ち上げそうになる劣情をぐっと抑えて、リビングへと歩みを進める。
なのはを抱いたままリビングに入るとソファに下ろしてブランケットをかけてやるとエアコンの暖房をつける。
「まだ、寒いな」
だが冬の冷気はそんなものですぐさま和らぐほど容易い敵ではない。ふむ、と唸ったセルジオは、ソファの近くに置いてある電気ストーブをつける。
するとぼんやりと中に赤い光をたたえて、ストーブから熱気が漏れ出してくる。これで部屋が温まるのが早くなるのは間違いない。
「お、お、おっと」
ストーブから離れようとしたセルジオだったが、その抗いがたい温かさからストーブの前で座り込んでしまった。
「うーん、冬のストーブには恐ろしい魔力がある……」
「ずるい! 私も寒いのにー」
「俺は悪くない。冬が寒いのが悪い」
「じゃあ私もあったまるー」
「あ、こら俺が入らなくなる」
なのはがブランケットを肩に乗せたままソファから歩いてきてストーブの前で座って熱気を独り占めしようとする。それをセルジオが軽く押して場所を取ろうとするが、なのはの方も譲る気はないようでぐいぐいと抵抗する。
しばらくの間、セルジオとなのはがストーブの前で温かさを独り占めしようと押し合う。
「セルジオくんも強情だね」
「なのはがそれを言うか」
「ねえねえ、お兄さん、かわいい恋人に譲る気はないですか?」
「俺も寒いのでこれは譲れませんね、お嬢さん」
「おねがいっ!」
「可愛く言ってもダメです」
「むう」
「……可愛いけど譲らないぞ」
「むー、なら」
なのはが頬を膨らませたが、なにかを思いついたのか立ち上がるとストーブの前に座るセルジオの前に立った。
「……何をする気かな高町」
「こうするのっ。えいっ」
なのはがセルジオの足の間に尻を落とすと、背中をセルジオの胸に預ける。
艶やかな長髪を揺らしたなのはが悪戯っぽい笑みを見せながら、セルジオの肩に頭を乗せて至近距離から見上げた。
「これなら二人で一緒にあったまれるね」
透き通ったその瞳はアメジストのようにきらきらと輝いているようにも見えた。
「……あざといやり直し」
「といいつつ、胸は随分煩いみたいだけど?」
「気のせいだ」
「またまた、セルジオくんは強がってー」
セルジオの胸に背中を預けたなのはがくすっと笑みをこぼした。
「ほんとは、すごくドキドキしてるでしょ?」
「ほう、年上をからかう子には罰が必要だな」
「きゃー、おそわれるー」
なのはの指がつつと首元をなぞると、セルジオは冗談めかした口調で腕の中の恋人の肩を引き寄せて強く抱きしめた。
ふわり、とまた立ち上った花のような香りに意識が侵食されてふわふわ揺れるような気がする。
抱きしめられているなのはが楽しそうに笑って、そっとセルジオの手に自分の手を重ねた。
「朝ごはん、どうしようか」
「軽くでいいよ。どうせこの後は出かけるんだし、ちょっといいところで昼ごはんでも食べよう」
「そっか、せっかくのクリスマス、だしね」
「ああ、せっかくのクリスマス、だしな」
合わせられた手を握り返してくすりと笑みをこぼした。
部屋はまだ寒かったはずなのに二人で身を寄せ合っている今は、何故かそのことが全く気にならなかった。
クリスマス。それはなのはの故郷である地球にある文化だ。もちろん、ミッドチルダには一管理外世界の行事であるクリスマスはないが、偶然にも聖王生誕祭が同じ時期にあっているため、最近では地球に理解のある人には『クリスマス』で割と意味が通じたりする。
昔はもっと厳かなベルカだけのイベントだったが、少し前に一部企業がマーケティングに組み込んでから、ミッドチルダ全体でも祝われるようになった。
最近ではイルミネーションで街を飾り、家族でご馳走を食べたり、恋人と過ごしたりする日、というイメージが強い。
つまり、最近のクリスマスはミッドチルダも恋人たちで賑わっており、セルジオとなのはもその中の一組であった。
街路樹を飾る無数の光が夜を賑やかに照らす中、なのはとセルジオは二人で並んでクラナガンの街を歩く。
「イルミネーション綺麗だねー」
「すごい数だ。電気代凄そうだな」
「あ、ケーキ。一ホールだと安くなるんだって」
「ケーキならシロウさんから貰ってきたろ。昨日なのはが持ってきたじゃないか」
「むー、セルジオくんって絶妙に女心わかってないよね」
「…………?」
「あー、そのほんとにわかってない顔。悪気ないから手に負えないよね」
「つまり、俺が何かしたのか?」
「べっつにー」
はあ、と大仰にため息をついて頰を少しだけ膨らませるなのは。どうやら何か腹に据えかねることがあったらしいのだが、セルジオには何が悪かったのかはわからなかった。
一先ず隣の恋人の姿を観察してみる。わからなければ推理するだけだ。
(……よしわからん)
少し頭を悩ませてみたが女心に疎い彼の頭脳はこの状況を解決する方法を教えてくれなかった。
セルジオも今年で二十五歳だが、その女心に関する理解は十七歳の頃からほとんど変わっていないようだ。なんて残念な奴。
なので、取り敢えず隣で不満そうに揺れていた手を握ってみる。
「……ご機嫌取り?」
「いや寒そうだったから」と言葉にして、すぐに「いや、嘘だ」と言うと、次の言葉を続けた。
「本当は俺が繋ぎたかったんだ」
なのはがまじまじと繋がれた手を見て、くすっと笑った。
「ふふ、随分素直だね」
「合格か?」
「うん、合格ですっ。許してあげる」
嬉しそうに手をぶんぶんふるなのはにセルジオも思わず笑みを漏らしてしまう。
なのはの柔らかい手の感触。そこから伝わってくる彼女のぬくもり。その全てがどうしようもなく得難いと思っていたもので、今のセルジオにとってたまらなく愛おしい。
だから、なんとなく昔していたようになのはの頭を軽く撫でてしまう。
「可愛いなぁ、なのはは」
「にゃ、こ、子ども扱いしないでよ!」
「子ども扱いなんてしてないよ。大切な恋人扱いしてるんだ」
「こ、言葉を変えてもダメ! ちょっとときめいたけど、人前で頭撫でるのはダメです」
「なら家でならいいのか?」
「……からかってる?」
「バレたか?」
「……やっぱり子ども扱いしてる」
「まあ、24と18じゃあなぁ……」
ふ、と頰を緩めるとなのはが半目でじとっとセルジオを睨んでいたが、えいっと小さな掛け声を出してセルジオと腕を絡めた。
ふよん、なのはの年の割に大きな胸がセルジオの肘に当たった。
「……なのはさん胸が当たってます」
「当ててるんです。これで子ども扱いできないでしょ」
「わかった、わかったから離れろ。少し心臓に悪い」
「だーめ。セルジオくんがちゃんと私の事を対等に見てくれるまでこのままです」
「……顔赤いぞ。恥ずかしけりゃやめればいいのに」
「さ、寒いからだもん! は、恥ずかしくなんてないよ!」
ふふん、と得意げな表情を浮かべるなのはの顔は赤い。それはきっと外が寒いせいだけではない事は明らかだった。そもそも胸を当てているせいでセルジオは腕を通してなのはの心臓の鼓動が伝わっているので、誤魔化してもあんまり意味はなかったり。
ほう、とセルジオが息を吐くと、呼気が外気の冷たさのせいで白く変わり、きらきらと細かく光って空へと立ち上るようにして消えていく。
なんとなく、セルジオがそのまま空を見上げた。
いつもは薄く見える星は今はイルミネーションの光のせいか随分と淡い輝きになってしまっている。
星の光。いつかセルジオがなのはの魔法を見て連想して光だった。
「セルジオくん?」
「ん? どうかしたか」
そんなセルジオの様子を不思議に思ったのか腕を組んでいるなのはが小さく首を傾げた。
「なんとなく、何か考え込んでみたいに見えたから」
「んー、まあ、ちょっとな。なのはと出会ったときのことをな」
「ていうと……、8年前?」
「もうそんなになるかぁ」
セルジオが隣にいるなのはと、もう記憶の中にしかいないちいさななのはとを比べてみる。
栗色の髪と水晶のように澄んだ瞳は変わらないが、スタイルも、髪型も随分変わっている。何よりその関係も、八年前とは大きく変わってしまっている。
「まさか、六つも年下の子と付き合うことになるとはな」
「……そう聞くともしかして私達って結構年の差あるのかな」
「まあたぶんな。俺散々ロリコン呼ばわりされたし」
「う、それはなんかごめんね」
「いいんだよ、それ言われるとしてもお前が好きで一緒に居たいって思ったんだから」
「──そ、そそそ、そっかぁ」
さらり、と言われた言葉になのはの顔が赤みを増したが、当のセルジオは空を見上げているせいか全く気づいていない。
しばらくの間腕を組む二人の間に沈黙が訪れた。
「随分と、遠いところまで来たな」
ぽつり、とセルジオが沈黙を破る言葉を漏らした。その言葉になのはの表情がふっとフラットに戻り、そして柔らかいものへと変わった。
「セルジオくんと二人だから来れたと思うな」
「……俺もそう思うよ、なのは」
なのはの言葉をセルジオが薄く笑みを浮かべて肯定すると、またゆっくりと歩き始める。
「ねえ、そう言えばお父さんが今年の年末はセルジオくんも連れてないのかーって、言ってたよ」
「え、俺か?」
「うん。『そろそろ挨拶に来る頃合いじゃないか?』って言ってたよ」
「う、やっぱ末娘に手を出してるんだもんな、本腰入れて挨拶には行かなきゃだよな……」
「あ、それか、隊長のところにご挨拶でもいいんじゃないかな」
「ゼストさ──
「まだ呼び方治ってないんだ。私が『お義父さん』って呼ぶまでには治してね」
「ぜ、善処しよう」
イルミネーションの光の中をセルジオとなのはが腕を組んで歩いていく。その後ろ姿は、どこか初々しくも、けれど安心しきったように互いのことを支え合っていた。
「あ、そうだセルジオくん、まだ『アレ』言ってないよ」
「『アレ』……? ああ、そう言えば朝言ってなかったな」
なのはが春の花のようの鮮やかさの笑みをセルジオに向けて、セルジオもまた彼にとって最大限優しい笑顔をなのはへと向けた。
「メリークリスマス、なのは」
「セルジオくんも、メリークリスマス」
ふ、とセルジオが、なのはがくすっと、小さく笑い声を漏らす。
数多の人工の星から照らされた光に、二人の胸元の揃いの星のネックレスが反射して、きらりと光って揺れていた。
正直前半の寝起きでのイチャイチャが書きたかったんや。
まあ後一時間ありませんけど、皆さんメリークリスマス。良き日をお過ごしください。作者は今から一人でケーキ食いながら執筆するんで(半ギレ)。