Force Detonater   作:世嗣

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誤字報告してくださる方ありがとうございます。



旧友

 

「首都航空隊?」

 

「そうだ」

 

 セルジオと並んで歩くなのはが首をかしげる。

 

「名前くらいは聞いたことあるだろ?」

 

「それは、一応勉強してあるけど」

 

 首都航空隊。

 

 セルジオたちの属する航空魔導隊と良く似た部隊名を持つが、その実態は全くの別物である。

 

 航空魔導隊の方は地上本部所属の部隊であり、後見人には提督であるレジアス・ゲイズがついている。

 コンセプトとしてはフットワークの軽い部隊を作ることで、人員が足りなくなったところへの助力を送る、というもの。一課と二課は比較的警邏や、航空防衛に赴くことが多いが、三課は比較的このコンセプトが強く反映されて居たりする。

 

 対して、首都航空隊は『管理局本局』に属する部隊である。預かりとしては、地上本部になることもあるが、原則本局の局員で構成される。

 どちらかという魔力ランクや魔導師ランクではなく、現場での対応力に重きを置いた三課などとは違い、入隊するのにも最低魔導師ランクと魔力ランクがあるというエリート集団。

 現在の世界の中心であるとすら言えるミッドチルダ、特に首都クラナガンを守る事が使命である。

 

 記憶していたことをセルジオに伝えるなのは。セルジオはそれを聞くと満足そうに頷きながら頭を撫でてみると、なのはは髪が乱れる!と怒った。

 

 少ししゅんとするセルジオだったが、すぐに切り替えて話を続ける。

 

「原則首都航空隊の人たちは俺たちに助けは求めないんだが、珍しいこともあるもんだ」

 

「そうなの?」

 

「おう。あっちはウチのこと好きじゃない……いや、濁すのはやめるか、嫌いだからな、三課」

 

「おんなじ管理局の部隊なのに、変なの」

 

「まあ、言っちまえば海と陸の縮図みたいなもんだしなぁ。それに、あっちの主力はエリート、こっちは叩き上げのベテラン。噛み合うはずねえんだなぁ……」

 

 あはは、と苦笑い交じりにいうセルジオだが、なのははまだいまいち納得がいかない。

 

「力が足りないなら協力するのが一番だよ。一人より、二人、二人より、もっとたくさんの方ができることも増えるよね」

 

「みんなが高町みたいにあれればいいんだろうけどな」

 

 そして、また困ったようにセルジオが笑う。

 

 なのはの言う事は、誰でも心の底から協力できる、と信じているからこそ出てくる言葉だ。しかし、現実はそうではないのだ。

 相手を妬み、足を引っ張り、手柄を取ることに躍起になる。大人になればなるほど、そんな傾向が強くなる人も出てくる。

 子どもの頃、あんなに容易くできていたことなのに。

 

 なのはの考えは、心の在り方は美しい。間違っていることではない。

 しかし、それが遠い夢のように聞こえるならば、きっと今の現実は汚く、醜く、そして残酷だと、そう言うことなのだろう。

 

「みんな、ミッドチルダの事を守りたくないのかな」

 

 不思議そうに言ったなのはの言葉にセルジオが一瞬目を見開いたが、すぐに緩めて空を見上げた。

 

「きっと、みんな『管理局』って組織でしたい事が違うんだと思う。こんだけでかいから仕方ないよな」

 

 きっと管理局の局員一人一人、「あなたの管理局でしたい事はなんですか?」と聞くと、それぞれ別のことを答えるだろう。

 昇進とか、給料とか、平和とか、まあ千差万別だろう。それが、当たり前だ。そうあるのが普通だ。

 

 セルジオが空を見上げたまま、でもさ、と言葉を続ける。

 

「目指すものは同じなはずなんだよ。根本的なところまで突き詰めれば、俺たちは同じものを目指しているはずなんだ」

 

「俺は、そう思う」と、言葉で締めくくるとしばらく空を見上げて黙り込んでしまう。

 

(何を考えているんだろう)

 

 その瞳が何を見ているのか、ではセルジオ何を目指しているのか、などとはなのはには聞けない。

 

 それを理解するにはあまりにもなのはとセルジオの距離は遠い。

 

 身長も、心も。

 

 ただ、なのはは風に運ばれてくるセルジオの声が、ひどく寂しそうに、泣きそうになりながら、話しているような気がしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◇◆

 

 

 

 

 

 

「なにあれーーーー!」

 

「こらこら、高町落ち着けって。ここは三課じゃないんだぞ」

 

「だってだってだって〜〜!」

 

 場所は変わって首都航空隊の隊舎、その部隊長室から出てしばらくした廊下。

 そこでセルジオは必死になのはを宥めていた。

 

「セルジオくんは腹が立たないんだ」

 

「いやまあ、そりゃ俺も思うところはあるが……悪い人じゃなさそうだったじゃないか」

 

「セルジオくんは誰にだってそういうからダメだよ!」

 

「えぇ……、俺にどうしろと……」

 

 事の発端はセルジオとなのはが部隊長に挨拶に行った時のことだった。

 

 首都航空隊の部隊長はセルジオの顔を見るなり、またお前か、とでも言いたげな表情を浮かべた後、隣のなのはを見て、なんだ子供か、と呟いた。

 この時点でなのはは多少ムッとしていたのだが、いちいち目くじらをたてるほどなのはも子どもではない。いや、年齢的には子供なので部隊長の言葉も間違っているわけではないのだが。

 

 その後、軽い挨拶と自己紹介をした後に今回の任務の確認をしようとして、部隊長から「また手柄の独り占めか、ハイエナ部隊」と言われると、もうなのはは我慢ならなかった。

 

 自分が悪口を言われるのならば耐えられる。しかし、あの優しい三課の人たちが文句を言われるのは耐えられなかった。

 

 流石に一言くらい物申してやろうとしたのだが……。

 

 ──駄目だよ、高町。

 

 ──言われて嫌なのはわかる。俺だって嫌だ。

 

 ──でもだからと言ってそれはお前がやるべき事じゃない。

 

 ──同じところまでお前が降りて言い争う必要はないよ。

 

 と、念話で諭されて止められてしまった。

 

 そう言われてはなのはも引き下がるを得ず、あとはセルジオに任せて大人しくしていたのだが、出るわ出るわ嫌味のオンパレード。

 

 その迂遠な言葉の数々は一月分の日めくりカレンダーにしてもまだ余裕があるほどの数であった。

 

 やっと話──要約すると「詳しい隊員をお前達の説明につけるから邪魔すんなよ」という事──が、終わり部隊長室を後にすると、ついになのはが怒り出した、そういう事だ。

 

 ひとまずセルジオに宥められて文句を言うのはやめたものの、未だ頰を膨らませて怒りをにじませるなのは。その白いリボンで結ばれたツインテールも、怒りのあまりぴょこぴょこ揺れていた。

 

 そのあんまりもな怒りようにセルジオは思わずくすり、と笑いをこぼしてしまった。

 

「なんで笑うの。()()()がバカにされたんだよ」

 

「──いや、悪い。案外高町は俺たちを好きなんだなぁ、とな。他意はない」

 

「そ、そんなの当たり前だよ。みんな優しいし」

 

 少し頰を赤くしながらそっぽを向くなのは。いつもよりも答えも歯切れ悪いことから照れていることが丸わかりだった。

 

「それに──」

 

「それに?」

 

「いや、何でもない。気にしなくていいよ」

 

「言いかけて止めるのやめてよー。それって一番気になるんだよ」

 

「はっはっはっ」

 

「笑って誤魔化さないで〜〜!」

 

 本当は、「それに三課を私たちと言ってくれた事が嬉しかった」という事を言おうとしていたのだが、途中でやめてしまう。何故だかわからないが、言ってしまうと気恥ずかしくなるような気がしたのだ。

 

 取り敢えずなのはの頭を撫でながら詰問をのらりくらりとかわしていると、背後からためらいがちに声がかかった。

 

「あのー、すみませんが、そういうのは三課でやって頂けますか」

 

 言われて二人ともここが他の部署だという事を思い出す。なのはがそそくさと離れて、セルジオはこほん、と咳払いを一つ。

 

 そして、声を掛けてきた人物に、にこやかな笑みとともに挨拶をしようとして、目を丸くした。

 

「なんだ、ティーダじゃないか」

 

「そうだよ。久しぶりだね、セルジオ」

 

 そう言って爽やかな笑み浮かべるオレンジがかった茶髪の男性──ティーダは、セルジオと軽く拳を合わせる。

 

 落ち着いているがどこか捉えどころのないセルジオとは異なり、ティーダは常に笑顔を絶やさない爽やかな雰囲気のある好青年、と言った感じだ。さぞかし女にモテることだろう。

 

「ここにいるってことは、俺たちへの任務の説明とかをしてくれるのはティーダって認識でいいのか?」

 

「それで構わないよ。加えて、一応ウチとの橋渡しと、任務の手伝いも俺の仕事かな」

 

「もしかして俺が来るって知っててこの仕事引き受けたのか? だとしたら大したもんだよ」

 

「いや俺も誰が来るかなんてはわからなかったけど、セルジオがいるのは知ってたから。最悪お前が来なくても、話題には困らなかっただろうね」

 

 そこまで話してセルジオは隣のなのはが置いてけぼりになっていることに気がつく。

 

「高町、この優男は──」

 

「挨拶なら自分でするよ、セルジオ」

 

 ティーダが身長の低いなのはと視線を合わせるために膝をつくと、人に好かれそうな爽やかな笑顔を浮かべた。

 

「俺はティーダ・ランスター。階級は空曹長。セルジオとは一応、友達って事になるかな?」

 

「一応は余計だ、一応は」

 

「じゃあ普通に友達。君の名前は?」

 

「高町なのは一等空士です。セルジオく──アウディ三尉とは、コンビを組ませて貰ってます。よろしくお願いします、ランスター空曹長」

 

「ティーダでいいよ、なのはちゃん」

 

「で、でも……」

 

「堅苦しいのは苦手なんだ。俺を助けると思って、ね?」

 

「じゃあ、よろしくお願いしますティーダさん」

 

 なのはが明るい笑みを浮かべてティーダの差し出した手に応じる。

 

 するりと相手の名前を呼んで、あっという間に握手までかわしてしまった姿をみてセルジオが何とも言えない気持ちにもなる。

 

(俺もまだ高町呼びなんだがな)

 

 別にそこに何かを感じるわけではないが、なんか、こう、もにょるのだ。

 

 なので取り敢えずなのはに言葉を投げかけとくことにする。

 

「そいつシスコンだぞ、高町」

 

「え、シスコンさんなんですか……」

 

「いや、それ今関係ないだろ、セルジオ」

 

 え、と少し驚くなのはと、呆れるティーダ。そんな表情すらも爽やかさが隠れてるのに、セルジオはイマイチ釈然としない感情を抱える。

 

 セルジオが微妙な表情をしていると、その珍しい表情を見てなのはが不思議そうにセルジオを覗き込んで来る。

 

「セルジオくん怒ってる?」

 

「別に、普通だ」

 

「嘘だよ。だってセルジオくんがそんなむすっとした顔……」

 

「気のせいだ」

 

「でも……」

 

 それ以上セルジオはなのはに取り合うことなくティーダへと向き直る。するとそこには少しばかり意地悪そうな笑顔を浮かべる友人の姿が。

 

 ぐいっとティーダがセルジオの首に腕を掛けて自分よりも高い位置にある頭を低くさせながら肩を組んだ。そしてなのはに一瞬視線を送ってから、音量を低くして話し始める。

 

「別にお前の大切な相棒をとったりはしないさ」

 

「高町にそんなこと考えたりしてない」

 

「へえ、珍しく相棒云々は否定しないんだな」

 

「クロノに任されたから面倒を見る義務がある。それだけだ」

 

「ふーん」

 

「というか、そろそろ任務の話だ。いつまでも油売っとくわけにもいかないだろ」

 

 ティーダの腕を払うとそう言うセルジオ。

 

「それもそうか。会議室抑えてるからそこでいいか?」

 

「ああ。高町も良いよな?」

 

「え、うん」

 

 なのはが頷くとセルジオはティーダを小突いて案内を促した。

 

 そんな、珍しく不機嫌そうなセルジオをなのはなおも不思議そうに見つめていた。

 

 

 

 

 

 

 

◆◇◆

 

 

 

 

 

 今回の任務、発端はあるテロ組織が動こうとしているという情報をある捜査官が掴んだことから始まる。

 調べていくうちに、組織の規模や人員構成、そして狙いはクラナガンであるという事がわかってくる。そこまでわかればもう一捜査官の案件ではなく、首都航空隊の案件となってくる。

 

 行おうとしているのは大規模な爆弾テロ。狙いはビル、ショッピングなど合わせて三つで、そこで爆弾騒ぎがあれば人が何人死ぬかなどわざわざいう必要もない。

 

 故にさっさと潜伏場所を潰そうとしていたのだが、ここにどうやら何体かのガジェットドローンがいるらしいということがわかる。

 首都航空隊はエリートの集団なため、部隊長もまさか機械兵ごときに負けるとは思ってはいないが、かといって相手にしていてテロ組織の構成員に逃げられても事だ。

 

 そのため、ガジェットドローンを相手にする人間が欲しかった。そして、白羽の矢が立った部隊があった。

 

「それが、俺たちというわけか」

 

「まあそういうこと」

 

 会議室でひとしきりティーダから任務の説明を受け終わると、セルジオはなぜ今回仲の悪い首都航空隊が依頼をしてきたのか大体の思惑を理解した。

 

「ティーダ」

 

「ん?」

 

「これは随分賢い使い方だな。人の動かし方をわかってる」

 

「気を悪くしたなら謝る。でもこれが部隊長の意向でさ」

 

「いや問題ない。人を守る、という目的ならこれが一番だな」

 

 すこし申し訳なさそうに眉を歪めるティーダに、セルジオは薄く笑って応じる。そんな二人の会話の意味がわからなかったなのはが首を傾げた。

 

 その様子に気づいたセルジオは、腕を組んでなんといったものか、と思案する。

 

「えーとな。今回の件は、主導は首都航空隊になるから、俺たちはその手伝いって感じなんだけど、それはわかるな」

 

「うん」

 

「そんで俺たちが相手にするのは機械兵、仮称ガジェットドローン。というかそれしかさせてもらえないだろうな」

 

「それの何がダメなの?」

 

「いや、駄目というかなんというか……」

 

 なのはの問いかけにセルジオがなにやら言い澱みながら、ティーダの方に視線を向ける。

 ティーダはそれだけでセルジオの意思を汲み取ったらしく、いいよ、とでも言うようににこりと笑った。

 

 ティーダから許可をもらったセルジオがなのはに向き直る。

 

「簡潔に言うと俺たちは今回タダ働きだ」

 

「え? お給料が出ないってこと?」

 

 いつもいっぱいもらってるし、一回くらいなら全然いいけど、となのはは思うが、セルジオはそうじゃないと言わんばかりに首を振る。

 

「そうじゃなくて、今回俺たちになにも手柄はないだろう、って事だ」

 

 ティーダの説明と、その後の会話から判断する限り、部隊長は、セルジオたちにガジェットドローン相手に時間稼ぎをさせてその間にテロ組織の構成員の検挙などを行うつもりだろう。

 そうなると事件が解決した際でもセルジオたちの手元にはガジェットドローンの相手という結果しか残らない。

 わざわざ出向いてきたのに上がった功績がそれだけではあまりにも割に合わない。

 

 だから、セルジオは『タダ働き』という表現を使ったのだ。

 

「まあだから最悪俺たちは骨折り損のくたびれもうけになるかもって事だ」

 

「それっていいの? 独り占めなんてずるいよ」

 

「まあそこが今回の部隊長さんの運用のうまいとこだな。三課にやってもいい功績の最低ラインをついてきた感じだ」

 

 部隊長、と言われて先程あった偏屈そうな人を思い出して、なのはの中の怒りがふつふつと再燃しだす。

 

「またあの人……。そんなに意地悪ばっかりして、そんなに手柄が欲しいのかな」

 

「あはは、ウチの隊長上昇志向強いからなぁ」

 

「あ、ご、ごめんなさいっ! ティーダさんの上司さんなのに」

 

「いや良いよ。隊長が君たち三課に厳しいのは本当のことだし。此方こそ嫌な思いをさせてごめんね」

 

 聞き様によっては自身の上司の悪口と取れる言葉だったが、ティーダは笑って流してしまう。

 もしかしたらティーダも部隊長には何か思うところがあるのかもしれなかった。

 

「まあ、任務の件は了解だ」

 

「悪いな」

 

「気にするな。テロ事件となれば、俺たちが手を貸さない理由はないさ」

 

 ふ、と軽く笑ってセルジオが制服の胸ポケットの中にある古びた懐中時計を、制服越しに触った。

 

「無意味に人が死ぬのは、本当に、本当に、許されない事だから」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 





首都航空隊と航空魔導隊三課の違いがわかりにくければ、ざっくりと前者は『本局』、後者は『地上本部』ってだけ思ってもらえてれば良いです。

執務官を目指すティーダは首都航空隊で仕事をしながら現地で経験を積んでいる段階です。おそらくぼちぼち執務官試験を受け始めている頃合いでしょう。

みんな今なのはの周りにいるの軒並み原作で死亡キャラだって覚えてるかなぁ……

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