ティーダが近くの自販機から買ってきた缶ジュースをなのはへと差し出した。
「はいどうぞ、なのはちゃん。俺の奢りね」
「あ、ありがとうございます、ティーダさん」
「ん。年下にジュースの一つくらいは当たり前さ」
今二人がいるのはここ数日はなのはたちの待機場所となりつつある会議室である。
セルジオとなのはが首都航空隊に出向してから数日間は大きく任務が動きだすことはなかった。
そのせいで嫌われ者の三課、部隊長の言葉を借りれば「ハイエナ部隊」であるところの、セルジオとなのはは大変肩身がせまい思いをした。
訓練も一応首都航空隊との合同なのだが、これがなかなかきつい。肉体的なものではゼストやクイントのしごきの方がきついのだが、精神的なものではそれを凌駕していた。
まだ幼いのにAAAランクあるなのはと魔力ランクB+のセルジオでは首都航空隊のコンセプトにはあまりにもあっていない。煙たがられるのも無理はない。
もちろん中にはティーダのように接してくれる人もいたが、それもごくごく少数だった。
だから、ついに部隊長からテロ組織のアジトへの突入を通達された時は、感極まってなのはとセルジオは隠れてハイタッチしたりしたのだが、それを知る人は本人たち以外にはいない。
ティーダはなのはと手渡したのとは別の缶コーヒーを手元に置くと、自分の分の缶コーヒーのプルタブをあける。
なのはも同じように缶を開けて一口飲むと、壁にかけてある時計へと目を移す。
(セルジオくん、遅いな)
セルジオが部隊長と任務の詳細を話し合いに行ってしばらくの時間が経つ。ティーダと二人きりが嫌なわけではないが、最近の仕事は大体いつでもセルジオがいたので、ちょっと変な感じがしていた。
「セルジオのこと考えてるでしょ、なのはちゃん」
「えぇっ?! な、なんで?」
くすり、とすこし笑いを漏らしながらティーダが問いかけてくる。それが丁度、無理にでもついていけばよかったかなぁ、となのはが驚きのあまり声を上げてしまった。
一瞬ティーダは目を丸くしたが、すぐにまた面白そうに笑いをこぼす。
「ふふ、勘、かな」
本当は先程からわかりやすく何度も時計と部隊長室のある方角へと視線を行き来させているため、見ていれば誰にでもわかることだったが、敢えてそれを言わないティーダ。
それは優しさと気遣いでもあったし、からかいの意味も込められていたりした。
「なのはちゃんは結構セルジオの事好きなんだね」
「べ、別に好きとかじゃ……」
「おっと、ごめん言葉が足りなかった。セルジオの事パートナーとして、好きなんだね」
「…………ティーダさんってすこし意地悪って言われませんか」
「うーん、妹にはよく言われるかな」
からかわれたのだ、という事に気付いたなのはがじとっとティーダを睨むが、ティーダは柔らかく笑みを返すだけだ。
そんなティーダの表情になのはが毒気を抜かれたようにため息をついた。ちらり、と時計を見るが針はほとんど進んでおらず、セルジオはまだ帰ってこない。
「そう言えばセルジオくんとティーダさんは随分仲がいいですよね。どこで知り合ったんですか?」
そこでふと以前からの疑問をティーダに尋ねてみる事にする。
「んー、なのはちゃんはセルジオが士官学校の出だって言うのは聞いてる?」
「あ、聞いてます。クロノくんとかとルームメイトだったって」
「お、クロノの事も知ってるのか。なら話は早い。学生時代、俺とセルジオとクロノと、あと一人後輩とでよくつるんでいたんだよ」
ティーダは更に、クロノとセルジオが同級で、俺は一つ下、と付け加える。
「セルジオは学生時代から変な奴でさ。魔力は平均的なのに、頭と成績は良かったから悪目立ちしてたよ」
「ああー、それはなんかセルジオくんって感じですね。一人で黙々とテスト勉強とかしてそう」
「あはは、そうそう。それで俺とか後輩が無理やり遊びに連れて行ったりしてさ。懐かしいなぁ……」
最後は昔を思い出したように笑いだすティーダ。いつもの爽やかなものとは違って、どこか子どものような無邪気な笑顔だった。
「ティーダさんが少し羨ましいかもです」
「羨ましい?」
はい、となのはが頷く。
「なのはは、セルジオくんの事がよくわからないですから」
「ええと、それはどの辺りが?」
「だって好きなものも嫌いなものもはっきりしないですし、それに何のためにお仕事してるのかも」
よく笑うが、どこか掴み所がなく、あまり好ましくない人でも悪口は避けて、頼りになるが、過剰に関わろうとしない。どこか寂しそうなのに、何を考えているかは悟らせない。
一緒の時間を過ごしていても、なのははセルジオのことが理解できていっている感覚がなかった。
「え? セルジオが何のために管理局にいるのかわからないの?」
だが、ティーダはなのはの言葉に本気で驚いたように目を丸くした。
「なのはちゃんは、あのセルジオと仕事してても何か伝わってきたりしない?」
「──? だって、セルジオくん大抵冷静に仕事片付けちゃうじゃないですか。なんか、こう、さらっとした感じで」
「え、いやでもさ……」
ティーダは何かを言いかけていたが何やら難しい表情で腕を組んだ。
「あいつの……でなのはちゃんが年下だから?いや……信頼で……か?」
「あのー、ティーダさん?」
ぶつぶつと呟くティーダが唐突に顔を上げた。
「話は変わるけどなのはちゃんはセルジオと知り合ってどのくらい?」
「知り合って、ですか……? たぶん、半年、くらいですかね」
「それならそういう事もある、か……」
半年、という言葉を聞いて何やら一人で納得したように頷くティーダ。
「うーん、なんと言えばいいかわからないけど、たぶん見てればわかると思うよ、セルジオのこと」
「見てれば?」
「なんというか、あいつ、根本的なところはすごくわかりやすい奴だからね」
「それって──」
曖昧なことを言ってお茶を濁すティーダになのはがどういうことか問い詰めようとする。
「すまん、話が長引いた。どうやら俺がいらんことを言ったらしくてさ……」
「せ、せせせせせセルジオくんっ?! なんで来たの?!」
「いやそりゃお前がいるんだからここに来るだろ……」
だがそれも大きく開け放たれた扉によって途切れてしまう。
セルジオはやたらと焦っているなのはの様子に、曖昧に笑っているティーダへと目を向けた。
「おい、お前また高町に何かちょっかいかけてないだろうな」
「まさか。俺の守備範囲はそこまで広くないよ」
「シスコン野郎の言葉を鵜呑みには出来ないな……」
「ははは、俺はシスコンかもしれないがロリコンじゃない。セルジオとは違うよ」
「俺だってロリコンじゃねえよ」
はあ、とセルジオが大きくため息をつくと、未だどこか落ち着かない様子のなのはの目を見つめる。
「高町、深呼吸だ。吸って、吐け」
「すぅー、はぁー」
「吸え」
「すぅー」
「吐け」
「はぁー」
「吸え」
「すぅー」
「吸え」
「は、すぅー、って無理だよ?! 何度息させるつもりなの?」
「よし、だいぶ普通に戻ったな。あのままじゃ使い物にならなかったからな」
ニヒルに笑うセルジオは軽くぽんぽんとなのはの頭を撫でると、自身も大きく深呼吸をした。
「さて、仕事の時間だ」
セルジオは最後に制服越しに懐中時計を触って、荒っぽく髪をかきあげた。
組織のアジトはやはり、というか定番通り、というべきか、廃棄都市郊外の廃工場の一つであった。
大体の犯罪組織はお財布事情と戦っていたりもするので、クラナガンからもそこそこ近くて、適度に施設の残っている事もある廃棄都市は便利なのだろう、とはセルジオの弁だ。
そしてそんな廃工場前では八人の首都航空隊の突入班と三課の二人にティーダを加えた人員が幻影魔法に隠れて様子を伺っていた。
ここに来ていない首都航空隊員は一応テロの狙いとなる三箇所の警護に当てられており、後は通常の警邏を担当している。
「三課、お前達の仕事は一階で徘徊しているだろう機械兵の相手だ」
「了解です。確認のために聞きますが、掃討が終われば現場待機という指示に変更はありませんか?」
「ない。お前達が来ればかえって混乱をきたす。静かに待っていろ」
「突入時の露払いは打ち合わせ通りウチがやりますが構いませんか?」
「砲撃の名手なのだろう? 上手く使ってやる」
「わかりました。では、全て打ち合わせ通りに」
首都航空隊の分隊長の一人、厳つい剣使いにセルジオが頭を下げて、なのはとティーダの元へと戻ってくる。
するとなのはがセルジオに念話を飛ばしてくる。昔は突入前にしゃべるな、と注意される事もあったが三課で仕事をするうちにそんな事もなくなった。
「(なんて?)」
「(変更はないとさ。予定通りだ)」
「(なら初めはなのはちゃんの砲撃で活路を作って、その後突入班って感じか)」
「(ひえー、なのはの役割重大だなぁ)」
「(今からなら俺が変わってやってもいいが)」
「(いいよ。私ができることをちゃんとするから)」
「(なのはちゃんは頼もしいなぁ)」
目標である廃工場を前にして、幻影魔法で姿を隠す一同が戦闘態勢に始める。
「(高町、そろそろ)」
「(任せて)」
なのはがレイジングハート・エクセリオンに意思を送ると通常の射撃特化の形態アクセルモードから、砲撃特化のバスターモードへと変形する。
その姿は、標準デバイスに近かったアクセルモードとは大きく異なり、砲撃を溜めるための砲身、長距離射撃補助を行う為のグリップなどが付属しており、正に砲撃の為の形態である。
(ディバインバスター)
なのはが心の中でそう唱えると、レイジングハートが二発のカートリッジをロード、その砲身にブーストされて威力のました魔力を充填し始める。
桜色の光は小さく圧縮され、超高密度の魔力を内包し始める。その魔力に耐えきれずあたりを覆う幻影魔法が歪み始めたのだからその凄まじさがよくわかる。
「(撃ちます)」
そして、閃光が翔ける。
幻影魔法を根こそぎ吹き飛ばしながら砲撃が走り、廃工場の壁面の一部をぶち抜きながら、大きな入り口を作り出した。
「突入ーー!」
分隊長が声をかけると突入班が飛行魔法を使用しながらなのはの砲撃で作られた穴に向かって行く。
「俺たちも行くか、ティーダ、高町」
「極めて了解。俺は今回は
「私は中に入ってからは後方援護のセンターガード」
「俺はいつも通りフロントアタッカーだな」
よし、と頷くとセルジオは加速魔法と飛行魔法を併用して、突入班の後を追った。
ティーダとなのはは加速魔法は使わないので少し遅れて追いかけてくる形となる。
セルジオが廃工場に入ると視界の端でガジェットの残骸を踏み越えた突入班が地下への階段を駆け下りて行くのが見える。
どうやらなのはの砲撃に巻き込まれて何体かは倒せたらしかった。
その背中を見送りながら、セルジオは得意の空間解析魔法を発動する。
(数は、二十……三十八……六十七ってとこか。AMF発動装置は無さそうだが……)
翠の瞳を白く染めながら瞬時にガジェットドローンの数を把握すると、目の前でうごめくマシンを睨んだ。
「見かけた、とかそんなレベルじゃねえじゃないかよ、ガジェット」
これは徘徊とか、そういうレベルだ。一階部分にそれなりの数いるとは聞いていたがこれは流石に予想外だった。
一先ず解析で得た情報をティーダとなのはのデバイスに送っておくと、セルジオは槍状態のゼファーを構えた。
すると一番近くにいたガジェットが敵の存在に気づいたのかその単眼を向けて、動き出そうとする。
「まあ、一先ず」
セルジオがマルチタスクを分割、あらかじめ待機していた加速魔法を再度発動させる。
「先日のやり返しだ」
白光を纏ったセルジオの体がブレて、一番近かった三体のガジェットを槍で切り裂くと加速を使用して離脱する。
以前使っていたS2U・カスタムではその装甲の硬さに手こずったが、質量を持つゼファーの槍はいくらか強力らしくガジェットの装甲をものともしない。
三体のガジェットはセルジオの離脱の直後に殆ど同時に爆発、辺りへと金属片をまき散らした。
ふむ、とセルジオが槍を肩に担いでこの分だと問題ないかな、と判断すると、背後からセルジオでも未知の飛行型のガジェットが迫ってくる。
どうやらセルジオの広範囲解析から飛行で逃れた個体があったらしい。
取り敢えず同じように槍で叩き斬ろうとして、それよりも早く橙色の速射弾がガジェットを蜂の巣にされる。
「慢心は良くないよ、セルジオ」
「ちゃんと対応してたさ、ティーダ」
「どうだか」
ティーダは銃型のデバイスを手の中でくるりと回す。セルジオはそんなティーダの側に加速して移動する。
「お前と組むのはいつぶりだ?」
「ざっと5年ぶりってとこじゃない?」
ティーダが襲い掛かってくる無数のガジェットへとホルスターに吊るしてあった二丁目のデバイスの早撃ちで弾き飛ばした。
ふ、とセルジオが笑う。
「まあ、全員揃ったって訳じゃないが」
「昔みたいに馬鹿やるかい?」
「それも悪くない」
にや、と笑みをかわしてセルジオが無数のガジェットへと踏み込んで行く。
ガジェットが四方から飛び込んできた敵へとアームパーツの鎌を振り下ろすが、セルジオは左手で槍を頭上で回転されることで弾いて、右拳を強く握りしめる。
(マルチタスク分割ーーー模倣)
ゼファーにあらかじめインストールされていたクイントのデータが解析にかけられ、セルジオの体に会うように演算され直される。
「
体術による技術の応用でセルジオの拳がガジェットの一体をかちあげて空へと吹き飛ばす。
「──ランスターの弾丸は全てを貫く」
そのガジェットへとティーダが銃口を向ける。
「ヴァリアブルバレット・パラドクスシフト」
引かれる引き金。飛び出す魔力弾。
ティーダのそれは一直線に空へと向かい、セルジオの打ち上げたガジェットのど真ん中を貫いて一瞬で壊滅させる。そして、貫いた魔力弾はついでとばかりに三つに分裂、セルジオを囲っていたガジェットも粉々に粉砕する。
「
そして銃口へ息をふっと吐いてみせるティーダ。
別に質量兵器のそれと違って火薬を用いたものではないため煙などは出ないが、それでもこういう気障な仕草はティーダにはよく似合っていた。
二人が視線を交わしてまた笑いあう。
今のは学生時代に考えたものだったのだが、どうやらどちらもまだ忘れていなかったようで、五年の月日があっても非常に息のあったコンビネーションだった。
だが、少しばかりタイミングがよくなかった。
「あーー! それなのはとやってたコンビネーション!」
どうやらティーダとの連携の様子が、一人だけ足(運動的なのではなく移動速度)が遅かったせいでようやく到着したなのはに見られていたらしかった。
「なに、今のコンビネーションなのはちゃんともやってるの?」
「いや新しいの考えるよりも便利だから……」
「うーわ、マジかよ。いや別に良いけどさ……」
なのははぷんぷんという擬音が似合いそうな表情で極太のビームをぶっ放し、周囲のガジェット十体を一気に粉々してしまう。
「セルジオくんは私のコンビなんだから他の人に浮気しないでよ!」
「おう、気をつけるわ……」
「ははは、意図せず間男になっちゃったよ、俺」
その後ようやく揃った三人で五十体以上のガジェットを相手にするのだが、これが本当に危なげなく戦闘が進む。
そもそもが前回セルジオたちが苦戦したのは『AMF発生装置』という未知の技術が相手にあったからであり、それのないガジェットははっきり言って雑魚に近い。
装甲は硬いし、ところどころ空を飛んでいる個体もいるが、だからといって脅威になるわけでもない。
セルジオの槍なら問題なくスクラップにできるし、なのはの砲撃も同様だ。ティーダは弾丸が弾かれることはあるものの、ヴァリアブルバレットならば問題なく貫けている。
非常に良いペースでガジェットの掃討は進んでいた。
戦闘を始めて二十分近くで、ガジェットの数がおよそ半分になり、そこで一度セルジオが突入班の様子をティーダへと尋ねる。
「ティーダ、突入班は今何割制圧した?」
「ちょっと待て。──────はい。ーーーわかりました。驚いたな……」
「なんだって?」
「いや、もう八割制圧だとさ」
「八割? 随分早いな」
「ああ。何でもデータより構成人数が少ないとかで……」
その言葉に、セルジオざらりとした感覚を感じる。まるで、何かのボタンを掛け違えたような、嫌な雰囲気だ。
(何か嫌な予感がするな……)
セルジオはその感覚を明確に言葉にすることはできない。ただ、その嫌な感覚は、三課で扱った事件からくる、経験則による直感だと言うことは何となくわかっていた。
「高町、少し嫌な予感がする。早めに決めたいんだが、準備はできてるか?」
「一応できてるけど……全部を倒す方砲撃を撃つのは無理だと思うよ?」
「ならそこは俺とティーダで補う。さくっと捕縛してくれ」
「わかった」
こくり、と頷いたなのはが目測できている限りにいる、凡そ三十体近くのガジェットドローンの胴体、全てにリングバインドを発動、身動き一つできないレベルでその体を空間に固定した。
「せーので行くぞ!」
「わかった!」
「了解!」
なのはがその場でレイジングハートをバスターモードに変形、カートリッジのロードをしながらその砲身の先を拘束されたガジェットへ向ける。
「行くよ、レイジングハート」
『All right,master』
ティーダが走りながら二つの銃口の先に二発の砲撃を収束していく。そこになのはのような一撃必殺の威力はないが、丁寧に編まれた魔力弾は自分の役目を果たせるだけの威力が内包されてある。
「さて、行こうか」
セルジオが加速魔法で移動しながらなのはの対面へと飛んで、左腕のガントレットから吐き出された合体パーツをゼファーに接続、砲撃特化の第二形態へと変形する。
「行くぞ! せーーーーのッ!」
なのはがレイジングハートから桜色の砲撃を、ティーダが銃口から橙色の砲撃を、セルジオがゼファーの砲身から白色の砲撃を、それぞれ解き放つ。
「ディバインバスター・エクスティンクション!」
「ファントムブレイカー!」
「ディバインカノンッ!」
三人の砲撃がまるで『米』の字のように交錯し、その中央にいたガジェットを一体残らず、爆発すらできないほどに粉々に吹き飛ばした。
セルジオは素早く解析魔法でもうガジェットの刈り残しがいないかどうかを確認し、もう敵性反応はないことを確信する。
「ティーダ、突入班は……」
「今確認してる。少し待て」
しばらくの間ティーダが黙り込みこめかみを指で抑える。どうやら今念話を繋いでくれているらしかった。
だが今のセルジオにとってはそれすらもどかしい。何か言いようもない不安と違和感が胸に巣喰い、セルジオをあせらせる。
「セルジオくん、何か起こったの?」
「いや、わからない、けど……」
その様子を流石に放っておけなかったのかなのはが駆け寄ってきたが、セルジオは曖昧な表情を浮かべるしかない。
「俺の勘違いなら、それで良いんだ」
むしろ、そうであってほしい、とでも言いたそうな様子のセルジオ。
しかし、現実はそうもいかない。
願いじゃ世界は変わらないし、時に死ぬほど残酷な、後悔したくなるようなことさえ容易く引き起こす。
「なんですって! 道理で────はい、でも……!」
突然ティーダが声を荒げた。普段からは想像できないほどの鋭さでなのはの体がびくりと震えたほど、荒々しく、彼らしくない声で。
「どうしたティーダ。何が起こった」
ティーダは悔しげに歪めていた表情を無理やり押し込めると、ため息をひとつした後に状況の説明を始める。
「今日だったんだよ。テロの決行日が。しかも爆発まで20分切ってるらしい」
「──!」
「成る程な、道理で制圧が早すぎたわけだ。殆どの人員は現場に行っていたって事か」
目を見開くなのはの横でセルジオはティーダへと視線を向ける。
「だが、それだけじゃないんだろ」
「──ッ」
「俺に言うなと言われたか。まあそんなとこかとは思ってたが」
首都航空隊の部隊長は、突入日やそれ以前にテロが起きた場合に備えて現地には常に警護班も置いていた。もしテロの決行日が今日だとしても十分対応できるはずだった。
しかし、ティーダは焦っている。それはつまり、警護班では対応できないような事態が引き起こった、そう言うことだ。
「ティーダ」
セルジオの翠の瞳が、ティーダを見つめる。その中には過去、何度もティーダが目にした決意の炎が燃えている。
「責任は全部俺が取る。お前の昇進の邪魔はしない。だから、教えろ」
「し、かし……」
「頼むから教えてくれ、もしお前が俺に友情を感じてるというなら」
「それを……っ! それを今言うのはずるいだろう……!」
「……自覚してる」
ティーダが拳を握りしめて目を伏せた。そしてしばらく考えを巡らせていたが、やがて諦めたようにポツリと呟いた。
「俺たちも知らなかった四つめのテロのポイントが見つかった。制圧したアジトから見つかったらしい」
「場所は?」
「中央駅手前のリニアレール、だそうだ」
「おい、それって……」
セルジオの言葉に、ティーダがああ、と頷いた。
「首都航空隊の隊舎からじゃあ最低でも30分かかる。間違いなく爆発までに間に合わない」
ティーダが唇を噛み締めながら、次の言葉を吐き出した。
「起こるぞ、テロが」
今日の三つの出来事。
ひとーつ! 三箇所でテロ発生の疑い。組織を検挙して未然に防ごう!
ふたーつ! 検挙したよ!でもなんだか四つめの場所があるらしいぞ。え? 知らないよそんなの……
みーっつ! 部隊長「どないしよ。人死ぬで、これ」
なんか長引いたんで二つに分けますね。
次回で首都航空隊編はおしまいです。
その後はプロットの変更がない限りなのはと同棲します。