Force Detonater   作:世嗣

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海の鳴る町

 時刻は夕刻。場所は海鳴市のなのはの家の前。そこで問答を繰り返す姿が二つ。

 

 一人は栗色の髪を二つに結んだ可愛らしい女の子、高町なのは。

 もう一人は、淡い金髪に翠の瞳の少年、セルジオ・アウディ。

 

「行くよ、セルジオくん」

 

「な、なあ少し待ってくれ、本当に大丈夫なんだろうな」

 

「お母さんもお父さんも良い人だから大丈夫だって!」

 

「しかし、だな……」

 

「もー、ここまで来たんだから!」

 

「あ、こら引っ張るな」

 

 尻込みし始めるセルジオになのはが詰め寄って無理やり引っ張り始める。

 その姿は結婚の報告に来た恋人同士のそれに、どこか似たものがある。

 

 

 二人がどうしてこうなっているのかというと、時計の針を少しばかり戻さなければならないだろう。

 

 

 

 

 

◆◇◆

 

 

 

 

 

 

 セルジオのリニア受け止め血みどろ事件(命名クイント)からしばらくの時間が経ち、セルジオも無事完治、というか、医者をねじ伏せて無理やりかなり早く出てきていたのだが、それがようやく完治した。

 

 季節はすっかり冬の、そして年末である。

 

「うひー、さむーい。誰かコーヒーちょうだい〜」

 

「そういうだろうと思って準備してましたよ」

 

「ひゃー、なのはちゃんありがとー」

 

 変わったことといえばメガーヌが産休に入ったことくらい。その事を三課で報告した時には仕事も放り出して、えらい騒ぎになったものだ。いつもはそんな事をすれば注意を飛ばすメガーヌも、この日ばかりは嬉しそうに感謝を述べるだけだった。

 ちなみに、メガーヌの夫は三課の一人であるのだが、その彼は男衆からめちゃくちゃな胴上げを食らったとか食らってないとか。

 

 なのはから渡された紙コップに息を吹きかけながらチビチビと啜るクイント。

 

「あったまるわねー」

 

「それなら良かったです」

 

 お盆を胸に抱いてにこにこと笑うなのは。

 

「あら、そう言えばセルジオくんいないわね。外回りにでも行ったの?」

 

「あ、いえなんかさっき部隊長室に行ってました。こう、なんかすごく難しい顔で」

 

「ふーん、何か仕事の案件かしら?」

 

「なのはも聞いてみたんですけどなんかはぐらかされちゃって。信頼されてないのかなぁ」

 

「うーん、そういうわけじゃないと思うわよ。あの子、もともと考えてること全部話すわけじゃないし」

 

 少し不満そうななのはの頭を手を伸ばしてぽんぽんと撫でるクイント。セルジオにされた時は少し恥ずかしながら払うこともあるなのはだが、同性ということもあってか特に嫌がるそぶりは見せない。

 

(こうしてると普通の女の子なんだけどなー)

 

 自分の娘と大して変わりない年の女の子が、血生臭い現場に出るという今の状況が、クイントにはなんだか少し寂しい。

 寂しさを押し込めて笑うクイントのことをなのはが不思議そうに見上げるが、なのはにはどうしてそういう表情を浮かべているかはわからなかった。

 

 そうこうしているとオフィスの扉が開いて、見慣れた淡い金髪と、その後ろから厳つい男が姿を見せる。

 

 言うまでもなくセルジオとゼストだった。どうやら話し合いは終わったらしい。

 

「クイントさん、帰ってたんですか。外回りお疲れ様です」

 

「ご苦労だった、クイント」

 

「いえいえ、産休のメガーヌの代わりに頑張らなきゃいけませんしね」

 

 帰ってきたセルジオが自分のデスクに座ろうとして、お盆を胸に抱えたままのなのはと目があった。一瞬、二人は見つめあったが、やがてセルジオの方から視線を外した。

 普段はからかいの言葉なり労いの言葉なりが飛んでくるところだが、今は気まずそうに目をそらすだけだ。

 

 その様子になのはが心の中で頭を抱える。

 

(うう、あの日変なこと言わなきゃ良かったよ……)

 

 セルジオの見舞いに行って以来二人の間にはこうした、仲違いと言うほどではないが、微妙に気まずい空気が流れている。

 

 セルジオはプライベートと仕事を混合するタイプでないため、仕事をする分には問題ないのだが、前のように弾んだ会話はとんとなくなってしまった。

 

 あの日なのはが言ったことは本心ではあるものの、だからといってこうなってしまうと後悔するなと言う方が無理な話である。

 

 その二人の様子をなんとなく察したクイントは適当に話題を振っておくことにする。

 

「あー、なのはちゃんは今日で仕事納めだったわよね。地球の年末ってなにするのかしら?」

 

「え、地球のですか?」

 

「そうそう。なのはちゃんはお休みの間なにをするの?」

 

 そうですねぇ、と少し上を向いて考え込むなのは。

 

「地球のお友達と遊んだりする予定はあるんですけど、なのはのおうちは喫茶店なのでそのお手伝いですかね」

 

「実家の仕事の手伝いか。高町は勤勉だな」

 

「あ、いえ、今年はお兄ちゃんもお姉ちゃんもいないし、それに、この時期の地球の製菓店って凄く忙しくなるんですよ」

 

 ゼストの感心したような言葉をなのはが慌てて否定する。

 

「クリスマスって言って、ケーキを食べたりしてお祝いするんです」

 

「くりすます?」

 

「はい。家族とかお友達とかで集まってチキンを食べたり、ケーキを食べたり。あ、後はプレゼントを交換したりします」

 

「なんのためにそんな事するの? 新年の祝いとはまた違うのかしら?」

 

「え、えーと……」

 

 イマイチ理解できないように首をひねるクイント。その頭の上には大きな?マークが浮かんでるのが見えるようだ。その後ろのゼストも黙ってはいるが理解できてはいないようだ。

 

 生まれた時からそこにあるのを他者に説明するのは非常に難しい。それも、全く異なる文化形態の相手へとなると難易度が跳ね上がる。そもそもクリスマスをサンタクロースが来る日くらいにしか思ってない小学生に説明しろって方が難しいだろう。

 

「仕方ねえなぁ……」

 

 いいよどむなのはを見て、セルジオが大きくため息。助け舟を出してやることにする。

 

「『クリスマス』。俺の知識では『地球』の文化圏では割と一般的な行事みたいです。なんでもある宗教の過去の偉人の生誕を祝う祭事だとか。高町の故郷ではその前夜が殊更盛り上がるようです。おそらくベルカ自治区の聖王生誕祭みたいなものでしょう」

 

「せ、セルジオくん?!」

 

「生誕祭かー。それならなんとなくわかる気がするわね」

 

「偉人の誕生日を祝うとは、よっぽど信心深い国なのだな。高町の国は」

 

 うんうんと頷くミッドチルダ出身の二人の横で、なのはが目を丸くした。

 

「せ、セルジオくんなんでそんなこと知ってるの?」

 

「……クロノが以前話してくれたのを覚えていただけだ。興味深い祭事だったし、たまたま、な」

 

「あ、相変わらず凄いね」

 

「貸し一な。いつか返せよ」

 

 さらり、と説明してまたデスクワークに戻るセルジオ。本当にこうした頭を使う作業ならば、誰にも引けを取らないようになのはは思えた。

 

「ミッドの年末近くはそういった祭事はないな。せいぜい親戚と集まるくらいだろう」

 

「へぇー、皆さんも家族と過ごされるんですか?」

 

「私は今年は旦那さんと娘たちとちょっと温泉街までお出かけしてくる予定。せっかく有給で固まった休み取れたし」

 

「俺は非常時に備えてここにいるが、夜は友人と酒を飲みに行くつもりだ」

 

 忙しい三課といえど、どうやら年末はそれぞれに予定がある様子。

 

「じゃ、じゃあセルジオくんは?」

 

「んー、そうだなぁ」

 

 ホログラムのキーボードを叩きながらセルジオが唸る。いつもならゼストに付き合って三課にいるセルジオも、今年はなのはとの兼ね合いで有給を取っていた。

 というかクイントたちから無理やり取らされていた。

 普通は入院している間に食いつぶすのだが、今年はなのはのお陰か例年より入院が少なかったせいで何日か余っていたのだ。

 

「ま、訪ねる家族もいない。大人しく宿舎で仕事でもしてるかな」

 

「わ、ワーカーホリック……! 適度にお休みはとるべきだよ!」

 

「つってもここ十年くらいこうやって過ごしてきたからなぁ」

 

 そこでクイントが不思議そうに首を傾げた。

 

「ねえ、セルジオくんは年末どこで過ごす気なの?」

 

「ですから隊舎で……」

 

「隊舎耐久調査あるから年明けるまで使えないでしょう?」

 

「は?」

 

 今まで止まることなくキーボードを叩いてセルジオの動きがぴたりと止まる。そして、ぎぎぎと錆び付いたロボットのように首を動かして引きつった笑顔を浮かべる。

 

「ま、またまた、クイントさん悪ふざけが過ぎますよ。ねえ、ゼストさん」

 

「隊舎は使用できんぞ。事前にメールで送ってあるはずだが?」

 

「嘘でしょ。…………うーわ、確かにそういうのメールあるわ……」

 

 ゼストに言われて調べれば、メールボックスの中に仕事の案件に紛れて、『年末の三課隊舎耐久調査の件について』といった内容のメールがあるのを発見する。

 

「完璧に見落としてた……。うわー、年末どうしよう」

 

 セルジオが頭を抱える。

 

「クロノ……は義妹とのはじめの正月だし論外。ティーダとヴァイスも妹いるからな……」

 

 一瞬ゼストを頼ろうかとも思ったが、これ以上迷惑はかけられない。

 

「うーん、ウチが旅行じゃなかったら寝泊まりさせてあげても良かったんだけど。誰もいないけどウチ使う?」

 

「いえ、そのお気持ちだけ受け取っときます」

 

 むむむ、とセルジオが考え込む。知り合いは全滅。その他宿の心当たりもないし、今からではホテルも取れないだろう。

 

「まあ今回は俺の不注意です。仕方ないですけど──」

 

「せ、セルジオくん!」

 

「ん?」

 

 ネットカフェで過ごすか、とセルジオが結論を下しかけた時、なのはが上ずった声でセルジオの名前を呼んだ。

 

「な、なのはのおうちに来ますかっ!」

 

「は?」

 

「ね、年末! 行く当てないならなのはのおうちで過ごせばいいと、思います」

 

「いや、それは駄目だろ。親御さんに迷惑がかかるし、それに俺は家族水入らずを邪魔する趣味はないよ」

 

「あ、それは多分大丈夫! 今年お兄ちゃんもお姉ちゃんもいなくて人手足りてないから喜ぶと思う」

 

「だとしても急に押しかけるのは迷惑だ。親御さんの許可なくというのもいただけない」

 

 あせあせと顔を僅かに赤くして早口で喋るなのは。

 

「じゃあちょっと連絡してみるから! 絶対大丈夫だと思う!」

 

 なのはは待っててね! とセルジオに言ってオフィスを走って出て行く。

 その背中を見送るとクイントは楽しそうにセルジオの背中を叩いた。

 

「よかったわねー、なのはちゃんとシェアルームできるかもね」

 

「しませんって。例え親御さんから許可が出ても俺は男で、高町は女です。何かあったら問題です」

 

「何かするつもりなの?」

 

「いや、しないですけど」

 

「なら良いじゃないのー」

 

 クイントが笑いながらまた背中をバシバシと叩いてくる。しかし、未だセルジオはどこか納得いっていないように、眉を寄せている。

 

「セルジオ」

 

「ゼストさん?」

 

「俺はお前たちに何があったか知らんし、何を考えているのかもわからん」

 

 ゼストの鈍色の瞳がセルジオを見つめ、ゆっくりと言葉が投げかけられる。

 

「信頼はきちんと行動で示してやるものだ。お前が高町を『相棒』だと思うのならばな」

 

「────」

 

「それだけだ。お前の好きにすると良い」

 

 そう言って最後にわしわしとセルジオの髪を掻き回してゼストはオフィスから出て行った。

 

 そして、それと入れ替わるようになのはが息を切らしながら三課のオフィスに帰ってくる。

 

「お母さんもお父さんも良いって。お店のお手伝いはしてもらうかもだけど、新年まで泊まる場所もあるよって言ってくれたよ」

 

 そしてなのはがちら、と椅子に座って目線が同じくらいの高さになったセルジオを伺う。

 

「もちろん無理にとは、言わないけど。もしよかったら」

 

 最後の方は消え入るような声になり、なのはが俯いてしまう。

 

 そして、そんななのははの様子に、セルジオは、今日一番の大きなため息を一つ。

 

「これで貸し借りなしにしよう」

 

「え?」

 

「クリスマスの件だ。まあ俺のは押し売りに近かった気がするが、そこは高町も似たようなものだから流してくれ」

 

「う、うん! てことは──」

 

「ただし!」

 

 嬉しそうに顔を上げたなのはの前に、セルジオがビシッと指を立てたみせた。

 

「宿泊代と食費くらいは払わせてくれ。そうじゃないとあまりにも肩身が狭い」

 

 そして、セルジオがそっぽを向いて人差し指で頰をかいた。

 

「それで良ければ、その、よろしく」

 

「うん! うん、こっちこそよろしくお願いしますっ」

 

 なのはが嬉しそうに笑って、セルジオの手を取った。

 

「じゃあ今日のお仕事が終わったら一緒になのはの家に帰ろうね!」

 

「え、いやまだいいだろ」

 

「でもセルジオくんも今日で仕事納めだよね?」

 

「それは、そうだけど」

 

「どっちにしろなのはがいなきゃ場所はわからないんだし。善は急げ、だよ」

 

 ね? 言い聞かせるように笑うなのはに、セルジオが「変なことになってきたな」と心の中でボヤいて、またため息をついた。

 

 

 

 

 

 

 

◆◇◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 仕事が終わりセルジオは着替えやその他軽い手荷物をボストンバッグに詰めて隊舎前で待っていたなのはと二人で一旦時空間の狭間にある時空管理局の本局へと移動。

 地球への転移ポートを使って第97管理外世界、『地球』の海鳴市へと転移し、さらにそこからなのはの案内で街を歩いて、ようやく高町家に到着する。

 

 まあ、そうして冒頭の展開へとつながる、という訳だ。

 

 

「ほら、入るよセルジオくん」

 

「ああ。その、いろいろよろしくな?」

 

「うん任せて!」

 

 にこにこ笑うなのはと少し気まずそうに後ろをついていくセルジオ。いつもはセルジオがなのはの前を歩くことが多いため、こうして反対の立場になるのは珍しいことだった。

 

「ただいまー」

 

「あらなのは、おかえり〜」

 

 なのはが玄関のを開けて声をかけると、リビングから一人の女性が姿を見せた。なのはと同じ栗色の髪をロングに伸ばしてエプロンをつけた外見年齢二十歳くらいの女性。

 

 セルジオが瞬時に思考を巡らせる。

 

(ど、どっちだ! 姉か、母親か! わ、わからないな……)

 

 クイントみたいに比較的若い人なのか、クロノの母のリンディのような見た目と実年齢が釣り合っていないタイプなのか。

 

 それはセルジオの優れた観察眼でも見分けることができない。というか、そもそもリンディすら見分けられなかったので、目の前の女性のことを見分けるのは不可能だ。

 

(いや、でも姉は今いないと言っていたな。なら、この人は母親か……)

 

 セルジオは小さく息をつくと、先程までの動揺が嘘のように背筋を正してにっこりと優しい笑みを浮かべる女性に向き直る。

 

「時空管理局地上本部所属、セルジオ・アウディ三等空尉です。突然押しかける形になってしまい申し訳ありません」

 

 そして、ぺこりと頭を下げた。

 

「セルジオくんってそういう固い話し方できたんだ……」

 

「おい、俺は最初は高町にもこうして話してただろうが」

 

「あれ、そうだっけ?」

 

「そうだよ。タカマチさんとか呼んでただろ?」

 

「そういえばそうだったかも」

 

「うふふ、二人とも仲がいいのね〜」

 

 自分をそっちのけで話し始める二人に、なのはの母親が楽しそうに笑った。

 

「す、すみません。ついいつもの感じで……」

 

「いいのいいの。取り敢えずあがって、アウディさん。リビングで士郎さんがそわそわしながら待ってるから」

 

「あ、セルジオくん靴は脱いであがってね」

 

「ああ、そういえばそれがニホンのスタイルだったな。了解だ」

 

 陸の制服のままのセルジオが靴を脱ぐとなのはたちに連れられてリビングへ入る。

 

「む、君が話に聞いてた……」

 

 すると既に腰掛けている男性が一人、セルジオの方へと目を向ける。おそらくこの人がなのはの父親なのだろう。

 

「私は……」

 

「まあまあ、そう固くならずに。ひとまず座るといい」

 

「ほら、セルジオくんはこっち」

 

 テーブルの窓側になのはの両親が腰掛けたので、セルジオはなのはに言われた通りその反対側、なのはの隣に腰掛ける。

 

 ぎしり、と少しだけ椅子が軋む。

 

「ええと、まずはなのはから紹介するね。お父さん、お母さん、この人はセルジオくん。私の……」

 

 言いかけて、なのはが止まる。

 

「(ねえ、セルジオくんとなのはってどんな関係?)」

 

「(別になんだっていいだろ。適当に、先輩とか言っとけいい)」

 

「(いまいち納得できないけど、まあ仕方ないよね)」

 

 なのはがセルジオとの念話を切る。

 

「私の、先輩? です」

 

「ご紹介に預かりました、時空管理局地上本部所属、セルジオ・アウディ三等空尉です。お嬢さんには日頃からお世話になってます」

 

 そしてなのはの両親に向けて頭を下げた。

 

「頭を上げて、アウディさん」

 

「はい、ええと……」

 

「桃子です。『高町桃子』。なのはのお母さんと、パティシエをやってます。桃子って呼んでね」

 

「じゃあ、私のこともセルジオと読んで頂いて構いません」

 

「そう、じゃあよろしくねセルジオくん」

 

「よろしくお願いしますモモコさん」

 

「じゃあ私の方も、自己紹介をさせてもらうよ」

 

 少しだけズレた発音で桃子の名前を呼んで、また頭を下げていたセルジオに、隣から声がかかった。

 

「私は『高町士郎』。なのはの父親だ。君の事情は聞いている。しばらくの間自分の家だと思ってくつろぐといい」

 

 黒髪の男性──士郎が爽やかな笑顔を添えて差し出した握手に、セルジオが応じる。

 

「む」

 

「ああ、成る程」

 

 そして互いに握手した感覚と、肌がピリつくような雰囲気に、なんとなく相手が武術を嗜む類の人間だということを理解する。

 

(強い、な。たぶん、魔法を使わないゼストさんと同じくらい。俺じゃ敵わないだろう)

 

(年の割に鍛えている。恭也程じゃないが、美由希と同じぐらいには戦えそうだ)

 

 ふ、と男二人の間で薄い笑みが交わされる。

 

「かなり使えるようだね。武器は槍かな、セルジオくん?」

 

「そこまでお見通しですか。本当にお強いようですね、高町さん」

 

「ははは、いやもうただの老兵だよ。あと私のことは士郎で構わない」

 

「ではシロウさんと。お世話になります」

 

 握手を交わしたままあっという間に打ち解けた様子の父と先輩に、なのはが少しだけ不満そうに唇を尖らせる。

 

「なんかあっという間に仲良くなっちゃったね」

 

「まあ、男の人ってみんなそんなものじゃないかしら」

 

「なんか納得できない……」

 

 まあ、でもセルジオが打ち解けてくれたのはいいことだと自分に言い聞かせる。

 

「じゃあ、お父さんお母さん、なのははセルジオくんを客間に連れて行ってくるね。ほら、セルジオくん荷物持って」

 

「あ、ああ、じゃあ、その荷物置いてきます」

 

 ぐいぐいとなのはに引っ張られながらリビングから出て行くセルジオ。その様子を桃子は楽しげに見つめて、いつもと少しだけ違う雰囲気のなのはに、士郎が目を細めて、にやりと意地悪そうに笑った。

 

「セルジオくん、一つ言っておきたいことがある」

 

「……はい、なんでしょう?」

 

「俺はなのはを嫁にするなら俺を倒したやつじゃないと認めないと決めているんだ」

 

「お、お父さんっ?!」

 

「はあ、そうですか」

 

 顔を真っ赤にするなのはと、『それは高町の旦那になりたい奴は大変そうだな』とか考えて、自分に結びつけるつもりのないセルジオ。

 

 

 まあ、そんな感じの出来事で、セルジオの高町家滞在の一日目が始まるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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