断続的な鳥の囀りだけが道場に響く。
向かい合うのは二人の男。
一人は小太刀二刀を順手で構える高町士郎。
もう一人は魔力刃を応用した非殺傷の槍を前傾姿勢で構えるセルジオ。
どちらも握るのは相手を殺すための武器ではないものの、表情は真剣そのもので、張り詰めたような緊張感がある。
セルジオが士郎の一挙一動を見逃すまいと目を見開く。相手は遥かに格上の技巧者であり、彼では追い縋れるかすら不明だが、それでもゼストの弟子としてやれるだけはやる義務があった。
無言の二人の睨み合いはその後しばらく続き、もはや永劫終わらないのではないかとすら思わせる。
かちり、と秒針が動き壁の時計が一際大きな音を立てた時、士郎が疾風の如く踏み込んだ。
それに一瞬遅れる形でセルジオもそれに応じ、右足を軸に体を半回転させ槍を薙ぐが、士郎はそれを僅かにしゃがむことでかわすとさらに踏み込んでくる。
それを防ぐため振り切った槍を手首のスナップだけで方向転換、横合いからの突きを放つが、今度は小太刀の刃の上で槍を滑らせて逸らしてしまう。
「──ふッ!」
刹那を見定めた必殺の小太刀が、セルジオの首を狙って振るわれる。
あまりの速さに残像しか見えないレベルの一撃を、なんとなく予想できていたセルジオは僅かに体をそらすことでかわした。
いつのまにか懐まで潜り込まれていたセルジオは士郎の胸を蹴飛ばして距離を取ろうとするが、それも小太刀でしっかりと防御されてしまう。
だが、なんとか距離を取ることだけには成功した。
(ホントに強いな、シロウさん)
戦いの歴史とはいかに遠距離から敵を攻撃するか、というものを競ってきたと言える。
それは相手より遠くから攻撃ができるというのは、戦闘においては絶対的な有利となるからだ。
剣より槍、槍より弓、弓より銃、といった風にだ。
その面で考えるならばセルジオの槍という武器に対して、士郎の小太刀という武器は絶対的な不利となるものだ。
しかし、今の戦闘においてセルジオは士郎との戦いでは一度も有利にたてていない。
その理由は至極単純だ。
士郎はただ巧く、速い。
戦闘経験からくる先読みと、優れた動体視力、積み重ねた研鑽による、技術の巧みさ。
それに加えて魔法などは使っていないにもかかわらず、肉体的な面と、足運びによる移動の速さ。
この二つが小太刀と槍という不利を覆して余りある実力差となっている。
(さっきの蹴りもたぶんわざと食らってくれた。俺が距離を取りたかったのがわかってたから)
舐められているのではない。士郎はおそらくセルジオの技術を見極めてくれている。おそらく本気でやるならばセルジオの体は既に十回は床に転がっているはず。
(勝つまではできなくても一泡くらいは吹かせたいもんだな)
セルジオが細く息を吐き出して、今までの士郎の動きを全て頭の中に叩き込んで、これからの未来にするであろう士郎の行動を予知に近いレベルの予測を行う。
(擬似解析ーーー四手)
ゼファーを使わないためそれほど多くは予測できないだろうが、ある程度わかっていれば対応のしようはある。
「────見えた」
ふ、とセルジオが槍を両手で握り踏み込むと、士郎は軽いステップをでセルジオの左へと回り込む。
「──一手」
予測通り動いた士郎に完璧に合わせたタイミングで突きをやめて槍の自重を使った薙ぎ払いを行う。
「二手」
だがそれを士郎は両手の小太刀を合わせると挟み込むようにして受け止めて、体重移動と手首の振りだけでセルジオを自分の方へと引き寄せる。
「三手」
セルジオの体が強い力に引かれて士郎の方へ寄せられていき、その向こうには首を狙ったカウンターが待っているのが見える。
故に、迷う事なく槍から手を離す。
「──!」
流石にこれには驚いたのか士郎の目が僅かに見開かれた。
「四手────」
すう、とセルジオが息を吸い、頭の中にある理想のイメージを、体になじませるようにして再現する。
体を通じる流れを意識して、右拳を、強く握りしめる。
「────擬似再現・
クイントに師事して指導を受けても八割程度の再現しかできなかった技を、士郎へと放つ。
槍を捨てるという悪手による意識の不意。事前に拳を使えることすらも話していないため知識の不意。二重の不意をついたその一撃が向かう。
そして、その下手に当たれば骨折必至のその一撃を、士郎は
(う、そだろ……)
士郎は避けるのは不可能とみたのか体を半回転させて、威力のほとんどを移動のエネルギーに変換、一気にセルジオの背後へと回り込む。
「勝負あり、かな」
「完敗です。手も足も出ない」
そして、次の瞬間には首元へと小太刀の刃を向けられていた。
セルジオが槍を消して降参とでもいうように両手を上げる。
「また負けですか。いや、本当にシロウさんはお強いです」
「君も良く鍛えてはいるが……しかし、君はなんというかその……」
「あ、わかってますから正直にいっていただいて大丈夫ですよ」
士郎が何やら言いにくそうにしているのを見て、セルジオが笑う。その表情に影はないため、本当に大丈夫なのだろう。
「そうか。なら言うが、君はきっと槍使いとしては大成できないだろうと、私は思う」
「でしょうね。俺の師匠にも『お前は槍使いとしてはあまりにも才がない』って言われました」
思い出すのはまだ士官学校に入ったばかりの頃、毎日頼み込んでゼストに稽古をつけてもらっていた日々。一年以上の訓練と、更に2年近くの実戦訓練によってなんとか形になりはしたものの、周囲からは近接戦闘の才能の不足に関してはよく言われてしまう。
「最後の、槍を捨てて拳で戦うのは悪くない手だった。たぶん君はああやって自分の手札や、あたりの地形、時には他人まで巻き込んで柔軟に戦うのが本領だろう」
「そこまでわかりますか」
驚くセルジオに、士郎は「伊達に経験を積んでないさ」と肩をすくめる。
「俺、目もあんまり良くないし、近接戦闘者特有の直感みたいなものもなくて。たぶん近接戦闘全般にあんまり向いてないんですよね」
「そうだな。君のようなタイプはどちらかというと、スナイパーなんかに多かった気もする」
「あー、本当に強い人にはおんなじような道を勧められるなぁ……」
「後はそうだな……指揮官なんかも多かったように思う」
「指揮官、ですか?」
セルジオがキョトンとした顔で首をかしげる。
今まで遠距離への転向や、スナイパーへの転向を勧められたことはあれど、指揮官といった、人の上に立つ立場を勧められたことはなかったのだ。
「指揮官、指揮官。俺が、指揮官ですか」
「ピンと来ないかい?」
「そう、ですね。俺が誰かの上で何かをするっていうのは、なんかイメージできないです」
「ははは、まだセルジオ君には早い話だったかな。まあ戯言と思って聞き流してもらって構わないよ」
「はあ」
ちらり、と士郎が壁にかかった時計へと目をやった。
「さて、セルジオ君。そろそろ桃子の食事ができる頃だ。そろそろ行くとしようか」
「あ、俺は道場の掃除してから行くので士郎さんは先に行ってください」
「ん、そうか悪いな。じゃあ俺は風呂を沸かしておこう」
「はい、お願いします」
士郎が道場から出て行くと、セルジオは倉庫の中で干してあった雑巾を外の蛇口で濡らして絞り端から端まで雑巾掛けを始める。
ミッド出身のセルジオは道場の掃除など知るはずもないのだが、一応昨日の夜ゼファーで日本の一般常識っぽいことは調べておいたのだ。
「結構、足とかに来るな。これは一種の肉体鍛錬だ……」
日本の小学生なら誰でも知っている『雑巾がけ』はきついという事実。それをセルジオは今身を以て体験していた。
セルジオが道場を走り回って、だいたい掃除が終わってしまった頃には、士郎との模擬戦で疲れ切っていた手足にはさらなる疲労がたまっていた。
「な、なんてハードなんだニホンの訓練……」
一応軍人みたいなもののセルジオはこの程度では根を上げることはないが、これを一桁ぐらいの子供がやることもあるというのだから舌をまかざるを得ない。
セルジオが地味なカルチャーショックを受けていると、なかなか朝食にセルジオをなのはが呼びに来る。
「セルジオくん、ご飯だってー」
「高町か」
「うんそうだよ……というか、今この家にいるのはみんな高町かな」
「俺はアウディだ」
「いやそれはわかってるけど……」
ぷうと頬を膨らませるがセルジオはどこ吹く風で掃除道具を片付けてリビングへと歩き出す。すると、なのはが慌てたようにその後を追いかけて隣に並んだ。
「どうだったお父さんとの模擬戦。勝てた?」
「いやボロ負けだ途中完璧に目で追えなくなった。地球人って凄いんだな」
「いやたぶんお父さんとかは地球の中でも別格だと思うな。私とかお母さんは普通だし」
「たしかに高町めちゃくちゃ足遅かったもんな」
「む、今は普通だもん。たぶん」
「運動音痴の『普通にできる』は自己評価高いからなぁ。全く信用できないな」
そんな事を話していると桃子と士郎のまつリビングに到着する。
「あ、なのはと、セルジオくんもきたわね。もうご飯の準備はできてるの。早く食べましょ?」
「ほら、セルジオくん座って座って」
なのはに椅子を引かれて頭を下げながら席に着く。そこには、茶色のつぶつぶが入った小鉢、茶碗の中には白くつやつやと光るもの(これはコメだと昨晩教えてもらった)、椀の中にはほのかに赤みを帯びた汁。中心の大皿には開かれた焼き魚。そして小皿には白い四角いものという、全く見覚えのない料理ばかりが並んでいる。
(わかるものが魚しかないぞ……)
それすらも骨の形状で判断しただけで、ミッドでは見たことがない種類という、ここが異世界だという事をよく理解できるメニューである。
ぼーっとセルジオが朝食を見ていると、桃子が心配そうにセルジオの顔を覗き込んだ。
「あの、何か嫌いなものでもあったかしら?」
「いえ、俺はなんでも食べますから。ただ、見慣れない料理だっただけです」
「無理しなくてもいいのよ?」
「あ、それは大丈夫だよお母さん。セルジオくん食べ物の好き嫌いないから。うん。ホントないから」
食べ物に好きもなければ嫌いもない。それがセルジオだという事を半年以上の付き合いとなったなのははよくわかっていた。
「じゃあ、母さんの手料理いただこうか」
士郎が声をかけると三人が声を合わせていただきます、と言ってセルジオもそれに少し遅れて声を合わせた。
「かー、美味い! いや、今日の朝ごはんもすごく美味いぞ桃子!」
「うん、すごく美味しいよ、お母さん」
「うふふ、そうかしら。そう言ってもらえると作りがいがあるわー」
手を頬に当てて嬉しそうに笑う桃子は、ふとセルジオだけが自分たちをじっと見つめて、一口も食べていないのに気がついた。
「あの、セルジオくん、やっぱり嫌いなものがあったかしら?」
「いえ、ただ『ハシ』の使い方を見てただけですから。お気になさらず」
「お箸の……?」
言われて昨日の夜はセルジオにナイフとフォークを出したのを思い出した。
「ごめんなさいね、ついうっかり。ごめん、なのはナイフとフォーク取ってくれない」
「あ、いや大丈夫です。もう覚えましたから」
覚えた? と首をかしげる三人の前でセルジオが箸を、なのはと遜色ないレベルの美しい持ち方で、士郎と同じように器用に魚の小骨を避けて身をほぐして、米と一緒に口にいれた。
そして、何回か咀嚼して飲み込むと、表情を柔らかくして桃子に向けて薄く笑んだ。
「モモコさん、とても美味しいです」
「そ、そう。なら良かったわ」
「セルジオくんってホントに器用だね……」
「いや、こういうのは見て真似るだけだからな。時々クイントさんの技とか真似するだろ? あれと同じだよ」
「そ、そうなのか」
いや、そういう問題じゃない、という言葉をなのははぐっと飲み込んだ。もうこれ以上の問答は無駄なような気がしはじめていたのだ。
まあ何はともあれ食事が再開される。最初こそセルジオがかましたものの、後はごくごく自然なものだった。
「お米美味しいです」
「だろ? 外国に行くとパンばかりでこれが恋しくてなー」
「外国? シロウさんは喫茶店の店主ですよね」
「昔はボディーガードをやってたんだ。いろいろあって、やめてしまったがね」
「成る程」
「今は言うなれば桃子専用のボディーガードさ。人生という難敵からの、ね」
「まあ士郎さんったら」
とか。
「このナットウっての美味しいです。なんでできてるんですか?」
「豆だな」
「トーフは全然味がないですね。何を加工してるんですか?」
「豆よ」
「ん、このソースおいしい。なんて名前ですか?」
「醤油って言うんだよ」
「ショーユ……。深い味わいですね。原材料はなんですか?」
「豆だよ」
「ほら、セルジオくんお味噌汁もどう? たぶんあったまると思うわ?」
「ーーぷは、すごく美味しいです。これはちなみに何から? 流石に豆じゃ──」
「豆」
「また豆か! ニホン人豆への情熱ありすぎでしょ!」
とかとか。
「なのはの働きぶりはどうだろう? 迷惑かけていないかい?」
「いえいえ、同僚も上司も高く評価してますよ。とても頑張ってくれています」
「あの、なのはは鈍臭いでしょう? 問題は……」
「何この突然の家庭訪問みたいな感じ?! 二人ともやめてよ!」
「あはは、お嬢さんの凄さったらないですよ。今ではクラナガンの空で白いバリアジャケットを見たら逃げろ、とか犯罪者の中での標語が……」
「わーわー! セルジオくんも答えなくていいから!」
とまあこんな感じで割と話は弾み、無事朝食が終わる。
そして────問題の喫茶店でのアルバイトが始まった。
「お会計、以上で2250円になります」
「は、はい」
「2300円からですね。こちらお釣りとレシートになります」
「あ、あの、お兄さんここでアルバイトしてるんですか?」
「はい。少しの間ですが、お仕事をお手伝いさせていただいてます」
「わ、わたしたちまた来ますね! 来ますから!」
「はい、またどうぞ」
セルジオが爽やかに笑ってみせると、女性客の三人組がぽーっとした雰囲気で店を出て行ったかと思うと、きゃあきゃあとはしゃぎながら去って行く。
(慣れれば楽なもんだ)
レジが終わると店を見渡して見る。
所謂『クリスマスイブ』なだけあって洋菓子店兼喫茶店の士郎の店『翠屋』は人も多い。どうやら、お茶したついでにケーキを買って帰る、といった人も多いらしい。
(ん、あそこの注文そろそろか)
先ほど入って来たグループがそろそろ注文のようだったので、側に行ってまた爽やかな笑顔を浮かべる。
「ご注文はお決まりでしょうか?」
「は、はい」
そして女子中学生くらいの二人組はそのセルジオの笑顔をぽかん、とした顔で見つめて、赤い顔で注文をし始める。
セルジオはまだ若いながらもベテラン揃いの三課に所属し、多くの事件に関わって来た。その中には気難しい人と付き合わなければならない事もたくさんあったし、そういう人には素で接してもいいことがないこともある。
そういう時には、今のような笑顔を作る、ということは大事だ。人の第一印象は八割見た目なのだから、好感が抱ける表情の方がいいに決まっている。
仕事のために身につけた技術だったが、今接客をしてて役に立つのだから人生どう転ぶかわからないもんである。
だが、そんな笑顔にいまいち納得していない人物が一人。
「な、なんかいまいち納得いかない……」
「セルジオ君のことか?」
「うん。レジ打ちも接客も、果てにはお母さんの手伝いで軽食までほいほいできるようになっちゃって」
「いやー、全部一度見ただけで覚えちゃうんだもんなぁ。
「それに笑顔もすごく変だし」
「無愛想よりはいいじゃないか」
「それはそうだけど」
なのはの中では、セルジオの笑顔は薄いもの、柔らかいもの、からかうようなものの三つのイメージが強い。
一つ目が一番よく見る笑顔で、二つ目はクイントなどのお願いを聞く時によく浮かべる。三つ目は言わずもがななのはをからかう時だ。
だからか、ああいった笑顔らしい笑顔は初めて見て、なんだか落ち着かない感じがするのだ。
(本当のセルジオくんはあんなのじゃないんだけどなぁ)
思わずそんなことを考えるなのは。
なのはは気づいていないが、知り合ったばかりの頃は、なのはにもああいう作った笑顔を浮かべていることも多かった。
しかし、なのはの中に作った顔のイメージは残っておらず、違和感を覚えられたということは、セルジオとの距離がそれなりに近くなったことの証左なのだろう。
「ほら、なのはいつまでもむくれてないで接客に戻ってくれないか? なのはの笑顔ならセルジオくんにも負けやしないさ」
「ふふ、なにそれ。でもありがとう、お父さん」
「はっはっは、いいともいいとも」
なのははセルジオのことを頭から一旦追い出して、にこりと笑うと接客に戻った。
その後、セルジオがちらちら視界に入ってはくるが、ちょうどそのタイミングで客の入りもよくなって来た事で、そんなことを考える暇もなくなってしまった。
そうしてしばらく必死に接客していると、ピークの時間を過ぎて、ようやく店から客がいなくなった。
「高町」
なのはが「ちょっと疲れたかな」と小さく息をついていると、不意にセルジオに名前を呼ばれる。
「もうあの爽やかな笑顔はいいの?」
「何を突っかかっている? それより、アレ、なんとかしろ。お前の知り合いだろう」
セルジオが親指で、背後の窓を指差した。
なのははアレ? と首を傾げながら目を凝らしてみると、窓から金髪の大きなツインテールがのぞいているのが見える。
「ふぇ、フェイトちゃん?!」
なのはが思わず名前を呼ぶと、窓の向こうの髪が慌ただしく動き出した。
「因みに解析魔法で見た感じ合計四人いるぞ」
「ということは、アリサちゃんたちと一緒なのかなぁ」
じーっとしばらくそのまま金色のツインテールを見ていると、そーっとこっちを伺おうとしていたフェイトと目が合った。
フェイトはしばらく目を泳がせていたが、なのはが手招きしたのを見てすごすごと翠屋に入って来た。そして、その後ろをカルガモのようにアリサ、すずか、はやての三人もついてくる。
「えーと、フェイトちゃんたち何やってたの?」
「そ、その、応援?」
「監視よ! なのはがちょっかい出されないか!」
「いや、今日遊びに誘ったらなんやセルジオくんがどうのーっていうとったから、野次馬やな」
「わ、私はみんなの付き添いかな?」
「どうしようみんな言ってることが違う」
「さーて、俺はシロウさんにコーヒーでも淹れてもらうとしようかな」
「ちょっとセルジオくんも関係あるじゃん!」
「嫌な予感がする。俺は一刻も早く離れたい」
なのはが逃すまいとセルジオの腕を掴んで引き止める。すると、なのはの友人の一人の金髪の少女、アリサが見上げるようにしてセルジオを見つめた。
「へー、アンタがあの『セルジオくん』ってワケね」
「どのセルジオなのかは後学のために是非とも教えていただきたい」
「なんや思ったより普通のお兄さんやけどな」
「ああその通りだよ。俺は至って普通の好青年だ。だから取り囲むのはやめてほしい」
「まあ、そうしてやっても私としてはええんやけどな? フェイトちゃんがセルジオさんに聞きたい事あるんやて」
すると、セルジオの足下をじっと見ていたフェイトが勢いをつけて顔を上げた。
「あ、あの、セルジオ、さん」
「ん?」
「な、なのはとどういう関係なんですかっ!」
「「は?」」
なのはとセルジオの口から全く同時に声が漏れて、そして首が傾げられた。
「ふぇ、フェイトちゃん? あの、突然どうしたの?」
「だって、なのはずっと『セルジオ』って人のこと褒めてたし、もしかしたらって……」
「それに急に家に泊めたとかいうやん? こりゃ、なんかあるに違いないちゅうことになってな」
「翠屋でどういう様子が見張ってたってわけよ!」
そこまで聞くと、セルジオの中で何となく今のこのトンチンカンな状況に理解が及ぶ。
たぶん始まりはセルジオとなのはがコンビを組んだこと。
そして、なのはの話題に今まで聞かなかった『セルジオ』という名前がではじめた事。
トドメはおそらくセルジオがなのはの家に厄介になった事。
そのことを小学生女子の妄想力が化学反応を起こし「なのはと『セルジオ』とかいう男はただならぬ関係なのでは?」という推理を生み出したのだろう。たぶん、一番ポンコツ臭のするフェイトが。
(く、くだらねえ……)
セルジオが思わず頭を抱える。
こんな気持ちになるのは魔力弾を上手く調整すればおっぱいの感触にできるのでは? と同僚の一人が言い出して以来である。
「で、どうなんなのはちゃん? やっぱそこのお兄さんとはそう言った関係なんでしょーか」
「恋人ができても私となのはは一番の友達だよね! ね!」
「ほらほら、いろいろ教えなさいよー」
「あはは、みんなほどほどに、ね。後でお休みの時にでも問い詰められ……お話聞けるんだし」
「いや、その、何といいますか……」
ちらり、と助けを呼ぶようになのはが見上げてきて、セルジオは大きくため息を一つ。
「仕方ないなぁ」
セルジオがぼそりとなのはにだけ聞こえる音量で呟いた。
「はいはい、お嬢さん方ここに取り出したるは一つの飴。では、コイツをこのエプロンのポケットに入れるとどうなるか、はいそこの紫の子!」
「え、えーと、消える?」
「残念、増えるんだなこれが」
ひゅっとセルジオがエプロンのポケットから五つの飴玉を取り出した。桃、赤、黄、茶、紫の今いる五人を示すかのような五色の飴に、みんなの目が丸くなる。
「じゃあ、今度はこの飴を俺が手で隠したらどうなるでしょうか。はい、そこの髪留めした子」
「私? そやなぁ、一つに戻る、とか?」
「答えは君たちのポケットの中、かな」
「ポケット? って、ええ?! なんでこんなとこにあるん?」
「ちょ、ちょっと今のどうやったのよ!」
「それを言っては手品にならないよ。じゃあ、次手を叩くとどうなるでしょうか、はい、高町」
「え? 飴が、なくなっちゃうとか?」
「いいや、違うな」
セルジオがなのはの答えを聞いて、にひ、と唇の端を吊り上げて、意地悪そうに笑って、手を打った。
ぱん、と乾いた音がしたかと思うと、なのはの視界が急に翠屋の店内から、青空へと変わった。
「えええええ?!」
「正解は、俺たちが消える、だ」
慌ててなのはが足元を見ると、そこには見慣れた屋根と、道路があった。よく耳をすませば、アリサたちの叫び声が聞こえてくるあたり、どうやら翠屋の屋根に転移してきたらしい。
「な、なんで転移なんかしたの」
「高町が何とかしろって言ったからな」
「これじゃあ根本的な解決にはならないよぉ〜」
「まあそこは高町が頑張れ。まあ、お嬢さん方も落ち着けば話しやすくなるさ」
「人ごとみたいに言って……」
これからのことを考えて頭を抱えるなのはの肩がぽんぽんと叩かれる。
こんな状況に追い込んだ根元をなのはがじとりとにらむと、そこには接客時のような爽やかな笑顔を浮かべたセルジオ。
「頑張れ、高町」
その微塵も心のこもっていない応援に、なのははぽかりと背中を殴った。
この作品は
一章 新暦66年から始まり、五章 新暦75年で終わる予定です。
もしかしたら減ったり増えたりするかもですがたぶん変わりません。
一応後5話くらいで一章が終わりそうで、二章からreflection編が始まります。
感想なくても書きますが、あれば調子に乗ってどんどん書くので感想くれれば嬉しいです。ネタバレにならない程度なら質問にも答えます。たぶん。