ようやくリリなので新しいの書けました。
更新スピードはどうなるかわかりませんがよろしくお願いします。
桜色の星光
『正義』とは何か。
それは酷くありふれた問いだ。
英雄と呼ばれる男は、『義に背かないこと』と答えるだろう。
地上を守ることを志す男は、『何としても地上を守ること』と答えるだろう。
ある若き執務官は、『法を守り、悲しむ人を減らすこと』と答えるだろう。
そして、地上本部の局員の一人である彼はこう答えた。
『傷つく人を、涙を流す人を、これ以上出さない』
それが彼にとっての、絶対的な、不変的な、引き継ぐべき『正義』だった。
ミッドチルダの首都クラナガンに本拠地を置く管理局地上本部。その一角では、いつもと同じ問答が繰り返されていた。
「ねー、セルジオくーん、ここんところの書類仕事手伝ってくれないかなー」
「無理です。俺も忙しいですし。というか、隊長にその案件任されたのクイントさんじゃないですか」
「だってここ最近緊急の案件続きで書類まとめてる時間なんて無かったのよぉ〜」
「それは少し同情しますけど……」
「家族のために時間もつくんなきゃいけないしさぁ……」
青髪の女性──クイントの「お願い」と手を合わせて頼む姿に、少年──セルジオが困った様に自身のデスクを見る。そこにはクイントの持ち込もうとしている案件と同じくらいの書類が重なっていた。
しかし、クイントに出される家族の話に彼はどうにも弱い傾向があった。セルジオが幾度かクイントとデスクとを見比べて、やがて小さく息を吐いた。
「わかりました。お手伝いしますから」
「え、ホントに?」
「はい。どれを手伝えばいいですか?」
困った様に笑うセルジオに、ぱあと表情を明るくさせるクイント。
「いやー、流石私の弟分! 頼りになる!」
「む、なんか調子いいなぁ。別にいいですけど」
「えっとね、この前の……あいたっ!」
ぐっと親指を立てたクイントの頭の上に、突如どでかいファイルが叩き落される。過去数年間にわたる厚みと重みを持ったそれは、ズドン、という紙とは思えない音を立てる。
「なにすんのよメガーヌ!」
「クイント、貴女またセルジオ君に手伝ってもらおうとしてるでしょ」
「ぎくー」
クイントが召喚魔法で送り込まれてきたファイルを判断材料に下手人の方へと振り返る。するとそこには呆れた顔の紫髪の女性がデバイスを片手に立っていた。
「いや貴女ね、いつでもセルジオ君に頼るのはダメよ」
「だからってこのファイルは無いでしょ! 私じゃなかったら首折れてるわよ?!」
「貴女だからいいでしょう、別に」
「メガーヌさん、俺から手伝うって言ったんです。だから、そこまで怒らなくても」
「あのね、セルジオ君」
じろり、とメガーヌの視線がクイントからセルジオへと移る。
「君も君よ。いっつもそうやって誰かの仕事を手伝って。君がこなせなかったらみんな困ることになるのよ?」
「あー、まあ俺こういう仕事だけが取り柄ですし。こんくらいの事務仕事はばっちこいって感じです」
「君はその地頭の良さが問題よね、ほんと」
「それに」とセルジオが頭を抑えてへたり込んでいるクイントへと目を向ける。
「クイントさんにも、メガーヌさんにも普段からお世話になってますから。出来る限り恩返しはしたいです」
「こんのー、可愛いこと言ってくれちゃってー。このこのー」
「あいたたた、クイントさん痛いですって! 背中叩かないで! いや、ほんと痛い!」
「あっはっは」
脳味噌ベルカのノリで嬉しそうにバンバンと背中を叩くクイント。それを本気で痛がるセルジオの二人を見ながら、はあとメガーヌがより一層大きなため息をついた。
そんな三人の様子を同じ部隊の職員は「まーたいつものやつだ」とでも言うように楽しそうに見つめる。
この部隊、地上本部航空魔導隊三課、通称『
バンバンと背中を叩かれ続けるセルジオがふとデスクに置いてある古びた懐中時計へと目を写して、あ、と小さく声を漏らした。
「すみません、クイントさん。俺このあと少し行くところがあって、書類、帰ってきてからでもいいですか?」
「……行くとこ?」
「はい、人を迎えに駅の方まで」
「もしかして以前隊長に頼んでた新人さんのことかしら?」
「新人? なんのこと?」
クイントが首を傾げる。
「まだ正式には部隊のみんなには話してないんですが、知り合いの後輩を預かることになってて」
「あ、それって時々話してた海のエリート執務官くん?」
「まあ、はい。どうしてもって言われて断りきれなくて」
セルジオの脳裏に黒髪童顔の少年の姿が浮かんでくる。
ひとつ年下の彼は士官学校の頃のルームメイトである。共に学び高め合い、いくつかの面倒ごと行動を共にして親友と言える間柄になった。
道は別れてしまったもののセルジオの数少ない心を許した友人だった。
ふむ、とメガーヌが顎に手を当ててしばらく考え込む。
「ねえセルジオ君、預かる子のポジションとかわかるかしら?」
「あいつが言うには砲撃魔導師で射撃と空戦が得意らしいです。おそらくセンターガードでしょう」
「遠、中距離の純魔導師タイプが少ない三課としては嬉しい所だけど……」
「
「あー、たしかにそうですが、多分実力面なら問題ないと思いますよ?」
新人なのに、実力面は問題ない、と言うおかしな言葉に、思わず二人が眉を寄せる。
訳がわからない、と伝えてくる視線に、セルジオが困った様に頭を書いた。なんと説明したものか、としばらく頭を悩ませていたが、やがてあぁと小さく声を漏らす。
「『闇の書事件』って知ってますか?」
天を衝く高さの高層ビルが立ち並ぶクラナガンの市街を、茶色の制服のセルジオが一人で歩く。
「あー、バイクで来れば良かったかな……」
セルジオが身にまとう地上本部──通称『陸』の制服は、引き締まる黒の『海』や、白と青のコントラストが美しい『空』の制服と異なりどこか地味な色合いだ。
そのため女子局員からは文句が出ることもあるのだが、現在の陸の上層部はオッサンばかりなのでそんなことに気づくことはないだろう。
「いや、あそこあたりの駐車場高いしな、歩きで良かったな」
別にお金を普段から使うわけではないが無駄遣いしないに越したことはない。
暫く歩き、胸ポケットからカード状のデバイスを取り出してもらっていたメールで場所の確認。
「ここだな。時間も問題ない」
最後に懐中時計で時間を確認、指定されていた喫茶店、指定時間の十分前である事を確認する。そして、気を引き締める様に軽くネクタイを締め直すと扉に手をかける。
軽やかな鈴の音と、「いらっしゃいませー」という明るい声に招かれて、軽く会釈しながら店に入る。すると、店内の一席に見知った黒髪を見つける。
ふ、と思わず笑みを浮かべてしまう。
「よう、クロノ変わりないか?」
「ああおかげさまでな。そういう君も変わりない……いやまた身長が伸びたな? いくつだ」
「確かこの前病院に行った時に、174だったか」
「君はまた勝手に身長を伸ばして……!」
悔しげな色に染まるクロノの童顔に、軽く笑いを返してその対面に腰掛ける。古めかしい椅子はセルジオが腰を落とすとぎしり、と軋む。
セルジオは一先ずメニューに目を通すとコーヒーを注文して、クロノの横で静かに腰掛ける少女へと目をやった。
年の頃は10歳か、下手すれば一桁。自身より幼いのは間違いない。さらりとした手触りの良さそうな茶髪をリボンで二つに結んでいるのが余計幼く見せているのかもしれなかった。
(これが、あの『ナノハ・タカマチ』か……)
あの『闇の書事件』を解決した立役者。幼いながらに既にAAAランク魔導師級の実力を持っているという未来の『
(こんなに幼いのにな)
セルジオをチラチラと見ながら自身のココアを冷ましている姿は、どこにでもいるような子供に見えた。
やがて店員がセルジオのコーヒーを運んでくると、クロノが口を開く。
「今日は忙しいところ来てくれてすまなかったな」
「なあに、陸が忙しいのはいつものことだ。気にすることじゃない」
「そうか。そう言ってくれるとありがたい」
「そう真面目くさった顔するなよ、クロノはオフだろ? 楽に行こうぜ、楽に。神経質な奴は将来ハゲるぞ」
「う、うるさいっ! 僕はいつだってこういう顔だ! それに君がズボラなだけだろう。寝癖だっていっつもそのままで……」
「さっすが女子の寝癖までナチュラルに治しちゃうクロノの言葉は違うな」
「え、エイミィのことは関係ないだろう」
「別にリミエッタの名前なんて出してないだろ?」
「こ、このっ」
「ぷっ」
にひ、とからかうようなセルジオにクロノが言い返すと、その隣で小さく吹き出すような声が上がった。思わず二人の視線がそこに集まる。
「あ、えと、そのぉ……クロノ君がそういう風にからかわれるのって、珍しくて、つい……ごめんなさい」
声の主人は、その二房の髪をぴょこぴょこ揺らしながら小さな声で弁解する。
そんな様子を見てセルジオとクロノが目を合わせる。
「クロノ、紹介してくれ。元から今日はそれが目的なんだしな」
「ああ、君の事からでも?」
首肯だけで返答を返し、ちょうど店員が運んで来てくれたコーヒーを一口。まだ淹れたてで舌がひりつくように熱く、驚いたセルジオはそっとカップをソーサーに戻した。
「なのは、彼は『セルジオ・アウディ』。以前話した通り、次に君が配属される部隊で分隊長をやっている男だ。顔がいいから騙されるなよ」
「おい」
クロノはまずなのはの方に向けてセルジオを紹介する。最後にほんの少し棘が混ざったのは先ほどの意趣返しか。
「セルジオ、彼女は『高町なのは』。出身世界は管理外世界だが、本人たっての希望でミッドの方に配属される。迷惑をかけるが、面倒を見てあげてほしい」
「 よ、よろしくお願いします!」
クロノの言葉が終わるとなのは勢いよく頭を下げた。どうやらかなり緊張しているらしいが、なぜなのかはセルジオにはよくわからない。
だからとりあえずクロノに念話を飛ばしてみることにする。
「(なあクロノ、なんでタカマチさんはこんなに緊張している? )」
「(あー、おそらく君に萎縮してるんじゃないのか?)」
「(俺に? お前と一つしか違わないぞ、俺は)」
「(推測だが、僕と違って君のことがかなり年上に見えているんじゃないだろうか)」
「(ああ、お前チビだもんな)」
「(──! いや、今は何もいうまい。いつか見返してやるからな)」
「(はいはい)」
適当にクロノとの念話を切って未だ頭を下げているなのはになるべく優しく声をかける。
「ええと、タカマチさん、取り敢えず顔をあげるといい」
「は、はい」
「俺は、航空魔導隊三課、通称
「高町なのは二等相当空士です。あ、この相当っていうのは正式配属までには無くなる予定です」
「ああ、わかってるよ。俺も訓練校については理解している」
「そ、そうですよね。失礼しました」
「まあ、そう固くならずに、タカマチさんは、サード……いや、航空魔導隊がどういうことをするところか分かってる?」
「は、はい。確か、ミッドチルダで行われる犯罪行為に備えて普段から訓練、有事の時は率先した犯人逮捕、調査をする部隊だって聞いてます」
「ああ、その認識で問題ないよ。でも、俺たち
「プラスアルファですか?」
こてん、と可愛らしくなのはが首をかしげる。
「俺たちの隊は魔導師ランクよりも長年管理局に務めてきた、所謂ベテランが多い。俺みたいに若いのはごく少数だ。どうしてかわかるか?」
「えと、大変な事件に対応するため、ですか?」
「それもあるが、この場合答えは『少数部隊で動くことが多いから』だ」
「えぇと、つまりどういう事ですか?」
「セルジオ、なのはが混乱している。結論を言ってあげてくれ」
「悪いな、回りくどい話し方をするのは俺の悪い癖だ」
真面目な様子でセルジオを見つめるなのはに、少しぬるくなったコーヒーを口に運ぶ。舌に残るような強い苦味が、午前のデスクワークの疲れを少し飛ばしてくれるような気がした。
カップをソーサーに置いて小さく息を吐く。
「俺たちの別名は『後始末部隊』。詰まる所どっか困っているトコに人を派遣して解決するっていう目的もある。忙しさは他の比じゃないが、やれるか?」
セルジオがその薄い翠の瞳をなのはに向けた。すると、なのははしばらく黙りこくっていたが、やがて少し顔を引き締めてこくりと頷いた。
(んー、まだ少し固いな)
なのはの瞳は真剣そのもので、かなり覚悟しているようだった。ガチガチ、そのうちポッキリ折れられでもすればクロノに顔向けできないのはセルジオだ。ここで一つなのは緊張をほぐす必要があった。
「タカマチさん、話は変わるがキャンディーは好きかな?」
「え、あ、はい甘いものは好きですけど」
「それは良かった」
セルジオは薄く笑むと胸ポケットから一つの飴玉を取り出した。それを見て、クロノがああ、アレをやるのかと小さく呟く。
「今から見せるのはちょっとした面白芸だ」
そう言ってセルジオはキャンディーを右手の平に置くと左手でパタンと手を閉じてしまう。
「この手、開いたらどうなると思う?」
「なくなってる、かな?」
「ほう、よく分かったな大したものだ。さてさて、では今のキャンディーはどこにやったかな」
少し芝居掛かった口調でセルジオが自身の金髪をかくと、少し驚いたような表情を浮かべる。
「おっとこんなところに」
「え?」
セルジオが手を引き抜くとそこには先ほどのキャンディーが。それを見てなのはが驚いたように目を開く。
「ほらクロノ」
「突然飴を投げるな」
軽く放られたものをクロノが片手で受け取る。
「じゃ、次はタカマチさん、その机の上の手をゆーっくり開いてもらえるか?」
「手を、ですか?」
ああ、と頷くと、なのはは訝しげな表情をしながらゆっくりと手を開くと、その中から先ほどクロノが受け取ったはずのキャンディーが現れる。
「えぇっ?! ま、魔法ですよね? で、でもどうやってやったんですか今の!」
「
「ず、ずるい!」
以前、士官学校に通っていたころ仲間内で一発芸大会を開いたときに考えたものだったのだが、今でもこうして時々役立ってくれる。特にクイントの娘なんかにはバカウケである。
(本当に、普通の女の子に見えるな)
不思議そうに手のひらを見つめて首をかしげるなのは。そんな姿にセルジオの中でなのはを疑う気持ちが芽生えてしまう。
噂では『ナノハ・タカマチ』は管理外世界が生んだ突然変異種。犯罪者には容赦なく砲撃を叩き込み、自身を悪魔であるとまで自称したと言う魔導師だ。
そんな噂これっぽっちも信じてなくても、イメージとの違いに少し拍子抜けする気持ちがないわけでもない。
(まあそれはこれから確かめていけばいいか)
もし噂ほどの実力がなくとも俺が鍛えていけばいいんだし、と結論づけて再びなのはへと向き直る。
そして、可能な限り優しい笑みを浮かべてみせる。
「タカマチさん、しばらくの間よろしく」
「こ、こちらこそお世話になります」
セルジオが片手を差し出すと、なのはの方もおずおずと手を差し出す。
そして、二人の手が重なろうとして、あたりに爆音が響いた。
瞬時にクロノとセルジオが立ち上がり、窓の向こう、音の発生源へと視線を向けた。するとそこには、もうもうと煙をあげる自動車の向こうに拳銃型のデバイスを片手に、女性を人質に取った男の姿があった。
「どう言う状況かわかるか?」
「さあな。でも右肩にボストンバックがある。近くに金も落ちてるし、大方銀行強盗して逃げきれなくなって人質をとった、とかそんなところだろ」
「クラナガンも治安が悪くなったものだな」
「今のここじゃ時々あることだよ」
悔しげなクロノの声を聞きながら、セルジオが胸ポケットから銀色のカードを取り出した。そして、そのまま素早く起動してバリアジャケットを纏うと、三課の本部へと通信を繋いだ。
「はい、アウディです……はい…………そうです偶然近くに。……わかりました。そちらで対応部隊への連絡をお願いします…………了解です」
通信を切ると、窓の向こうで未だ人質を取った違法魔導師と駆けつけた局員が睨み合っていることを確認する。
(跳ぶなら、あそこの信号機で一旦足をつけて、後は加速するのがベストか)
カードを軽く振って一瞬のうちで槍として変形させる。
「あの、どうするつもりなんですか?」
「見たらわかるだろう。仕事をするんだ」
「一人でですか?」
「いつものことだよ」
「なら私も行きます。一人なんて危険です」
「駄目だ」
「な、なんでっ」
「タカマチさんはまだ正式には陸の所属じゃない。そんな状態で現場に出れば混乱が生じる。そう言う面ではクロノも同じだな」
「だからって、人を助けなくていい理由には、ならない、と思います」
「だから俺が行くんだ。俺は、俺なら助けられる立場にあるから」
セルジオの薄い翠の瞳がなのはを見つめる。その奥には先程までの優しげなものは鳴りを潜め、ただただ凪いだ意思があるだけだ。なのはが黙り込んだのを見て、セルジオはそれ以上何も語ることなく槍を構えた。
「さて────」
すう、と切り替えるように大きく息を吸って、吐いた。そして、頭の中で
「────行くか」
心の中でだけそう呟いて魔法式を発動させる。すると、魔力を起爆剤とした転移が起動して、瞬時にセルジオの体を犯罪者と先ほどの喫茶店の中間の信号機ほどまで跳ばした。
軽く足を信号機へとつける。
「
起動句と共にマルチタスクで演算しておいて待機状態だったブリッツアクションを発動させ、瞬時に距離を詰めて行く。
転移に半秒、道路へと着地して一秒、そして犯人と人質を槍の射程範囲に捉えるまで一秒。三秒に満たない時間で一気にセルジオが犯人へと肉薄する。セルジオが両手で槍を握り体を沈み込ませながら強く踏み込んだ。
「な、魔導、師」
そこでようやく犯人が自身を襲う存在に気がついたが、もう間に合うはずもない。
「くそ、喰ら──」
「遅い」
電光一閃。
槍に反射した光が一瞬光ったことしかわからない刹那。振われた槍は瞬時に犯人の男の手の中からデバイスを弾き飛ばした。
男の顔にあからさまな驚きの表情が浮かぶ。セルジオはその一瞬を見逃さず、片手の捻りで槍を翻すと石突きの部分で男の肩をしたたかに叩いた。男の捕縛する手が緩み、人質が自由になる。女性の体が路上に倒れこむ。
「うぐっ、クソッ! 人質を」
その一瞬でセルジオが人質を解放し、もう一発留めを叩き込もうとして、男の腰のホルスターに隠すようにしてもう一つデバイスがさげられているのを見た。
(こいつ、二丁拳銃……)
男の空いた手がホルスターに向かい、デバイスが引き抜かれる。その銃口は、傍にいる人質だった女性。
(不味いっ!)
「食らえやっ!」
「ブリッツアクションッ!」
瞬時に体が加速し飛行魔法を併用した高速移動で人質を救出、一気に戦線まで離脱するべく全力で跳ぶ。と、この辺りで、背後で銃撃が行われる……というのがセルジオの予想だった。
(爆発音が、ない?)
だが、いくら待っても男がするはずの銃撃音がない。そして、思わず犯人がいるはずの背後を振り返り、絶句した。
桜色の流星が走ったのだ。
太い一条の流星は、同色の弾丸に弾かれた手を抑える男を飲み込み、そして瞬時に晴れる。
「桜色の、砲撃……」
女性を抱きかかえて、着地したセルジオがポツリと呟いて、光の源へと視線をやった。
そこには、先程までセルジオのいた喫茶店の開け放った窓から杖を構えている幼い少女。その少女は、心底ホッとしたように小さく息を吐いていた。
(まさか、あの距離から直射弾で犯人のデバイスを狙い撃って間髪入れずに砲撃を撃ったっていうのか……)
だとしたら恐ろしい。あんな年端もいかない子供が、ベテラン魔導師ですらできるか怪しいことを軽くやってのけたのだ。ここまでされたらもう疑う気力も湧いてこない。クロノの言葉は間違いがなかった。
「タカマチ・ナノハ……」
なんとなく、その名前とは、長い付き合いになるような気がしていた。
これは、少年と少女が出会い、そして
ただ、それだけの、残酷で、だからこそどこまでも美しい、そんな物語。
シリアスとコメディの成分は多分半々くらいで進めると思います。
レアスキルもない。特筆した才能もない。
そんな状態からスタートする物語でござい。