その時なのははベンチに座ってセルジオの帰りを待っていた。
集合してから二人でショッピングモールの中をいろいろ話をしながらぶらぶらと歩いて、途中ではネックレスも買ってもらった。
これでいいのかな? と思うくらいのんびりとしていて、これではまるで遊びに来たかのようだったが、現状なのはにできることはない。
サーチャーなどは最低限使えはするものの、セルジオのように解析などは得意ではない。一応申し訳程度に、ロストロギアのある方を見たり、怪しそうな人がいないかは確認していたものの、問題は見受けられなかった。
クイントも付いて行くだけでいいと言っていたし、おそらくこれでいいのだろう。
なのはの手が自然とシルバーのネックレスに向かう。
ちゃり、と鎖が音を鳴らすのを聞いて、なんとなくそのままネックレスの縁を指でなぞる。少し冷たい感覚の五芒の星がなのはの指を押し返す。
「セルジオくん、遅いなぁ……」
先ほどセルジオが走って行った方に目を向けるが、そこには目当ての姿は見えなかった。
クリスマスからはもう既に一ヶ月近くの時が経っている。
雪の日にセルジオと二人で月を見ている時なのはの中に浮かんできた『この人の力になりたい』という思いは今もそこにあるが、だからといって何をすればいいかはわからない。
ただ、ぼんやりと今の関係ではいけないだろう、とは感じている。
しばらくネックレスを触りながらベンチに座っていると、肌にピリつくような圧迫感を感じた。
(なにか、変な感じがする……)
なのはが弾かれるようにして遠くへと目を向けると、遠くで爆音とともに一条の白光が走った。
そして、トーレのエネルギー刃が低い唸りを上げて、セルジオの胸めがけて振るわれて────
「こんなとこで、終われるかッ!」
「がっ────」
叫び声とともにセルジオの左手の中に白の光球が出現、勢い良く握りつぶされた瞬間、目も眩むような閃光と衝撃走り、トーレとセルジオの体が大きく吹き飛ばされる。
呻き声を上げたトーレは衝撃のあまりセルジオから手を離してしまうが、なんとか受け身をとってほとんど無傷で乗りきった。
「今のは、何をした」
トーレがふらふらと槍を支えにして立ち上がるセルジオを睨む。すると、セルジオは腹から胸にかけての傷口を手で抑えながら、にやりと不敵に笑う。
「
「自爆紛いの奥の手、というわけか」
「まあ、そんなところだ」
トーレが目を細めてセルジオを見つめる。槍を握る手は震え、先程から息も荒い。トーレに蹴りとともにつけられた裂傷は、自身の自爆で傷口が広がったらしく白のバリアジャケットを赤く染め上げている。
(容易く自爆を選ぶとはまともな人間とは思えんな)
トーレの中に『セルジオ』という人間についての興味が水泡の如く湧いてきたが、それも一瞬のこと。すぐに首を振ってその考えを打ち消した。
(私は戦闘機人。ただ、ドクターの命に従い行動する機械。ただそれだけであればいい)
トーレが己の内に湧いた感情の瞬きを消し去ると、エネルギー刃、インパルスブレードを発動させて、構えた。
「今度こそ死ぬがいい、セルジオ・アウディ」
トーレの先天性技能である《ライドインパルス》が発動すると、翼にもなる刃、インパルスブレードに加速能力が付与され、爆発的な速度で踏み込んだ。
それは最早『高速移動』という領域ではなく、見る人によれば『瞬間移動』にすら感じることだろう。
迫るトーレを視界に収めながら、セルジオがゼファーの中に内包された行動予測プログラムを駆動させて、マルチタスクと併用することで一秒足らずで、三十秒先の未来まで見通した。
(
セルジオの目が白く光ると、マルチタスクに待機させていた加速魔法に魔力を流し込んで発動させてトーレの一撃目を回避する。
「読みきった───まず一手」
「『ゼファー』の未来予測か。面白い」
トーレが加速して回り込むと、槍を握る左腕を切り落とそうと刃を振るう。だが、それをあらかじめわかっていたセルジオが、槍をくるりと回すことで弾く。
「ニ手」
白い光が瞬きセルジオの体が搔き消えたかと思えば、次の瞬間にはトーレの頭上に姿を現す。そして、落下の速度と自身の体重の全てを込めて全力の突きを放った。
セルジオの銀色の槍が目の前の敵へと直進し、その体を射抜かんと迫る。
「三手」
だが、それを戦闘データから可能性に留めていたトーレはエネルギー刃を交差させる事で頭上で受け止める。
爆発音を上げてぶつけられた槍の穂先と刃が鍔迫り合い、トーレの紫の刃が僅かに砕け、セルジオの槍が軋みを上げた。
セルジオが静かに告げる。
「四手」
「だからどうした!」
トーレが戦闘機人の通常の人間より数倍の筋力を全力で稼働させて槍を押し込めて弾き飛ばそうとする。
「五手ーーーこれを待っていた」
セルジオの目が大きく見開かれると、翠の中に走る白の色合いが強くなる。
「ゼファー、
がしゃん、とセルジオの左腕のガントレットが内部から槍との合体機構を吐き出しながら槍の柄を固定し、穂先を変形させる事で巨大な砲身を作り出した。
トーレのエネルギー刃に槍の穂先をそのまま変形させた巨大な砲身が添えられる。
「ディバイン──」
その強い光は、本来ならあたりに散らばるものまでも砲身の中に収束、固定する事で威力の向上と発動速度の向上という荒業を実現してみせる。
「──カノンッ!」
ズ、と白の砲撃が炸裂し零距離砲撃が炸裂しトーレがいた空間を纏めて薙ぎ払った。
「やったかっ?!」
眩い閃光と地面に着弾した際に起こった土煙にセルジオが僅かに目を細める。そして、瞬時に解析魔法で空間探知を行い、辺りに
ふう、と息をついてセルジオが土煙の向こうのトーレの姿を確認しにゆっくりと移動を始めて、はた、と思い当たる。
(反応が何もないだと。ならトーレの反応は一体どこに────)
もし撃墜されたならトーレ体が地面になければおかしい。けれど、解析魔法には何も探知しなかった。ならば、それが意味することは一つしか無いわけで。
「言っただろう。お前の行動を読むことは赤子の手をひねるより容易いと」
背後から、声がかかる。
「しまっ────」
セルジオは弾かれるように振り向いたが、時は既に遅い。
セルジオの視点では、突如背後に現れていたトーレが右腕のインパルスブレードで胸を真一文字に引き裂きながら、強烈な拳を叩き込んだ。
めきり、と骨が軋むと、セルジオが地面に叩きつけられ、大きなクレーターを作り出す。
「げほっ、な、にが……?」
地面に這い蹲り血反吐を吐きながらセルジオが困惑の声を上げる。
それは当然とも言える。セルジオの広範囲解析は生まれつきの適性の高さから非常に少ない魔力で、しかも超広範囲に発動が可能だ。その最大捕捉は直径二十メートル。そこから逃げきれるものなど、ほとんど存在しない。
ならば、なぜトーレは解析魔法に探知されなかったのか。その答えは、彼女のISにある。
トーレの
つまり、セルジオの広範囲解析を振り切るほどのスピードを出すことも、また可能。
ただ、速い。
それが、魔導師ランクにすればSにもなるであろう戦闘機人『トーレ』である。
「く、そ、うご、け……」
セルジオがクレーターの中で無理矢理に体を動かそうとするが、二つの大きな裂傷に、身動き一つで鈍痛を訴える胸骨と肋骨の怪我のせいで、指を動かすのさえ困難な状況だ。
セルジオが万策尽きたかと悔しげに唇を噛んだ。
「ディバインバスター!」
聞き慣れた起動句が聞こえると、視界の端から端までぶち抜くようにして桜色の流星が空をかけて、空中に浮かぶトーレを目指して直進する。
「新手か」
だが、トーレはそれを
砲撃の速度も遅くはないが、戦闘機人の思考速度とトーレのライドインパルスがあれば、視認してから避けるのも容易い。
「む、逃げたか」
だが、どうやら砲撃を撃った人物は一瞬の間、気を逸らせれば良かったようで、特に追撃を行うことなくセルジオとともに姿を消していた。
トーレがクレーターの中心に溜まる僅かな血だまりを見て、移動した祭の血痕が残っていないか探すが特にそれっぽいものは見つからない。
「
彼女の目的は『セルジオ・アウディからデバイスを奪取すること』。そのついでにセルジオを殺すことである。
隠れられてしまっては目的が果たせなくなってしまう。
既にセルジオとの交戦からは十分が経とうとしており、あと十分もすれば付近の管理局員が来てもおかしくない。
そうなればもうデバイスを取り返すこと不可能となってしまうだろう。
「なら、あちらから来てもらうしかないな」
トーレの視線が移り、ショッピングモールの中央を見つめる。
彼女の戦闘機人としての優れた目が、ロストロギアとして展示されている、『赤い宝石』の姿を捉えた。
力を振り絞ってなのはと二人短距離転移でショッピングモールの二階の物陰に隠れたセルジオは、そこで限界を迎えたように膝をついた。
なのはが慌てて駆け寄ってセルジオの顔を覗き込んだ。
「セルジオくん! しっかりしてよ!」
「大丈夫、だから、あんま喋るな」
「そんなのできるわけないよ! 自分の怪我のこと……」
「いいから、黙れ。声で、バレる」
荒い息のままなのはの口を抑えるセルジオ。目でわかったか? と聞くとなのはがこくこくと何度も首を縦に振った。
「(俺なら大丈夫だ。怪我はしたが意識が飛ぶほどじゃない)」
「(う、うん。でも無理しないでね)」
「(それなら問題ない。もう無理をする必要もない)」
「(どういうこと?)」
「(理由はわからないがどうやらあの戦闘機人の狙いは俺らしい。何度かロストロギアを取りに行くチャンスもあったのに、それを無視して俺を殺しに来た)」
「(それってセルジオくんの勘違いとかじゃなくて?)」
「(サーチャー飛ばしてみるといい。そしたら多分わかる)」
「(う、うん)」
なのはがレイジングハートからサーチャーを出す隣で、セルジオはゆっくりと背中を壁に預けて息を吐く。
「(ほんとだ。さっきの場所から動かない)」
「(だろう。なら、後は応援を呼べばいい。今からクイントさんたちに……)」
インカムに伸びたセルジオの手がからぶる。どうやら三課につながっていたインカムは戦いの余波でどこかに飛んで行ってしまったらしい。
ちっ、とセルジオが小さく舌打ち。
おそらく騒ぎを聞きつけた管理局員がやってくるまで後十分か十五分。時間はかかるが、そこまで経てばもう半ば勝ちのようなものである。
(屋内の客は…………一階と二階は避難したみたいだけど、3階から上はぼちぼち取り残された人がいるな)
広範囲解析の精度をあえて落とすことで、探知範囲を広げてモール内の大まかな人数を把握する。
(上に行かれたら厄介だ。ここは俺が囮になって外に誘き寄せるか、いや──)
「(──! セルジオくん、女の人が動き出したよ!)」
なのはの声でセルジオが思考の海から帰還する。
「(俺にもサーチャーの映像共有できるか)」
「(うんわかった)」
なのはが共有のための魔法式を発動するためにセルジオの体に触れる。
「──っ」
「(ご、ごめん痛かった?)」
「(問題ない。少しだけ傷に触っただけだ)」
「(う、うん……)」
力など全く込めず、ただ軽く肩に触っただけなのに今の痛がりようだ。大丈夫なはずはないのだが、セルジオはそれをなのはに悟らせまいと必死に強がってみせる。
その甲斐あってかなのはがサーチャーの映像を送ってきて、マルチタスクの一つにロストロギアの入ったショーウィンドウを見つめるトーレの姿のイメージが映し出される。
トーレは感情を感じさせない顔でしばらくショーウィンドウを見つめていたが、やがてゆっくりと目をそらした。
『セルジオ・アウディ、どこかで聞いているんだろう。お前に少し話がある』
「(セルジオくんにお話?)」
なのはがサーチャー越しに聞こえてくる声に首をかしげる。
『私はお前に用があってな。隠れられたら面倒だ。どうだ、私の前に姿を見せる気はないか』
トーレは少しの間返答を待つかのように黙っていたが、なにも行動がないことに小さく息をついた。
『ところでセルジオ・アウディ、お前たちはここにあるロストロギアがなんだと思っている。まさか、唯の宝石だとは思っていないだろう?』
「(どういう、事だ……?)」
『いや、もしかしたらそう思っているのかもしれないな、随分偽装も完璧なようだし、なッ!』
セルジオの疑問に答えるように、トーレが思いっきりショーケースを殴り抜くと、ガラスとともに、『魔法陣』が砕け散った。
そして、今まで偽装されていたその姿と魔力が一気に漏れ出した。
(まさか、ケースとロストロギア自体への二重の幻影魔法で解析魔法を、いやそれよりもあの赤い宝石は……!)
セルジオが小さく息を飲んだ。
「レリック、だと…………」
思わず念話にすることも忘れてその単語が漏れ出した。
「(セルジオくん、レリックって?)」
「(高エネルギー魔力結晶体レリック。管理局がアレを見つけたのは過去二度だけだが、その時はいずれも大規模災害が起きてる)」
「(それって、つまり……)」
「(簡単に言えば、質量兵器の超大型爆弾みたいなものだ)」
ぎりっとセルジオが強く唇を噛む。
『お前が一分以内に出てこない場合は、私もうっかりコイツの封印を解いてしまいかねん。そうなれば、どうなるかなどわかるだろう?』
「──ッ」
『私も無意味な殺傷は好まない。では、一分待とう』
そこまで聞くとセルジオはなのはからのサーチャーの映像を切って、まだ槍として展開していたゼファーを杖代わりにして立ち上がる。
この件はトーレが本当に暴走させる気があるかなどは関係ないのだ。例え暴走させればトーレもただでは済まないため、実際にはさせないで脅しの言葉だけなのだとしても、市民を人質に取られた以上動かざるを得ない。
それが、八割がデマで、本当に暴走させる危険が二割程度だとしても、セルジオはその二割を捨て置くことはできなかった。
「(行くの?)」
「(ああ)」
「(私も行くよ。セルジオくんの怪我じゃ……)」
なのはが言いかけた言葉をセルジオが首を横に振って止めた。
「(高町は俺がトーレを引き付けているうちに市民を避難させてくれ。そのくらいの時間は稼げる)」
「(そ、そんなの駄目だよっ! 一人で行くなんて、そんなの……)」
きっと目を鋭くしてなのはがセルジオを見上げるようにして睨んだ。
「(そんなの、死にに行くようなものだよ!)」
「(レリックを暴走させるわけにはいかない。誰かがやらなきゃいけないことだ)」
「(でも、でも……!)」
「(聞き分けてくれ高町。お前しかできないことなんだ)」
「(そんな、そんな言い方、ずるいよ……)」
なのはが唇を噛んで俯く。
「後は任せたぞ」
セルジオは、そう言ってなのはの頭をいつものように軽く撫でて、ゆっくりと歩き出す。
その足取りは軽いが、その先は確実に死へと繋がる道がある。今のセルジオの実力では、トーレには勝てない。ただ、速さで圧倒され、そしてきっと殺されてしまう。
(でも、私は────)
けれど、なのははセルジオを止められない。
なぜならセルジオの指示は正しいかったから。『未避難民を助けろ』という目的は、なのはの『人を救う』という誓いそのものを体現したようなもので、だからこそなのははセルジオを止められない。
「セル、ジオくん……」
思わず呼んでいた名前を聞いてか、最後にセルジオが一瞬だけ、こちらを向いて、ふ、と綻ぶように笑った。
それが、なのはには、なんだか堪らなく悲しそうで泣いているようにみえて──
──あの子のこと、よく見ておいてあげてね。
──あいつのことを、見届けてやってくれ。
──これからも、セルジオのことをよろしく頼むよ。
声が、聞こえた気がした。
いつか、誰かとした話。
託してもらった、想いが。
──私の魔法は、
最後に、そう言った誰かの声を聞いた時、なのはの足は動き出していた。
「……何のつもりだ、高町」
「セルジオくん行っちゃだめだよ」
なのはがセルジオの背中に抱きついて、その歩みを止めた。
「わかっているのか、俺がいかなきゃレリックが……」
「だって!」
遮るように声をあげたなのはが、セルジオの背中にこつんと頭をぶつけて、呟いた。
「だって、セルジオくん、ずっと泣いてるんだもん。泣いてる子を、放ってなんかおけないよ」
セルジオが息を飲む声が聞こえる。
ずっと、なのはは感じていた。ふと、した時、会話をしている時、いつもセルジオはどこかとても悲しそうで、泣くのを我慢しているようだった。
それが、気のせいなはずがない。だって、高町なのははもう一年近くずっと隣で、セルジオを見ていたのだ。
それが、気のせいなはずがない。
「セルジオくんがさ、私のことを完璧に信頼してないのもわかる。だって、いっつも大切な時は一人で行こうとするもんね」
抱きしめていた手をなのはがとくと、セルジオが力が抜けたようにへたり込んだ。
「ねえ、セルジオくん。私は、セルジオくんのなに?」
「高町は、俺の……」
なのはがセルジオの翠の瞳を見つめて問いかける。
「相棒……」
セルジオが細い声で答えると、なのはは優しい笑みを浮かべた。
「なら、私も一緒に無茶させてよ」
なのはが、セルジオの瞳を見つめる。
「だって、『それ』は
「あ…………」
それは、セルジオがいつかなのはに言った言葉そのままで。
「セルジオくんの背負ってるもの、私も一緒に背負わせて」
惚けたように、セルジオがなのはの瞳を見つめる。
「行こう、セルジオくん」
その瞳には、星のように綺麗な、強い光が宿っていた。
「一分、か……」
トーレが閉じていた目を開いた。
結局セルジオは現れなかった。つまり、それは同時に、ショッピングモールの未避難民の死亡へと繋がる。
(仕方ない。今回はこのレリックをドクターの手土産としよう。『ゼファー』は次回に……)
そう思ったトーレの戦闘機人としての聴覚がこちらへと歩いてくる足音を捉えた。
「遅かったな、セルジオ…………」
トーレが足音の方へ目を向けて、目を細めた。
「誰だ、お前は」
「なのは。高町なのは。セルジオくんなら来ないよ」
「約束が違う。それともこれはわざとか」
「ねえ、トーレさんお話で解決することってできないのかな? 戦うことしかできないなんて悲しいよ」
「愚問だ。私はドクターに従う。個人の意思などありはしない」
「ドクター? それってあなたに命令をしている人なの?」
「ドクターは……」
トーレが思わず言葉を漏らしかけて首を振って、雑念を払う。その様子を見て、なのはが「これ以上お話はできなさそう」と結論づける。
「まどろっこしいのはやめにしよう。私はお前を打ち倒してセルジオを追う。もし奴が逃げていれば……」
「どうするの?」
「私がさっき何と言ったかは覚えているだろう?」
「そっか、なら」
白いバリアジャケット姿のなのはが目を鋭くしてトーレを見据えると、レイジングハートの砲身をトーレへと向ける。
「あなたにはなにもさせない!」
(あの砲撃が来るッ!)
瞬間、トーレが《ライドインパルス》を発動したが、それよりも早くなのはは、
赤い宝石の周囲に桜色のシールドが展開される。
「あなたが優位に立ててるのはそのロストロギアを持ってるから! じゃあ、それを使えなくしてしまったらいい!」
「まさか、最初からこれが狙いかっ!」
「ううん、それだけじゃないよ!」
なのはは再びトーレに向けてレイジングハートを向けると威力を引き換えにした代わりに、高速で放てるショートバスターを砲撃する。
それをトーレはライドインパルスの加速で避けて、なのはに襲い掛かろうと肉薄し、後数十センチというところで、桜色のバインドに絡め取られる。
「バインド……! だがこんなもの数秒もあれば……」
「いいや、欲しかったのはこの数秒なのさ、トーレ」
頭上から男の声が聞こえた。先程まで、トーレと顔を合わせていた男の声が。
「セルジオ・アウディッ!」
トーレがその名を呼ぶと、セルジオはふっと笑って右手をトーレの背中に、片方をなのはの左腕に触れた。
「何を──」
「少し、遠くまでデートと洒落込もうじゃないか、戦闘機人トーレ」
セルジオの両腕に環状魔法陣が展開され、そして三人を包んで強い光が放たれて、思わずトーレは目を閉じてしまう。
「
次に、トーレが目を開けた時、そこは海の上であった。
「なんだ、これは……」
驚きの声を上げるトーレから少し離れた位置に転移したセルジオは淡々と話し始める。
「正直、あの場所ではお前に利がありすぎた。モール内は狭いし、未避難民のせいで俺たちは満足に砲撃も撃てない」
「だから、私がセルジオくんに聞いたんだ。私たち三人をどこか遠くにやれないかなって。そうしたら、できるけど時間がかかるっていうから」
途中でなのはが言葉を引き継いで、セルジオの顔を見上げた。
「だから、高町に時間を稼いでもらった。一分ギリギリ、限界まで時間を使って、後はお話をしたりしながら、な」
トーレは驚いているが、これはおかしい話でも、突拍子もない話ではない。クイントも言っていたはずだ、セルジオは
ただ、それは戦闘に使える技能ではなく、トーレの持っている『セルジオ・アウディの戦闘データ』には、そんなデータはなかったというだけ。
「お前の優位はなくなったぞ、戦闘機人トーレ」
「セルジオ・アウディ……!」
「ようやく、感情らしい感情が見えたな」
セルジオがゼファーをくるりと回して、穂先を自身を静かに睨むトーレへと向ける。
「行くぞ、高町。お前を信じる」
「うん、背中は任せて! やろう! 二人で!」
なのはがにっこりと、セルジオは薄く、笑みをかわした。
「行くぞ、ここからが
次回一章最終決戦。
クイント云々は前の話とかで言ってると思います。
三話とちょっと対比させてたりしてなかったり?