Force Detonater   作:世嗣

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まあなのはといったらこれでしょう。



星の光

 

 

 

 ミッドの海上で二つの光が弾けた。

 

加速機動(ブリッツアクション)ッ!」

 

「《ライドインパルス》」

 

 加速したセルジオの槍とトーレの刃がぶつかり、そして弾かれる。

 

 セルジオは加速を発動したまま足元に足場となる魔法陣を展開、空中での擬似的な踏み込みを行い体重を乗せた突きを放つ。

 しかし、トーレはそれを予測していたかのように回避、空中で旋回しながら首を狙ってくる。

 

 セルジオはそれを待機させていた短距離転移を発動して、背後に回り込むがトーレは瞬時に高速で移動して、カウンターの蹴りを叩き込んでくる。

 

 流石にそれはかわしきれなかったセルジオは、トーレのエネルギー刃、インパルスブレードをゼファーで受け止める。

 

「ぐっ──」

 

 みしり、と骨が軋む音が聞こえた。

 

 セルジオの技量では、トーレの音速に近い速度の蹴りの衝撃を完全に殺すことはできない。ある程度は受け流せたとしても、少ないくない圧力が体に生じて、トーレとの戦闘で生じた傷にさらなるダメージを与えて行く。

 

「どうやら、気合いは十分でも体の方が持たんらしいな、セルジオ・アウディ」

 

 ちら、と蹴りを受け止めている槍の向こうに見えるセルジオの白のバリアジャケットに目をやるトーレ。どうやら、一度は止まっていたらしいが今の衝撃で再び傷口が開き出血し始めたらしかった。

 

 トーレが静かにセルジオを睨む。

 

「お前では私には勝てない。速度も、技量も私の方が上だ」

 

「ああ、そうだな。そのどっちもお前は俺より上だろう」

 

 ぎり、と体の痛みを無理やり押し込めながら、セルジオが唇を吊り上げて無理やり笑みを浮かべてみせる。

 

「だから、二人で戦うんだろう」

 

 トーレの蹴りを受け止めていたセルジオが霧散し、そして、トーレへといつか見た桜色の高速砲が唸りを上げながら向かってきた。

 

 多少威力は落ちているとはいえ、その速度は一級品。それも死角から放たれた一撃である。通常なら容易く避けられるはずはなく、セオリーに従うならば防御するのが一般的だ。

 

「なるほど。だが、見えている」

 

 だが、トーレはそれを視認してからでも避けられる性能がある。

 

 ライドインパルスの高速移動により姿を霞ませながら見事かわした敵の姿に、レイジングハートを構えるなのはの眉が少し寄せられる。

 

「あんなにひょいひょい砲撃避けられたら困るなぁ……」

 

「まあ相手は俺のゼロコンマの転移に速攻で対応してくる化け物だ。仕方ないだろう」

 

 トーレとの戦闘域から離脱し、一時的になのはの隣に避難してきたセルジオが槍を構える。

 

「セルジオくん、怪我はどんな感じ?」

 

「全く問題ない……と言いたいが、流石に少しきつい。長時間戦闘は避けたいな」

 

 そう言うセルジオの胸元の傷口からの血が、バリアジャケットを伝って海に落ちていく。

 

 なのはが見れば額には玉のような汗をかき、顔もどこか青白い。現在進行形で血と体力を失い続けるセルジオは、長引けば長引くだけ思考は鈍化し、体も動かなくなる。あと十分もすれば意識が飛んでもおかしくないだろう。

 そうなれば今でさえ追いつくのがやっとのトーレに万が一にも勝つ機会はなくなってしまう。

 

「なら早く決着をつけて病院に行かなきゃね。また倒れられたら困るし」

 

「はいはい、頑張りますよ────ほら相手が来るぞ! 避けろ高町!」

 

 二人が話しているとライドインパルスを放ったトーレが突っ込んで来るが、あらかじめそれを予見していたセルジオの声で、旋回しながら回避する。

 

(やはり追いかけてくるのは俺か)

 

 空を飛びながら解析魔法にかすかに感じるトーレの反応。どうやら、トーレにはセルジオをどうしても殺さなければならないなにかの理由があるのか。

 

「セルジオ・アウディッ!」

 

「いい加減にしろ戦闘機人ッ!」

 

 頭上から落下速度を重ねて勢いをつけたエネルギー刃の振り下ろしを、槍の穂先の部分で滑らせるようにして流すと、開いた右腕を握る。

 

 ゼファーのシステムとセルジオの記憶データが接続され、放つべき技を解析、使用者の体に適応できるように最適化し直した。

 

模倣(トレース)ーーー繋がらぬ拳(アンチェイン・ナックル)

 

 放たれる拳は間違いなくセルジオの撃てる技の中でもトップクラスの破壊力を内包しており、当たりさえすればトーレにも確かなダメージを与えられるだろう。

 

「言っただろう、お前の戦闘データは全て持っていると!」

 

 だが、トーレには当たらない。

 

 セルジオを上回るスピード、加えてその戦闘データにより、彼女は対セルジオにおいて絶対的な天敵となっている。

 

 繋がらぬ拳を体を半身にして避けたトーレはそのままの加速を保ちながら手首のエネルギー刃と手刀によってセルジオの首を狙う。

 

 その速度は音速を超え、人間の動体視力すら振り切って、そのままセルジオの無防備な首を跳ね飛ばそうとする。その一撃は必至。トーレの戦闘データにあるセルジオではどうあがいても避けきれぬ無慈悲な刃。

 

()った)

 

 トーレが相手の死を確信して、その思考にセルジオが割り込んで来る。

 

「それはもう()た」

 

 がいん、と手刀と首の間に左腕が挟み込まれ、銀色のガントレットが受け止めた。

 

 その事実にトーレの顔が驚きに染まり、息を呑んだ。

 

「十分、いや、十五分くらいだな」

 

「なに?」

 

「俺たちが戦った時間。たぶん、まあそんくらいだろうな」

 

 ぎりぎりとガントレットを必死に抑えるセルジオの顔が上がり、トーレの金色の瞳を見つめる。

 

「それだけあればお前の戦闘データは充分だ───ゼファー、全力稼働(フルドライブ)

 

 起動句(トリガーワード)の詠唱に応えて、ゼファーのシステムが今まで設けてあった演算上のセーフティを完全撤廃し、内蔵された機能全てを起動させた。

 

「──イグニッションッ!」

 

 ゼファーが今までに集めた戦闘データの全てを解析、さらにトーレとの戦闘に生じた攻防のデータを無理やりセルジオのマルチタスクの一つから引っ張り出すと、さらなる解析と模倣により、これからの未来を予測する。

 

模倣解析(シュミレート・アナライズ)ーーーーー百四十八手」

 

 セルジオの瞳の翠に、白い光が混ざる。

 

 それに気づいたトーレは瞬時に離脱しようとして、行く手を遮るようにして現れた桜色の誘導弾に体を弾かれる。

 

 トーレが腹部への意図せぬ一撃に苛立たしげに舌打ちして、再び高速移動をしようとするが、今度は()()()()()()()()()()()セルジオが加速で回り込む。

 

「終わりは見えた、付き合ってもらうぞトーレ」

 

「戯言をッ!」

 

 二人が、再び加速する。

 

 白のセルジオ、紫のトーレ。

 

 時にはその周囲で桜色の誘導弾が空を飛んでトーレの動きの阻害や、セルジオのカバーを行う。

 

 海上で無数の残像を残しながら何度も武器を交える姿は、まるで真昼に輝く流れ星のようにも思えた。

 

 そんな美しさに反する荒々しさで、トーレとセルジオが吠える。

 

「二十三、四、五、六、七ァッ!」

 

「ぐっ、なめ、るなッ!」

 

 トーレがハイキック気味の蹴りを放つが、セルジオはそれをわかっていたかのようにかわして、石突き部分で脛を狙ってくる。

 

「八、九、三十手ッ!」

 

(なんだ、これは。ゼファーの予測機能か、いや、しかし、もうこれは既に一分以上の時間が────)

 

「三十一!」

 

 セルジオの足がトーレのガードをすり抜けて腿のエネルギー刃もろとも蹴りつける。

 

 トーレの体がふらりと空中でよろめき、僅かにスピードが落ちる。

 

「──、三十二!」

 

 一瞬眉を寄せたセルジオだったが、すぐに槍を袈裟懸けに振り下ろそうとする。だが、トーレは両手のインパルスブレードと足首のエネルギー刃を強く光らせると素早くかわした。

 

(今の……なら、あのコンビネーションが使えるか)

 

 トーレと斬り合うセルジオの脳裏に黒髪のやかましい友人の顔が浮かんでくる。その姿を首を軽く振って消し去ると、マルチタスクを一つ増やして、なのはへと念話をつないだ。

 

「(高町、今から作戦をデバイスに送る。正直ぶっつけ本番に近いが……やれるか?)」

 

「(…………これはちょっと難しいコンビネーションだね。要求タイミングもシビアだし)」

 

「(高町ならできると信じてるぞ)」

 

「(そう言えばなんでも許してもらえると思わないことっ。でも、いいよ。任せて)」

 

「(すまん、助かるよ)」

 

 少し悩むようなそぶりを見せながらも最後は快諾してくれたなのはに短く感謝の意を述べると、目の前のトーレへと意識を戻す。

 

(勝ち筋は見えたが……問題はこの予測が詰みの状況まで維持できるか、だな)

 

 槍を振るい、時には攻撃をかろうじてかわしながら、薄く息を吐いて、歯を噛み締めた。ただ、先程から頭がひどく痛んでいて、そうしなければ耐えれそうになかったのだ。

 

(やるしかない。やって、勝つ)

 

 セルジオはまた小さく息を吐くと、トーレとの攻防をしながらその高度を僅かに下げて、指定のポイントへとトーレを誘導する。

 

 後一撃くらえば間違いなく撃墜される、という状況で相手をおびき寄せながら、防御を続ける、しかも格上相手に、という無茶とも言える事を、今まで培った技量と、先読みで無理やり可能にする。

 

「百四十五、ろ──ぐっ」

 

 だが、そこまで来てセルジオのゼファーによる予測の限界よりも早く、セルジオの限界が訪れてしまう。

 

 槍の防御をすり抜けた拳が、セルジオの肋骨に突き刺さり、切り傷と戦闘機人の筋力による拳打を叩き込んだ。

 

 セルジオの体が、がくりと折れる。

 

「残念だったな、セルジオ・アウディ。その怪我がなければ、私に追い縋れたかもしれんな」

 

 トーレは無慈悲にセルジオを見下ろす。

 

 だが、セルジオはそこで面を上げると、にやりと笑う。

 

「いいや、これでいいんだよ、()()()()

 

 桜色が、空を翔けた。

 

「ディバインバスター!」

 

『Divine Buster full power』

 

「しまっ────」

 

 風になのはの声とレイジングハートの声が運ばれて来て、トーレの聴覚機能がそれを捉えた時には、桜色の壁が視界を埋め尽くすようにして迫って来ていた。

 

『ディバインバスター・フルパワー』。

 なのはの代名詞、『ディバインバスター』のバリエーションのひとつ、大幅に使用魔力が増えるものの射程範囲を拡大する、()()直射型砲撃魔法である。

 

「舐めるなッ! 《ライドインパルス》ッ!」

 

 だが、トーレはその広域魔法を瞬時に刃にエネルギーを送り、瞬時にトップスピードまで持っていくと、見事になのはの砲撃をかわしてみせた。

 

「はあ、はあ、セルジオ・アウディは……」

 

 僅かに息を切らして周囲を伺うトーレ。しかし、砲撃が放たれた場所も、砲撃を撃ち終わったなのはの隣にもセルジオの姿はない。

 

 それどころか、セルジオの姿など、この海上のどこにもありはしなかった。

 

 まさか逃げたか、とトーレが疑った時、足元の海が僅かに脈打ったような気がした。

 

 なんだ、と真下に目を向けようとして、()()()()、ほとんど零距離で砲撃魔法が放たれた。

 

 ズ、と海水を消しとばしながら向かってくる魔法を避けられるはずもなく、トーレの体が真下からの衝撃に跳ねあげられて行く。

 

「流石にお前のデータには俺が海中に入った、なんてものはなかっただろう」

 

 その姿を見て、セルジオが海の中から飛び出してくる。

 

 セルジオのやった事は簡単。ただ、なのはの砲撃をかわすために海中へと転移して、トーレの真下で潜んでいただけ。

 

 トーレがセルジオの攻撃を正確に読んでくるのは、彼女がセルジオの今までの戦い方を熟知しているから。なら、今までにセルジオが戦ったことのない場所で戦えば、その不意をつく事はできる。

 

 セルジオは『地上本部』所属の、『航空魔導隊』である。その任務は主に、ミッドチルダの犯罪に対応する事であり、その中でセルジオは一度も『海上』での戦闘などをしたことがない。

 

 つまり、この『海上』という場所に限り、セルジオはトーレの不意をつく手を取ることができる。

 

 以前士郎が言ったように、力が足りないから、辺りにあるものを使って補うことこそが、『セルジオ・アウディ』の戦い方だ。

 

「ぐ、がああああっ、ライド、インパルス……!」

 

 トーレは吹き飛ばされながらもライドインパルスを無理矢理に発動、砲撃によってダメージを負った体に鞭打って白い砲撃から抜け出した。

 

(この厄介さはセルジオ・アウディ単体のものではない、鍵となっているのは、あの少女……!)

 

 強い視線でなのはを睨むトーレは、インパルスブレードにエネルギーを送り込みなのはへと迫る。

 

(こいつから先に堕とすッ!)

 

 十メートル近い距離を一気にトーレが縮めて来るのを、なのはが見て慌てた様にシールドを張る。

 

「そんなものっ!」

 

 トーレはそれを旋回してシールドのない背中へと回り込むと、エネルギー刃を振り下ろし────

 

「バインディングシールド!」

 

 目の前に現れた桜色の盾を殴り抜いてしまい、それをトリガーにして無数の鎖がシールドから出現してトーレを絡め取った。

 

「これは────」

 

「やっぱり、明確な死角があればそこを攻撃したくなっちゃうよね」

 

「貴様、わざと……!」

 

 少し頰を緩めたなのはは鎖に絡め取られたトーレを置いて、はるか上空まで上がっていく。

 

「言っただろ、終わりは見えたって」

 

「セルジ────」

 

 セルジオがブリッツアクションで加速してトーレへと迫りながら、槍の穂先へと魔力を充填していく。それは、白く、白く、ただただ、眩しいほどに白く輝きながら魔力を刃の一点に収束する。

 

「白光────」

 

 セルジオが白く光る槍でトーレの絡め取られた右腕に狙いを定める。セルジオの中に、模倣するべき、師匠とも言える、男の大きな背中と、その槍術が映し出される。

 

「──一刃ッ!」

 

 斬、と槍が振るわれてトーレの右腕、右腿、右足首の()()()()()()()()()を一太刀て断ち切ってみせる。

 

「なん。だと…………」

 

「これで、加速はできないだろう、トーレ」

 

 トーレが、息を呑んだ。

 

 トーレの先天性技能《ライドインパルス》は、両手首、両足首、両腿の合計八箇所にあるエネルギー刃『インパルスブレード』にエネルギーを送り込むことによって、加速推進を行うものだ。

 

 つまり、加速機能を付与するセルジオのブリッツアクションと違って、刃がなければ何もできないのだ。

 

「貴様、私に情けを……!」

 

「俺の槍でお前の腕を切り落としてもよかったが、それで死なれても困るからな」

 

 短く答えるセルジオにトーレが悔しげに顔を歪める。

 その視線を受けながら、セルジオは先ほどの一撃で空になりかけている魔力を集めると、バインドを抜け出そうとするトーレを槍で押さえ込んだ。

 

 ぎり、と左腕に残るとインパルスブレードとセルジオのゼファーが今日幾度目かの鍔迫り合いを起こす。

 

「なに、を…………」

 

「足止めだよ、お前を倒す準備ができるまでの、な」

 

「まさか──!」

 

 頭上で、強い光源が発生した。

 

 桜色の巨大な球体、それは辺りへと散った未使用魔力を根こそぎ集めて、収束してさらに大きさと、輝きを増していく。

 

 その姿はまるで、星の光(スターライト)

 

 そして、それをトーレへと狙いを定める少女が一人。

 

「ぶちかませ、高町」

 

 セルジオが声をかけると、上空のなのはが薄い笑みを浮かべた。

 

「行くよ! 私の全力全開!」

 

 その声に応えたかのように、なのはの周囲に魔力光と同色の環状魔法陣が現れた。

 

 

 

「スターライト────」

 

 

『Starlight Breaker』

 

 

「────ブレイカー!」

 

 

 

 星が落ちたかと思う様な衝撃とともに、なのは最大の収束砲撃魔法が放たれて、トーレとセルジオに迫って行く。

 

 それを解析魔法で感じながら、セルジオが最後にトーレへの表情を緩めた。

 

「じゃあな、トーレ。もう、会わないことを祈ってる」

 

「ーーーーー」

 

  そして、トーレの返答を聞くことなく掻き集めた魔力で待機させていた短距離転移を発動させた。

 

 目前からセルジオが消え失せて、自由になるトーレの体。悔しさを唇をかみしめて押し込めると、《ライドインパルス》を発動し、逃げようとする。

 

「間に合わな────」

 

 だが、それよりも早く桜色の星がトーレを襲う。その一撃を、インパルスブレードが半分しかない今のトーレでは振り切れない。

 

 星が落ちたかと思う様な衝撃をその身に受けながら、魔力ダメージで消えゆく意識の中で、一つの言葉をトーレは繰り返す。

 

(セルジオ・アウディ、私は貴様を────)

 

 それを最後に、トーレの意識はなのはの砲撃に吹き飛ばされた。

 

 

 

 

 

 

◆◇◆

 

 

 

 

 

 後日談、というか今回の一件について。

 

 

 ショッピングモールに展示してあったロストロギア──実はレリックだったと判明したもの──を強奪しに来た襲撃犯に対し、その日、偶然、たまたま、二人で遊びに来ていた『セルジオ・アウディ』と『高町なのは』は、これまた偶然襲撃犯と交戦、そして、止むを得ず、管轄の魔導師の代わりに撃退した。

 

 ということになった。というかそれ以外に説明もできないので、そう処理された。

 一応非番扱いとはいえ、二人が大きな貢献をしたのは事実であるため、この功績は三課のものとなることに。

 また一歩間違えば大災害となっていた事件である。そのことから二人には昇進の話も出ているらしかった。

 

 まあ有り体に言えば大金星。

 

 二人は直々に地上本部長に労いの言葉をかけられたりしたのだが、では、その二人がなにをしているのかというと。

 

 

「なあ高町、書類仕事くらいさせてくれ。もうすっかりよくなってるよ」

 

「だーめーでーすー! お医者さんも言った通り絶対安静だよ!」

 

「いやもう大丈夫──」

 

「えい」

 

「はぐっ、ぐぐぐ……」

 

「ちょっと小突いただけでそんなに痛がってるのに大丈夫も何もないよ」

 

 がっくしとセルジオがベットの上で肩を落とした。その隣ではなのはが手を腰に当ててめっ! とセルジオを叱っている。

 

 しばらくの間不満そうな表情を浮かべていたセルジオだったが、まあ後でゼファー経由で三課のデータを持ってくればいいか、と思い直して大人しく従っておいた。

 

「わかったよ、今日は大人しくしとくことにする」

 

「なら、よしとします」

 

 なのはが安心した様に緩く笑うとベットの隣に置いてある椅子に腰掛けた。

 

 セルジオがぼんやりと窓の外を見ながら、それにしても、と言葉を漏らす。

 

「高町の収束砲撃凄かったなぁ……。トーレ死んだんじゃないかと思ったぞ」

 

「だ、だって、それはセルジオくんが一番強い攻撃、とか言ったからだもん!」

 

「いや、確かにそうだけどあれは流石に、なあ……? 人間の出せる破壊力じゃないというか……」

 

「ふーん、セルジオくんは魔力不足で気絶したのを運んでくれた相棒にそういうこと言うんだ。ティーダさんに愚痴言いに行こうかな」

 

「オーケー、訂正する。だから、ティーダはやめよう、な?」

 

「うーん、どうしようかなぁ……。なのははさっきの言葉で深く傷ついたからなぁ」

 

「わかった。退院したら何か食事にでも連れて行ってやるから」

 

「ほんと? 約束だからねっ」

 

「はいはい」

 

 苦笑いをこぼすセルジオをよそになのはは機嫌良さそうに目を細めてにっこりと笑う。その顔が、とても嬉しそうで、楽しそうで、セルジオの方もなんだか少しだけ心が上向きになるのを感じる。

 

 だからか、なんとなく、なのはの頭へと手が伸びた。

 

「ありがとう、高町」

 

「へ、と、とつぜんどうしたの」

 

「いや────」

 

 なんでもないよ、と言おうとしてこの前の一件の時なのはと交わした会話を思い出す。

 

(俺の背負ってるものを一緒に、か……)

 

 ふ、とセルジオが一瞬視線を落として、なのはの頭から手を離した。そして、空を見上げて、少し遠い目をした。

 

「俺、さ。昔、ある人と約束したことがあってさ。その日から俺は、その言葉をどうやったら守れるか考えてたんだ」

 

 そして、ぽつぽつと語り始める。

 

「でも、それは難しくて、だから俺は今まで必死に努力してきたんだ。向いてないって言われてもいろいろやったし、バカじゃないかって言われたこともある」

 

 じっとセルジオが太陽を見つめる。

 

「俺は、みんなを助けたい。泣いてる人も、悲しむ人も、これ以上増やしたくない。みんなに、笑顔でいて欲しいんだ」

 

「素敵な夢だね」

 

「そう、かな……」

 

 そこまで話して、セルジオは窓から目をそらしてなのはの方へ、柔らかく、少しだけ嬉しそうな笑顔を向ける。

 

 それは、なのはが始めてみる、本当に優しい、セルジオの笑顔で。

 

「だから、その、これからもよろしく頼む、高町」

 

「うん。よろしくね、セルジオくん」

 

 そんな、セルジオの笑顔になのはも満面の笑みを返して、手を差し出した。

 

 セルジオは、一瞬戸惑った様子を見せたが、やがてまた柔らかく笑うと、同じように手を差し出して、自分よりも小さな、だけど自分を勇気付けてくれた大切な少女の手を、優しく握り返した。

 

 

 

 

 





これにて一章終了。一話閑話を挟んで二章となります。

軽くここで一章のメインの登場人物紹介とかとか。
全部この話の一ヶ月後あたりのプロフィールになります。

セルジオ・アウディ
16歳。総合AAランク魔導師。デバイスは槍型のゼファー。
なのはをようやく守る相手から相棒としてみるようになった。普段は魔法でカバーしてるが自室では眼鏡。

高町なのは
10歳。空戦AAAランク魔導師。
デバイスはレイジングハート・エクセリオン。
最近セルジオへの対応に遠慮が抜けてきた。星のネックレスは自室の棚の中に大切にしまってるらしい。

ゼスト・グランガイツ
48歳。総合S+ランク。デバイスは槍型。
AAだったが最近親友に昇格試験を受けさせられてめっちゃ上がった。

クイント・ナカジマ
年齢非公開。陸戦Aランク。武装はリボルバーナックル。
娘たちが腕を上げてきたので近いうちにセルジオと組手させるつもり。上の娘のセルジオの見る目が怪しいと思ってる。

メガーヌ・アルピーノ
年齢非公開。空戦Aランク。召喚獣『フォード』を保有。
現在産休中。旦那さんとは三課だが、どちらも節度は守っているので問題なし。娘と一緒に洋服を選びに行くのが今の夢。

クロノ・ハラオウン
15歳。総合AAAランク。デバイスは父の形見デュランダル。
セルジオが入院するたびにくどくどと叱って帰って行く。妹の距離感を最近掴んできた。

ティーダ・ランスター
17歳。空戦AAランク。デバイスは二丁のハンドガン。
妹と二人暮らし。上司に苦労してるんだとか。

ヴァイス・グランセニック
15歳。目元が似てる(自称)妹ラグナを溺愛してる。

トーレ
一時は管理局に捕まっていたが、何者かの手引きで脱走。
目下捜索中。


ゼファーのめんどくさい設定。戦闘機人。レリックについては次回!
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