Force Detonater   作:世嗣

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今回セルジオくんもなのはちゃんもお休みの回です。

そして男だらけでむさ苦しい。


閑話

 

 

 

 

 ゼスト・グランガイツ。

 

 航空魔導隊三課の部隊長であり、言わずと知れた地上本部の超一流の魔導師。いわゆるストライカーである。

 

 寡黙でありながらも、腕はたち、部下にも、またそれ以外の局員にも慕われている。

 実は、一般市民にもひっそりとファンクラブもあったりするらしい。

 

 まあ詳しくはクイントが以前話していたのを見て欲しい。

 

 そんなゼストだが、彼には一人親友とも言える男がいた。

 

 レジアス・ゲイズ。

 

 ゼストやセルジオの所属する『地上本部』の総司令であり入局は既に30年を超えるベテランである。魔力資質はないものの、その手腕で中将まで登りつめた男である。だが、最近ではどこか黒い噂が付き纏うこともある。

 

 武装隊員らしく引き締まったゼストとは対照的な、でっぷりと肥えた体。眉にはいつも険しいシワが寄っていて、いかにも気難しい中年男性といった風貌である。

 

 その事をゼストに言えば「昔はもう少し痩せてたんだがな……」と遠い目をしながら答えてくれるに違いない。

 

 武官のゼスト。文官のレジアス。

 

 あまりにも対照的に思える二人だが、いくつか共通点も存在する。

 

 それは、二人が「地上の平和」を見据えていて、人によっては「英雄」と呼ばれることもある、という点だ。

 

 二人は英雄と呼ばれ、同じものを目指している。故に、例え黒い噂があったとしてもゼストはレジアスを信じてるし、レジアスもゼストに信頼を置いている。今でもごくたまに休みが合えば、酒を組み合わすことがある、無二の親友なのだ。

 

 そう、ちょうど今のように。

 

「ほら、飲めゼスト。久々に会えたのだ」

 

「悪いが遠慮しておくレジアス」

 

「何、俺の酒が飲めんというのか」

 

 少し顔を赤くしてめんどくさい絡みをするレジアスに、ゼストは苦笑いを返す。

 

「明日は朝早くにセルジオへの稽古が入っててな。流石に、二日酔いになるわけにはいかん」

 

「うむ、なら仕方ない、か」

 

「だがまあ、やはり明日に響かない程度なら付き合おう。一杯頼めるか?」

 

「ふ、そうだろう。やはりお前ならそういうだろうと思っていたのだ」

 

 少しだけ残念そうに引き下がろうとしていたレジアスが頬を緩めてゼストへと酒を注ぐ。とくとくとく、とコップを満たしていく半透明の液体をゼストが一口煽った。

 

「にしても、セルジオと、か……」

 

 レジアスがつまみとして頼んでいた焼き鳥を頬張りながら目を細める。

 

「あやつはお前から見てどうだ? 使えるか?」

 

「魔力は低いがそれを補う頭がある。この前も金星を挙げてくれた」

 

「……あの、『戦闘機人』とやらを捉えた件だな」

 

「ああ。相棒と二人よくやってくれたよ。大したものだ」

 

「ほほう、ならばこれからは俺もガンガン使っていくとするか」

 

「やめてやれ。見舞いに行った時は、『正直もう二度と戦いたくない』とボヤいていたからな」

 

「かかか、流石のセルジオでも、か」

 

「流石のセルジオでも、だ」

 

 含むように笑って二人はまた酒を煽る。レジアスの顔がまた僅かに赤みを増すが、ゼストの顔はまだほとんど変わっているようには見えない。

 

「そうか、しかしセルジオがなぁ。……どうだ()()()()鼻が高いのではないか、ゼスト」

 

「…………いや、俺は奴を引き取っただけだ。親として、何かをできたとは思えん」

 

「それを言えば俺とて同じだ。娘にはいつも苦労をかけっぱなしだ」

 

「オーリスか。今年で幾つになるんだったか」

 

「25だ。今は陸士部隊で指揮官補佐をしている。年々死に別れた女房と似てきて困るぞ、本当に」

 

「そちらの方は仲が良好そうで何よりだ」

 

 ゼストが薄く笑って酒をまた一口含み、自嘲気味に笑みを浮かべた。

 

「あいつは、セルジオは、あいつは俺の事をどう思っているんだろうな」

 

「嫌ってはおるまい。養父となってもらった恩を忘れるような人間ではないだろう、あれは」

 

「どうだかな。あいつは俺に迷惑をかけまいとしているようにも見える」

 

 それに、とゼストが言葉をつなげる。

 

「セルジオにとっての親は、『彼女』だけだろう」

 

「ゼスト…………」

 

「俺に代わりは務まらんさ」

 

 ゼストが手の中の半ばほどまで飲み干したグラスを見つめる。

 

 半透明故に、鏡のようにゼストの顔を映し出すことはないが、今自分はさぞ情けない顔をしているに違いないと、ぼんやりと思う。

 

「ゼスト」

 

 ゼストが顔を上げれば、そこには酒を片手にこちらを据えるレジアスの姿。

 

「飲め」

 

「さっきも言ったが俺は……」

 

「飲め」

 

 レジアスは先ほどのように引き下がらず、ただ淡々とゼストを見つめる。

 

 子どもに酒の味はわからない。なぜなら酒を飲む事は大人の特権だからだ。弱い人間は現実から目を背けるために、忘れるために酒を飲む。酒に飲まれる。自分を忘れたがる。

 

 それは常識に照らし合わせれば、いい事だとは言い難いのだろう。でも、大人にはそれが必要な時もある。

 

 そして、レジアスは酒を飲む事はいい事だとも、悪い事だとも言えないが、少なくとも酒を飲むという行為が必要な時もある、という事を深く理解していた。

 

 だから、レジアスは短く告げる。

 

「いいから飲め。ゼスト」

 

「……まだ半分ほど残っている。それからでいいか?」

 

「ふん、急ぎはせん。今日はとことん付き合ってもらうからな」

 

「手柔らかに頼む」

 

 親友のぶっきらぼうな気遣いを察したゼストは困ったように笑いながら、ぐいと酒を飲み干した。

 

 直接何かを言うわけではない。だが、その姿をなのはあたりがみれば、なんだかクロノとセルジオに似てる、というような友情関係が二人の間にはあった。

 

 

 もし、この二人の共通点があと一つあるとすれば、それにはおそらく「子どもとの距離を測りかねている」とかそう言ったものが足されるのだろう。

 

 

 

 

 

 

 

◆◇◆

 

 

 

 

 

 

 痩躯の男はただ静かに目前のモニターを見つめていた。椅子に深く腰をかけ、ただ静かに。

 一見興味なさげに見えるが、実際に彼と顔を合わせれば、濃い紫の長髪の向こうに輝く金の瞳が愉しげに歪められている事を感じ取ることができるだろう。

 

「ウーノ、いるかね」

 

「はい、なんでしょうかドクター」

 

 男が声をかけると、ウーノ、と呼ばれた女性が側に現れる。

 

「トーレはどうしてるかね。確かドゥーエに助け出されていたはずだが」

 

「はい。既にこちらに帰還して治療とパーツの交換も終了しています」

 

「その割に姿を見ないね」

 

「それは……」

 

 言い淀むトーレへと男が首だけを隣へと向ける。

 

「問題と言うほどではないですが、少し以前になかった傾向が」

 

「ふむ、何か精神的に問題でも生じたかい?」

 

「それが、ボディの修復が終わるとすぐに一言『私をセルジオ・アウディと戦わせろ』と」

 

「……それで君は」

 

「命令がない以上は許可は出せないと言いました。すると、それ以来トーレはトレーニングルームで一人で鍛錬を」

 

「────そうか」

 

「ドクター?」

 

 ウーノが突然目を閉じて俯いた男を訝しく思ったのか、僅かに眉を寄せて名を呼ぶが、全くなんの反応も返ってこない。

 しばらくウーノはそのまま黙って男のそばに控えていたが、やがてその耳が低く響くような声を捉え始める。

 

「そうか! そうなったかトーレ! 随分と()()()()()()()()じゃないか!」

 

 男が、嗤う。

 

 声を上げて、とても愉しそうに。

 

「それこそが人間だ! 人だ! 正しい心の形だ!

 

 せっかく人の心があるのだから機械のままではあまりにも勿体無い!

 

 嗚呼、そうだトーレ! 君の中に芽生えたその感情、それこそが────」

 

 くは、と金の瞳を光らせながら男が、嗤う。

 

「──欲望というものだ」

 

 しばし笑い続けていた男は、やがてそれを小さなものにしながら、再び目前のモニターへと目を向けた。

 

 そこにはトーレの記憶内から抽出された、ある魔導師たちとの戦闘が映し出されている。

 

「ウーノ、この映像を見てどう思う」

 

「どう思う、とは?」

 

「何でもいい。君の感じた事を述べたまえ」

 

 言われてウーノは映像をしばらく見つめて、命じられた通り自身の考えを述べ始める。

 

「トーレの敗因は幾つか挙げられます。一つは不用意に会話を選びすぎた事。一つは標的を侮り付け入る隙を与えた事。一つは遠距離型の魔導師に対する警戒が足りなかった事……後いくつか挙げられますがどうなさいますか?」

 

「いやもう充分だよ。では、今回の標的に関してはどう思う?」

 

「今回の標的、ですか」

 

 ウーノの視線が映像の、翠の瞳の槍使いへと向かう。

 

「どう、と言われても典型的な前衛型の魔導師だと思います。短距離転移や解析には目を見張るものがありますが、それ以外はどれも凡夫の域を出ません」

 

「それで?」

 

「所感ですがもう一人の魔導師と、ドクターの『ゼファー』がなければトーレに追いすがる事すら出来なかったかと」

 

「……そうかね」

 

 男はウーノの話を聞くとゆっくりと腰をあげる。

 

「デバイスタイプZー3X、『ゼファー』。変形機構は槍と砲撃の二つだけ。だが、その特色はその内部システムにある」

 

 男が軽く手を振るとモニターの映像が消えて、代わりにゼファーの設計図が映し出された。

 

「行動予測プログラム。相手の戦闘パターン、過去の戦闘データを解析し、集積、演算する事で擬似的な未来予測を可能にするシステム。そして、行動模倣プログラム。集積したデータを元手に、術者の体に合うように再定義し直し、再現するシステム。この二つがゼファーには内蔵されている」

 

「どちらも上からの指示によって制作されたものだったと記憶しています」

 

「そうだね。自分で言うのはアレだが、私としては中々の出来だったとは自負しているよ」

 

 だが、と男が言葉を続ける。

 

「正直私はこれらは()()()だと言わざるを得なかったと思っていたんだ」

 

 ゼファーに内蔵されている二つのプログラム。これは集積された無数の戦闘データ、その全てを演算するところから全てが始まる。

 一から十まで、映像の端から端まで、全ての動きを統計や、バトルスタイル、果ては細かい気象条件その細部に至るまでも、計算し、検討し、そして相手の動きを読み切る。

 

 普通に考えて、そんなことが戦いながらできるはずがないのだ。

 良いところ、脳の負担と引き換えに二、三秒先の未来を見ることと、簡単な魔法式をちょっと真似するくらい。

 

「上の方々はこのシステムを使って一般局員をストライカーレベルまで引き上げたかったのだろうけども、そんなのは不可能だよ」

 

「だから、ゼファーの引き渡しを渋っていたのですか?」

 

「そうだね。もし渡したら渡したで汎用性を高めるシステムに落とし込め、とか面倒くさい依頼も来そうだったしね」

 

 また男が手を振るとゼファーの設計図が消えて、今度はトーレとほぼ互角に攻防を繰り返す槍使いの映像へと切り替わる。

 

 槍使いは速さで劣ってはいるものの、トーレの動きを、全て()()()かわして、時には背後からの攻撃を振り向くことなく反撃をしている。

 

 その目は、明らかにトーレを追えていないはずなのに、トーレと互角に渡り合う少年。

 

「だが、彼はそれを使いこなした。しかも、百四十八手、秒数にすれば九十六秒の間、重傷を負いながら、だ」

 

 く、と男が声を漏らす。

 

「彼の事を色々調べて見たよ。経歴、家族構成、そして、生まれまで。いや、優秀な助手がいて助かったよ、以前捨てて良い、と言った報告書まで取っているとはね」

 

 ウーノが男が見せて来た報告書が、以前潜入中の妹──ドゥーエが送ってきたものである事に気付いた。

 

 男が資料をパラパラとめくりながら、くく、と愉しそうに口を歪める。

 

「はっきり言ってどれも異常。私をして、狂っているとしか言えないような経歴ばかりだ」

 

 そして、そこで耐えきれなくなったように、再び狂笑した。

 

()()()()()()()ッ!」

 

 男が手に持っていた書類を投げ捨てると、無数の紙が空へと舞って、雨の如くあたりへと落ちていく。

 

「他の魔導師が? ゼファーが? 否! 極めて否だ! 我が娘、ウーノよ! 始まりはそこではないのだ!」

 

 男が、嗤う。

 

 髪をかきあげて、空を見上げて、ただただ声高に。

 

「あの狂った意思! あれこそが全てを突き動かしたのだ! あの少女の力を! ゼファーの力を! あの少年の異常とも言える欲望がッ!」

 

 男の嗤いを止めるものはいない。

 

 共感するものも、反論するものもまたいない。

 

「故にこそ、喝采を送ろう。君たちが、トーレを下したという現実に」

 

 恍惚とした表情で、男が呟いた。

 

「ウーノ、上へのゼファーの報告は遅らせてくれ。私がまだ実験したいことがあるとでも伝えてくれれば良い」

 

 男が、白衣を翻してモニターの前から去っていく。

 

 その顔は、歪んだ笑みに彩られている。

 

 

「嗚呼、君たちの欲望を見せてくれ、『高町なのは』。そして──」

 

 男が金に輝かせた目を背後のモニターにやって、そこに移る少年の姿を捉えて、小さく笑みを漏らした。

 

 

「────セルジオ・アウディ」

 

 

 其の男の名『ジェイル・スカリエッティ』。

 

無限の欲望(アンリミテッドデザイア)』の二つ名を持つ狂気に身を置く男。

 

 

 

 

 

 彼らが出会うのは、未だ遠く────

 

 

 

 

 

 





『ゼファー』
ジェイル・スカリエッティが支持を受けて作ったデバイス。
というか、二つのプログラムが仕込まれたシステムの総称。
解析すりゃ誰でも行動読めるし、強い人真似できるし、無敵の軍団作れるやん!という発想で作られたけど、ジェイルに言わせれば『失敗作』。

比較的演算能力の高いセルジオでも半分くらいしか使いこなせてない。フルドライブにするとマックス2分半くらい読めるが、その代わり負担が半端じゃないので頭がめちゃくちゃ痛くなる。今のセルジオじゃ一分半が限界。普段も頭痛を抑えながら使ってた。

これを使った後はセルジオは三日ぐらいぶっ倒れてた。
高性能すぎるクソデバイス。
たぶんユーノとかなら上手く使えてたけど戦闘に活かせたかは謎。

名前の元ネタはバイクからとりました。

次から時間がちょっと飛んで二章です。
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