Force Detonater   作:世嗣

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生まれる疑念

 航空魔導隊三課はレジアス・ゲイズの後見の元設立された部隊である。

 

 コンセプトとしては緊急事態に即時対応できる部隊であり、現状その意思は大まかにだが実現されていると言える。

 

 それでも常に何処かに出向しているというわけでもなく、普段は隊長であるゼストの指示のもと一つの案件を全体で調査するということの方が多い。

 

 では、今三課の一部で調査が行われている案件が何かと言うと、『戦闘機人』についてと答えなければならないのだろう。

 

『戦闘機人』。

 

 その名前を三課が知ったのは、高町なのはが三課に配属される前、セルジオがまだ新人であった頃の話だ。

 

 当時セルジオはクイントやメガーヌとチームを組んである研究施設に踏み込んだことがある。その中で、彼らは無数の人型らしき死体と、無数の人型らしき機械と、そして培養液の中に眠る二人の子どもを発見した。

 

 子どもは見た目は見たところ五歳前後と言ったところで、そしてその見た目は非常にクイントのものと似通っていた。

 

 研究所のデータを見る限り子どもたちは、『クイント・ナカジマ』の遺伝子をもとに、機械による生命強化を行われた存在らしかった。

 

 この二人の子ども、後に『スバル』と『ギンガ』と名付けられクイントの養子となる二人の保護をきっかけに、三課は数年にわたり戦闘機人についての捜査に取り掛かることになる。

 

 しかし年数を重ねても捜査は難航し、戦闘機人に関する決定的な証拠、特にメインの生産プラントと、戦闘機人という理論の構築者については影も形も掴めなかった。

 

 だがここで大きく状況が好転する出来事が起こる。

 

 それがセルジオとなのはが解決した『戦闘機人襲撃事件』、つまりトーレとの戦闘である。

 トーレの逮捕でセルジオたちの手から離れ、トーレの脱走という形で終結してしまったこの事件。聴取すらできずに逃がしてしまったため、正直なところ三課としてはたまったもんじゃなかったのだが、それでも何も収穫がなかったわけではない。

 

 トーレが逃げだせたということは、外部からの助けがあったか、もしくは──セルジオはそんな可能性はないとは思っているものの──管理局内部からのなんらかの手引きがあったかのどちらかということ。

 

 そして、脱走が判明してからトーレの潜伏までにかかる時間の短さ。いくらトーレがレーダーすら振り切るスピードを持っていても、流石に次元間の移動を行えば探知できないはずはない。

 つまり、トーレの潜伏場所は、ミッドチルダのどこかに存在し、またそこには彼女が『ドクター』と呼んだ存在もいる可能性が高いということ。

 

 それだけわかれば捜索範囲は限定されるし、いくらでもやりようはある。

 後は一つずつ怪しいポイントを潰していくだけでいいと思っていた矢先だった。

 

 ゼストに上司、レジアスからの呼び出しがかかったのは。

 

「なんの話ですかね」

 

「さてな。わざわざ呼び出すのだから、書類に残されたくない話なのかもな」

 

 レジアスの執務室のある地上本部に向かう道すがらゼストとセルジオの会話に登るのはやはりこれからのこと。

 

「やっぱこれってきな臭い案件なんですかね」

 

「あまりにも未知な部分が多すぎるとは感じている。先日の脱走の件も含めてな」

 

「なんかの情報提供だと嬉しいんですが」

 

「そうであれば俺もこれほど頭を悩ませずに済むんだがな」

 

 どちらも具体的な単語を出すことはないが、それでもなんの話をしているかは理解していた。

 

 しばらく歩きレジアスの執務室に軽いノックをすると、扉越しに女性の「どうぞ」というくぐもった声が聞こえた。

 

「航空魔導隊三課、部隊長ゼスト・グランガイツ三等空佐現着しました」

 

「同所属、セルジオ・アウディ二等空尉現着しました」

 

 中に入ったゼストとセルジオが敬礼をすると、部屋の奥の机にはレジアスが、その隣には二人も見知った女性が控えていた。

 バインダーを脇に抱えてピリピリとした緊張感を纏っており、そのツリ目の印象も相まってきつめの美人といった様子だ。

 

「わざわざご苦労様です。私はオーリス・ゲイズ一等陸尉です。この度ゲイズ中将の補佐となりました。以後お見知り置きください」

 

「(ゲイズさん念願叶ったみたいですね)」

 

「(ああ。レジアスは胃が痛いことだろう)」

 

 以前飲んだ時の苦い顔を思い出してゼストがレジアスの心を察して目を瞑った。娘が同じ職場というのはなかなかに大変であるだろう。まあそれを言えば義理の息子が三課にいるゼストもそうなのだが。

 

「よく来たな、ゼスト、セルジオ。話し方は崩していい」

 

「…………いいのか」

 

「構わん。別に公的な記録に残るわけでもない」

 

「ならば言葉に甘えさせてもらう」

 

「そうしてくれ」

 

 レジアスが手元の端末を操作して、自身の目の前に幾つかのホロウインドウを展開する。

 

「……儂も、そこまで時間的な余裕があるわけではない。手短に話すが構わんな」

 

「ああ。俺たちも最近忙しくてな。そうしてくれると助かる」

 

「それは、『戦闘機人』とやらに関わることか」

 

「────!」

 

「その表情、やはり関わっておったか」

 

 レジアスの言葉にゼストの顔があからさまに驚きに染まる。

 それもそうだろう、その事を三課が調べていることはゼストやセルジオなどの一部の人間しか知らないのだ。もちろん、レジアスに伝えた覚えもない。

 

 どういう事だ、と二人が思わず眉を寄せる中、レジアスは淡々と言葉を続けた。

 

「航空魔導隊三課にはこの案件から手を引く事を命じる」

 

「な、に……?」

 

「『戦闘機人』に関しては別の部隊の担当となる。お前たちには別任務の捜査に当たってもらう。正式な指示は追って書類を送る」

 

「ちょ、待ってくださいレジアスさん!」

 

「アウディ二尉、相手は仮にも上官です。言葉遣いには気をつけてください」

 

「構わんオーリス、儂が許可したのだ。なんだ、セルジオ」

 

 思わず声をあげたセルジオにオーリスからの叱責が飛ぶが、それをレジアスは手で制した。

 

「この案件は俺たちが年単位で取り掛かっていたものです。それを今更手放せと言われてはいそうですか、と頷けるほど俺は物分りが良くありません」

 

「この案件は非常にデリケートだ。故にお前たちの手に余ると判断したまでだ」

 

「──っ、俺たちよりこの件に関して詳しい人間はいません! どう考えても三課が担当しないのはおかしいです!」

 

「セルジオ、これは決定事項だ。お前がなんと言おうと変わることはない」

 

 セルジオの問いかけにも静かにレジアスは答える。その目は、先程から静かにホロウインドウを見つめるだけで、そこから何の感情も読み取れそうにない。

 

「でも──」

 

「セルジオ」

 

「……はい。失礼しましたレジアスさん」

 

 セルジオが唇を噛んで、さらにレジアスへと食ってかかろうとするのをゼストが短く名前を呼ぶことで止めた。

 

「レジアス、今回の件はもう決定したことなんだな」

 

「ああ。二週間後には通達があるはずだ。それまで捜査資料の引き継ぎに専念することだ」

 

「……拝領した。お前のいう通りにしよう、レジアス」

 

 ゼストはまぶたを下ろして小さく息をつくと、隣で強く拳を握りしめるセルジオの背中を軽く叩いてレジアスの執務室から出て行く。

 

「レジアス」

 

「……どうした」

 

 ゼストが扉に手をかけ、背中を向けたまま自身の親友へと言葉を投げかける。

 

「俺たちの夢は、変わっていないと信じているぞ」

 

「……勿論だ。すまんな、ゼスト」

 

「お前が謝る事ではあるまい」

 

「それも、そうだな」

 

 レジアスのどこか歯切れ悪い返答を背中に受けながらも、ゼストは一度も振り返る事なく執務室を後にした。

 

 そうしてレジアスの執務室に広がる静寂。レジアスはゼストが出ていった姿、セルジオの悔しげな表情を思い出して、深く息を吐いた。

 

「中将、大丈夫ですか」

 

「ああ、この程度では最高評議会はなんとも言わん。むしろゼストが死なないことは奴らにとっての利益となる」

 

「いえ、そうではなく、中将が大丈夫か、という事です」

 

 オーリスの言葉にレジアスが目を少し丸くする。

 

「ああいう言い方をすれば三課から貴方への不信が募ります。貴方が憎まれ役になることはなかったのでは?」

 

「……いや、これで良かったのだ。他の方法で引き下がるような奴らでもない」

 

 レジアスは自嘲気味に笑みを浮かべると自身の背後に広がるまどの向こうに見える、クラナガンの景色を見つめた。

 

 友と、守ると誓ったその街を。

 

「奴らを、無駄に死なせるわけにはいかんのだ」

 

 自身に言い聞かせるようなその言葉に、オーリスはそれ以上追求することなく、これからの予定をレジアスへと告げた。

 

 

 

 

 

 

◆◇◆

 

 

 

 

 

 三課のゼストの執務室でゼストとセルジオが向かい合って座り、空中に投影されたホロウインドウを睨んだ。

 

「あと二週間、か」

 

「正直それだけじゃこの数の研究所は回りきれないと思います。せめて一月あれば違ったと思うんですが……」

 

「それを言っても始まらん。今はなんとかする方法を考えなければな」

 

 ゼストとセルジオの表情は優れない。

 

 二週間後と言われはしたが何もその間ぼんやりとデータのまとめをするほどそれを鵜呑みにするほど聞き分けがいい二人ではなかった。

 

 今はこうしてデータと睨み合いをしながらいかに今の状況を解決するか頭を悩ませているところなのだ。

 

 いくら範囲が狭まっているとはいえ、捜索対象は広大なミッドチルダ全域の違法研究施設だ。二週間では手が回るはずもない。

 

 ゼストが腕を組んだままむう、と唸る。

 

「今動かせる人数はどのくらいだ」

 

「確か来週末あたりには引き受けてる案件はひとまず片付きます。なので、来週からなら全員が。今すぐなら、一人二人ってところですかね」

 

「そうか。なら本格的に動けるとすれば一週間だけ、か」

 

「正直この二週間ってのもいやらしいですね。書類上の兼ね合いと、俺たちが動きにくいラインを上手くついてます。こっちの情報はだいぶ漏れてるでしょうね」

 

「一体どこ経由で漏れたのか」

 

 とんとんとこめかみを軽く叩きながらゼストは大きくため息を一つ。

 

「セルジオ、お前の個人的な読みとしては、どこからこの情報を掴んだと見る」

 

「……そうですね。おそらく、レジアスさんの一存で決まったものじゃないでしょう。流石に中将といえど度が過ぎてる」

 

「そうだな、ならばそれより上、本局もしくは海の介入といったところか」

 

「レジアスさんより上の階級なんて本当に数えるくらいしかいないですけどね」

 

 皮肉げに言葉を付け加えたセルジオは、空中に投影されたホロウインドウを睨んだ。

 

「考えられるルートは二つ。一つは、ふつうに三課の誰かが漏らしたことですけど、これはちょっと考えにくいですね。戦闘機人の詳細知ってるの多くないですし、メガーヌさんやクイントさんとかそこあたりの人が漏らすとも考えにくいです」

 

「俺もそう思う。それに、身内はあまり疑いたくない」

 

「それは俺もですよ。んで、二つ目ですが、まあこれは三課のコンピュータがハックされたって可能性。一応ロックはかけてますけど、その道の人間からしたら破れないほどじゃないでしょうし」

 

「だが、そうだとしたらなぜそんな事をする必要がある。それに、そんな事をすれば間違いなく罪に問われる。レジアスはどうやってその事を知った?」

 

「それは、なんとも言えませんね」

 

 一つ目はほぼ可能性はゼロと言い切れる。ならば二つ目の、ハックされた可能性が高いのだろうが、もしそうならばなぜレジアスは犯罪者経由の情報を持っているのか。

 

 ゼストもセルジオもレジアスとは短くない付き合いだ。レジアスはその人間性として、犯罪者は決して許さないという心情を持ち合わせている。時には更生して現在は管理局員として奉仕している人間を過剰に弾糾することがあるくらいには、レジアスが犯罪という行為を憎んでいる事を知っている。

 

 だから、そんなレジアスが犯罪者の情報を受け取ることなど、あり得るはずがないと、二人は信じている。

 

 けれど、状況がそれを許さない。

 

 レジアス・ゲイズ。

 

 魔導師としての経歴を持たないにもかかわらず、地上のトップへと上り詰めた男。時には英雄と呼ばれることすらあるが、それてもその栄光の陰には黒い噂が付き従ってきた。

 

 今までは嘘だと思っていたことも、明らかな違和感が浮上して、レジアスへの疑念を膨らませてしまう。

 

 セルジオが静かに目を伏せる。

 

「あの噂、本当なんでしょうか」

 

「レジアスが非合法な手を使っている、というアレか」

 

「最初は昇進を妬んだ誰かの策略かと思ってましたけど、最近は少し見逃せない話もいくつか聞こえてて」

 

「……ありえん。奴は地上の平和を守る男だ。犯罪者に加担することなど、天地がひっくり返ってもあり得ることではない」

 

「です、よね。レジアスさんに限ってそんな事をするはずないですよね」

 

 セルジオが自身に言い聞かせるようにゆっくりと言葉を口にして、大きくため息をついた。

 

「セルジオ、俺は今から残りの研究施設を全部潰せるように日程を組む。お前は研究施設の情報について洗って、他の奴らへと渡せ」

 

「わかりました。一日で全部終わらせてみせます」

 

「なら三日やるからその三倍の情報を集めろ。お前ならばできるだろう」

 

「──はい、任せてください」

 

 セルジオは強く頷くと、話は終わったとばかりに急いで立ち上がり走り出した。

 

 時間は一刻もないのだ。いかに早く仕事に取り掛かるかが、事件解決につながる。

 

「では、ゼストさん俺はこれで──」

 

「あのー、隊長いますか」

 

「──がはっ!」

 

 焦る気持ちを押さえつけて、セルジオがドアに手をかけようとして、それよりも早く扉が開きセルジオの顔面に炸裂した。

 

「ーーーーーー!」

 

「え、わ! セルジオくんごめん! ノックしたんだけど、返答がなかったから」

 

 声にならない叫びをあげて執務室を転がるセルジオ。そして、意図せずセルジオにクリーンヒットを当ててしまって、慌てて駆け寄るなのは。

 

「セルジオくん、大丈夫?」

 

「だ、だいじょうびだ。思考も回ってるよ」

 

「ほ、ほんとに? 呂律の方は回ってないけど……」

 

「ちょっと高町が三人に見えるだけだから。幻影魔法上手くなったな」

 

「大丈夫じゃない?! しっかり目が回ってた! ちゃんと休んで?!」

 

 しばらくしてなのはが無事一人に戻り(セルジオ視点)、そこでゼストがなのはの手に何やら書類が握られているのに気がつく。

 

 何だ? と首を傾けて、書類の上段に書かれている文字を見れば、そこにはどうやら『有給申請』云々と言う文字が踊っている。

 

「高町、有給の申請か?」

 

「あ、はい。以前お話しした通り、夏休みのタイミングでしばらくお願いしたいんですけど、いいでしょうか?」

 

「夏休み、と言うと来週の半ばあたりから始まる高町の夏期休暇で間違いなかったか?」

 

「はい。お友達と社会科見学に行くことになってるんです!」

 

「成る程、来週、か……」

 

「あ、だめならいいんです! お仕事がもしあるならなのはは断るので! お友達もわかってくれると思いますし」

 

 来週、と言う言葉にゼストが思わず眉を寄せると、それを見たなのはが慌ててゼストへと手渡そうとしていた紙を引っ込めようとする。

 

「いや、行けばいいだろ社会科見学」

 

 だが、それよりも早くセルジオがなのはの手から紙をさらう。

 

「友達ってのは大切だし、それに有給の申請は一応先月からくれてたしな。立て込んだ仕事だって、()()()()。気にせず行って来い」

 

「え、でも、いいの?」

 

「問題ないよ。ね、ゼストさん」

 

「……ああ。楽しんでくるといい高町」

 

「ありがとうございます!」

 

 セルジオが念話で「俺が埋め合わせをするのでお願いします」と言ってきたので、「俺も元からそのつもりだ」と短く返答をしたゼストはセルジオと上手く話を合わせる。

 

 するとなのはは喜色を滲ませて綻ぶように笑う。

 

「それで、場所はどこに行くんだったか? 確か、海鳴の……」

 

「遊園地だよ。アリサちゃんやすずかちゃんのご家族が作ってる遊園地」

 

 そう言って、なのはは楽しみでたまらない、というような空気を滲ませてセルジオを見上げて楽しげに笑う。

 

 

「『オールストン・シー』って言うんだけどね」

 

 

 

 

 

 

 






二章は戦闘機人事件と並行してreflectionが起こることになります。
ここまで原作との相違はほとんどありません。
ゼストは薄い疑いをレジアスに持ち始めてますし、レジアスはゼストを殺させないため戦闘機人の案件から外しました。
クイントは現場でバリバリ働いており、メガーヌの産休ももうすぐ終わります。

ちょっとしたズレもいくつかありますがここでは特に何も言わないでおきます。

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