「では、クロノ支部局長*1、後は指示のあった通りに」
「了解しました、レティ提督*2」
クロノが通信を切ると半透明の液晶に写っていた上司の姿が掻き消える。
「まったく厄介なことになって来たな」
「うん、まさか異世界渡航者が二人。しかもその片方はなのはちゃんやフェイトちゃん、さらにはヴォルケンリッターの人たちまで倒しちゃうなんてね」
「まあ不意をつかれた形にはなるが、少し無視できない戦力だな、これは」
なのはたちの夏休みが始まる前日、地球に異世界渡航者が現れた。
その人物の名はキリエ・フローリアン。
その目的は死にかけた故郷、惑星エルトリアを救うことにあるらしく、そのために必要な力を宿したはやての『夜天の書』を強奪。その際に戦闘になった、『高町なのは』、『フェイト・T・ハラオウン』、『八神はやて』及びその守護騎士四名、そして彼女の姉『アミティエ・フローリアン』を一人で撃退してみせた。
アミティエを除くアースラメンバーの怪我は軽いものの、数の利をひっくり返されたのも事実。舐めてかかっていい相手ではないだろう。
「エイミィ、周囲に夜天の書と思わしき魔力反応はあるか?」
「うーん、流石にさっきの今じゃ追いきれないかな。逃げ足も早かったし、隠蔽もかなり上手にやってるみたい」
「わかった。アンディ、本局を通してカレド・ヴルフ社*3に武装の貸与を頼んでくれ。後はマリーにデバイス調整の連絡も頼む」
「了解しました!」
「アルフレッド、君には武装隊の組織を頼みたい。潜伏地点が判明次第すぐに突入できるように」
「了解です、支部局長」
そこまで指示してクロノが今地球にいるメンバーでの編成を考えようとして、一人の名前が目に入った。
「……あいつにも連絡入れなきゃ、か」
『高町なのは』という名前を見て、クロノが軽く頭をかいて、卓上のコンソールを操作して自身の友人への回線をつなぐ。
それを隣で見ていたエイミィが、あれ? という首を傾げた。
「セルジオくんに通信?」
「ん、エイミィか。ちょうどよかった公的通信だから一応記録を頼めるかな」
「別に良いけど、何であの人に連絡を? こういうのって陸にバラすとまずいんじゃない?」
「まあそうなんだけどね……」
海、次元航行隊と、陸、地上本部はそのあり方の違いから仲があまりよろしくない。その都合上、あまり情報を漏らすのは喜ばれないし、そうでなくとも『夜天の書』の強奪が行われている事件である。
あまり積極的に口外はしたくないのだが。
「そうも言ってられないよ。だって、今回はなのはも事件に関わっている。上司のあいつに連絡を入れとかなきゃめんどくさいことになる」
「あー、そっか。なのはちゃん今陸の預かりだもんね。一応許可取らなきゃ筋は通らないかー」
「そういうことだ。まあこの緊急事態にセルジオがとやかく言うとは思えないが、それでも一応、ね」
コンソールが操作され公的な回線を通って、セルジオのデバイスへと通信を届ける。
一コール。出ない。
ニコール。出ない。
三コール。出ない。
四コール。出ない。
一分経っても二分経ってもセルジオが通信に応じることはない。
「……出ないね」
「出ないな」
「ちょっと早いけどもう帰って寝ちゃってるとか?」
「あのセルジオがこの時間にオフィスにいないはずがない。普通なら絶対に残業しているはずだ」
「うーわー、嫌な信頼だなー。でも確かにあのワーカーホリックが八時より早く家にいるイメージないなー」
「あいつは家にいるよりオフィスにいる時間の方が長いからな。自分で言っていたから間違いない」
エイミィが金髪の同級生の顔を思い浮かべげんなりとした表情になる。あの男は学生時代からまったく進歩していない。
しばらく待っても一向に通信に応じられないことにクロノが眉を寄せる。
「おかしいな。なら、三課のオフィスへの通信に変えようか、エイミィ」
「そういうだろうと思って準備できてるよー」
だが、出ない。セルジオどころか、三課のオフィスへの通信がまったく繋がらない。まるで誰もそこにいないかのように。
「オフィスにも繋がらない、か」
「何か特殊な仕事でもしてるのかな? あ、でもそれならなのはちゃんが有給を取れてるのはちょっと変かも……」
「エイミィ、なのはに通信を繋げて欲しい。少し聞きたいことがある」
「オッケー、ほいほいっと」
エイミィが慣れた手つきで手の中のタブレット型端末をいじると、セルジオと繋いでいるウインドウのとなりになのはの顔が映し出された。
『あ、クロノくん? なのはに何か用かな?』
「突然すまない。今は海の管轄じゃないのに協力してくれたこと、感謝するよ」
『それなら全然いいんだ。私にできることがあるならなんでもやりたいってだけだから。次は、ちゃんとやってみせるよ」
頬に絆創膏をつけて真剣な表情のなのはに、少しだけクロノの目が細まった。
その表情が少し、見知った友人に似ているような気がしたのだ。
その考えを軽く首を振って振り払う。
「少し聞きたいことがある。三課のことだ」
『三課の?』
「ああ。今三課は何か厄介な案件を抱えていたりするかい? 例えば、三課の局員が総出で関わるような事だ」
『──? 特にないと思うけど……何かあったの?』
「いや、個人的な興味だ。おかしなことを聞いてすまなかった。この後の予定に関しては追って連絡を入れる。その時には頼むよ」
『うん、わかった』
「頼りにしてるよ」
『あ、クロノくん待って!』
通信を切ろうとした時、なのはが慌てたようにクロノのことを呼び止める。少し眉を寄せたクロノがどうした、と尋ねれば、なのはは少し言いにくそうにぽつぽつと話し始めた。
『ええと、その、アミティエさんって今はどうしてるのかな』
「先ほど目を覚まして今は食事をとっているよ。怪我はしているが、命に別状はないそうだ」
『そっかぁ、よかった。あの位置の傷なら大丈夫とはわかってたけど、ちょっと心配だったから』
「へえ、なのはちゃん、良くそこまでわかったねー。やっぱり武装隊にいるとそういうのにも詳しくなるのかな」
『あー、その、それは……』
エイミィが感心したようなのはを褒めるが、当のなのはは少し苦い笑顔で、頬を人差し指で撫でる。
『セルジオくんのせい、かな。普段から傷だらけだからそういう知識が増えちゃって……』
「またあいつか……」
クロノが軽く頭を抱えて、セルジオの姿を脳裏に浮かべる。今度一言小言を言わなければ、と心に誓う。
その後二、三言葉を交わすとセルジオにつないでいたものごと、通信を切った。
「なのはは何も知らない、か」
「なのはちゃんの事だし、隠してるってわけでもなさそうだしねぇ」
「仕方ないけどこれはもう事後承諾だな。ログは残っているしこちらに非はないだろう」
クロノもセルジオも少しお咎めを受けるかもしれないが、緊急事態だ、少しくらいは大目に見てもらわなければ困る。
「さて、次は重要参考人の『アミティエ・フローリアン』に連絡を取らなければね」
「ふふ、大変だね支部局長は」
「全くだよ。まだ僕には早いとは思うんだがね」
軽く肩をすくめてみせるクロノに、エイミィが優しく笑みを返す。
「お茶入れてくるよ、あつーい奴」
「悪いね、エイミィ」
「いえいえ、補佐官ですから。あ、砂糖とミルク入れてリンディさんみたいなお茶にしてあげよっか?」
「それだけは勘弁してほしい」
悪戯っぽく舌を出すエイミィの提案をクロノはげんなりとした表情で否定した。
闇の中で白光が煌く。
「四十三、これで終わりだ」
銀閃が目の前のガジェットの胴体を真っ二つにすると、その単眼からは光が失われた。
ガジェットを倒した人物──槍を肩に担いだセルジオは足元に転がる見慣れた多足型のガジェットを蹴飛ばすと念話で後ろの同僚へと指示を出して証拠品の応酬を始める。
ゼファーをコンソールに接続してプログラムを走らせてめぼしいデータを抜き取っていると、別働隊であるゼストからの連絡が入った。
「(セルジオ、そちらはどうだ?)」
「(二班は今二つ目が終わりました。まあ、ハズレみたいですが。そちらは?)」
「(こちらも二つ目で、ハズレだ。運が悪かった)」
「(ですか。三班、メガーヌさんたちからは何か聞いてますか)」
「(一つ目が終わったところだそうだ。さっき連絡があった)」
「(残りは後八、ですか。時間的にはギリギリってところでしょうか)」
「(その事に関しては三課に戻ってから詳しく話し合う。一度帰還しろ)」
「(了解)」
念話を切るとちょうどデータの抽出が終わっていたゼファーの接続を切ると、周囲のメンバーへと声をかけて研究所からの脱出するため走り出す。
(広範囲解析、駆動)
いつものようにマルチタスクで無理やり組み上げることはせず、一つ一つ丁寧に魔法式を発動させる。
合計十三の研究所、ゼスト班、セルジオ班、メガーヌ班の三つで割ったとしても、最低四つの研究所に一日で侵入しなければならないのだ。
そんな事をすればすぐに魔力が枯渇してしまう。マルチタスクによる高速演算は無駄に魔力を食い過ぎる。
セルジオの翠の目に白い光が走ると、瞬時に研究所全域、そして脱出口までのルートの索敵が行われる。
「(来た道をそのまま戻るのは危険なので途中で左に曲がって関係者通路から出ます。途中ガジェットが3体ほどいますが、気にせず蹴散らしましょう)」
「(応。正直、あの機械兵ただの雑魚じゃからなぁ)」
「(あれにセルジオがやられたってのは信じられないね、ボク)」
「(ログ見た限り厄介だったのはAMF発生装置でしょう。まああんな馬鹿でかいものそうそうはないでしょうけど)」
「(そういう無駄口はしっかり帰ってからにしましょう。油断は禁物ですよ)」
「(ほいほい、アウディ二尉)」
自身を合わせて五人のメンバーで脱出口へと走っていると、解析通り扉の前に三体の多足型ガジェットがいるのを捉える。
セルジオはデバイスを砲撃形態に変形させると威力と範囲を絞ったショートバスターを砲身に収束。
扉をまとめてぶち抜くように砲撃を放った。
白い光が三体の機械兵を纏めて吹き飛ばしながら、扉に大きく穴を開けた。
そこからセルジオたちは飛び出すと素早く飛行魔法を発動して局員の一人に偽装の幻影魔法をかけてもらいながら、ミッドチルダの空を飛んだ。
今回の研究所検挙に関しては秘密裏に行われていることのため、三課にこの時間帯の飛行許可は出ていない。そのためこうした偽装が必要になってしまうのだ。
セルジオやメガーヌの転移で移動してもいいが、それでは魔力を無駄に食うしどうしても痕跡が残ってしまう。査察官あたりにそれを嗅ぎつけられれば厄介どころの話ではない。
(魔力は残り、七、いや六割ってところか。後一日で、二、三箇所、やれるか?)
ちら、とセルジオの視線が左腕を半ばまで覆うガントレットへと移る。
(もし魔力がなくなっても手がないわけじゃない。俺は、やれる事をやるだけだ)
ミッドチルダの夜空に浮かぶ二つの月の光が、セルジオの『深紅』のガントレットに反射してきらりと光った。
「く、ククク、そうかやはりそれ程度で止まるはずもなかったか」
薄暗い研究所の最奥で、『ジェイル・スカリエッティ』が愉しげに笑う。
先程自身の助手であるウーノから伝えられた情報によると、彼が昔使っていた研究所や、ダミーとして残しておいた施設が次々に侵入者が出ているらしかった。
「今のところあちらに掴まれても何の痛手にもならないものばかりですが、このままではここに来るのも時間の問題です」
「……残りのダミーはいくつあるかね」
「後七つといったところでしょうか。いかがなされますか、ドクター」
「ふむ、そうだね。ここに立ち入られるのは確かに面倒だ」
愉しげな笑顔のまま、困った、と言うスカリエッティ。その様子には言葉とは裏腹に余裕すら感じ取れた。
「時にウーノ、今回の三課の魔導師たちに彼らはいるのかね」
「彼ら、と言うと?」
「トーレご執心の『セルジオ・アウディ』たちだよ。三課が動くのはわかっていたが、彼らもちゃんといるのかい?」
「ドゥーエの情報によれば、『セルジオ・アウディ』はいるようですが『高町なのは』はいませんね」
「ほう?」
スカリエッティが少し眉を寄せた。
「それは奇妙だ。ドゥーエ曰く彼女は今の三課の中核なのだろう? 何故いない」
「そこまでは流石にわかりかねます。ドゥーエに探らせてみますか?」
「ん、いやいいだろう。今すぐ理由がわかるとも考えられない」
首を緩く振ったスカリエッティは、モニターに映るゼファーの設計図を見て、口を半月状に歪める。
「さあ、私の下までやって来れるかな、『セルジオ・アウディ』」
スカリエッティが髪をかきあげながら、愉しそうに嗤った。
「君と、私で、少し語り合おうじゃないか」
スカリエッティの見つめるモニターの先、そこには今までのゼファーにはなかった一つの機構が組み込まれていた。
reflection編はもう中盤になりかけていると言う事実。
脚注機能をお試しで使って見てます。そのうち飽きてやめるかもですがしばらくはこんな感じで補足しながら書きますね。
因みに三課のメンバーは現在ゼストを除いてオペレーターこみの十六人です。それをゼスト班、メガーヌクイント班、セルジオ班の三つに分けて行動しています。一班あたり四人ずつってところです。