夜天に
「ディバインバスター!」
「ディザスターヒート!」
レイジングハートではなく、『カノン*1』と『ディフェンサー*2』を装備したなのはと、デバイス、ルシフェリオンを装備したシュテル*3が空を縦横無尽に駆けながら互いの魔法をぶつけ合う。
その度にシュテルの変換資質である炎熱が付与された魔力が夜空を照らして、なのはの桜色の魔力が桜吹雪のように舞い落ちる。
シュテルから放たれた無数の魔力弾を旋回してかわしながらなのはもマルチタスクを分割し『アクセルシューター』で迎撃──しようとして、今手に握るのが『カノン』であったことを思い出した。
慌てて迫って来る炎を『カノン』からの直射弾で撃ち落としながら、シュテルへ速射砲撃、ショートバスターを撃つ。
(ついレイジングハートのつもりでやっちゃうな。強いけど、少し、使いづらいかも『カノン』)
放たれた桜色のショートバスターをなのはと同じような見事な飛行技術でかわしてみせたシュテルはなのはへと火炎弾を向けながら口を開いた。
「見たところ、使い慣れた武装というわけでは無いようですね」
「……そうだね。確かにちょっと使い慣れない武器かな」
「そんなもので相手されるとは私も舐められたものですね」
シュテルの表情が険しいものへと変わり、それに比例するようになのはを攻め立てる火炎の勢いは増していく。
空気を焼き焦がすような獄炎がなのはの肌をかすめるたびに、ちりとバリアジャケットを撫でて、焦げ臭い匂いを漂わせる。
「私は何者にも負けません。それが、我が王に誓った忠義なのですから」
シュテルがそう言ってルシフェリオンを振るうと、空を埋めつくように速射弾がなのはへと肉薄する。
(速い! 回避じゃ間に合わないっ!)
火炎の過半数をカノンで迎撃し、残りの直撃ルートだけを『ディフェンサー』のシールドで防ぐ。
(防ぎきっ─────)
「甘いですよ」
が、突如なのはのディフェンサーに当たった魔力弾が爆炎で生じた眩い光によってなのはの視界を大きく遮った。
なのはの目が反射的に細めて、僅かな間の隙が生じる。それはきっと一秒にも満たぬ僅かな時間の隙間。でも、シュテルにしてみれば、その僅かな一秒があればなのはの死角に回り込むことは容易かった。
なのはの背後に現れたシュテルはなのはの背中へと軽く左手を添える。
「お覚悟を」
「シュテル……!」
「ブラストクロウ」
「ーーーーーっ!」
なのはの白いバリアジャケットが黒く焦げて、炎熱耐性でも防ぎ切れなかった炎が僅かになのはの地肌を焼いて、そして爆発により吹き飛ばした。
声にならない叫び声をあげてなのはの体がオールストン ・シーの施設の上を吹き飛んでいく。
(このままじゃ、施設に当たっちゃう……)
なのはの痛みでぼやけた視界に施設中央の城のような建造物が迫っているのが映る。もしこの速度で吹き飛ぶ体がこのまま当たれば施設が無事にいられるはずがない。
(それだけは、だめだ)
ぎり、となのはが唇を噛む。
「それだけは、絶対だめなんだから!」
なのはが、周囲を旋回していた『ディフェンサー』を操作して、その側面で自身の体を叩き落とす。
無理矢理に加えられた力によってなのはの体が方向転換を行い、白の軌道から逸れて施設を横切って海に叩きつけられる。
「はー、はー、なんとか、なった」
一度海に沈んで濡れ鼠になったなのはが肩で息しながら、頭上で佇むシュテルを見上げる。
「不可解です。ナノハ、貴女はなぜあんな捨て身な方向転換を?」
「お城に当たっちゃいそうだったから、かな」
「あの城はただの建造物です。そこに守る価値はないと思いますが」
「シュテルにとってはただの建物でも、これを作った人にとってはきっと違う。毎日一生懸命作ったもので、それを壊すことなんて私にはできない」
「不可解です。貴女の言っていることは理解できない」
ふるふるとシュテルが海に足をつけたなのはを見下ろしながら首を振った。
「貴女たち、管理局と言うのでしたかは人を守る組織だと思っていました」
「そうだよ。私たちは、人を守るためにいつも戦ってる」
「それならば貴女は無人の建造物など気にせず私を倒すべきでしょう。なにせ、貴女達からすれば私たちは貴女達の守りたいものを脅かす存在なのでしょう?」
「そう、なのかもね。もし人を守りたいって思うだけならそれでもいいのかも」
焼き焦げたバリアジャケットに魔力を回して修復をしているなのはが静かに目を閉じて胸に手を置いた。
「でも、私はその人たちの心だって助けてあげたい」
それはきっと人によって違う。それは助けを求める人に差し伸べる手だったり、立ち上がれない人を励ますことだったり、大切にしている施設を守ることだったりするのだろう。
目をゆっくりと開いたなのはは、自分とよく似た容姿の少女を見上げた。
「あなたもだよ、シュテル。私はあなたの力になりたいとも思ってる」
「……不可解です。私はあなたの守るものを脅かすというのに、その私も助けるというのですか」
「うん。それが私の偽らない本当の気持ち」
なのはの水晶のような色合いの瞳がシュテルを見つめる。
「シュテルは、何のために戦ってるの?」
「私、ですか」
「うん。シュテルにもあるんでしょ、戦う理由」
「……私は過去に此の身の全てを我が王に捧げると誓いました。全ては、あの方のために」
「そっか。じゃあこんな形じゃなくてさ、傷つけ合うなんて悲しい形じゃなくて、もっと違う方法はないのかな」
「それは絶対にないでしょう。私への王からの指示はあなた達を害することでしか叶わない」
なのはとシュテル。
片や桜色と片や紅色の魔力光。
片や白と片や黒のバリアジャケット。
片や星光と片や明星。
片や焼け焦げた服のなのはと片やほとんど無傷のシュテル。
みんなのために戦うなのはと一人のために戦うシュテル。
どこか似ているようで、どこか違うそんな二人。
「私は、シュテルのことも諦めたくないよ。きっと何か力になれることがあるはずだと信じてる」
「だからその考えは矛盾している。そんな暴論が通ると思っているのですか」
「たぶん、ちょっと難しいんだろうね」
そこでなのはが下ろしていたカノンの砲身を持ち上げてシュテルへと向けた。
「だけど、私の魔法はその為のものだから」
なのはがふ、と笑ってみせる。
「私はずっとそういう無茶を通してきた人を隣で見てきた。だから、私もあの人みたいに」
「誰のことを言っているかは知りませんが、思いだけで貫ける現実などありません」
「だから、通すよ。私の魔法で、私の想いで」
なのはが、加速してシュテルへと迫っていく。
「ディバインバスター!」
ごぱ、と辺りの空気をまとめて吹き飛ばしながらカノンによりブーストがかけられた砲撃がシュテルへと迫る。
それをシュテルはルシフェリオンによる砲撃で相殺しながら、素早く迎撃の火炎を放つがなのははわずかな隙間を縫いながらかわしていく。
(動きが良くなりましたね。武装の扱いに慣れ始めましたか)
時にディフェンサーでシュテルの視界を塞ぎながら、魔力弾を盾で反らしながらなのはが空を飛び回る。
(ならば、長引かせては面倒ですね。早めに落とすに限ります)
シュテルが飛び回るなのはへの攻撃の手を僅かに緩めるとルシフェリオンを両手で握った。
「集え、明星」
辺りの空気が、否、魔力素が胎動した。
(まさか、収束砲撃魔法……?!)
なのはとシュテルの攻防でばら撒かれた魔法になりきれなかった魔力が、ルシフェリオンを通したシュテルの魔法による一つの巨大な火球として収束されていく。
なのははそれに少し遅れた形で、相殺するための収束砲撃を発動しようとして、その手足がバインドに固め取られる。
「このくらいっ!」
だが、この程度のバインドならば数秒あれば破壊できるのが高町なのはだ。だが、その数秒が今は致命的な差と変わる。
「ルシフェリオン────」
火球が蠢いた。
その収束は既に臨界点を迎えつつあり、シュテルの魔法は完成を迎えようとしていた。
(私もスターライトブレイカーを……、でもカノンじゃ間に合わない……!)
『カノン』は基本的には射撃、砲撃特化の武装だ。そこにレイジングハートのような人格は存在せず、ストレージデバイスのような演算機能も存在しない。
けれどそれを代償に砲撃のチャージを手助けする機構が存在する。故に、たとえシュテルから数秒遅れたとしても十分相殺できるだけの威力は確保できるだけのスペックがある。
もし、なのはがカノンの扱いに熟達していたら。
だが、なのはは日頃三課とカレド・ヴルフ社のテスターとして二足の草鞋を履いていた。
それは、カノンに触れる時間が少なかったということであり、レイジングハートほど扱いに慣れていないということでもある。
もしなのはが
けれど、現実はそうではない。
なのはの砲撃は間に合わず、シュテルの砲撃は完成する。
猶予は後数秒。それだけあればシュテルはなのはへと業火の砲撃を放つことだろう。
「(なのは!)」
「(ユーノ君! 来てくれたんだね!)」
「(うん、遅れてごめん)」
その時ユーノからの念話がなのはの元へと届いた。見れば遥か下方の遊園地にユーノの姿があった。
「(なのは、相手の砲撃は相殺できそう? 悪いけど僕じゃ力になれそうになくて)」
「(ちょっと難しいかも。相手に先手取られちゃったし)」
なのはが眉を寄せながら加速した思考で自分の現在の武装へと目を向けて、そしてユーノの使える魔法へと想いを馳せて、よし、と小さく頷く。
「(ねえ、ユーノくん、この辺りの施設を守って、ついでにいい感じでなのはのフォローとかしてくれたりする? ちょっとなのはじゃそこまでは手が回りそうになくて)」
「(それは勿論いいけど……なのは何を)」
「(よろしくね! ユーノくん!)」
なのはが念話を打ち切ると同時にシュテルの収束砲撃魔法が完成する。
「────ブレイカー」
紅蓮に染まる火球がシュテルの声とともに収束砲撃としての形をとり、なのはへと殺到する。
凄まじい熱気がなのはの肌をちりちりと焦がし、あまりの熱さに思わず閉じそうになる目を必死に見開いて、『ディフェンサー』での防御を敢行する。
カレド・ヴルフ社謹製の盾は最上級レベルのシュテルの砲撃『ルシフェリオンブレイカー』を食らって尚、持ちこたえてみせる。
「その程度で防げるとは思わない事です」
だが、それも一瞬の事。次第にディフェンサーの表面が魔力と熱量の圧力によって、赤熱化して次第に融解を始める。
シュテルから見えるディフェンサーの体積が半分ほどになり、後ろへと砲撃の威力を漏らし始める。
それを見てシュテルが自身の杖、ルシフェリオンを強く握ると魔力を一層強く込めた。
「ヒート・エンドッ!」
『ルシフェリオンブレイカー』がシュテルの叫びに反応して、炎が炸裂して夜天の空を真昼の如く明るく染めた。
「さて、ナノハは……」
シュテルが先程までディフェンサーがあった場所、今は融解して鉄くずとなったものが転がっている海上へと目をやる。
「私の砲撃を防ぐとは、正直予想外です」
「だいぶ、疲れちゃったし、ユーノくんの手も借りたけどね」
シュテルの視線の先、そこには無数の亀裂の入った桜色のシールドの向こうで肩で息をするなのはの姿があった。
「ですが、防げただけです。もう貴女には私と戦う力は残っていないでしょう」
「……そうかもね。魔力はあるけど、ちょっと体の方はきついかも」
「私の勝ちです、ナノハ。命までは取らないでおきます」
「勝ち? ううん、
そう言って笑みを浮かべるなのはに、シュテルが眉を寄せた瞬間、
「ぐ、はっ──」
背後から突如、
(これは、ナノハの使っていた盾? でも、これはさっき融解したはず……)
ディフェンサーがシュテルの背中を強打したそのままの衝撃で、空中のシュテルを海上のなのはの下まで引きずり落としていく。
(まさか、二つ目の盾を砲撃で視界が塞がれたタイミングで海中に隠していた? それを死角を縫って────)
なのはがカノンの砲身をを自分の下まで落ちて来ようとしているシュテルへと向ける。
「カノン、ストライクフレーム起動。エクセリオンバスター・A.C.S、スタンバイ」
カノンの砲身に赤い
「ドライブ・イグニッションッ!」
なのはの身体が爆発したかのように加速し、ディフェンサーに叩きつけられたシュテルの腹部に向けて砲身を向けた。
「いっけええええええええっ!」
零距離まで肉薄したカノンのストライクフレームがシュテルの腹部に触れた瞬間、蓄えられた爆発的な魔力の渦が砲撃という形をとって一気に放出した。
シュテルを突き抜けるような衝撃は、天へと桜色の柱を屹立させ、そしてその威力はシュテルの意識を刈り取るのにも充分な威力であることには間違いなかった。
「ふう、なんとかなった」
気を失ったシュテルをなのはが抱きとめると辺りを旋回しているディフェンサーへと目を向けて小さく息を吐いた。
一か八かのディフェンサーを攻撃に使うという作戦だったが、正直成功するかは五分五分だったのだ。砲撃に隠して、と言えどシュテルがディフェンサーの残骸が一つしかない事に気付いていれば上手くいかなかった。それに、ユーノが気を利かせて防御をいくらか回してくれていなければ砲撃で落ちていた可能性もあった。
「でも、上手くいったからよし、かな?」
「良いわけなでしょ! なのは、もっとしっかり指示出してくれなきゃ困るよ!」
「えへへ、ごめんユーノくん。ユーノくんならできるかな、って思って」
「……できたから良いけど、ちょっと作戦が無茶すぎるよ。あそこは回避が普通でしょ」
「うーん、なんというかあそこは無茶して逆転を狙うとこかなーって思って」
「……なのはちょっと作戦が大胆になったね。別に悪い事だとは言わないけどさ」
「そ、そうかなぁ」
ユーノの少し呆れたような物言いに、なのはが首をかしげる。
自覚はないのだが、なのはの師匠でもあるユーノがいうならばもしかしてそうなのかもしれなかった。
なのはの脳裏に彼女の中での『無茶苦茶やる人』というイメージの翠の瞳の少年が浮かんでくるが、すぐに首を振って打ち消した。
(そんなに影響は受けてない……はず。尊敬はしてるけど、真似してるわけじゃないし)
心の中で言い訳のような言葉を吐きながら、なのははシュテルを抱え直して本部のある場所へと空を翔けた。
オールストン ・シーの水族館の入り口付近に設置された本部で、クロノは各自の通信を受け取っていた。
『こちらフェイト、ただ今敵を撃破しました。今から本部へと身柄を移送します』
『こちらなのは、ジェットコースター付近の魔導師の対応終了。今から帰還します』
「了解した。状況が落ち着き次第エイミィに連絡を頼む。僕は今からキリエ・フローリアンとイリスへの拘束に行く」
『了解。気をつけてね、クロノ』
「ああ。そちらも移送者を逃さないように」
クロノが通信を切るとバリアジャケットの胸ポケットからカード型待機状態のデバイス『S2U*4』を取り出した。
それを見て隣に控えていたエイミィが表情を曇らせた。
「『デュランダル*5』、間に合わなかったね」
「仕方ないさ。緊急事態だったし、デュランダルは調整が難しいしね」
クロノが指でカードを弾くと空中で数回転の後に、見慣れた黒い杖型のデバイスへと変形した。
「それに、S2Uだって充分優秀だ。デュランダルにだって劣らないと僕は思ってる」
クロノが落ちてきたS2Uを受け止めると手の中でくるりと回して調子を確かめると石突きを地面につけた。
「さて、行こうか。この現実を終わらせるために」
クロノは自身に言い聞かせるようにそういうと、オールストン ・シーの目玉、『巨大水晶』がある方へと目を向けた。
今回の話で名前すら出てこない主人公。
それでも恥ずかしくないんですか! と反復横跳びしながら煽ろう。