なのはさんinミッドチルダの空白期。
時系列は闇の書事件の一年後。
高町なのは十歳
クロノ・ハラオウン十五歳
「お前正気か?」
「何がだ、セルジオ」
「タカマチさんの事だ! あんなのを手放すとか海は正気か?」
なのはを地球の転移ゲートへと送っていた帰り、人目のないところに行くのももどかしくセルジオがクロノを問い詰めた。
「少し、落ち着くんだ、セルジオ」
「……悪い、ちょっと驚きすぎて」
「それも無理ないだろう。僕だって初めて見たときは夢じゃないかと疑ったものさ」
クロノが近くの自販機で缶コーヒーを買って片方をセルジオに放り投げた。
「ここじゃ人目がある。少し歩きながら話そう」
そう言ってクロノが歩き出したのでセルジオはそれ以上は問い詰めずその後を追いかける。
しばらく歩いて二人は街外れの公園で腰掛けた。時刻はもう夕方近く。あたりは閑散としており、普通なら遊んでいる子供もすでに帰り始める時間である。
「始まりは『闇の書事件』が終わってからの『陸』の介入だった」
かしゅ、と小気味のいい音ともにプルタブが開く。しかし、クロノは口をつける事なくそのまま缶の中のコーヒーを見つめている。
『陸』の一隊員であるセルジオには知る権限は与えられていないが、『P・T事件』と『闇の書事件』その僅か一年足らずの間で管理局は非常に優秀な魔導師を入局させることができている。
クロノの義妹となる予定の『フェイト・テスタロッサ』、夜天の書最後の主『八神はやて』とその騎士『ヴォルケンリッター』。そして、未来のストライカー、『高町なのは』。
どれも若く、才能に溢れた優秀な魔導師達だった。
順当に行けば管理外世界出身であるし、『次元航行部隊』つまり、『海』に所属するのが普通だ。
だが、それを快く思わなかった人間もいた。言わずもがな、地上本部の面々である。
「『陸』の要求は至ってシンプル。『多くは望まないから一人ぐらい高ランク魔導師を寄越せ』、というものだった」
「ほんとにシンプルだな。それでいて滅茶苦茶だ」
「ああ全くだな」
「でも『海』は呑んだ。どうしてだ?」
クロノが手にした缶コーヒーを見つめたまま自嘲気味に笑み浮かべた。いつも毅然とした態度を崩さない執務官としては非常に珍しい表情。
「僕みたいな末端までは伝わらないが、察せることもある。あの指示の感じは、恐らく裏で何かが行われたんだろう」
「金、か? いや、資金不足の陸が海へ払えるものなんてたかが知れてるか」
「そうだな、あるに越したことはないが金程度では恐らく海は動かないだろうさ」
「……まさか、もっと上からの指令ってことか?」
クロノは何も言わない。ただ黙って缶コーヒーをすするだけだ。一口口をつけて、クロノが何か面白いものでも思い出しかのように薄く笑んだ。
「君好みのいいぬるさのコーヒーだぞ」
「くだらねえこと、言ってんじゃねえよ」
クロノは一気に残りのコーヒーを呷ると空になった缶を遠くにあるゴミ箱の方へと放った。くるくると回る空き缶が放物線を描きながら飛んでいく。
その空き缶の行き先をそれ以上見ることなく、クロノは立ち上がって立ち去って行く。
「君になのはを任せるよ。君なら、僕の友人を任せられる」
「ああ、全力を尽くす」
セルジオが真剣な面持ちで頷くと、クロノが安心したように頰を綻ばせた。そして、去り際に軽く胸を叩いていく。
「頼りにしてるよ、親友」
その言葉と重なるように、からん、と遠くの方で空き缶がゴミ箱の中で跳ねた。
ちら、と所々色が剥がれた懐中時計で時間を確認して周囲を見渡す。
「十分前、か。そろそろ来るかもな」
場所は地上本部のロビー。セルジオは茶色の地上本部の制服を身に纏い、なんとなく自身の薄めの金髪をかいた。一応きちんと寝癖は直しているつもりだが、彼は度々知り合いから寝癖を指摘されていたりする。
(別に三課ならいいけど、ここで上官にあったりしたら事だしな)
割とメンバーが絞られた少数精鋭のきらいがある三課ならば笑い話で済むが、これが二課や一課の隊員となるとそうもいかない。ただでさえ好かれていないのに、余計に陰口を叩かれてしまう。
「す、すみませーん」
そんなことをしながらぼんやり待っていると、見覚えのあるツインテールが揺れながら近づいて来るのが見えた。
「お待たせしちゃいましたか?」
「いいや、時間の八分前だ。問題はないよ」
セルジオがにこりと笑ってみせると、ロビーにいる他の局員と同じような制服に身を包んだ高町なのはは安心したように息を吐いた。
その息は随分と荒く、年相応の柔らかそうな頰も赤く上気していて、どうやら疲れているようだった。
「随分疲れているが、どうかしたのか?」
「あの、実は道に迷ってしまって。途中人に道を聞いたんですけど、皆さん三課の隊舎はわからないって言うばかりで」
「あぁ、成る程。それは災難だったな。あとできちんとあたりを案内しよう」
「ご迷惑かけます」
「何、配属された以上、最低でも一年の付き合いだ。そう気負わなくていいさ」
「じゃ、こっちだ」と言ってセルジオがなのはを先導する。170半ばのセルジオと140ないなのはが並んで歩く姿は下手すれば事案ものだが、管理局の制服がその印象を打ち消している。
「あの、アウディ三尉、質問してもいいですか?」
「どうしたタカマチ二士?」
「三課ってどんな感じの魔導師さんが居るんですか? 私、あんまり他の人と連携とかしたことなくって」
見上げるようにして見つめて来るなのはに、セルジオがふむと少しばかり考え込む。
「ウチは部隊長がベルカの魔法適性がある人でな、そのせいか全体的にフロントアタッカー……つまり前衛が多めの傾向がある。タカマチ二士のような後衛は少なめだな」
「へぇー、隊長さんベルカ式の使い手なんですね」
「ああ。口数は少ないし、不器用だけど、今地上での『ストライカー』はあの人と他に何人かしかいないんだ。寡黙な武人っていうとイメージしやすいかな」
「凄い人なんですね」
「そうだ、凄い。本当にすごい人なんだ」
(その隊長さんのこと尊敬してるんだなぁ)
なのはの言葉をセルジオが得意そうに肯定するのに、なんとなくなのはの中で以前教科書で見た織田信長を厳つくしたような人が現れる。
「因みにアウディ三尉はどういったポジションなんですか?」
「俺? まあ俺は割と何でもやるかな。射撃は苦手だけど、近接と砲撃はそこそこ得意だしな」
へー、と興味深そうに声をあげたなのはが、そこでハッとしたような立ち止まった。不思議そうにセルジオがなのはの顔を覗き込むが、なのはは立ち止まったままだ。
「タカマチ二士?」
「あの、もしかして、三課って男の人ばっかりだったり……?」
突如浮上してきたなのはの不安。
今までなのははどちらかというと女所帯の、女子の比率が高めの職場だったが、それはただ偶然が重なっていただけだ。クロノや魔法の師であるユーノのような少年ならともかく、三課は打って変わって男の人ばかりかも……と思ったのだ。
不安そうに、上目遣いで見つめてくるなのはを、セルジオは愉快そうに笑い飛ばす。
「ははは、そんな事はないよ。男女比は半々くらいだな。さすがにタカマチ二士のような若い人はいないが、頼りになる人たちはいるよ」
「そ、そうですかー、よかったー」
ほっとしたのかなのはは再びセルジオの背中を追いかけて歩き始める。その安心しきった様子に、少年の中の悪戯心が首をもたげる。
「でも、タカマチ二士は見た目が可愛いからな、他の人たちにはめちゃくちゃに可愛がられるかもな」
「え、ええっ! な、なのはなんて全然ですよ。フェイトちゃんの方が目もぱっちりしててすごく可愛くて……」
「フェイトちゃん?」
「あ、えーと、私の大切なお友達です。すっごく優しくて可愛いんです」
「ふむ、俺にはタカマチ二士の友達がどれほど可愛いかはわからないけど、タカマチ二士も十分可愛いと思うぞ」
「そ、そんなことないですって」
「いいや、可愛いぞ。自己評価が低いのは良くない」
「え、えーとそのぉ……」
「俺がもっと若ければ積極的にアプローチを仕掛けていたところだな、うん」
「もしかしてなのはのことからかってますか?」
「バレたか?」
最初の方はセルジオの言葉に頬を赤くして困っていたなのはだったが、やがて自身を見つめる表情が以前クロノに向けていたものに近いことに気がつく。
なのはの問いかけにおどけたように笑うセルジオに、軽く頬を膨らませてなのはが不満を表すが、ただ可愛らしいだけで怖くとも何ともなかった。
「まあ、そう怒らないでほしいなタカマチ二士。緊張は解けたろ?」
「あ、確かに。で、でもからかった事とそれは別ですっ」
「あはは、そいつは手厳しいな」
セルジオが困った様に笑いながら、足を止めてなのはに向き直った。その様子になのはも隊舎についたのだということを理解して立ち止まる。
「さて、ここが三課の隊舎になるが、中に入る前にタカマチ二士には気にかけてほしいことがある」
セルジオが薄い翠の目の中に、少し不安そうに両手を組むなのはの姿が映る。
「三課にはベテラン魔導師が多い。みんないい人だが、もしかしたら中にはタカマチ二士に辛く当たる人もいるかもしれない」
「……はい」
「それに時期外れの新人だ。最初から溶け込むのは難しいかもしれないが、俺も手助けするから頑張ってくれ」
「はいっ」
「よし、じゃあ扉を開けるぞ」
「はい、お願いしますっ!」
ぐっと気合いを入れるなのはの姿を背後に、三課の扉をゆっくりと開けて中に入ろうとして────色とりどりの紙吹雪が炸裂した。
「ごはあっ!」
「あ、アウディ三尉ーー!」
紙とは思えない勢いで炸裂した一撃にセルジオの体が吹き飛んでいく。
「クイントさんバズーカ早い! 今のはただのセルジオです!」
「え、嘘、何よ邪魔くさいセルジオくんねー。普通こういうの新人から中に入れるでしょ」
「いや女の子を身を呈して守った彼はある意味勇者なのでは……?」
「あれは完璧に偶然にみえたなー、ボクは」
「やはり奴には天性の女たらしの才がありおるわ……俺の目に間違いはなかった。俺童貞だけど」
「うわー、信頼できないわねー」
「アウディ三尉、アウディ三尉、大丈夫ですか?」
「ぐ、だ、大丈夫だタカマチ二士。心配ありがとう」
必死になのはが体を揺すると、体に無数の髪テープを巻きつけながらよろよろとセルジオが立ち上がる。そして、猛然と三課の中の面々に掴みかかりにいった。
「何してくれやがるんですかっ!」
「おいセルジオが乱心だ!」
「若さゆえの過ちだ!」
「うぅ、ついにうちのセルジオにも反抗期が……」
「うるさいですよ! というか何ですか今の質量兵器は! 管理局法に引っかかりますよ!」
「いやこれただの紙だしいいかなーって」
「人が軽く飛んだんですよ?! あんなのタカマチ二士が食らってたら普通に死んでましたよ!」
「まあまあ、セルジオくんが食らったなら別に良かったじゃないの」
「そんなボールは友達、だから友達の君は蹴るものさ! とでも言うレベルの暴論を俺が認めるはず無いでしょう!」
ぽかーん、となのはが扉の向こうの光景を見つめる。
そこには巨大なバズーカ(らしきもの)を肩に乗せてセルジオと言い合う青髪の女性と、職員らしき男女十数名。どの人も手の中に紙テープを持ち、壁の向こうには『ようこそ三課へ! 高町なのはさん!』と書いた垂れ幕が貼ってあった。
なのはが見る限り、嫌そうな顔をしている人など一人もいない。
「ぷっ」
あまりのセルジオの物言いとの違いに思わず笑いをこらえきれず吹き出してしまう。
想像よりも数倍温かな雰囲気に、なのはは「ここなら楽しくやっていけそうだ」と肩の力を抜いた。
しばらくして外回りから帰ってきたメガーヌに漏れなくクイント率いる紙吹雪組は雷が落ちることになるのだが、今は誰も知る由もない。
しばらくして、紙吹雪の片付けが終わり三課が平常運行になってから、なのはは三課のメンバーの紹介を受けていた。
「タカマチ二士、こちらクイント・ナカジマ陸曹長。近代ベルカ式の使い手で、三課きってのフロントアタッカーだよ」
「よろしくね、なのはちゃん! 後衛として頼りにしてるわ!」
「よ、よろしくお願いします、ナカジマ曹長」
「ノンノン、私のことはクイントでいいわ。そのかわり私もなのはちゃんって呼ばせてもらうから、ね?」
「は、はい。お願いしますクイントさん」
クイントは自分の娘とさして違いのないような身長のなのはと腰を折って目線を合わせてにっこりと笑う。
紫に近い青い髪。ツリ目がちな目は凛々しさと、笑った時のギャップを大きくしている。
なのはがその笑顔を見て、明るい人だなぁ、なんとなくお姉ちゃんに似てるかも、という感想を抱く。
「そして、こちらがメガーヌ・アルピーノ三等陸尉。魔法式はミッドだけど、召喚魔法って言う少し珍しい魔法を行使する人だ。頼りになる人だから困ったら相談してみるといい」
「私のこともメガーヌって呼んで頂戴? おんなじ後衛だし仲良くしてね」
「こちらこそお世話になりますメガーヌさん」
ぺこり、と礼儀正しく頭をさげるなのはをメガーヌは可愛い妹にでもするかのように優しい手つきで頭を撫でる。
濃い紫の髪をロングに伸ばしたメガーヌは、クイントが「動」のイメージを与える美人なのに対して、「静」の美しさをもっていた。
この人はなんだか大人っぽくて、お兄ちゃんの彼女さんみたいだという感想がなのはの中に浮かんできた。
「と、まあ三課の主要なメンバーはこんな感じだな。他にも何人か外回りに行っているが、それはまた後日にしよう」
「は、はい!」
「じゃあ次は部隊長に挨拶に行こうか」
「わかりました」
最後になのはがクイントとメガーヌの二人に頭を下げて、セルジオの後をトコトコとついていく。
その後ろ姿を見ながら、クイントが隣のメガーヌにだけ聞こえる大きさのため息をついた。それは、いつも朗らかな笑みを絶やさないクイントにしては珍しくネガティブな雰囲気を宿していた。
「あんな小さい子でも戦わなきゃいけないのね。この世界は」
ポツリ、と寂しそうに呟くクイント。メガーヌも心の中ではその言葉に同意しながらも、特に何もいうことなく、クイントの肩を軽く叩いて「仕事に戻りましょ」と声をかけた。
セルジオは三課内の廊下をしばらく歩いて、少し古びた扉の前で足を止める。そこには『部隊長執務室』という札がかかっている。
なのはがごくり、と生唾を飲み込む。
「隊長、入りますよ」
セルジオが軽くノックをしながら声をかけると、扉越しのくぐもった男の低い声が帰ってくる。
「開けるぞ、タカマチ二士」
「は、はいっ」
「そんな緊張しなくていいって」
またもや肩に力を入れているなのはの背中を苦笑いと共に軽く叩くと、ゆっくりと扉を開いた。
ぱんっ!
「へ?」
「え?」
今度は並んで入った二人を小さな破裂音と紙吹雪が迎えた。だだっ広い執務室の中でひらひらと色鮮やかな紙片が舞い散っていく。
「……何してんすか、ゼスト隊長」
「歓迎だ」
「いや、そりゃ見たらわかりますけど……」
「親しみは持てたか?」
「ははーん、さてはクイントさんの入れ知恵ですね」
「ああ」
肩に紙片をつけた金髪の少年が目の前でクラッカーを構える筋肉質な男を半目でじろりと見つめる。だが、男は特に動じた様子もなく、頭にクラッカーのゴミをつけたままのなのはへと向き直る。
「君がタカマチ・ナノハ二等陸士だな。私はゼスト・グランガイツ。この部隊の長を務めている」
「た、高町なのは二等陸士です!」
「そこまでかしこまらなくてもいい。所詮、槍を振るしか能のない男だ」
思わずビシッと敬礼をしたなのはにゼストが軽く手を振った。
「タカマチ二等陸士、
「は、はいっ! よろしくお願いしますゼスト隊長っ」
なのはがゼストの膝をついて差し出してきたがっしりとした手と握手を交わす。
茶髪に近い黒髪。身長はセルジオよりもわずかに大きいだけだが、筋肉がみっちりと詰まっているかのように体格がいい。
表情は先程からほとんど変わらず、低い声も相まって非常に威圧感がある。あるのだが……
(なんだか、そんなに怖くない?)
初めてセルジオと出会った時よりもゼストは怖くなかった。先ほどのクラッカーのやり取りを見てしまったからか、なんだかズレた印象が先行してしまって怖い、と感じるところまで行かないのだ。
クイントのクラッカー作戦は案外成功していたりするのかもしれない。
少し緊張が緩んだなのはにゼストが目線を合わせたまま問いかける。
「タカマチ二等陸士は三課が基本的に
「一応、事前にアウディ三尉からの説明を受けました」
「なら都合がいい」
こくりと頷くとゼストが立ち上がってセルジオとなのはの二人に向き直った。
「セルジオ・アウディ三等空尉、タカマチ・ナノハ二等陸士、両名本日付で
え、と二人の声が重なった。
「タカマチ二士と、俺がですか?」
「ああ、ちょうど今お前は相棒がいなかっただろう」
「で、ですけど俺は三課で数少ない後衛を……」
「元はお前が頼みこんできた事だ。しっかり最後まで面倒を見ろ」
「……了解」
驚いたように目を見開き反論するセルジオだったが、ゼストの言葉に黙り困らざるを得なくなる。
「そ、そのなのは……私でいいんでしょうか」
「問題ない。セルジオにしっかり指導を受けるといい」
「わかりました……」
心配そうななのははちらりと横を伺ってすぐに目をそらした。全く予想していなかった、とは言わないがそれでもいざ本当にセルジオとコンビを組むとなると色々緊張することもあった。
「じゃあ、失礼します」
その後、しばらくゼストから部隊の説明を受けたなのははセルジオに連れられて部隊長室を後にした。
「なんというか、困ったな……」
たはは、と何かを誤魔化すようにセルジオが頭をかきながら笑う。
セルジオとしては、なのはのコンビはおそらく前衛の、それも女性の誰か、彼個人の予想としてはクイント辺りと組むことになると思っていた。
その方が組み合わせもいいだろうし、なのはだって安心して仕事ができると思っていた。
しかし、蓋を開けてみればなのはのコンビにはセルジオが指名された。
もちろん、ゼストにはゼストの考えがあってこそだというのは理解しているが、クロノと約束した事もありなるべく働きやすい職場を提供したかった。
だが、決まってしまったものは仕方ない。
セルジオがなのはに向き直ると、緊張した面持ちのなのはが顔を上げる。
「今日から俺たちはコンビになった。タカマチ二士としては納得できない面もあるかもしれないが、そこは飲み込んで欲しい」
「いえ、そんな事ないです! なんというか、その……よろしくお願いします!」
「ああ、こちらこそよろしくタカマチ二士……というのも他人行儀だな。コンビなんだし、これからはタカマチと呼ばせてもらうが構わないか?」
「あ、タカマチ、ですか……」
「──? ダメだったか?」
「あ、いやいやダメじゃないんですが、その、発音がちょっと違って……」
「発音?」
はい、となのはが頷いた。
「なのはの名前は話しにくいのははわかってるんですけど、出来ればちゃんと『高町』って呼んでもらえると嬉しいです」
「タカマチ……タカ、町、た、かまち……高マチ……高町、ん、『高町』。これでいいか?」
「はい、バッチリです」
「そうか、高町か。うん、じゃあ、高町も俺の事を好きに呼ぶといい」
「わ、私もですかっ?」
「ああ、コンビなんだから当たり前だろう」
なのははしばらく「えぇと」とか「でもぉ」とか口の中で声にならない声を出していたが、やがて指を付き合わせて考え込み始める。
「アウディくん、いやセルジオさん、ここはあえてセルジオくん……いや、それは流石に無理……」
「──? 俺は特に呼び方にこだわりは無いから好きに呼んでもらって構わないぞ」
「じゃ、じゃあセルジオく…………」
「──?」
「アウディさんでお願いします……」
なのははしばらく悩んだあげく、上目遣いでセルジオを見上げながら名前を呼ぼうとして、相手の翠の瞳の中の自分に恥ずかしさを感じてしまう。
そして結局一番無難な呼び方に落ち着いたようだった。
「ほい」
「あの、これは?」
「今日何度もしたろ? 握手だよ、あの日できなかったしな」
柔らかい笑みとともに差し出された手をなのはが不思議そうに見る。
あの日、初めて高町なのはとセルジオ・アウディが出会った日。二人が握手を交わす直前で一悶着が起きたため結局しないままだった。
「これからいろいろあると思うが、頼りにしてるよ高町」
「こちらこそよろしくお願いします、アウディさん」
おずおずとなのはが自分のものよりも一回り大きい掌へと手を伸ばし、二人の間で強い握手が交わされた。
これは唯「アクセラレイターッ!」と叫ばせるシーンを作るためだけの小説です。
みんな傑作映画Detonationを見よう。
今はreflectionまで行き着くことが目標です。