Force Detonater   作:世嗣

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声は届かず

 

 

 

 

「驚いたな…………」

 

 宇宙で待機させていた『群体』イリスに操作させた衛星砲。その宇宙から飛来したエネルギーは海水を瞬間的に蒸発させ、海底までぶち抜くように巨大な穴を作ったが、そしてそこに間髪入れずに海水が流れ込んで行く。

 

 それはついさっきフィル・マクスウェルを倒したアミタとなのはを狙ったもので、回避不可能の一撃のはずだった。

 

 万一にも『アクセラレイター』で逃げられないようにアミタを撃ち、もう一人の少女にも少なくないダメージを与えておいた。

 

 撃墜されるのは必至であり、後は傷ついた二人を煮るなり焼くなり好きにすればいい、と考えていたのだが。

 

 けれど、予想と現実は違った。

 

 フィルの視線が海上から、『オールストン ・シー』上にいる二人の少女へと移った。

 

「アレを避けるには高速移動、『アクセラレイター』が必要だった。だからアミティエを潰しておいたんだが……」

 

 けれど、アミタは腹部の傷を抑えてぐったりとしており加速を使える体ではない。

 

 ならば残る答えは一つだけだ。

 

「君が使ったのか、()()()()()()()()を、魔導師の君が」

 

「はあ、はあ、はあ、何度も、見てました、から……」

 

 もう一人の少女──高町なのはがアクセラレイターを使ったのだ。

 

 理論的には可能だ。なのはの今のレイジングハートにはナノマシンが仕込まれており、エネルギー応用上もアミタのフォーミュラと同じ出力がある。

 

 ならば、たしかに使おうと思えば()()()()()()()()()使()()()のだろう。

 

「けど、そう都合のいい力ではないだろう? 見た限り、君はもう限界のようだ」

 

「そんなことっ」

 

「強がりはよしたまえ」

 

 ふらつく体に鞭打ち体を持ち上げようとしたなのはの足元に弾丸が撃ち込まれると、それだけでなのははバランスを崩して倒れ込んでしまう。

 

「エルトリア式フォーミュラは『イリス』のようなテラフォーミングユニットしか扱えない技術だ。普通の人間では身体性能が足りないんだよ」

 

「フィル・マクスウェル……うぐっ」

 

「アミタ、さん……」

 

「最も、グランツは娘たちをそれに適用できるように何かをしたようだが、どっちにしろ君に扱える代物じゃないということだ」

 

 倒れ臥すなのはたちの元へやってきたフィルが体を引きずって近づいてくるアミタを踏みつける。

 

「けれど君は本当に面白い。負担があるとはいえ、フォーミュラと魔導の融合をこの小さな体一つで為したのだから」

 

 フィルは肩で息をするなのはの襟首を掴むと自分の目線まで吊り上げた。

 

「『イリス』、ユーリ、どちらも私の大切な子どもたちだが……君はそのどちらにも劣らないほど素晴らしいよ」

 

 フィルが口を半月に歪めて笑うと、至近距離から見つめられるなのはの背筋に冷たいものが走る。

 

 なのはの本能が、危険だと叫んでいた。

 

「なのはさんっ! アクセラ────」

 

「君は邪魔だ。あとで構ってあげるから少し待っていたまえ」

 

「────か」

 

 加速を発動しようとしたアミタにフィルが素早く蹴りを叩き込む。

 

 めしり、とアミタの常人の数十倍の強度を誇る体が大きく軋み、弾丸に貫かれた傷口から真っ赤な鮮血がほとばしる。

 

 アミタの体がボールのように吹き飛んでごろごろと地面を転がっていく。そんなものには目もくれず自身の手の中のなのはの瞳を覗き込む。

 

「君の名前はなんというのかな、お嬢さん」

 

「ーーーーー」

 

「話さないか。まあいい、名前なんて些細な問題だ。君にはそんなものには囚われない価値がある」

 

 ふ、とフィルが含むように笑う。その笑みは優しいものにも見えるのに、どこか虚ろで、腹の底のよめないような得体の知れなさがある。

 

「少し、昔話をさせてもらえないかな、お嬢さん」

 

「ーーー」

 

「私がまだ生命という形を保っていたころ、私は結婚といったものにはとんと縁がなかった。信頼する助手はいたが……彼女に恋愛感情を抱くことはなかった」

 

 フィルはそこで残念、とでもいうかのように目を伏せた。

 

 なのはの腕が僅かに動く。今のなのはのデバイスは『レイジングハート・エストレア』。中近距離に対応した形態であり、指示一つで魔力弾を撃つことができる。

 

 今まではフィルに隙がなかったため撃てなかったが、いまなら魔力弾を撃つことができる。

 

(アクセルシューターっ!)

 

 なのはが心の中で起動句を叫ぶと、エストレアから無数の桜色の魔力弾が飛び出してなのはを拘束するフィルに喰らいかかる。

 

「え──?」

 

 けれど、なのはの誘導弾はフィルに辿り着く前に半透明のシールドのようなものに当たり、溶けるように消えてしまった。

 

「私たちのエルトリア式フォーミュラは解析により君たちの魔導を封じることができる。何のために私が隠れて君たちを観察していたと思っている」

 

 アミティエに聞いていなかったのかい、とフィルがなのはの瞳を覗き込みながら笑う。

 

「さて、私を攻撃した悪い手はこれかな」

 

「ーーーッ!」

 

 ズキュン、と躊躇いなくフィルがなのはの杖を持っていた左手を至近距離から撃った。フォーミュラのエネルギーを内包したそれは、なのはの堅固なバリアジャケットに多少防がれながらも、すさまじい衝撃を与えた。

 

 なのはの手からエストレアが溢れて、金属が地面に転がる音がした。

 

「話を戻そう。私は結婚に縁はなかったが、少しばかり『親』というのに憧れていてね。自分の子どもという存在にも興味があったんだ」

 

 だから、とフィルがなのはの瞳を覗き込みながら、またどこか虚ろな笑みを浮かべた。

 

「君も私の子どもになってみないかい?」

 

「え──?」

 

 フィルが、明日の天気でもいうように、さらりと言った言葉をなのは理解することができない。

 

「やっぱりそういう反応が返ってくるのか。まあ仕方ない、それが普通なんだろう」

 

 そのなのはの混乱すら慈しむように、フィルが優しく笑んだ。それは確かに父親が娘を見る目なのに、どこか決定的なところが歪んでいる。

 

「あ────」

 

 なのはの水晶の瞳を覗き込むフィルの目が赤く光る。

 

 それだけでとなのはの心が何かにじわじわと侵食されていく。

 

「これ、は…………」

 

ウイルスコードだよ。ユーリに使っているものと同種の、ね

 

 ぐずり、と何かが目を通して頭の中を染め上げていく。

 

本来はフォーミュラ以外には通りにくいんだが、君が魔導にフォーミュラを混ぜてくれたおかげで少しばかり楽にウイルスが流せそうだ

 

「や、だ…………」

 

 どろりとしたものが中に入ってくる。

 

 なのはの意識が、少しずつ薄れていく。

 

怖がらなくてもいい。なあに、最後には笑えるようになるさ

 

 薄紫の透き通るような瞳が、端から赤く染め上げられていく。

 

 なのはの中から『高町なのは』を構成するパーツが薄れていく。家族が、友人が、知り合いの姿が、見えなくなっていく。

 

(やだ、やだやだやだやだやだ)

 

 ぽろり、となのはの目尻から雫が溢れる。

 

(フェイトちゃんはやてちゃんアリサちゃんすずかちゃんお父さんお母さんお兄ちゃんお姉ちゃん────)

 

 雫が頬を伝いそして、静かに顔の輪郭を沿って流れていく。

 

「セルジオく────」

 

 その言葉を言い終わる前に、なのはの瞳が真っ赤に染まり、とぷん、と中身がなにかに沈んでいった。

 

 雫が、ゆっくりと流れて、落ちた。

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◇◆

 

 

 

 

 

「ぐ、ああああっ! ドゥームブリンガーッ!」

 

 腕部だけだった鎧装から巨大な鎧装へと形を変えたユーリへとディアーチェが無数の魔力弾を叩き込むが、ほんの少し表面を削るだけですぐに再生されてしまう。

 

「く、そ……」

 

「王様!」

 

「すまん、レヴィ……」

 

 空中でよろめいたディアーチェをレヴィが支えると、そこを狙ってユーリが右の腕を振りかぶり全力で叩きつけようとしてくる。

 

「させませんっ!」

 

 そこにすかさずシュテルがカバーに入り赤いシールドを展開してユーリの拳撃を受け止めた。

 

 シュテルのオリジナルは高町なのはであるからして、そのシールドの硬さは三人の中では一番である。

 

 けれど、そのシールドに容易くヒビが入った。

 

「シュテるん!」

 

「流石に、もう魔力が足りません……!」

 

 必死に耐えるシュテルの背中を見てぎり、とディアーチェが歯の根を噛み締めた。

 

 ユーリは強い。本気になればおそらく今地球上にいる誰よりも。

 

 そんな相手と渡り合うには魔力消費を無視した短期決戦での決着が必要だった。もし、ユーリが何らかの影響を受けて、鎧装を変化させていなければ勝てていたのかもしれない。

 

 けれど現実はユーリの瞳の赤色が強くなった瞬間、ユーリはその力を増加させて、三人に襲いかかってきた。

 

 後先考えない大技の連発に三人の魔力は大きく減っており、特に最後に『ジャガーノート』を撃ったディアーチェは魔力の底が見え始めていた。

 

(我らだけでは、勝てぬ。いや、もうこれは()()()()()()()()というレベルの話だ)

 

 レヴィに支えられながら、ディアーチェは杖を強く握りしめる。

 

「くっ、ぐううううっ!」

 

 シュテルのシールドの亀裂が広がっていき、そして端から魔力になって砕けていく。

 

(もはや、打つ手なし、か……)

 

 そうディアーチェが目を落とした。彼女たちに今、取れる手段はない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 少し時間は巻き戻る。

 

 都市の再氷結を終えたタイミングで、クロノへと一本の通信が入った。

 

 それはアミタとなのはによって『オールストン ・シー』から脱出できたはやてからであり、その報告はクロノの今までの疑念を払拭してみせるものだった。

 

「そうか、フィル・マクスウェルが……」

 

『うん。なのはちゃんは自分とおんなじくらい強い言うとった』

 

『では今までの『固有型』脱走を手助けしたアンノウンや、氷結を解除したのもその存在と見て良さそうね』

 

『おそらくそうですね。私の近くにおった『固有型』さんを連れて行こうとしとった訳ですし』

 

「……本当に、そうなのか?」

 

『え?』

 

 全て『フィル・マクスウェル』一人のせいだ。彼が暗躍していたのだ、と言われれば腑に落ちる部分もある。

 

 けれど、納得できない部分もまた、存在するのだ。

 

「余りにも手が多すぎる。これがフィル・マクスウェル一人の仕業とは僕には到底思えない」

 

『……どういうことですか、クロノ支部長』

 

「先ほどエイミィから送られたデータを見ればわかるでしょうが、この四つ目の固有型解放と機動外殻の反応復活の差はおよそ四、五分といったところ。けれどその距離は直線距離にして十キロ以上離れています」

 

『あんまりにも相手の動きが速すぎるっちゅうことか?』

 

「ああ、相手がいかに高速移動を使えるからとはいえ、これはあり得ないレベルだろう」

 

 そういったクロノが自分の中に生まれ始めている、最もあって欲しくない予想は口に出した。

 

「相手は、『フィル・マクスウェル』は本当に()()()()()()()()()()()()()?」

 

 そのクロノの言葉にはやては何も言えない。あまりにも突拍子も無いその言葉に思考が追いついていない。

 

『クロノ支部長、それはイリスを裏から操る存在が、『フィル・マクスウェル』以外にもいる、そういうことですか?』

 

「ええ。最低でも二人、いや三人はマクスウェルの意思に従って動いている存在がいると見ます」

 

『ちょ、ちょお待ってや! それって、今なのはちゃんと戦っとる所長さん以外にも、気いつけなあかん人がおるっちゅうこと?」

 

「断言はできないが、その可能性が高いと僕は思う」

 

 クロノははやての言葉を肯定しながら眉間に寄ったしわを揉んだ、

 

『フィル・マクスウェルはイリスに強い執着を見せているのでしたね。そうなれば、今行われている『固有型』の解放は目くらまし、という可能性が高そうね』

 

「そうですね、僕なら今のうちに『イリス』の本体に接触しようとするでしょうね」

 

『本体のイリス……つまり、東京タワーに陣取っていると思われる固体ね』

 

「現場がどうなっているかわかりません。早くキリエ・フローリアンに連絡を────」

 

 ピリ、と三人の会話に一つの電子音が割り込んできた。モニターの向こうのレティが目をそらすと、ほんの少し表情を緩めた。

 

『キリエさんからよ。たぶん東京タワーに着いた時の連絡ね。事前に報告を頼んでおいてよかったわ』

 

 レティが二、三操作をすると四分割されたモニターの一部分に『SOUND ONLY』の表示が現れた。

 

「キリエ・フローリアンか? 今はどこにいるのか教えて欲しい。早急に伝えたいことがある」

 

『あんな、そっちにちょお危ない人が行くかも知れへんくて、その事で────』

 

『君たちが、今の司令官かな』

 

 声が、響いた。

 

 それはキリエの声とは似ても似つかない、深く、暗い、男の声だった。

 

『フィル・マクスウェル、ですか、貴方は』

 

『おや、私のことを知っていたのか。君たちとは面識はないはずだが』

 

『え、所長、さん……?』

 

『その名前で呼ばれるのも随分久しぶり、という気もするね』

 

 はやての驚くようにこぼした言葉に男の声が楽しそうに笑った。

 

『あ、ありえへん! だってさっき所長さんオールストン ・シーでなのはちゃんたちと戦ってたはずや!』

 

『生憎その記憶は私にはないが、()()()()()、と言っておこうかな』

 

 クロノが薄く唇を噛んだ。一番想定として嫌だったものが、現実に起こっていた。

 

「フィル・マクスウェル、なぜ僕たちに連絡をしてきた。黙って隠れていた方が賢かったんじゃないか」

 

『いや、何少しばかり取引をしたくね』

 

「取引、だと?」

 

 怪訝な表情を浮かべるクロノとレティ。相手は犯罪者であり管理局である彼らにそれに応じる義務もなければ、その必要も感じない。

 

『少し空を見上げてみて欲しいんだが、何か見えないかい?』

 

『空……?』

 

 はやてがつぶやきモニターの向こうで上空を見上げた。それにつられるようにクロノも朝焼けへと変わりつつある空を見上げて、やけに明るい星を一つ見つけた。

 

「なんだ、アレは……?」

 

 それは、まるで自ら光っているかのように、ぎらぎらと輝いていた。まるで得体の知れない不気味な星。

 

 そして、その疑問にはフィル自身がすぐに教えてくれることとなる。

 

『衛星砲だ。小型だし、少しズレてはいるが……この街を狙うのには問題ない。その気になれば周囲を丸ごと消し飛ばすことはわけないよ』

 

 はやてが息を飲む声が聞こえる。

 

『私としても手荒な真似はしたくない。君たちが取引を飲んでくれるならこの衛星砲に発射命令を出さなくて済む』

 

「そんな言葉、私たちが信じると思っているんですか?」

 

『ほう?』

 

『今関東全域に広がっている結界は魔力や音どころか、電波すら遮断するものです。群体のどれかが結界外にいるならともかく、東京タワーにいるお前は外部との通信なんてできないはずでしょう』

 

『ーーー』

 

「私たちにブラフが通じるとは思わないことです」

 

『信じてもらえない、か。なら、()()()()()

 

 はあ、とため息の音が聞こえて、そしてすぐにぱちん、と乾いた音が響いた。

 

『自分の目で見てもらった方が早そうだ』

 

 瞬間、『オールストン ・シー』へ、青い閃光が放たれた。

 

「な────」

 

 遥か上空から貫いた一撃に、クロノも、はやても、そしてレティも言葉を失った。

 

『悪いが混乱に乗じて私とイリスのバックアップデータを乗せた小型ロケットを打ち上げさせてもらった。そして、それが先ほど結界外に出たものでね』

 

 楽しげにフィルが笑う。

 

『さて、ここでもう一度取引の提案だ。どうかな、話を聞く気になったかな?』

 

『…………お話を、聞きましょう』

 

『要求は一つだ。私は衛星砲でこの街を狙わない代わりに、君たちはこの件から手を引いて欲しい』

 

「僕らにお前たちを見逃せと、そう言うのか」

 

『有り体に言えばそうだ。別に君たちの故郷でもないのだろう?』

 

「そんなこと認められはずが──っ!」

 

『ならこの街は消えるがどうする?』

 

「────ッ」

 

 クロノが言葉に詰まる。

 

『さて、どうするかね? 私は()()()()()()()

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◇◆

 

 

 

 

 

 

 

 クロノたちが『フィル・マクスウェル』から取引を持ちかけられているのと時を同じくして、吹き飛ばされたアミタは必死に立ち上がろうとしていた。

 

「なのはさんを、助けなくては……」

 

 自身が不甲斐ないせいで小さな子どもを助け切ることができなかった。それは、アミタにとっては許せるはずのないことだ。

 

 満身創痍の体を叱咤して、なのはとフィルがいるはずの場所へと足を進める。

 

「まだ動けたのか。本当に頑丈だね、アミティエ」

 

「なのはさんを、どこへやったんですか」

 

「ナノハ……? ああ、なるほど彼女は『ナノハ』という名前なのか。教えてくれて感謝するよ、アミティエ」

 

「──ッ! なのはさんをどこへやったと尋ねているんですフィル・マクスウェルッ!」

 

 怒りの叫びに応えるように手の中にハンドガンが生成され銃口がフィル・マクスウェルに向けられる。

 

 それを視界の端で見ながら、フィルは小さくため息を吐いた。

 

「そんなに会いたいなら、会わせてあげるとも。なあ、『ナノハ』」

 

 瞬間、上空から()()()()()がアミティエの真横へと着弾した。

 

「きゃあっ!」

 

 あまりの衝撃にアミティエの体が宙に舞って、そしてまたオールストン ・シーの施設上を転がった。

 

「い、今のは、まさか……」

 

 アミタが目を見開いて、上空を見上げて、一つの影を確認した。

 

「う、そ…………」

 

 栗色の髪。純白の防護服。長大な砲身。漏れ出す桜色のフォーミュラエネルギー。

 

 アミタの見慣れた『高町なのは』の姿がそこにあった。

 

 唯一違う点を挙げるとすれば、それは、本来は水晶のように美しい薄紫の瞳がプログラムが走る赤色に染められていること。

 

「フィル・マクスウェル貴方はっ!」

 

「ははは、そう怖い顔で睨まないでくれ。私も君に嫌われたいわけではないんだ」

 

 過去にないほどに目を怒らせて睨んでくるアミタに軽く笑って見せながら、しゃがんだフィルはアミタの目を覗き込む。

 

「なにせ、君も私の子どもになるんだからね。娘には、嫌われたくない」

 

 フィルの目が、妖しく光る。目と目を合わせたことを起点として、フィルのウイルスコードによる洗脳がアミタへと発動する。

 

 それはエルトリア式フォーミュラによる『行動強制プログラム』であり、ユーリのような魔導師には細かい調整が必要だが、根幹システムが共通の『フォーミュラ』ならばそれは格段に早い速度で行うことができる。

 

「あ、ぐ──」

 

 じくじくと視界が赤くなっていく感覚にアミタが呻き声をあげる。

 

 必死に精神力だけで抵抗を試みるが、抵抗むなしく思考がどんどんと鈍感していくのを感じる。

 

(なのはさんを、助けなきゃ、いけないのに────)

 

 アミタが悔しさのあまり歯を強く噛み締めて、フィルを睨むが、当のフィルはただ楽しそうに笑うだけで。

 

 じくじくと浸食されていくアミタが最後になんとか一太刀、と殴りかかろうと拳を振り上げて────

 

 空が、一瞬眩しく輝くのを感じた。

 

(白い、光?)

 

 アミタが思わず目を細めて、そして、フィルとアミタの真ん中に白い閃光が落ちてきた。

 

「────白光一刃」

 

 斬、とフィルの肩口から膝上までにかけて、槍が振り下ろされた。

 

「が、ぐうっ──」

 

 その突如現れた人影からの一撃に、フィルがよろめき傷を抑えながら後ろへと下がった。その傷口からは、血ともオイルとも判別できない液体が溢れ出す。

 

 フィルの集中が途切れたからか、アミタに流れていたはずのウイルスコードがとまり思考が通常まで戻ってきた。

 

 アミタが地面に転がったまま顔を上げると、そこには銀色の槍に白いコートを風に揺らして佇む少年の姿があった。

 

「あ、あの貴方は…………?」

 

「時空管理局地上本部航空魔導隊三課所属、『セルジオ・アウディ』二等空尉だ」

 

 少年は声をかけられると首だけをアミタの方へと向ける。

 

 翠の瞳が、アミタを見つめる。

 

「すまないが、状況を教えてもらえるか」

 

 

 

 

 






イリスグランプリは良い鉄子ちゃんは三位でしたね。
一位は固定砲台ちゃん。まあ順当かなと。
二位はフォースデトネーターでも大活躍のフィルマクスウェルちゃん!めでたい!(は?)
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