Force Detonater   作:世嗣

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その決断は

 

 

 

 

 地球のなのはとフィル、そしてアミタの前に現れたセルジオ。

 

 なぜ地上本部所属で、現在『戦闘機人』に関する調査をしているはずの彼がここにいるのか。

 

 それを明らかにするには時間を半日ほど巻き戻さなければならないだろう。

 

 なのはの一応の無事の確認と、クロノへの連絡を終えてからしばらくの時間が経った。今、セルジオは三課の片隅のソファに体を沈めていた。

 

「気抜いたらそのまま眠りそうだ……」

 

 先週からすでにセルジオは働きづめである。いや、もちろん普段からワーカーホリックと言われながら働いているが、今までの仕事量はその比ではない。

 

 昼間はいつものように業務をしながら夜には違法研究所に関してのデータを纏めて、ついでに期限までに間に合わなさそうな仕事のフォローに回ったり。

 

 いざ研究所に乗り込めば他の部隊に気づかれないように気を張り、そして大して強くないのにめんどくさいガジェットの相手で体力と魔力をガンガン持っていかれる。

 

 今の三課で最も疲れている人間は、セルジオか同じくらい働いているゼスト、といったところだろう。

 

「眠るのはダメだな。十五分後には後三箇所片付けなきゃいけないんだから」

 

 目元を揉みながらセルジオは何か適当に頭を回しておくことにする。

 

「確か異世界渡航者と『闇の書』関係だったか、クロノが言うには」

 

 セルジオはクロノから大まかに事情を聞いていたものの、細かいところまでは理解していなかった。

 

『闇の書』は本局が大事に抱えている案件の一つだ。そんなものに関しての事件を『陸』の人間にやすやすと明かすわけにはいかないのだろう。それが例えクロノとセルジオの仲だとしても、だ。

 

 セルジオは手首のゼファーを軽く操作すると、クロノから送られてきた現地の情報に軽く目を通す。

 

 現地戦力は東京支部在中の武装局員と、『夜天の書』の主『八神はやて』とその守護騎士。クロノやフェイトのハラオウン家。無限書庫の司書『ユーノ・スクライア』。それに異世界渡航者の協力者二名と、詳細不明のニアS級魔導師三名。

 

 そして、セルジオの部下、『高町なのは』。

 

 もし一部隊に所属させようと思ったら一人当たり二、三ランクはリミッターをかけなきゃいけないレベルの管理外世界の事件としては超過剰戦力である。

 

「けど、『エルトリア式フォーミュラ』、ね……」

 

 クロノのくれたデータ曰く、『魔導』を解析しプログラムを解体することでこちらの攻撃手段を奪いながら、体内のナノマシンによって生み出したエネルギーで周囲の無機物を武装へと変形させる、ミッドチルダからすれば完璧に未知の技術形態。

 

 それに何やら得体の知れない夜天の書のプログラム体もいるらしい。

 

 それを考えれば過剰戦力、と言うこともないのかも知れない。

 

「本当に大丈夫だろうな……」

 

 クロノには、信じてる、任せた、とそう伝えた。そこに偽りはない。

 

 セルジオの中で『クロノ・ハラオウン』という人間の信頼は容易く崩れるものではないし、きっとこれからもそうだと思ってる。

 

 けど、クロノから『なのはが怪我をした』と伝えられた時一瞬だけ頭が白くなった。

 

 そしてすぐにどうして、俺がいれば、とも思った。

 

 蓋を開けてみればなのはは捻挫程度の軽い怪我だったらしいが、だからといって安心できるわけではない。

 

 今回は良くても次はどうかはわからない。なにせ相手は未知の技術形態を持つ相手なのだ、一つのミスが大怪我へと繋がりかねない。

 

「随分、過保護になったもんだ」

 

 ふん、と自嘲気味に鼻を鳴らした。

 

 一年間隣で戦った。

 

 背中を預けてきた。

 

 勘違いで無ければ、それなりの信頼も築いてきた。

 

 守ってやりたいとも思っていた。

 

 けれど今のなのはは次元の壁を隔てたとてつもなく遠い距離にいて、危険かも知れないのに自分はそこに行くことができない。

 

 ぎり、と唇が白くなるほど強く噛みしめる。セルジオの表情に堪え切れない悔しさが滲む。

 

「俺はどうしたら良い…………」

 

 セルジオが思わず胸ポケットの中の古びた懐中時計へ視線を落とすが、ただの機械であるそれはセルジオの質問に答えてくれることはない。

 

 ふう、と息を吐いて空中に投影しているモニターの橋の時間を確認すれば、ゼストから告げられた集合時間の三分前を示していた。

 

「そろそろ行かなきゃな」

 

 考え事をしているうちに思ったよりも時間を食ってしまった。こんな事ならなのはの事など考えるべきでなかったかも知れない。

 

 よっこらと重い腰を持ち上げて三課のオフィスへと向かう。

 

「すみません、遅れました」

 

 がちゃり、と扉をあけて、じっと中にいた人たちの視線が一気にセルジオへと集まる。

 

「な、なんですか……」

 

 十六人、三十二の圧力にセルジオがたじろぐ。しばらくの間誰も何も言わず、静かにセルジオを見つめていたが、やがてクイントが口を開いた。

 

「なのはちゃんになんかあったの?」

 

「──!」

 

「図星って顔ね」

 

「な、なんで高町のことを……?」

 

「あなたね、あれだけでかい声でなのはちゃんの声を叫んだらわからないはずないじゃない」

 

「あ…………」

 

 クイントが呆れたように肩を竦めた。

 

「どんな事件だって? あなたがそんな顔するって事はそれなりにヤバイんでしょ?」

 

「……詳しくは言えませんが、規模としては『闇の書事件』とあまり変わらないだろう、との事です」

 

「それはなんというか…………」

 

「なのはちゃんも災難ね」

 

 微妙な顔を浮かべたクイントの言葉をメガーヌが引き継いだ。その言葉に周囲にいた三課の職員がうむ、と唸った。

 

 有給のはずのなのはが自分たちと同じくらいヤバイ事件に巻き込まれているのに呆れているのか感心しているのか、それとも同情しているのか。

 

 クイントがはぁー、と大きなため息をこぼして扉のそばで立っているセルジオに向き直った。

 

「それで、どうするの」

 

「……それで、ってどういう意味ですか」

 

「わかってるのに惚けて煙に巻こうとするのは君の悪い癖よ」

 

 いつもの朗らかな笑顔はクイントの表情にはない。ただ真面目な引き締めた様子で、静かにセルジオを見つめる。

 

「なのはちゃんの事、どうするの」

 

 なのは、という言葉が出た途端、セルジオの体がびくりと揺れた。

 

「心配なんでしょ。無理してほしくないんでしょ。守りたいんでしょ?」

 

 クイントは声の調子をいくらか柔らかいものへと変えてゆっくりとセルジオへと言葉を投げかけていく。

 

「大切、なんでしょ、なのはちゃん」

 

 ぎり、とセルジオが悔しげに顔を歪める。

 

「だったら、だったら──!」

 

 俯いていたセルジオが顔を上げて、自分を優しく見つめているクイントを睨み返した。

 

「だったらどうしろっていうんですか! 俺は陸の人間で、今は『戦闘機人』の事だって……!」

 

「じゃあ捨てちゃいなさい、そんなめんどくさいもの」

 

「は…………?」

 

 さらり、とクイントが言った言葉にセルジオが目を丸くする。

 

「何を、言ってるんですか……?」

 

「今の案件、全部私たちに任せてなのはちゃんのところに行きなさいって、そう言ってるの。今回の規模でならあなたがいなくてもちゃんと解決できるわ。ね、メガーヌ」

 

「……そうね。私もいるし、いざとなれば旦那でも引っ張ってくれば良いだけだし」

 

『戦闘機人』に関してのことを全て捨てる。その考えが一瞬でもよぎらなかったわけではない。もしそれができれば、なのはの上司ということで現地に行くのも、まあ無理やり臭いが、できない事はない。

 

 でも、それは、一考の価値もないほどに、ありえない選択肢だった。

 

「そんな事……!」

 

「…………」

 

「そんな事、出来るわけないだろ……!」

 

 何年も、何年も追いかけてきたのだ。

 

 三課に配属されて、クイントとメガーヌと行った研究所で、ギンガとスバルを救出してから、ずっとこの日のためにやってきたのだ。

 

 無駄に命が散らされたり、大切な人の体がいいように使われることがないように。

 

 もしこのチャンスを逃せば、次この事件に関われるのはいつになるかわからない。

 

 もしかすれば、二度とセルジオにチャンスが訪れる事はないかもしれないのだ。

 

「俺は、目の前のことを放って高町のところに行くことなんて、できない…………!」

 

 そう言い切ったセルジオにクイントが悲しそうに目を伏せた。

 

「セルジオ君」

 

「……なんですか、メガーヌさん」

 

「今君は『なのはちゃん』と『ミッドの市民』を天秤にのせて考えてない?」

 

「……考えてますよ。だって、これはそういう話でしょう?」

 

「ううん、そうじゃないわ。君は今自分がやりたいことがちゃんと見えていないわ」

 

 ふるふるとメガーヌが首を振ると長い紫の髪が追従するように揺れた。

 

「君が今考えるべきなのは、『ミッドの市民』と『なのはちゃんと地球の人たち』の命に差があるのかってこと」

 

「────」

 

「そこに違いはないと私は思うわ。ただ、今遠いか近いかだけ」

 

 詭弁だとメガーヌは自分で言っていてわかっている。けれど、彼女の頑固な弟分はこれくらい言わないと自分の気持ちに素直になろうともしないのだ。

 

(なのはちゃんが大切なのなんて、一目見ればわかることなのに)

 

 ふ、とメガーヌが柔らかくセルジオに笑ってみせる。

 

「それ、でも、俺は…………」

 

 セルジオが目を伏せる。

 

 クイントに気持ちを言い当てられ、メガーヌに理由をもらっても、セルジオは動けない。

 

 彼の根幹にある思いが、その動きを止めていた。

 

「セルジオ」

 

「ぜ、ゼストさん」

 

 目を伏せていたセルジオの前にぬっとゼストがやってきて見下ろした。その表情はいつも通り険しい。

 

「セルジオ」

 

「なんですか」

 

「…………俺に『馬鹿』と言え」

 

「は?」

 

「「「え?」」」

 

 今までシリアスだった雰囲気が途端に解けた気がした。

 

「俺に馬鹿と言え」

 

「いや、なんで、え?」

 

「早く言え、なんならジジイでもクソオヤジでも好きにしろ」

 

「は? いや、なんでですか?! いえるはずないでしょう?!」

 

「隊長突然被虐趣味に目覚めたのかな……」

 

「考えたくないぞ、ワシ……」

 

 混乱するセルジオとただ同じ言葉を繰り返すゼスト。

 

 周囲のクイントやメガーヌは『ちょっと早いボケが始まってしまったのか』と眉を寄せた。

 

「これは隊長命令だ。言わなければ命令違反と見なす」

 

「わ、わけわかんねえ!」

 

 セルジオがゼストのトンチンカンな物言いに頭を悩ませながらも、『言うしかねえか』と腹を決める。

 

「こ、この、馬鹿っ!」

 

「よし、クイント、メガーヌ聞いたな?」

 

「え、はあ、聞きましたが」

 

「ふんっ!」

 

「ぐはっ!」

 

「どう言う意味──って隊長がセルジオくんを殴ったぁっ?!」

 

 クイントが頷くとゼストは割とシャレにならない感じでセルジオの頰を張った。

 

 ごろ、とセルジオが目を丸くして地面を転がる。

 

「セルジオ、お前は上司への暴言行為により処罰を行うことにする」

 

「いや、どうしろって言うんですか?!」

 

「お前は今日から二日間内勤だ。俺たちの任務についてくることを禁止する。俺たちが目を離しても勝手な行動を取るなよ」

 

「なんでそうなる──え?」

 

 ゼストに食ってかかろうとしたセルジオが、驚いたようにゼストのことを見上げた。

 

「あの、ゼストさん、それってどう言う…………?」

 

「お前は内勤だが、俺たちは全員が外へと出ることになる。その間、この三課は無人になるが、絶対に勝手な行動を取るな、と言っているんだ。そう例えば──」

 

 ふう、とゼストが少しだけ表情を緩めてセルジオの手を引いて立ち上がらせる。

 

「────現在事件に巻き込まれている高町なのは空曹長の所に行ったり、な」

 

「ゼスト、さん……」

 

「もしお前がここからいなくなっても俺はお前を咎められないからな」

 

 ゼストは最後にそう言ってセルジオの金髪をわしゃわしゃとかき回すと、唇を緩めるだけの笑みを、けれどどこか悲しそうな笑みを浮かべた。

 

「大切な(ひと)を助けられる時に行かなければ一生後悔するぞ」

 

「ーーー」

 

 その言葉に、セルジオが言葉を失った。

 

 目の前の男が、誰のことを言っているのかをわかったから。

 

 ゼストはセルジオから手を離すと背中を向けて、短くけれど万感の想いを込めて、自身の弟子へと言葉をかけた。

 

「迷うな、行け、セルジオ」

 

 それ以上ゼストは何も言わない。クイントも、メガーヌも、他の三課の局員もセルジオに何も言わない。

 

 もう、セルジオを見る人はいない。

 

 言うべきことはゼストが全て伝えてくれたと感じていた。

 

「…………はい」

 

 セルジオは小さく返事をすると振り返ることなく駆け出して行った。きっとこれから、彼の思うままに行動を取るのだろう。

 

「まったく、俺たちがいなくなってからと言ったのに、せっかちな奴め」

 

「…………ですね。ちょっとセルジオくんらしくない行動でしたね」

 

「そうね、でも、悪くないんじゃないかしら。若いって感じで」

 

「がはは、じゃな。ああいう青春っていうのも良いもんじゃい」

 

「さてさて、セルジオが抜けた穴を埋めなきゃなぁ。とりあえず五分でパーっとやっちゃおうか」

 

「あ、私が動くわ。その代わりに解析使える人ちょうだいー」

 

「おっけーです」

 

 がやがやと騒がしくなり始めた三課でゼストが窓の外に見える太陽を見上げた。

 

(お前の息子はちゃんと俺とは違う選択をしてくれそうだよ、セピア)

 

 そう心の中で呟いたゼストはほんの少しだけまぶしそうに目を細めた。

 

 

 

 

 

 

 

◆◇◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして、セルジオは海鳴へ立った。

 

 クイントに気持ちを教えてもらい、メガーヌに理由をもらって、ゼストに背中を押されて。

 

「事情は、なんとなくわかった」

 

 アミタからの軽い説明、目の前の存在がなのはを洗脳した、テラフォーミングユニットであるという事、自分よりも高性能なフォーミュラシステムを持つことなどを手短に教えてもらう。

 

(やはり聞いていた通りか。取り敢えずあいつが『マクスウェル』って奴でいいらしい)

 

 手の中で銀色の槍をくるりと回し、瞬間的に砲撃形態へと変形させて、空から虚ろな目でこちらを見ているなのはへと視線を移す。

 

(高町…………)

 

 セルジオが静かになのはを見つめて、唇を噛んだ。

 

「君は、()だ」

 

「セルジオ・アウディ。……そいつの上司だ」

 

「そうかなるほど、『ナノハ』の」

 

 何というか迷った挙句『上司』と言うセルジオ。

 

 そしてそれを聞いてマクスウェルが傷を抑えながらにやりと笑った。

 

「そうか、なら彼女を助けに来たのだろうが、残念だったね。彼女はもう私の手駒だ」

 

「なら、お前を倒せば良いんだろう」

 

「君にそれができるのかな?」

 

「やるさ。その為に来た」

 

「ならば、試してみればいいっ!」

 

 マクスウェルの体内のナノマシンが駆動し、周囲のエネルギーをフォーミュラの動力へ変換する。

 

アクセラレイ────」

 

お前の土俵に立つ気はない(ショートシフト)

 

 だが、それよりも早くセルジオがあらかじめ待機させていた魔法式に魔力を流し込んで短距離転移を発動させ、マクスウェルの背後へと立った。

 

「ディバインカノン」

 

 ズ、と無理やりリンカーコアから吸い上げられた魔力が瞬間的に砲身に収束され、零距離からマクスウェルの背中へと炸裂した。

 

「がぁぁぁぁっ!」

 

 そしてまったく抵抗することなく吹き飛ばされるマクスウェルにアミタが眉を寄せた。

 

(私となのはさんが相手した時に比べて()()()()()。さっきまでの所長ならあんなにアクセラレイターに時間をかける事なんて……)

 

 そんなアミタの思考など知る由もなくセルジオはゼファーを槍へと戻しながら、ふうとため息をついて、空のなのはへと駆け寄った。

 

 俯いているためその表情は窺い知れないが、アミタからの情報ならマクスウェルの意識が途切れれば洗脳は解けるらしい。あの距離の砲撃だいくら人間でないとはいえ流石に魔力ダメージの失神が起こるはずである。

 

「高ま────」

 

Enemy reaction capture.(敵性反応捕捉) It begins to annihilate.(殲滅を開始します)

 

 なのはの顔があげられて、真っ赤な瞳がセルジオを見据えた。がしゃんとエストレアが持ち上げられセルジオの腹に添えられる。

 

 ぞくり、とセルジオの背に冷たいものが流れる。

 

「────加速機動(ブリッツアクション)ッ!」

 

「 Divine Buster 」

 

 瞬時にセルジオが待機させていた加速を発動させてなのはのディバインバスターをかわして旋回。

 

 なのはの背後へと回り込もうとする。

 

Accelerator

 

 だが、なのはは()()()()()()()()()()()()()早く動き、そして背後を取った。

 

「な、嘘だろ……!」

 

「 Divine Buster 」

 

 桜色が煌めき、そしてセルジオの背中に炸裂する──直前でセルジオが槍に魔力を集めて横合いから殴り飛ばす事でなんとか脇へと逸らした。

 だが、それでも完璧に威力を殺すことはできずにセルジオの右腕をガリガリと削っていく。

 

「ーーーっ」

 

 セルジオは声にならない声を上げてアミタの近くへ叩き落とされそうになり、なんとか空中で制御を取って墜落を回避する。

 

「 Divine Buster 」

 

 だが、なのはの砲撃は終わらない。フォーミュラによる恩恵で普段とは比べ物にならないレベルの速度でディバインバスターが連射される。

 

「巫山戯るなよッ!」

 

 それを潰れた右腕を無視して左腕一本で槍を振るって何とか脇へと逸らそうとするが、片手では上手くいかず腹へとまともに砲撃を食らってしまう。

 

(魔力ダメージで意識が────)

 

 ゼストの槍の石突きでの打撃、クイントの拳をノーガードで受けた時を遥かに超える衝撃に、セルジオの意識が遠のいていく。

 

「ざあっ!」

 

 それを防ぐ為に左手の槍で思いっきり脇腹に叩きつけた。骨が軋むような鈍痛と引き換えに、意識が遠のくのを防いで、アミタの側に降り立った。

 

「 Divine Buster 」

 

 そして、駄目押しの四発目がセルジオとアミタに落ちてくる。

 

「ゼファーッ! ディバインカノンッ!」

 

 セルジオが叫び、瞬時に砲撃形態へとゼファーを変形させ白い砲撃が桜色の砲撃を迎え撃った。けれど、先天的に砲撃の才能がなのはに劣るセルジオは、受け止めることすらできず、ぎりぎりと押し込まれていく。

 

「フローリアンさんとか言ったな、マクスウェルを倒しても高町の意識が戻ってない。どう言うことかわかるか?」

 

「それは、私にもなんとも。ですが、予想できることが一つあります」

 

「それはっ?!」

 

「あなたの倒した所長が本体でないと言う可能性です。さっきの所長はあまりに弱すぎました。もしかしたら、なのはさんを汚染したフィル・マクスウェルのメインデータは他にあるのかもしれません」

 

「成る程な、わかった」

 

「え、本当にわかったんですか?」

 

「それだけが取り柄だ。気にするな」

 

 砲撃を撃ち続ける中みしみしと胸の奥のリンカーコアが痛みを訴える。それを無視しながらセルジオはなのはを見つめて唇を噛んだ。

 

(今の俺じゃあ、勝てない。助けて、やれない)

 

 白が桜色に塗りつぶされていっていると、セルジオの頭の中に見知った声による念話が届いた。

 

「(セルジオ!)」

 

「(クロノか)」

 

「(今どこにいる。こちらに来ているんだろう?)」

 

「(『オールストン ・シー』ってところだ。すまないが用があるなら手短に頼む)」

 

「(そうか、なら簡潔に言う。()退()()()()())」

 

「(…………理由くらいは、あるんだよな)」

 

「(宇宙からの衛星砲でここが狙われている。最悪、日本の地形が丸ごと変わりかねない)」

 

「(…………わかった。詳細は後で聞く)」

 

 

「(助かる。そっちにいる二人を連れて急いで帰還してくれ!)」

 

「(二人は、少し無理かもしれない)」

 

「(え?)」

 

「(…………何でもない)」

 

 セルジオはそれ以上会話をすることはなく念話をきるとしきりに痛みを訴える右手でアミタを小脇に抱えた。

 

「な、何を……?」

 

「帰還命令が出た。一度本部に戻る」

 

「え?」

 

「今から俺たち()()()戦線を離脱するな」

 

「ちょ、ちょっと待ってください!」

 

 アミタが抱えられたまま、遠くで砲撃を撃ち終わり、セルジオとアミタを探しているなのはへと目を向けた。

 

「置いていくんですか、なのはさんを」

 

「…………ああ」

 

「そんなの、できるはず────」

 

「この街を衛星砲が狙ってるそうだ。詳しくはわからんがこのまま戦闘を続ければ辺りが消し飛ぶそうだ。俺も、あなたも、高町も」

 

「────」

 

「わかるだろ。高町を助けるには、()()()()()()()()()()()()()()()

 

 やもすれば冷酷にも聞こえるセルジオの言葉。けれど、アミタはそれを攻めることができなかった。

 

 なぜならアミタの眼に映るセルジオの姿は、誰よりも、アミタなんかよりも何倍も悔しそうだったから。

 

 その表情だけで、翠の瞳の少年がどんな気持ちでその提案をしているかがわかったから。

 

 セルジオは左手のゼファーで迫り来る桜色の砲撃になんとか耐えながら、マルチタスクに待機させていた短距離転移に座標を打ち込んだ。

 

短距離転移(ショートシフト)ッ!」

 

 三次元平面上からセルジオとアミタの存在が掻き消えて、100万分の 1秒(マイクロセカンド)のラグの後になのはの死角に降り立った。

 

 そして、すぐに加速魔法を発動しようとして、胸のリンカーコアが大きく軋んだ。

 

「く、そ、魔力、が……」

 

 ディバインカノンの無理な使用、魔力消費を無視したマルチタスクに待機させての連続発動。そしてここ数日の無茶がたたって、セルジオのリンカーコアが一時的に機能不全に陥ってしまう。

 

 そして、その間に、上空のなのはがセルジオとアミタに向けてエストレアの砲身を向けた。

 

「しまっ、た……」

 

 魔力が瞬間的に収束される。眩い桜色の輝きがほのかに明るくなり始めている辺りを、照らして、照らして、照らして、いつまでたっても砲撃が二人を襲うことはなかった。

 

「ぐ、ぅぅぅぅぅぅ……っ!」

 

「なのはさん、まさか、精神力だけでウイルスコードを……」

 

 顔を上げると、二人へと砲身を向けたなのはの瞳が薄紫と赤色とで明滅を繰り返している。

 

 アミタに説明されなくてもわかる。今、なのはは精神力だけでアミタとセルジオを撃とうとする自信を必死に律していた。

 

「に、げて……、はや、く……!」

 

「高、町…………」

 

「なの、はが、なんと、かできるうちに」

 

 体を小刻みに揺らすなのはが、泣きそうになっている顔を無理やり口だけで笑みの形を作って、セルジオと視線を合わせた。

 

「なのは、なら、だいじょうぶ、だから」

 

 そのぐしゃぐしゃの笑顔にセルジオが強く、強く、拳を握った。爪が掌に食い込んで、皮が裂けて生ぬるい鮮血が指の間から溢れていく。

 

「ブリッツ、アクション」

 

 痛むリンカーコアから魔力を絞り出してセルジオが白い光に包まれて、そして朝焼けの中を貫くように飛んでいく。

 

(…………高、町)

 

 セルジオ・アウディ。

 

 クロノの親友で、ゼストの弟子で、なのはの相棒。

 

 彼が本当に助けたいものを助けるには、彼が来るのはあまりにも遅かった。

 

「必ず、必ず、助けるから。今度は、絶対」

 

 その小さな呟きはすぐに風に吹き飛ばされて消えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

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