Force Detonater   作:世嗣

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それが管理局(ぼくら)

 

 

 

 

『さてどうする? 私はどちらでもいい』

 

 マクスウェルの問いかけに、静かにクロノが目を閉じた。

 

 現状ではマクスウェルのこの取引は、ブラフかどうかはわからない。

 

 衛星砲が撃たれたのはおそらく間違いないだろう。そしてそれの発射命令を出すための装置が既に結界外へ出た、というのも。

 

 だが読めないのは『本当にマクスウェルのいうような規模の砲撃ができるのか』ということ。

 

 クロノの視線がエイミィに送られてきた衛星砲の解析映像に移る。

 

 ミッドチルダの技術ならば辺りを消し飛ばすにはアルカンシェル並みの威力が必要で、その為にはそれなりのサイズの魔力炉と砲身が必要になる。

 

 とてもじゃないが衛星砲ごときで出せる威力ではない。

 

 現に先ほど『オールストン・シー』付近へと投下されたものは確かに高威力ではあったものの、とてもじゃないが関東どころか東京全域を破壊できるかも怪しい規模だった。

 

 けれど相手は管理局にとっての『フォーミュラシステム』である。純粋な戦闘能力はさておき、そのエネルギー運用においてはミッドチルダの『魔法』技術の上を行くだろう。

 

 もしかすれば先ほどのものは威力を抑えた砲撃であり、本来の威力ならばマクスウェルのいう通りの威力を出せるのかもしれない。

 

 故に、判断ができない。ブラフか、それとも本当かを見極められない。

 

(考えろ、頭を回せ)

 

 マクスウェルが求めているものはただ『自分を見逃がせ』という単純なもの。

 

 もし仮にこの提案を突っぱねれば最悪関東が消し飛ぶ。だが、もし衛星砲のことがブラフだった場合マクスウェルは成立していない取引を持ちかけていることになり、それはイコールで管理局側の勝利といってもいいだろう。

 

 反対に提案を受け入れた場合、状況は完全に管理局の敗北だ。もし衛星砲の射撃を防げたとしても、結界から出たマクスウェルはおそらく日本の占拠を始めるだろう。

 

 ならば、選ぶのは僅かにでも可能性のある前者であるべきなのだろう。しかし、それは裏返せば何も知らない一般人の命をも天秤に載せるということだ。

 

 現在の関東地区の2017年の時点で約4328万人。そして、衛星射撃による二次被害まで考えれば被害の数はもっと増えることだろう。

 

 そんなこと、できるはずがない。

 

(状況は悪くなかったはずだ。どこで、一体どこで僕たちは────)

 

 そこで、ふとクロノが今のマクスウェルが()()()()()()()()()()()()という状況に眉を寄せた。

 

(待て、何でこいつは僕たちに提案を持ちかけてきた?)

 

 衛星砲の衝撃と、キリエの通信機からの通信、という事でうまく頭が回っていなかったが、よく考えてみれば少しばかり解せない状況もある。

 

(僕の考えが正しければ……、いけるか?)

 

 クロノが頭を回しながら小さく息を吸い込んだ。

 

「フィル・マクスウェル、貴方に頼みたいことがある」

 

『……何だい?』

 

「貴方の取引に関して今の僕たちの一存では決めかねる。少し時間が欲しい」

 

『ほう』

 

 クロノの言葉にはやてがえ、と驚いた表情を見せた。思わずはやてが口を開こうとして、そして未だマクスウェルとの通信がつながっていることに気づいて慌てて手で抑えた。

 

 僕に任せろ、と軽く頷く。

 

『たしかに、あまりせっかちなのは良くないね。私も鬼ではない、時間くらいはあげよう』

 

「感謝する」

 

『それで何()()欲しい?』

 

(やはり、か)

 

 よし、と自分の予想があっていたことにクロノが小さく拳を握った。

 

「そうだな、ざっと()()()()でどうだ? 僕らの本部は遠い世界にあるものでね」

 

『その半分だ。それで決断したまえ』

 

「……仕方ない。その提案を飲もう」

 

『なら一時停戦だ。私の方も兵を止めてあげよう、君たちも兵を引くといい。ああ、五分以内に頼むよ。もし確認できない場合辺りの安全は保証しかねる』

 

「わかった」

 

『では色よい返事を期待しているよ』

 

 それっきりマクスウェルとの通信が切れて、『SOUND ONLY』の文字が消えてノイズが走った。

 

「なんとか、なったか」

 

 ふう、とクロノが小さく息を吐いた。

 

『クロノくん今のは……』

 

「すまないが今は時間がない。その話は後で」

 

『私の方でも認識のすり合わせがしたいけれど、今は停戦が優先です。はやて、守護騎士へと停戦の指令を。交戦中の敵も見逃しなさいとも伝えて』

 

『…………わかりました』

 

 クロノとレティの意図が読めないのかはやては難しい顔をしていたが、ひとまず頷いて通信を切った。

 

(気になるのは、なぜマクスウェルが急に取引を持ちかけてきたのかだが…………)

 

 軽く眉間のしわを揉みながら伸ばして朝焼けの空に不気味に輝く星を睨んだ。

 

「何か相手にも予想外の事態でも起きたのか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 東京湾の配置された仮設本部に、現在の管理局側の戦力は一度収集されていた。

 

 次元航行船『アースラ』艦長リンディ・ハラオウン。

 

 東京支部長兼本局執務官クロノ・ハラオウンとその補佐官エイミィ・リミエッタ。

 

 嘱託魔導師であるフェイト・テスタロッサ・ハラオウン。

 

 無限書庫司書ユーノ・スクライア。

 

 夜天の書の主八神はやてとその守護騎士。

 

 エルトリア出身のアミティエ・フローリアン。

 

 ディアーチェ、レヴィ、シュテルの三人。

 

 モニターの向こうには本局人事部のレティ・ロウラン。

 

 そして部屋の端には航空魔導隊三課のセルジオ・アウディ。

 

 まず行われたのは状況の確認。

 

 敵側にイリスを裏から思考誘導している『フィル・マクスウェル』がいること。

 

『フィル・マクスウェル』、あくまでもそう自称している存在が複数いるということ。

 

 遥か上空、宇宙には衛星砲が存在し、今もまだここを狙っているということ。

 

 ユーリ・エーベルヴァインの能力が上昇しディアーチェら三人の連携でも勝てるか怪しいということ。

 

 機動外殻は数は減らしたもののそこそこの数が残っていること。

 

 一度捕らえた『固有型』七体のうち三体に逃げられているということ。

 

 イリスのもとに行ったキリエ・フローリアンが音信不通であり、今どうなっているかはわからないこと。

 

 そして、管理局側の主力魔導師の一人『高町なのは』が、ウイルスコードによって敵対しているということ。

 

 そこまで話して進行をしていたクロノが軽く咳払いをして自分に視線を集める。

 

「ひとまず状況は理解してもらえたと思う。それで、次はこれからの対応について話したいんだが」

 

「ちょっと待ってくれよ、クロノ執務官」

 

 少し強張ったクロノの言葉を遮る舌ったらずな声が一つ。

 

「何か認識に間違いでもあったか?」

 

「いやそこは何も問題はねえ。けど、そこのそいつに関してはもう少し話を聞きてえんだが」

 

 むすっとした顔で腕を組んでいるヴィータが一人黙しているセルジオに視線を送った。

 

「話、と言われてもな。さっき紹介した通りアウディ二尉は今回の件に協力を申し出てくれた」

 

「それではいそうですか、ってなるほどあたしも物分かりがいいわけじゃねえ。急に知らねえ奴が割り込んできても混乱するだけじゃないのかよ」

 

「そこならあいつも理解している。きっと作戦進行に支障をきたす事にはならないと僕が保証する」

 

「…………それに、あいつ『陸』の魔導師だろ」

 

 その言葉が出ると視線がセルジオに、正確にはレティのものとは違う、『陸』の地味な茶色の制服に集まる。

 ヴィータの言葉を受けてセルジオがを開けると翠の目を覗かせて、短く口を開いた。

 

「私は部下の高町空曹長が負傷したと聞いて様子を見に来ただけです」

 

「わざわざ、こんな遠いとこまでか」

 

「部下が負傷したら心配するのは普通でしょう。ただ、たまたまやって来たら少し込み入っていたようだったのでお手伝いを申し出ただけです」

 

「はン、()()()()ねえ」

 

「何か、言いたいことがありそうですね、ヴィータさん」

 

「別に?」

 

 じろりとセルジオを睨んでいたヴィータが小馬鹿にするように鼻を鳴らした。

 

「ただ、そんなに手柄が欲しいんだなって思っただけだ」

 

「ヴィータ! そういう言い方したらあかんやろ! 早よ謝り!」

 

「いや、構わない。そう見られても仕方ないだろう」

 

 今まで少し眉を寄せながらヴィータの言い分を聞いていたはやてが咎めるように名前を呼んだ。それを軽くセルジオが手で制して、頬の筋肉を緩めるだけのような笑みを見せると、はやてが軽く頭を下げてヴィータを睨んだが、当の本人はそっぽを向いたままだ。

 

 こほん、とまた軽くクロノが咳払い。

 

「各々アウディ二尉に思うことはあるかもしれないが、戦力はあるに越したことはない。不満は飲み込んでくれると嬉しい」

 

「それにセルジオ君割と優秀だよ、たぶん! 私は三年くらい前の頃しか知らないけど!」

 

「絶妙にあてにならない補足ねえ」

 

 ぐっとサムズアップするエイミィにリンディは困ったようにくすくすと声を漏らした。けれど、空気は重苦しく雰囲気は明るくならない。

 

(やっぱり、なのはがいないのは大きいな)

 

『高町なのは』という存在は今のメンバーにとっては大きな意味を持つ。

 

 戦力的にはもちろんだが、その影響はどちらかというと精神的なものが大きいだろう。

 

 フェイトにとってなのはは初めての友だちだ。

 

 はやてにとっては自分を呪いから解放してくれた恩人の一人だ。

 

 守護騎士たちにとっては頼りになる戦友といったところだろう。

 

 彼女が笑顔でいればなんとなくみんな明るい気持ちになるし、「大丈夫!」と言われれば危なっかしいところはあるものの、それでもなんだか勇気付けられて大丈夫な気がしてくる。

 

 そのなのはが今はいない。

 

 そのことが全員に重くのしか上がっているようだった。

 

 クロノが小さく息をついて気持ちを入れ替えると、部屋に声を響かせる。

 

「まず僕から話したいのは『フィル・マクスウェル』が僕たちに持ちかけて来た取引のことに関してだ」

 

「『管理局に手を引いて欲しい』っちゅうアレやな。そう言えばクロノくんなんや話すことある言うとったなぁ」

 

「ああ。その件について少し気づいたことがあったんだ」

 

 はやての問いに軽く頷いたクロノはエイミィに空中に巨大なスクリーンを投影して、少し前の通信の映像を映し出した。

 

「いくつか見て欲しい場面はあるが、まずはここだ」

 

 ーーーー

 

『キリエ・フローリアンか? 今はどこにいるのか教えて欲しい』

 

『あんな、そっちにちょお危ない人が行くかも知れへんくて、その事で────』

 

『君たちが、今の司令官かな』

 

『──『フィル・マクスウェル』、ですか、貴方は』

 

『おや、私のことを知っていたのか。君たちとは面識はないはずだが』

 

『あ、ありえへん! だってさっき所長さんオールストン ・シーで……』

 

『いや、何少しばかり取引をしたくね』

 

 

 ーーーー

 

 

 

「ここだ」

 

 一旦クロノが映像を止める。

 

「えと、ここが何か変なとこがあるのかな、クロノ。ふつうに相手が交渉を持ちかけてきたように見えるけど……」

 

「ああ、そうだ。相手は普通に僕たちへ連絡を入れてきただけだよ」

 

「──? 普通やったらええんちゃうん?」

 

「戯け、小鴉。その『普通』がおかしな状況だと、そこの指揮官は言うておるのだろう?」

 

「あ、ひどい王様! 言うにしてももうちょいオブラートに包んでもええやんか!」

 

「ふん、戯けを戯けということに何の躊躇いがあろうか。ああ、シュテル、そこで船を漕いでいるレヴィを早急に起こせ」

 

「はい、ほら起きてくださいレヴィ」

 

「うーん、ボクまだ眠い…………日向ぼっこしながら昼寝する……」

 

「猫の記憶が戻って猫の時の習慣が戻ってきてますね、これ」

 

「フェイトー、膝貸してー」

 

「え、わ、私?」

 

 よだれを垂らしながらレヴィはもにょもにょと眠そうな表情で隣に座っていたフェイトの太ももに突っ伏した。

 

 そんな様子に特に取り合うことなくシグナムが話を戻すべく口を開く。

 

「察するにクロノ執務官はこの一連の会話になんらかの意図が隠されていると、そう言いたいわけでしょう」

 

「隠された?」

 

「意図?」

 

 首をかしげるはやてとフェイト。

 

「…………相手が連絡を入れてきた目的が見えないな」

 

 ぽつり、とセルジオが呟く。

 

「それは、取引を持ちかけることが目的なのでは?」

 

「いやそれだけじゃ解せない。高──シュテルさんはなぜこのタイミングで相手が連絡を入れてきたと思う?」

 

「──! なるほど、それは考えつきませんでしたね」

 

「あの、セルジオさん、申し訳ありませんがどう言うことか説明していただいても……?」

 

「なら簡単に言い換えようか。クロノは、所長が()()()()()()()()()()正体を明かしたのかがわからないって言いたいんだろう?」

 

「そうだ」

 

 軽くクロノが首肯する。

 

「相手はキリエ・フローリアンに渡しておいた通信端末から自発的に接触してきた。僕たちの裏を書くなら、自分の存在は最後まで秘匿するべきだったのに、だ」

 

「つまりこのタイミングで取引を持ちかけなきゃいけない理由がマクスウェルさんにはあったってこと?」

 

「しかも自らの利点を捨ててまでということですか」

 

 またクロノが頷いた。

 

「ここで僕は一つの仮説を立てた。それは、これはマクスウェルにとっても一種の賭けだったんじゃないか、と言う事だ」

 

「賭け?」

 

「エイミィ」

 

「ほいほーい」

 

「これは、都市での戦闘ログ?」

 

「それも、随分と詳細ですね。『量産型』の反応から、こちら側の戦力まで」

 

「…………そうか、そう言うことか。ふん、所長の奴も背水の陣だったと見える」

 

「残っている生産プラントからしてもギリギリのラインだったのかもな」

 

 投影されたデータを見てもイマイチわかっていないのはフェイトとアミタ。

 

 対してデータを見てなんとなく理解できたのはディアーチェとシュテル、それに経験豊富な守護騎士やセルジオといったメンバー。

 

 しばらくむむむ、と唸っていたはやてがあ、と声を漏らした。

 

「これ、もしかして私たちの方が形成有利なんやない?」

 

 固有型は残り三体。機動外殻が残っているとはいえはやてやクロノなら十分対応できる。それに『量産型』の反応もありはするが管理局側が遅れを取る数でもない。

 

「まさか、マクスウェルさんの事知らず知らずに追い詰めとったん?」

 

「おそらく、な」

 

 あくまでも仮説だが、と前置きしてクロノが言葉を続ける。

 

「僕たちが解放された固有型の再補足をするのが早かったとか、何人かいたはずの『フィル・マクスウェル』のコピーの撃破が増えていたとか、生産プラントが抑えられ始めて生産スピードが間に合わなくなったとかだろう」

 

「予定していたはずの時間が稼げなくなった、というところか。これ以上抵抗しても数で押し切れる自信がなかったか」

 

 数は力だ、という話はよくある。

 

 一人の英雄より百人の兵士。

 

 ミッドチルダ的に言うならばニアSのエース一人がいるより、Aランク以下でも五十人の魔導師が連携を組む方が勝つ確率は上がる。

 

 けれどそれはあくまでも練度が高かった場合の話だ。

 

 シグナムが聞いた言葉によれば『固有型』は『量産型』三十体分の素材からできているらしい。

 

 その『固有型』でさえシグナムには手も足も出ない。ましてや『量産型』が相手になるはずもない。

 

『量産型』が小隊を組んでもアミタには敵わない。おそらく撃破にかかる時間は長くて二、三分といったところだ。

 

 それでは力は拮抗しない。生み出すスピードよりも破壊が早くては戦線維持できない。

 

「だから、所長は今勝つ事より、最終的に勝つことへと目的を変えたと、そういうことですね」

 

「おそらく。そしてそれをフィル・マクスウェルに決断させたのは『オールストン ・シー』で…………」

 

「なのはを、洗脳できたこと」

 

「つまりフィル・マクスウェルには高町がいる事で、もう一度時間さえできれば逆転できる目処がたったってことか」

 

「でも、本当にそうだって言えんのかよ。クロノ執務官の勘違いって可能性は?」

 

「僕もそのことなら考えた。けど、僕の提案に乗ってきた時点で確信したよ」

 

 ぴ、とクロノが手元を操作すると映像が再開する。

 

 

 ーーーーー

 

 

 

『フィル・マクスウェル、貴方に頼みたいことがある」 』

 

『……何だい?』

 

『貴方の取引に関して今の僕たちの一存では決めかねる。少し時間が欲しい』

 

『ほう』

 

『たしかに、あまりせっかちなのは良くないね。私も鬼ではない、時間くらいはあげよう』

 

『感謝する』

 

『それで何()()欲しい?』

 

『──ざっと()()()()でどうだ?』

 

『その半分だ。それで決断したまえ』

 

『……仕方ない』

 

『なら一時停戦だ。私の方も兵を止めてあげよう、君たちも兵を引くといい。ああ、五分以内に頼むよ。もし確認できない場合辺りの安全は保証しかねる』

 

『わかった』

 

『では色よい返事を期待しているよ』

 

 

 

 

 ーーーーー

 

 

 

「何()()、ね」

 

「思考時間にしては随分と長く感じるな」

 

「それも相手からです。これは、ほとんど確定ですね」

 

「ああ、一旦時間を取って戦線を立て直すこと、それがこの取引の目的だったことは明らかだ」

 

「じゃあ私たちは所長さんの思惑にまんまと引っかかっちゃったってことになるのかな……」

 

『いえ、あの場で衛星砲を出された時点で私たちは負けていたわ。あの選択は、仕方なかったと思うわ』

 

「衛星砲、か…………」

 

 その一言で表情は曇る。

 

 関東を全域を消し炭にできるだけの威力を秘めた砲台。遥か上空にある人工衛星を改造したもの。『フィル・マクスウェル』と『イリス』のデータバックアップがとられているとは本人の言葉だ。

 

(まあ、あくまでも鵜呑みにするなら、という枕詞がつくが)

 

 クロノは静かに目を閉じる。

 

「辺りの人の命を握られとるっちゅうのは少し厄介やなぁ。相手の機嫌損ねたらドカンとやられる可能性もあるしなぁ」

 

「いや、その可能性はほとんどないだろう」

 

 はやてが頭を抑えながら言った言葉をあっさりと否定する声が一つ。

 視線がまた部屋の隅──澄ました顔のセルジオへと集まる。

 

『アウディ二尉、それはどう言った意味ですか?』

 

 セルジオは少しばかりの居心地の悪さを感じながらも自身の考えを訥々と語っていく。

 

「まず相手の最終的な目標に関してですが、これは『地球を拠点に研究を続ける』ってところでいいんだよな、アミタさん」

 

「はい、断言はできませんが……」

 

「ならマクスウェルは尚更ここを攻撃できないはずだ」

 

「どういうことですか?」

 

「まあ別に奴としては攻撃してもいいがイコールでそれは限りなく負けに近い勝利になるっていうことだ」

 

「──?」

 

「セルジオ」

 

「はいはい、回りくどい、な」

 

 はあ、とため息をつくクロノにセルジオは苦笑いで応じる。

 

「じゃあ、もし仮にマクスウェルが攻撃したらさ、あいつに残るのはなんだと思う?」

 

「残るものは、バックアップのあるデータと衛星砲、でしょうか?」

 

「そうだ。地球上の生産プラントも、固有型も機動外殻も量産型も俺らごと消し飛ばすわけだからな。あいつの手元に残るのはそれだけだ」

 

 では次、とセルジオがアミタの名を呼んだ。

 

「一つ聞きたい、衛星砲の素材を使って作れる量産型は何体くらいだと思う?」

 

「え、それは、詳しくはわかりませんが、おそらく五、六体ぐらいだと思います。十体は難しいかと」

 

「データと体積見る限り俺もそんなところだと思っている。じゃあ、もしマクスウェルがここを砲撃した際に管理局はどういった対応を取りますか、ロウラン提督」

 

『おそらく本局に連絡をして一両日中に新しい部隊を派遣する────ああ、これは確かに相手は砲撃できないわね』

 

「──? どういうことです?」

 

「簡単に言おう、もし砲撃して関東を消しとばした時、マクスウェルは次に来る管理局の増援に対抗できるほどの戦力は残らないんだよ」

 

 生産プラントがない以上今のようなスピードでの量産もできないし、そもそも素材も丸ごと吹き飛ばしているので手ずからの量産も難しい。

 

 そして、それをやれば人質がいるという有利を捨てるということなので、管理局の遠慮もなくなることだろう。

 

「つまり、マクスウェルはただ勝つだけじゃ駄目なんだよ。あいつは、()()()()()()()()の事まで考えて勝利を収めなきゃいけないんだ」

 

「それで、衛星砲は撃ってこない、となるわけか」

 

「それをやれば自分の首を締めることになるっちゅうわけなんか」

 

 マクスウェルは今の目的は主に二つと考えられる。

 

 一つが先ほどセルジオも言及した『地球を拠点に研究を続けること』。

 

 もう一つは、『今の戦いをなるべく犠牲を少なく終わらせること』。それは生産プラント、固有型などの戦力を維持しつつ勝つということだ。

 

 一つ目を達成するには後者の目的が必要で、そして後者は衛星砲を撃った時点で叶わなくなる目的なのだ。

 

「結論を述べれば、奴は自分のために衛星砲は撃てないんだよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「と、まあこのくらいは相手も察しているだろうね」

 

 東京タワーから人気のないゴーストタウンを見つめるマクスウェル。その瞳は深い洞のようで何を考えているか、何を見ているのかすら推し量れない。

 

「ユーリが負けるとは思えなかったが、それでも状況は良くなかったからね。少し手を打たなきゃいけなかった」

 

 戦乱に乗じてあらかじめバックアップのために準備しておいたロケットを打ち上げた事が予期せず交渉に役立ってくれた。

 

 自分の死の後の置き土産のつもりだったのが、準備してしすぎるということはないらしい。

 

「私が一人だったなら、ユーリに警護をしてもらって一人で脱出を図る、というのもありだったんだけど、少し素体をわけてしまった」

 

 イリスと早く合流したかったものでね、と誰にいうでもなくマクスウェルが笑う。

 

『フィル・マクスウェル』という素体には基本的に『アクセラレイター・オルタ』と『ウイルスコード』が搭載されている。

 

 それも強いことは強いのだが、けれど『フィル・マクスウェル』がそのスペックを十全に使いこなすにはそれなりの身体スペックが必要だった。

 

 具体的には『量産型』百数十体分なのだが、今回マクスウェルはあえて、一体あたり四十体前後で抑え、四体の自分を作り出した。

 

 そうする事で、遥かに早く、そして効率的に作戦をとることができた。

 

 けれど、問題が生じてしまった。

 

 固有型の解放を行なっていた一人が撃破されてしまったのだ。相手はアミタと『高町なのは』の二人組。

 

 流石に完敗、とまでは言わないがそれでも速さでは翻弄できたがその実力は拮抗していたと言えた。二人に大きな怪我はなく、けれど自分は大切な素体を一体失った。

 

「だから、私は力を蓄える必要があった。本当に、予想外な事ばかりで少し参っていたしね」

 

 ふ、とマクスウェルが笑みを漏らして、自分の背後に控える存在へと目を向けた。栗色のツインテールに白色の防護服の、彼を魅せた魔導師の少女。

 

「でも、なあに最後に笑えばいいのさ」

 

 その赤く染まった瞳に、以前あった意思の光はなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 話し合いが終わり一先ず解散となると、今度はセルジオとクロノは二人で連れ立って自販機へ。

 

「ほら」

 

「ん」

 

 クロノが買ったブラックコーヒーをセルジオは受け取って片手で器用に開けた。

 

 かしゅ、という高い音が廊下に響く。

 

「苦いな」

 

「ああ、目が醒める」

 

 それ以上何も言わない。痛いほどの沈黙が二人の間に横たわり、互いの息遣いだけが耳に届く。

 

「……すまなかった」

 

 しばらくして沈黙を破ったのはクロノが先だった。目だけを動かして盗み見たその横顔は重苦しく、何に対して謝っているかは火を見るより明らかだった。

 

「僕はなのはを…………」

 

「言うな」

 

「しかし……」

 

「何も、言うな、クロノ」

 

 セルジオがコーヒーを飲み干して強く握った。

 

「見捨てたのは、俺だ」

 

 ぱき、とほんの少しだけ缶が軋んだ。

 

 クロノが何かを言おうと口を開こうとして、やめる。今セルジオに言う言葉を彼は持たなかった。

 

「あ、あの……」

 

 そんな二人の元へ長い金髪を揺らしながらやって来る少女が一人。

 

「どうしたんだ、フェイト?」

 

「その、セルジオさんに用があるんだ」

 

「……テスタロッサさんが、俺に?」

 

「はい、お話ししたいことがあって」

 

 フェイトの赤い目がゆらゆらと心配そうに揺れた。

 

「あの、セルジオさんはなのはを助けに来て、くれたんですか……?」

 

「…………助けにって、ほどじゃない。少し様子を見に来ただけだ」

 

「それでも、来てくれたんですよね」

 

 セルジオがほんの少し目を細めて、そして小さな声でああと肯定した。それに、フェイトが困ったように笑いながら「そっか」と呟いた。

 

「セルジオさんって、なのはの事どう思ってるんですか?」

 

「こんな時まで冗談に付き合うほど俺も余裕があるわけじゃないんだけど、そういうのじゃないみたいだな」

 

「はい、そういうのじゃなくて、なのはの事を、なんで助けに来てくれたのか、理由が知りたいんです」

 

 じっとフェイトが見つめ、セルジオが何がしかを返答しようと口を開いて、しばし黙り込む。

 

 なんで助けに来たのか、来てしまったのか。いくらゼストたちに背中を押されたとはいえ、それでも戦闘機人事件を捨ててまでやって来た理由。

 

 ゆっくりと、セルジオが口を開く。

 

「なんで、だろうな。なんか、力になってやりたいって、思って」

 

 心には、なんとなくもやもやとした感情がある。けれど、それを言語化して説明しろ、と言われてもうまく言い表すことができなかった。

 

「言葉にはできないけど、今行かなきゃ、駄目だって、あいつのことを助けてやりたいって、思ったんだ」

 

「そうですか」

 

 拙い言葉で、理由にもなっていないような、そんな言葉を紡いだ。

 

 けれど、フェイトはそれでも満足したような、そんな柔らかい笑みを浮かべた。

 

「セルジオさん、なのはのこと、助けてあげてください。たぶん、なのはの事を『救える』のは、今はあなただけなんです」

 

「……それは、どういう」

 

「なんというか、なのはは無茶をやってなんでも救っちゃおうとする姿を、心配してたけど、それよりも信じてたと思うんです」

 

 フェイトがふ、とほころぶように笑った。

 

「きっと、なのはは『友だち』には助けを求めなくても、あなたになら、きっと助けを求めてくれる気がしてるんです」

 

 だから、お願いしますとフェイトが勢いよく頭を下げると元来た方向へと駆け出していった。

 

 二房の金髪が跳ねるように揺れる様を見送りながら、ため息とともにクロノに目を向ける。

 

「いい子だな、テスタロッサさん」

 

「だろう。自慢の妹だよ」

 

「は、着実にシスコンの道を歩みやがって」

 

「言ってろ」

 

 軽く二人で笑みをかわして拳を握った。

 

「助けなきゃな、攫われた人も、この世界も」

 

「そのための、管理局(ぼくら)だ」

 

 静かに二人の拳が重ねられて、鈍い痛みが痺れるようにして伝わった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 がり、と親指の爪を噛んだ。

 

(所長と、また会えた)

 

 ぼんやりとした思考でイリスは外を見つめる。

 

 キリエを伴ってイリスが所長と呼ぶ男、『フィル・マクスウェル』は自身の前に現れた。

 

 なんでも自分の中にバックアップデータを残しておいたお陰で偶然『量産型』生産中に蘇生できたのだそうだ。

 その姿も、話し方も生前からなんら変わりなく、そしてイリスのことを抱きしめてくれた。

 

 ──よく頑張ったね、イリス。

 

 その言葉と、頭を撫でてくれる優しい手にいつかのことを思い出しそうになった。

 

 ──けど、あと少し頑張って欲しいんだ。

 

 ──私たちは、まだすべきことを終えていない。

 

 ──だから、共に最後まで戦って、そしていつかの日を取り戻そう。

 

 ──私と、君と、ユーリと。

 

 そしてマクスウェルはイリスと指揮を変わると、しばらくの休戦と新しい戦力の補充を始めた。

 

 ちらり、とイリスの目が部屋の端、剣を片手に佇む『固有型』へと移った。

 

 元はデッドコピーの一体だったにも関わらず、今の彼女は完璧にイリスから独立し、マクスウェルの命令に従って動いている。

 

 一度話したが、相手は「私は斬るためにいるだけだ」としか答えなかった。

 

 イリスがふらふらと歩き出して赤い結晶に包まれて動きを封じてあるユーリの前で止まった。

 

 ユーリ・エーベルヴァイン。

 

 元、イリスの親友だった人。

 

 マクスウェルは「私は生きていたんだ、許してあげてくれ」と言われたがイリスはそう簡単に折り合いをつけられるとは思えない。

 

 そういえば結局まだ一度も会話してなくて、だからなんで所長たちを殺したかを聞き出せていない。

 

(あれ、なんで私はユーリと話してないんだっけ)

 

 ぱちっと頭の中で何かが弾ける。

 

「あれ、何考えてたんだっけ…………?」

 

 ぼーっとしたイリスがふらふらと歩いて、今度は赤い目で虚空を見つめている桃色の髪の少女、キリエの前で止まる。

 

「なんで、あなたはこんなところに来たのよ」

 

 マクスウェル曰く、東京タワーの近くにいたとのこと。随分強かったが、奇襲を仕掛ければ楽にウイルスコードが使えたとも言っていた。

 

「…………さっさと逃げればよかったのに」

 

 ぽつりと呟いてなんとなくキリエの髪を指で梳いた。丁寧に手入れされた癖っ毛は、彼女が嫌っていて、イリスが「可愛いよ」といつも元気づけていたものだった。

 

「本当に、馬鹿な子なんだから」

 

 イリスが目を閉じて手を髪から引き抜こうとすると、指がキリエのフォーミュラの一部分に引っかかり、何かを弾き落とした。

 

 からん、と乾いた音を立てて青い板が床を転がる。

 

「これは、遺跡板…………?」

 

 イリスが地面を滑ったそれを拾い上げて眉を寄せた。

 

 これはエルトリアにとってのコンピュータ、様々なデータを蓄積するためのツールだが、それをわざわざキリエが持っている理由がわからなかった。

 

 なんとなく、イリスが遺跡板を起動して中のデータに目を滑らせた。

 

 その目は、赤く、赤く、けれど、一瞬だけ元の色に戻ろうとしていた。

 

 

 

 

 

 




イかれたメンバーを紹介するぜ!

ウルトラパパ! フィル・マクスウェル!
「せや自分のデータ使っていっぱい増やしたろ」

親娘感動の再会! イリス!
「所長を間接的に産みました」

化け物並に強いのに終始殴られてるぞ! ユーリ!
「今必死に精神抵抗して力を半分くらいに抑えてます」(それでもディアーチェら三人と対等)

凛々しいタイプの日笠! 固有型イリス推して参るさん!
「一人だけ固有型の中で優遇されました」

作者の趣味のために洗脳されたぞ! キリエ!
「私のBGM流すタイミング奪われたんだけど」

魔導とフォーミュラの融合! 高町なのは!
「何回も見てたんでアクセラレイターできるかなって思って」


割とわけわからんことになってると思うのでわからなければ質問してもいいし、流してもいいです。

簡単に言えば、マクスウェルは末長く研究するには地盤を固めることが必要で、そのためには衛星砲うったらそれが難しくなるってことです。

次の話からバトル再開です。たぶん。

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