Force Detonater   作:世嗣

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加速する戦場

 

 

 

 

 

 

 時刻は昼前、太陽は頂点に近く夏場ということもあって強い日差しは深い影を落としている。

 

 マクスウェルの言った六時間という制限まで残り三時間と少し。

 

 仮設本部の会議室に集まったのは支部長のクロノ、アースラ艦長リンディ、夜天の主のはやて、指揮官のレティは通信で参加している。そこにセルジオはいない。『陸』の彼がこの会議に加わることはできないからだり

 

 軽く仮眠をとったとは言え集まった卓を囲む面々の疲労の色は濃い。特にはやてなどは幼いということもあって先程からしきりに目頭を押さえているようにも見えた。

 

「では衛星砲の対策はクロノの提案の通りに。けど、随分と突拍子も無いのを持ってきたわね」

 

「あ、ははは……、少し思いついて」

 

「ふーん、少しあなたらしく無いかなって母さんは思ったんだけど?」

 

「気のせいでしょう。そんなことより、はやて、段取りの方はよろしく頼む」

 

 母親の視線から逃げるように口早にはやてに指示を出すと、こほんと軽く咳払い。

 

「敵の予測される特記戦力は、主に六つだ」

 

 空中に半透明のウインドウが現れる。

 

「一人目は『イリス』。今回の事件の発端も彼女によるものだ。何より、自己増殖機能によって彼女を抑えなければいつまでたってもキリがない」

 

「そんで『ユーリ』。夜天の守護者で、王様たちの主人。おおよそ魔力が尽きる様子は見えへんで、しかも自己再生機能に生命結晶化まである、と」

 

「言うまでもなくこの事件の主犯格の一人『フィル・マクスウェル』。戦闘能力もかなり強い。頭に入れておいたほうがいいのは、何より何人いるかはわからない、ってことかしら」

 

『それに逃がした『固有型』も。今は反応をロストしてるけど、三体はいるとみていいわね』

 

「後は音信不通のキリエさんだけれど、たぶんウイルスコードでの精神汚染がされてるんでしょうね」

 

 そこまで話して話が一旦止まり、レティが意を決したように口を開く。

 

『そして、なのはさん、ね……』

 

「戦力に関しては一番なのはちゃんが未知数やないかと思います。なのはちゃん、もともと強かったけど今はフォーミュラで磨きかかってますし」

 

 むう、と会議室の中で全員が腕を組んで唸った。

 

「個人的な考えだが」

 

 だが一人だけクロノは口を開いた。

 

「おそらくマクスウェルが二人以上いるという事は、もうしない気がしています」

 

「どうして、クロノ」

 

「既に此方にタネが割れているからです。もう僕たちの頭に可能性が入っている以上、最初の時のように僕らの不意をつくことができない。なら、自分の性能の強化をすると思います」

 

『なるほど、では根拠は?』

 

「一応先ほどアミティエ・フローリアンに確認をとりました。今のマクスウェルは『アクセラレイター・オルタ』こそ驚異的ですが、身体性能に関してはそこまで高くないと。なら、おそらくその穴を埋めようとするのは当然の思考です。」

 

 と、先ほどセルジオとの話し合いで結論づけたということは黙っておく。言っても咎められはしないだろうが、友人の肩身が狭くなるのは本意ではない。

 

『ならば、やるべきことは見えましたね』

 

 レティがくいっと眼鏡を押し上げる。

 

『特記戦力である、六人……固有型を考えれば八人に対して私たちも相応の戦力をぶつけなければならない、という事です』

 

「ああ、そういえばアミタさんがキリエさんには自分が行きたい、いうてはりましたよ、さっきお話しした時」

 

「同じアクセラレイターを使える以上それが妥当でしょうけど、そうなると問題は『イリス』さんね」

 

「それに関しては、事前に言っておいた通り既に僕の方から彼女の方へ頼んであります。本人も、自分がやりたいと」

 

『ならそちらは任せましょう。では、固有型は、反応がロストしてしまった以上、機動外殻への対応者が臨機応変に動くって形がベストかしらね』

 

「ユーリさんは、やっぱり小隊をぶつけるよりあの三人か、守護騎士さんたちに任せたいけど……」

 

「そこは私たちの方で上手く分担しようと思います。王様たちも、たぶん協力してくれると思います」

 

『なら、問題はフィル・マクスウェルと、なのはさんね……』

 

 苦い顔をしたレティ。

 

 マクスウェルは知恵も回り、そして何よりなのはとアミタ二人を相手にして互角に渡り合う実力者だ。それがクロノの予想によればさらに強くなっている可能性すらあるというのだから、手に負えない。

 

「普通に考えれば、マクスウェルは真っ先に落とせたらベストね」

 

「? 最後やなくてですか?」

 

「ああ、この場合はマクスウェルに一番強くて、勝てる可能性が高い人を当てるべきだろうな」

 

 はやてが首をかしげる。彼女も指揮官を目指しているとは言えその経験はまだ浅い。既に五年近く執務官のクロノや、はやてが生まれる前から管理局にいるレティやリンディとは違うのだ。

 

「今回は『指揮官が一番強い』というタイプだ。魔導師組織なんかじゃ間々あるケースだな。これの一番の特徴は、頭が潰れれば戦力が大幅にダウンするという事にある」

 

『特に今回はマクスウェルが『洗脳』と手段という取っているから、その傾向は特に強い』

 

「はあ、つまり今回は所長さんを倒せればまるっと相手に洗脳されとる人が此方の戦力になってくれるかも知れへん、っちゅうことですか」

 

「うん、その認識でいいと思うわ」

 

 指を唇に添えて頭を悩ませていたはやての答えにリンディが満足そうに頷く。

 

「マクスウェルに当てる人はシグナムが妥当ですかね。範囲攻撃も近接戦闘も慣れたものでしょうし」

 

『かしらね。はやて、シグナムさんを借りてもいいかしら。今の戦力で満足に戦えるのは彼女だけでしょうし』

 

「わかりました。私の方から頼んでおきます。たぶん、断ることはあらへんと思います」

 

 シグナムの魔導師ランクはS−。今の戦力の中では最も高く、また守護騎士プログラムということもあって蓄積した戦闘経験も相当なものだ。

 リンディもレティも彼女にマクスウェルの逮捕を任せる事に依存はなかった。

 

『では、なのはさんだけど、どうしましょうかね』

 

「戦場に出てけえへん、ちゅうこととかなかったり…………」

 

「おそらく、それはないでしょうね。なのはさんは曲がりなりにもマクスウェルさんを破っているのよ。戦わせないって選択肢はないでしょう」

 

「…………そのことに関して、僕の方から提案が一つあります」

 

 重苦しくクロノが口を開くと、モニターの向こうのレティをしかと見つめた。

 

「あいつを、彼女に当てましょう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 マクスウェルがにぎにぎと手を握ってみて、先ほどとは少し変わった自身の体の調子を確認する。

 

「ふむ、悪くはない、か。流石百八十体分だ。今ならアミティエたちに遅れをとることもなさそうだ」

 

 マクスウェルと管理局の取引の残り時間まで後一時間と少し。

 

 一度凍結された生産プラントもいくつかは復旧し、今も『量産型』と機動外殻の生産を行っている。先ほどのように『固有型』は作らない。

 

 下手に高性能機体を作るよりも既存のものの底上げや、『量産型』の数を揃えた方が使いやすいという理由もあった。それにマクスウェルがセッティングしている『固有型』のベースシステム的に、八体以上を作ることはできないのだ。今捕縛しているものが破壊されれば、また新しく作れはするが相手がそんなヘマをするとも思えなかった。

 

 マクスウェルが隣に控えている量産型の一体に顔を動かすことなく問うた。

 

「生産ペースはどうだい」

 

「良好かと。このペースなら後30分ほどで規定の数に達するでしょう」

 

「素晴らしい」

 

 含むようにマクスウェルが笑う。

 

 規定の数、つまり最初にイリスが揃えていた数のことである。この短時間でそこまで持っていけたならば、あと半時間でも相当な数が揃うはずである。

 

 自分は既に一体に集めてしまったが、それでもやはり数は力だ。

 

 質より量を揃えることが今は重要だ。

 

「それに万一があったとしても、私には衛星砲がある」

 

 マクスウェルとイリスのバックアップデータのある衛星砲。それを撃つことは地球での未来と、ユーリを失うことにはなるが、自分が捕まることに比べれば随分マシだと言える。

 

 それに衛星砲があるならばある程度マクスウェルは管理局にプレッシャーをかけられる。それに、なにせ宇宙は遠い。もし潰しに行こうとしても、付近を警護させているイリスの一体によっての迎撃も可能だ。

 

『あの、所長』

 

「おやイリス、何か用かな?」

 

 目の前にウインドウが出現し、赤い髪の少女、イリスの姿を映し出した。

 

『あの、さ。所長にとって、私はどんな存在?』

 

 おや、とマクスウェルが目を開いた。

 

 彼の記憶の中でイリスが自分にそういったことを尋ねてきたことはない。彼女は自身のことを『テラフォーミングユニット』だということを理解していたし、それに誇りを持っていたはずだ。

 

 その彼女が、自身の存在について問うとは珍しいこともあったものだ。

 

「君は僕の娘のようなものさ、イリス。大切な、大切な、ね」

 

『そっ、か。ごめんね、作戦の前に変なこと聞いて。ちょっと不安になっちゃって』

 

「構わないよ、戦い続けで君も参ってしまっているんだろう。なに、安心していい。この戦いが終わればまたユーリと仲良く暮らせるようになるさ」

 

『そう、だね』

 

 曖昧な笑顔のままイリスが軽く手を振って通信を切った。

 

「……そろそろウイルスコードも限界なのかもしれないな」

 

 マクスウェルが髪をかきあげながら、空を睨む。

 

 イリスに仕込んであったウイルスコード。それはなのはやキリエに仕掛けたものと異なり、内側から思考誘導という形で働いているが、イリスの中に疑念が生まれているのだろう。

 

「あと一時間、こちらはどこまで…………おや?」

 

 以前キリエから奪った通信機器が軽く振動しているのに気づく。

 

『数時間ぶりだな、フィル・マクスウェル』

 

「君か。約束の時間には少し早いようだが……」

 

『そうだな。けど、少しあなたに見せたいものがあったものでね』

 

「ほう…………?」

 

 マクスウェルが目を細める。なぜ約束を守らずクロノが通信を取ってきたのか意図が読めなかった、こちらには見せしめに衛星砲を撃つ可能性すらあるのに。

 

『空を、見てほしい』

 

「空……?」

 

 マクスウェルが太陽が頂点近くまで登ろうとしている青空を見上げて、衛星砲のある場所に一瞬薄い緑の光が走ったような気がした。

 誰か衛星砲の迎撃に行ったのか、と思ったのもつかの間、()()()()()()()()()()()

 

「な────」

 

 目を剥いたマクスウェルが慌てて近くにいたはずのイリスの一体の目から映像を共有して、言葉を失った。

 

 緑の巨大な手によって、衛星砲が握りつぶされていた。

 

「これは、なんだ」

 

 マクスウェルはエルトリア出身の人間だ。故に、魔法に関しては詳しくない。

 

 イリスたちはなのはやフェイト、そしてはやてたちのことはよく調べていた。けれど、それはあくまでその三人のことを中心に調べたのであって、守護騎士たちまできちんと調べきっていたわけではない。

 

 もちろん守護騎士の一人が、転移の魔法を使うことは知っていたかもしれないが、あくまでもサポート魔法である『転移』で結界内から動くことなく衛星砲を握りつぶすなど誰が予想できようか。

 

「は、ははは…………」

 

 もはや笑い声しか出ない。固定砲台のイリスは近づく『人間』に対しての迎撃を行うようになっている。転移による純粋魔力攻撃に関しての対策などあろうはずもない。

 

「やって、くれたものだ……!」

 

『宣戦布告にはちょうどいい花火でしょう』

 

 ぎり、とマクスウェルが睨むが、モニターの向こうのクロノは全く動じた様子すらない。

 

『ああ、後貴方の取引の返答だが』

 

 そこでクロノが目を怒らせながら、吼えるように答えた。

 

『答えはNOだ! 僕たちがこの世界を諦めることは絶対にないと思え!』

 

 法に則り、人を守り、秩序を保つ。

 

『それが管理局(ぼくら)だ! 覚えておけマクスウェル!』

 

 彼らはいつだって、その為だけに戦うのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 機動外殻が軋みをあげながら都市を闊歩する。その数は既に五十を超えていた。

 

 目指すは結界起点の一つであるスカイツリー。以前のように固有型を伴うことはないが、幾分か上等なプログラムでも積まれているのかその動きは的確だ。

 

 時に仲間を囮にしながら、ビルの陰に隠れながら局員たちの『パイルスマッシャー』による砲撃をかわし、距離を縮めていく。

 

 その機動外殻に向けて空を一直線に飛んでいく五つの影。色は、緑、紅、白、銀、そして夜闇のような黒。

 

「それにしてもさっきの衛星砲の撃墜には驚かされた。よく思いついたものだ」

 

「はあー、私の旅の鏡ってああいう魔法じゃないんだけどなぁ……」

 

「別にいいだろ、最近ボコボコ機動外殻殴ったりしてたじゃんか、シャマル」

 

「例えそうだとしても私は湖の騎士、癒しと補助が本領なんですぅ……」

 

「まあまあ、ええやんか。上手くいったなら何よりやろ」

 

 ぶすくれるシャマルをはやてがなだめて、自身の隣を黒い羽を広げて飛んでいるよく似た容姿の少女へと声をかけた。

 

「王様、手伝ってくれてありがとな。助かるわ」

 

「ふん、まさか小鴉と共に戦場を駆けることがあるとはな」

 

「あはは、それはこっちの台詞やなぁ」

 

 不遜な態度で腕を組むのは傍に魔導書型デバイスを伴ったディアーチェ。

 

 それに笑みをこぼしながら応じるのはリインフォース・ツヴァイとユニゾンし、目を青く染めたはやて。

 

「でも、ごめんな。二人にもユーリを任してあげたかったんやけど」

 

「構わん。あの二人は我に比べ魔力も少なく、どちらかといえば対人戦向きだからな」

 

「うん、けどそれでもごめんな、王様」

 

「ふん。して、本当にユーリはここに来るのであろうな?」

 

「うん、たぶん。あの子どうやら戦闘力の高い順に襲ってくるみたいやし、私たちが広範囲攻撃を撃てば来るんちゃうかな?」

 

「根拠に欠ける話だな、本当に……」

 

「まあいっちょやってみようっちゅうことで」

 

 はやてが手の中の騎士杖、シュベルトクロイツを横一線に薙ぐと背後の空間に銀色の光球が三つ出現する。

 

「まあ、我も貴様らを信じるしかないというのもまた事実。乗せられてやるとしよう」

 

 ディアーチェはやれやれと言わんばかりに手の中のはやてのものとよく似た杖、エルシニアクロイツを軽く振るうと背後に巨大な一つの魔法陣が出現する。

 

「クラウ・ソラス!」

 

「アロンダイトォォォッ!」

 

 銀と黒、正反対にも見える光が主人の起動句に従って魔力が魔法陣によるプログラム変換を受けて、鉄をも砕く破壊の雨へと変わる。

 

 一番スカイツリーに近かった機動外殻がまとめて十体広範囲攻撃によって胸のコアごと消し飛んだ。

 

 仲間の消滅を感じ取ったのか機動外殻の一体が空に浮かぶはやてとディアーチェへ視線を動かす。

 

「ぶっつぶれろおおっ!」

 

 直後、横合いからヴィータとグラーフアイゼンによってぶん殴られて、そして地面に沈んだ。

 

「て、おおおおおあああっ!」

 

 そしてすかさず空より一条の彗星が機動外殻の胸部、全ての動きを管制するコアが鎮座する部分に着弾した。

 青白い魔力光に身を包んだザフィーラが拳を打ち込むと、CW社の試作デバイスであるガントレットが唸り、そして突き抜けるようにぶち抜いた。

 

「クラールヴィント、風よ遍く広がり我が眼に敵の姿を映せ」

 

 そしてその間にシャマルがエリアサーチを行い辺りの量産型、機動外殻、そしてそのサーチの範囲ギリギリに高速で接近してくる存在を感知した。

 

「はやてちゃん! ディアーチェちゃん! ユーリちゃんが来るわ!」

 

「言われずとも分かっておる。我が、分からぬはずがなかろう」

 

 ディアーチェがビル群の地平線の果てを睨むと高速で飛来してくる巨大な鎧装が二人の前に姿を現した。

 

「随分、大っきいなあ。シグナムは確か戦艦とかを落とすための兵装や言うとったな」

 

「ならば、今から我らがやるのは軽い戦艦落としみたいなものか。ふ、笑えるな」

 

「あら、王様まさか怖かったり?」

 

「冗談は寝て言うのだな、小鴉。我は王ぞ? 王が恐るるのは没落のみよ」

 

「でも王様たち実は猫やったんやろ? 王様ってつまり自分を王って思い込んどるただの痛い人…………」

 

「喧しいわ! 我は自らの在り方を王と定めた! 故に我は退かぬし、臣下を守る! それだけだ!」

 

 不満気に鼻を鳴らすと、ディアーチェが手の中で杖をくるりと回して目の前にやってきたユーリを傲岸不遜に見下ろす。

 

「ユーリ、また、救いに来たぞ。貴様をこれ以上泣かせぬために」

 

「夜天の主として夜天の書の一部やったあなたの事見逃せません」

 

Feind Reaktion Ergänzung(敵性反応補足) Es beginnt zu vernichten(殲滅を開始します)

 

 ユーリの目が、赤く光った。

 

「そら行くぞ小鴉! 遅れるなよ!」

 

「王様も気ぃつけて!」

 

「誰に物を聞いているっ!」

 

 銀と黒が、瞬間的に無数の速射弾を展開した。

 

「ドゥームブリンガーッ!」

 

「ブリューナク!」

 

 炸裂した正反対の魔力光が、青空を眩しく染め上げた。

 

 

 

 

 

 

 

 デバイスを通して受け取った指示を聞きながら、シグナムは一人東京の空を突っ切って行く。

 

「一人で戦うのは一体いつぶりか」

 

 彼女が目指すのは今回の事件の首謀者とも言える人物、『フィル・マクスウェル』の元だ。

 

 敵の中では一番脅威が高く、そして戦闘能力も桁違いという事で自分に白羽の矢が立ったらしい。その事にシグナムは不満は抱かない。

 

 ただここ二年の間管理局で仕事をする際には何らかの形で他のヴォルケンリッターか、もしくは局員がいることが多かったせいか、少しだけ新鮮に感じただけだ。

 

 そう考えて、自分の腰に帯びられた剣がデバイスコアをチカチカと光らせているのに気がついて、薄く笑みをこぼした。

 

「そうだな、レヴァンティン、お前がいるから一人ではないか」

 

 わかってるよ、とでも言うように軽く鞘を叩くとレヴァンティンのコアの点滅が止まった。

 

「……急ぐか」

 

 表情を引き締めたシグナムが飛行魔法による加速を行おうとした時、ぞわりと背筋が冷えるのを感じた。

 

 シグナムが瞬時にパンツァーガイストを発動すると、橙色の光弾が発生したバリアに着弾した。

 

「防いだか」

 

 短い言葉。

 

 けれどしっかりとシグナムの耳まで届いた声。

 

「貴様は以前倒した固有型か……」

 

 風に揺れる長い焦げ茶の髪。片手には以前と同じヴァリアントシステムを用いた長剣が。

 

「何の用だ、私は先を急ぐ。貴様に構っている暇はない」

 

「お前が私に用がなくとも私にはある」

 

「……何?」

 

 固有型は長剣の先を眉を寄せるとシグナムへと向ける。

 その瞳には以前になかった感情の揺らぎのようなものが見て取れる。

 

「私は、貴様に一度負けた」

 

「……ああ」

 

「その時に私は自身の中に何かが波打つのを感じた。それが何かを、確かめたい」

 

 だから、と固有型が剣をシグナムに向けたまま口を開く。

 

「私はお前と戦わなければならない。これが何かを、確かめるために」

 

「…………良かろう。しかし、私も主の命を受けた身。先のように長引かせることはない」

 

「構わない。やれるものならやってみるがいい」

 

 シグナムが親指で鍔を押して白刃を覗かせると居合気味にレヴァンティンを構えた。

 

 それに対して固有型は膝を軽く折り曲げて剣を握り直した。

 

「推して参るッ!」

 

「望むところだッ!」

 

 魔力のブーストを擬似的な踏み込みに使って、足場のない空の上でシグナムが加速する。スピードを乗せて引き抜かれたレヴァンティンが瞬間的に炎を纏い、そして固有型を狙う。

 

 だが、それを同じくフォーミュラによる技術で加速をしていた固有型は下から上に逆袈裟に斬りあげて弾いた。

 

 ラベンダーとオレンジの光がぶつかって、あたりに凄まじい衝撃をまき散らした。その威力たるや、付近のビルの窓に衝撃だけで亀裂が走ったほどである。

 

「貴様、前に戦った時よりも格段に強く……!」

 

「以前の固有型一人分の私と思わないことだ。せいぜい、三人相手に戦ってるとでも思え」

 

「────まさか、貴様」

 

 空を飛びながら二人の剣が応酬される。

 

 以前通じていたはずのシグナムの剣が固有型に受け止められ、以前容易く躱せていた攻撃がかわせなくなっていた。

 

「喰ったのか、他の三体を」

 

「食った、とは人聞きが悪い。私はただあの男に他の固有型をバラしたものを託されただけだ」

 

「フィル・マクスウェルか。厄介なことを」

 

 苦い顔でシグナムが剣を振るうが、固有型三体分、量産型にすれば九十体近い素材で作られた今の彼女の身体性能は母体であるイリスのものにすら迫るもの、危なげなくかわしてさらにカウンターすら合わせてみせる。

 

 シグナムが空いた左手で鞘を引き抜くと固有型の剣を逸らしながらレヴァンティンの炎を炸裂させ、視界を遮って一度距離を取った。

 

 がしゃん、とレヴァンティンに古代ベルカ由来のカートリッジが装填されて魔力ブーストを得た。

 

「レヴァンティン!」

 

 《 Bogenform 》

 

 炎での視界が遮られているうちにシグナムが鞘と剣を組み合わせて瞬時に弓へと変形させて矢を生み出すと固有型を狙って番えた。

 

「翔けよ、隼! 」

 

 《 Sturmfalken 》

 

 ごう、と矢に炎が宿り隼へと姿を変えると、一瞬で音の壁を貫く。そして、炎の閃光となった隼は固有型に噛み付かんと迫った。

 

 

 

アクセラレイター

 

 

 

 音速の矢が、超過加速により瞬時に躱されてそして瞬きの間に矢を放って無防備なシグナムの真上に出現する。

 

 加速状態の剣がシグナムの脳天めがけて唐竹に振り下ろされたのを、シグナムがかろうじて弓となったレヴァンティンで受け止める。

 

 あまりの威力にレヴァンティンが悲鳴をあげて、飛行魔法を併用してなお体が吹き飛びそうになる。

 

「言ったはずだ! 以前の私と、思ってくれるなとっ!」

 

 互いの息がかかりそうな至近距離から固有型の顔を睨み返すシグナムの頰に汗が流れる。

 

(気を抜けばやられる……!)

 

 もともと二人の間にあったのは戦闘経験という壁。それは一朝一夕、それこそ半日やそこらで身につくものではない絶体的な壁だ。

 

 けれど、それを固有型は身体能力をさらに引き上げることで埋めようとして、果たしてそれは成功した。

 

 今の固有型には、技術の差を埋めてあまりあるだけの身体性能がある。

 

(これでは、マクスウェルの元に……!)

 

 ビルの谷間に、固有型とシグナムの剣戟の音が絶え間なく響いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 生産プラントを背後にイリスが自分のもとにやってきた少女の姿に、意外そうに声を漏らした。

 

「あなたが来るとは思わなかったな、『フェイト』ちゃん」

 

 長い金色の髪に、赤い瞳、そして黒を基調としたバリアジャケット。片刃の剣であるバルディッシュは時折その刀身から電弧を走らせていた。

 

「なのはちゃんのところ、行かなくて良かったの」

 

「私の代わりに、頼りになる人に行ってもらったので」

 

「つまり、見捨ててきたんだ、お友だちを」

 

「違います。信じて、託したんです」

 

 フェイトはバルディッシュを片手にイリスと向かい合う。それをイリスが至極面倒臭そうに見ると、片手に銃型のヴァリアントウェポンを生み出した。

 

「それで? じゃあフェイトちゃんは私のとこに何しに来たっていうのよ」

 

 イリスが銃口をフェイトに向ける。

 

 しばらくフェイトは黙り込んで、そして口を開いた。

 

「あなたを止めに」

 

「……止める? あなたが、私を?」

 

 ぎり、とイリスが歯を噛み締めて、湧き上がる感情に任せて引き金を引いた。

 

「ふざけないでよっ!」

 

 フォーミュラシステムによるエネルギー変換によって瞬時に光弾が発射され、フェイトへと放たれる。

 

 バチ、と雷光が光った。

 

 《 Sonic move 》

 

「ふざけてなんかいないです。本当に、私はそう思っています」

 

「──ッ、五月蝿い!」

 

 高速移動により瞬時に背後に回り込んだフェイトに向けてイリスはまたもや銃を撃つが感情の乱れた状態では、フェイトに当たるはずもない。

 

「イリスさん、私たちは本当に戦わなきゃいけないんですか? 話し合うんじゃ、だめなんですか?」

 

「話し合うなんて、そんなの、今更よ。ぜんぶ、ぜんぶ終わったことなんだから」

 

 イリスがぎりとまた歯を噛み締めて目の前の自分を心配そうに、どこか悲しそうに見つめる少女を睨んだ。

 

「だから、私と所長のっ!」

 

「────ッ」

 

 イリスが赤いエネルギーに包まれて、わずかな浮力を発生させて体を僅かに空へと浮かべた。

 

邪魔をするなァァァッ!

 

「絶対に止めます! バルディッシュ!」

 

 《 Yes,sir. Sonic move 》

 

 イリスがアクセラレイターにより加速し、それにフェイトが高速移動を発動、アクセルフィンによる慣性維持によりその驚異的なスピードに追従する。

 

「う、ああああああっ!」

 

「はあああああっ!」

 

 赤と金の音の速度を超えた戦闘が、始まった。

 

 

 

 

 

 

 東京湾海上の仮設本部でエイミィは数人のオペレーターと共に現在の戦況を確認していた。

 

「補佐官! 騎士シグナム、マクスウェルの元に辿り着く前に残存固有型との接敵! 即刻の撃破は困難との事!」

 

「スカイツリーの武装隊から連絡が! パイルスマッシャーの砲身が破壊されたらしいです!」

 

「レヴィ、シュテル両名、生産プラント内の中型機動外殻、及び『量産型』との交戦を開始しました!」

 

「はいはいはいはい、わかってますよーー!」

 

 エイミィが素早くキーボードを叩きながら連絡があった部隊一つずつにレティやクロノからの指示を受けて対応する。

 

 こういうことはクロノがいるときはクロノがやるのだが、今回は生産プラントの凍結の方に回っているため今はエイミィが引き受けていた。

 

 忙しく頭と手を動かすエイミィだったが、不意にレーダーの端に高速で仮設本部へと飛来してくる存在を探知した。

 

「しかもこの反応──」

 

 レーダーが探知したのは、魔力、しかもミッドチルダ式の使われた『魔法』とエルトリア式『フォーミュラ』の複合エネルギー。

 

 慌てて窓の外を覗けば、『桜色』の魔力光が瞬いているのが見えた。

 

「うそ、本当に手薄になったタイミングで本部を潰しに来た?!」

 

 遠くに見えるなのはが左手に固定されたレイジングハート・ストリーマの砲身が東京湾上の仮設本部へと向ける。

 

「 Divine buster 」

 

 ストリーマに桜色の光球が集まり、臨界点を迎えたエネルギーは行き場を失い、そして主人のトリガーワードによって一気に放出される。

 

「 Shoot 」

 

 桜色の閃光が船に一直線に向かっていく。

 

 船内のオペレーターたちが思わず机や椅子にしがみついて衝撃に備えるが、いつまでたっても予想したような衝撃が来ることはない。

 

 エイミィが恐る恐る目を開ければ、窓の向こうで白いバリアジャケットが風に揺れるのが見えた。

 

「クロノと予想していた通り、だったな」

 

 銀色の槍でディバインバスターを斬り払ったセルジオが海水に濡れた髪をかきあげて槍を肩に担いだ。

 

「リミエッタ、クロノに連絡入れといてくれ。そっちは頼んだって」

 

『別にいいけど、本当に予想通りだったね……』

 

「まあ頭を叩くってのはセオリーだからな。イリスさんはともかく、マクスウェルがやらない手はないからな」

 

 セルジオが槍を握っていた左手を見下ろす。そこから砲撃が掠って血が滲んでいることを確認する。

 

「非殺傷設定がオフになってる、か。まあ誰がやったのかは大方わかるが……」

 

 ちっと小さく舌を打って、ストリーマの砲身を向けているなのはと向き合った。

 

「よ、高町…………と言ってもお前が聞こえているかはわからないんだが」

 

「ーーー」

 

「どうやらさっきみたいに微妙に意識が残っているって事もなさそうだな」

 

 軽く解析魔法でなのはの事を調べてみて、その技術のわけのわからなさに呆れたように頭をかいて、大きく息をついた。

 

「俺は、一度逃げた。色々理由はあったが、それでもお前の元から逃げたことには変わらない」

 

「ーーー」

 

「その事を許してくれとか、ましてや言い訳をするつもりはないよ。俺は、また間に合わなかったんだ。それは、事実なんだ」

 

 だから、とセルジオが槍を構えて、マルチタスクに待機していた加速魔法に魔力を流し込む。

 

「お前を、助けに来た。だから、俺はここにいる」

 

 それっきりセルジオは何も言わない。そしてまた、なのはも赤い目を光らせるだけで何も言うことはない。

 

「ーーーー」

 

「ーーーー」

 

 遠くで、銀と黒の魔力が弾け、そして何かが崩れるような音が響いた瞬間、二人は全く同時に動き出していた。

 

 

加速機動(ブリッツアクション)ッ!」

 

 

 

Accelerator

 

 

 

 今、それぞれの戦場で、それぞれの戦いが始まろうとしていた。

 

 

 

 

 

 

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