Force Detonater   作:世嗣

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三課流の語り方

 なのはが三課に配属されて一週間。それはつまりセルジオとコンビを組んでそれだけの時間が経ったということだった。

 

 基本的になのははまだ十歳の学生。普段は学校に行き、放課後になって転移ゲートからミッドチルダに来る、というスタンスになっている。

 もちろんやろうと思えば学校を休んで朝から、ということもできるし、なのはも配属された以上は毎日とは言わずとも平日は週に二日、最低でも一日は朝から出勤したいと考えている。

 しかし、その旨を三課の面々に相談したところ。

 

 セルジオにはきっぱりと。

 

「いや、学校には行くべきだ。有事の際ならともかく高町は高町の生活を崩すべきじゃ無い」

 

 クイントは言い聞かせるように。

 

「なのはちゃんの十歳は今しかないんだしお友達との時間を大切にするべきよ」

 

 メガーヌは諭すように。

 

「仕事のことを気にしているのなら大丈夫よ。なのはちゃんはよく頑張ってる。休日と放課後だけでも立派にやってるわ」

 

 ゼストは一言。

 

「心配はない」

 

 と言われてしまった。

 

 本当は新人といえどなのはに仕事がないわけはないのだが、その殆ど内緒でセルジオが片付けてしまっているのでなのはの負担は殆ど無いのだ。

 まあ、その分セルジオに仕事を手伝ってもらえず涙目で書類をまとめるクイントの姿があるのだが今は些事だろう。

 

 では、今高町なのはが何をしているのかと言うと。

 

「つまり、基本的に管理局のフォーメーションに使われる名称は、前衛(フロントアタッカー)遊撃手(ガードウィング)後衛(フルバック)、そしてあと一つは?」

 

「私が引き受けることになる中衛(センターガード)、だよね」

 

「はい正解です」

 

 座学、であった。

 

 会議室の一室を借りてホワイトボードを使って説明をするセルジオと、メモを取りながら聞くなのは。

 

 どちらも真剣そのもので、今はコンビ、というより家庭教師と生徒といった雰囲気が出ている。

 

 一通りなのはへの講義を終えるとふう、とセルジオが息をついた。

 

「高町は本当に優秀だな。流石、訓練校を半年で卒業しただけはある」

 

「にゃはは、先生が優秀だったんです」

 

 そして照れたように笑った。

 

 なのはは陸士訓練校と呼ばれる管理局附属の学校で半年の間訓練を受けている。そこさえ卒業していれば局員はある程度戦力として使えるのだが、いかんせんなのははその期間が短い。それは優秀であることの証左なのだが、その分講義の時間が短いためこうした基本知識が身についているか心配だったのだが、どうやら問題ないようだった。

 

「取り敢えずここまで確認できれば、高町を前線に出すのに心配はないんだけど、一応互いの使用魔法くらいは確認しておこうか」

 

 そう言ってセルジオはペンを置く。

 

「俺の魔法適性はミッドチルダ式。ベルカ式の適性はゼロだ。ああ、後魔力保有量はB+。高町みたいなAAAなんて夢のまた夢だな」

 

 リンカーコアの性能指し示す魔力保有量。これが多ければ多いほど豊潤な魔力を持ち、レベルの高い魔法などが使えたりする。一概にこの数値が高ければいいというものではないが、高いに越したことはないものである。

 

 管理局員の魔力保有量の平均はBという発表があっているため、セルジオは平均の範囲内と言えた。

 

「基本的には槍型のアームドデバイスを使って戦うことがメインかな。収束砲撃もそこそこ得意だ。遠距離をやるときは威力を絞った砲撃を使い分ける感じだ」

 

 ただ、と指を一本立ててみせる。

 

「俺は魔力の固形化が死ぬほど苦手でな。射撃、シールド、バインドといった類が一切できない。魔力刃は作れるが……それだけだ」

 

「し、シールドも? じゃあどうやってフロントアタッカーの仕事をこなしてるんですか? 射撃魔法とか撃たれたりしたら」

 

「あー、そこは見切りだな。撃たれる方向を予測、槍で斬りはらうか受け流すって感じだな」

 

「そ、そんなことできるんですか……」

 

「そこは慣れというやつだ。無駄にクイントさんや隊長にしごかれてないさ」

 

 これは見てもらわないとわからないかな、といって肩をすくめてみせるセルジオ。

 

 なのはは彼が槍を振るうのを遠目にしか見たことがないため、はっきりとは言えないがずいぶん鮮やかな腕前だったような気もしていた。

 フェイトといいセルジオといいミッドチルダ式には、ベルカ式と対等に殴り合えそうな魔導師が多すぎるような気がしていた。

 

「なのはは砲撃と飛行と射撃とシールド系が得意です。加速魔法も使えない事も無いですけど、レイジングハートの助けがないならあんまり使いたくないかもですね」

 

「レイジングハート?」

 

「そういえば紹介してませんでした。いま紹介しますね」

 

 いうなり、なのはがぐいっと制服の襟首を引っ張ってその中に手を突っ込んだ。

 思わずセルジオがぎょっとして慌てて目をそらした。六つも年下の相手に何かを感じたりすることはないが、それでもびっくりすることはびっくりするのだ。

 

 セルジオの動揺など気づいた様子もなくなのはが胸元から真っ赤な宝石の様なペンダントを取り出した。

 

「ああ、デバイスのことか」

 

「はい。私の魔法の先生から貰ったものなんです。レイジングハート、起きて」

 

 なのはが手の中の赤い宝石──レイジングハートに声をかけると、電子音声を流しながら桜色の光を明滅させる。

 

『Hello,my master. How goes it?』

 

「うん、大丈夫だよ」

 

「インテリジェント……もしかしてこの前使ってたあの杖型のやつか?」

 

「はいっ。今は一応、射撃特化、砲撃特化、フルドライブの三形態を使い分けて戦ってる感じです」

 

「なるほど。なら俺たちが一緒に戦うときは完璧に高町に後衛を任せた方が良さそうだ」

 

「そうですね……あ、でもフルドライブの時はA.C.Sを使ったりできますよ!」

 

「A.C.S? あぁ、収束加速砲撃機構(Accelerate Charge System)だな。結構物騒な魔法使うんだな、高町は。悪魔云々もあながち嘘じゃないってことか」

 

「あ、悪魔っ!?」

 

 最後の方は呟くような言葉だったのだがどうやらなのはには聞こえてしまったようで、目を見開いて詰め寄った。

 確かにヴィータには悪魔めと言われたことのあるなのはだが、まだ幼い女の子を捕まえて悪魔などと看過できるものではなかった。

 

「今のどういうことですかっ」

 

「どうたって、そういう噂が流れてる、としかな……」

 

「た、例えばどんな噂が流れてるんですか?」

 

「んー、色々あるが『自分は悪魔だと自称した』とか、『闇の書と市街地を滅ぼしながら殴り合った』とか、『高町なのはの幼い姿は仮の姿で本当は180の巨漢だ』とか、『次元航行船を砲撃で撃ち落とした』とか、『アルカンシェルと砲撃で拮抗した』とか……」

 

「うーそーでーすー! ぜーーんぶ、嘘ですっ!」

 

「『犯罪者に向けてバインドで動きを封じてトラウマレベルの収束砲撃を撃つ砲撃魔』とかもあったけど」

 

「……それも嘘です」

 

 へぇ、最後の言葉にだけほんの一瞬頰がひくついたのをセルジオが鍛え上げた観察眼で察知する。

 

「そーなのか、レイジングハートさん?」

 

Most are completely lies(そのほとんどは嘘です)

 

「レイジングハート……」

 

but only the last word is true(ですが最後の言葉だけは本当ですね)

 

「レイジングハートぉ!」

 

 一瞬感動したようにレイジングハートの名を呼んだなのはだったが、愛機の意図せぬ裏切りに涙声で叫んだ。

 

「へー、レイジングハートさん、それってなんか証拠とかあったりする?」

 

『There is evidence here……』

 

「わーわー、もういいからー、レイジングハートやめてー!」

 

「まーまー、いいじゃないか高町。これもコンビの仲を深めるためだよ、うん」

 

「こんな形で深まる絆なんていらないですぅっ」

 

 なのはからレイジングハートをかっさらったセルジオになのはがしがみついて必死に取り返そうとする。が、悲しいかな、身長140足らずのなのはではどんなに頑張ってもセルジオの手には届きそうにもなかった。

 

「返してください〜!」

 

「はっはっは、魔法なしで取り返してみるといい。それも楽しいんじゃないか」

 

「もー!」

 

(あれ、これ完璧に事案じゃないか?)

 

 幼女をしがみつかせて笑う十六歳男子。往来でやれば取り敢えず局員を呼ばれる光景だろう。

 よし、そろそろやめよう、そうセルジオが心に決めた瞬間会議室の扉が大きく開け放たれた。

 

「何やってるの、君たち」

 

(あ、死んだ)

 

 現れたのはクイント・ナカジマ。ストライクアーツの有段者の、三課きっての実力者でセルジオにいつも稽古をつけてくれる方である。

 

「まあよくわからないけど」

 

 慌ててセルジオがなのはを地面におろして距離を取らせた瞬間、クイントが懐へと潜り込んでくる。

 

「お仕置きね」

 

 くるり、とセルジオの視界が回転し綺麗に背中から地面に叩きつけられる。

 

「ぐ、ふぅ」

 

 鮮やかに投げられたセルジオはついでとばかりに込められていた魔力付与効果により、がくり、と気を失った。

 

「よし、いい仕事したー。で、なのはちゃんセルジオくんと何話してたの?」

 

 ふー、とクイントは額を制服の袖で拭うと足元のセルジオには目もくれず、朗らかな笑顔をなのはに向けた。

 

「ええと、その互いの使用魔法の確認と、フォーメーションの確認ですけど……アウディさんの事いいんですか?」

 

「セルジオくん? ああ、大丈夫よ、三課ではよくある事だし」

 

 それはどういう意味のよくあるなのか。

 セルジオがよく気絶しているのか、三課の局員がよく気絶しているのか、はたまたクイントがよく人を気絶させるのか、その答えはわからない。なのはには聞く勇気はなかった。

 

 クイントが腕を組んでうーん、と唸る。

 

「それでこうして会議室で長々とお話ししてたわけね……。セルジオくんもまだわかってないわねぇ」

 

「えっと、どういう意味ですか?」

 

「なのはちゃん、覚えておくといいわ。私たちみたいな武装隊は、お話より体に叩き込んだ方が早かったりするのよ」

 

 持論だけどね、と最後に悪戯っぽく笑うと、クイントは足元で転がっているセルジオをゆすりだした。

 

「ちょっとー、そろそろ起きてるでしょーがー」

 

「あ、父……さん……?」

 

「こらこら、寝ぼけてないでしゃんとしなさいな」

 

「あ、ああクイントさんですか。あれ、俺はなんでこんなとこで?」

 

「さあね? 私となのはちゃんが来た時はもう寝てたわよ」

 

「あれ、そうですか、それは申し訳ないことを……」

 

 ナチュラルに嘘をついていくクイントに苦笑いしか出ないなのは。

 

「そんなことより、セルジオくん今なのはちゃんと出来ることの確認してるんでしょ?」

 

「ええ、まあはい」

 

「じゃあ模擬戦して来なさい。二人で」

 

「はい? 誰と、誰がですか?」

 

「セルジオくんと、なのはちゃんが」

 

「はぁ?」とセルジオの端正な眉が歪んで素っ頓狂な声が出てくるが、クイントは気にした様子もなくニッコリと笑った。

 

「全力全開の模擬戦、やってきなさい?」

 

 

 

 

 

 

 

◆◇◆

 

 

 

 

 場所は変わって三課内の訓練室。

 

「なんかすまないな高町」

 

「いえいえ、大丈夫です。なのは、魔法使うの好きですから」

 

「そう言ってくれると助かるよ」

 

 なのはもセルジオもすでにセットアップして、その服装はバリアジャケットへと変わっている。

 

 なのはのバリアジャケットは白をメインカラーに所々青のラインと赤のアクセントが入っており、胸の大きなリボンが目を引いた。

 

 対する、セルジオのバリアジャケットは、白いコートに中には黒いスーツ。腕には騎士がするようなガントレットが装着されている。三課のメンバーが見れば、セルジオのバリアジャケットを、『ゼストの色を反転させたようなデザインのもの』と評するだろう。

 

 向かい合う二人の間でクイントが審判でもするかのように手を広げて立っている。

 

「じゃあルール確認ね。基本的には有効打が先に入った方が勝ち。使っちゃいけない魔法もなし。あ、でも流石に怪我しそうだったら止めるわよ」

 

「わかりました」

 

「了解です」

 

「じゃあ、試合──」

 

 セルジオが槍を両手で軽く握って、軽く踵をあげる。

 

 なのはがレイジングハートを左手で握って、先端をセルジオの方へと向けた。

 

「──開始ッ!」

 

「アクセルシューター!」

 

 クイントの合図があった瞬間になのはが空へと飛び、それと並行して十五発の魔力弾を発射する。

 セルジオはそれをサイドステップでかわして、空のなのはを追いかけようとして、視界の端で避けたはずの魔力弾が直角に曲がるのを見た。

 

(まさか、これ全部誘導弾か)

 

 手の中の槍に魔力を流し込み出力を増加させると、直撃コースの物だけ斬りはらうべく槍を振るった。

 十五発のうち四発を一太刀で消滅させると、今度は背後から迫ってきた三発の誘導弾を槍の石突きでそらす。

 

「本当に大したもんだよ」

 

 そして、あらかじめマルチタスクを分けて演算しておいた飛行魔法を発動させて宙を舞う。それに追随するように誘導弾がセルジオを追いかけるが、あえてそれを無視してなのはの方へと視線向ける。

 

 セルジオがなのはの方を向いた瞬間、視界を桜色の光が染め上げた。

 

「ディバイン──」

 

『──Buster』

 

 いつか見た桜色の流星が空を翔ける。

 

「ショートバスター」

 

 が、あらかじめ発動していた解析魔法でそれを感じ取っていたセルジオは、特に焦ることなく槍の先端からディバインバスターを下からかちあげるように発射、軌道を僅かにずらす。

 

 セルジオの白い砲撃に、なのはの桜色の砲撃がそれて背後の誘導弾のうち半数をまとめて消しとばした。

 

「嘘ぉっ?」

 

「俺じゃあ砲撃の撃ち合いは出来ないが、頭を使えばズラすくらいは出来る」

 

「ならっ! アクセル!」

 

 なのはが叫ぶともう残り半分ほどになった誘導弾が一気に加速し、セルジオに殺到する。

 

「遅い。ブリッツアクション」

 

 が、それを行うには一手遅かった。あらかじめ、飛行魔法とは更に別のマルチタスクで待機させていた加速機動を使用して、セルジオの体がなのはへと肉薄していく。

 

 なのはが驚いたように目を見開いたが、それも一瞬のこと。レイジングハートの助けを借りて360度を覆うようにシールドを張った。

 

 なのはの規格外の魔力を使ったその障壁は見るからに堅固そうで、セルジオの槍の一振りでは砕けそうにもない。

 

(なら、弱いところを探せばいい)

 

解析(アナライズ)ーーー見つけた」

 

 一瞬、セルジオの瞳が薄い白色に染まり、槍が大きく後ろへ大きく引きしぼられる。

 

「バリアブレイク」

 

 また更に別のマルチタスクで待機させていた障壁破壊の魔法が青白いスパークを弾かせながら槍の先端へと宿る。

 

(私の障壁はそう簡単には壊れない! 一瞬の時間さえあればまた砲撃を──)

 

 なのはが自身の張ったシールドの強度を信じてレイジングハートを砲撃重視のバスターモードへと変形、その砲身へと魔力を充填して──視界からセルジオが消失する。

 

「バリア、ブレイクッ!」

 

 次に声が聞こえたのは背後からだった。何が何だかわからないなのはが、慌てたように背後に向き直って、目の前に槍が突きつけられた。

 

「勝負あり、だな」

 

「負けまし、た……?」

 

 槍の向こうには、不敵な笑みを浮かべた淡い金髪に翠の瞳の少年──セルジオがいる。ぐうの音も出ないほどのなのはの敗北だった。

 

「はーい、そこまでー」

 

 下の方からクイントの間の抜けたような声が聞こえてくる。

 

「そら、降りるぞ」

 

 セルジオは突きつけていた槍を手の中でくるりと回すと待機状態である銀色のカードに戻すとさっさと高度を落としていく。

 なのはは慌ててその後を追いかける。

 

 二人が地上で待っていたクイントの前で着地した。

 

「さて、セルジオくん勝利おめでとう。先輩の威厳は保てたわね」

 

「からかうのはやめてください、クイントさん。高町が最後に何が起きたかわからない、って感じの表情浮かべてますよ」

 

「それもそうね。ねえ、なのはちゃん。最後に何が起こったか、わかる?」

 

「え、ええと……」

 

 なのはがクイントの質問に顔をしかめて必死に思考を巡らせていく。

 

(アウディさんがバリアブレイクを発動させたところまでは見えてたから、その直後に何かが……)

 

 何度も自問自答を繰り返しながら記憶の本棚の中でなにか関係がありそうな事柄を片っ端から確かめていく。

 

 その中で、初めてセルジオと出会った日のことが思い返される。

 

 かちり、となのはの中で何かがハマる音がした。

 

「もしかして短距離転移(ショートシフト)……?」

 

 そう言うとクイントが大きく頷き、隣ではセルジオがへぇと感心するように声を漏らした。

 

「多分話した事はなかったはずだけど、よくわかったな」

 

「初めて会った日に使ってたので、もしかしたらって思って」

 

「よく覚えてたな、大したもんだ」

 

「で、でも、それだけじゃ説明つかないです! アウディさん、あんなにポンポン魔法出してて! 展開速度が速すぎると思います!」

 

「ああ、それ? 並列思考(マルチタスク)だよ、マルチタスク。高町も使ってるだろう?」

 

「確かに使ってますけど……、マルチタスクをどうしたんですか?」

 

「えっとな、あらかじめマルチタスクを()()()()()作っておいてそれぞれに魔法の演算を待機させとくんだ。すると、使う時に座標を代入するだけでさくっと発動できる」

 

「じゅっ────」

 

 何でもないように言ったセルジオの言葉になのはが言葉を失う。

 

 分割並列思考(マルチタスク)

 

 それは魔導師ならば皆標準的に持っている能力である。普通なら一つしか考えれないところを、特殊な魔法式を代用する事で、思考に自由を持たせ同時に複数の事を思考できるようにする事だ。

 

 なのはももちろんその技能を用いて、自身の指の本数よりも多い誘導弾を操作するのだが、それでもマルチタスクの数は一つだけだ。

 

 因みに、バインドを多用する若き秀才執務官クロノ・ハラオウン、彼でもマルチタスクの数は大体五つがせいぜいである。

 それ以上増やせば思考がまとまらず、頭痛により一歩も動けなくなってしまうという。

 

「アウディさんって物凄い人ですね……」

 

「んー、なんか不思議とマルチタスクは人より多く操れてさ」

 

 ほわー、となのはが少年がトランペットを見るような熱っぽい視線をセルジオに向ける。

 しかし、それをバッサリ切り捨てる人が一人。

 

「いや、なのはちゃん騙されちゃダメよ。セルジオくんはいつもああいう戦い方をするって訳じゃないわよ」

 

「え?」

 

 呆れたような表情のクイント。

 

「なのはちゃん、この子の魔力保有量どんくらいかきいた?」

 

「えと、確かB+?」

 

「じゃああんな無茶苦茶な魔力運用しててこの子の中にはどのくらい魔力が残ってるでしょーか?」

 

「うーん、七割、くらいですか?」

 

「はい、正解をセルジオくん」

 

「四割」

 

「嘘ぉっ?」

 

 クイントから頭をたむたむと叩かれながらセルジオが申告すると、なのはが大きく声を上げる。心なしか、そのツインテールをぴょこぴょこと跳ねて、その心の動きを伝えているようにも見える。

 

 そのなのはの様子を見て、セルジオが自嘲気味に空を見上げる。

 

「高町、実は俺ああいう戦い方したら速攻で魔力不足になるんだよ。今回は模擬戦だから短期決着で良かったけどさ」

 

 そう言って自身の手の中を見つめるセルジオ。翠の瞳はどこか悔しそうな色を宿していたが、すぐにそれを霧散させて、なのはに向けて柔らかく笑ってみせる。

 

「だから、これから任務を受けるときはコンビである高町の力が必要だ」

 

「なのはの……」

 

「力、貸してくれるか?」

 

「勿論ですっ。なのはの魔法は、人を助けるための素敵な力ですから」

 

 がんばります、とでも言うかのようにポーズを取るなのはに、なんとなくセルジオが頭を優しく撫でた。

 

 なのはは一瞬顔を赤くしたが、やがて照れたようにえへへ、と笑った。

 

「ねえ、セルジオくん、仲良くしてるところ悪いんだけれど、さっきのってもしかして」

 

「クイントさんには隠し事が出来ませんね……」

 

「じゃあこの前の隊長が言ってた案件ね?」

 

「はい、少し危険ですが高町なら信じて背中を預けられます」

 

「あの、なんの話ですか?」

 

 なのはがセルジオに撫でられながら、クイントとセルジオの二人を見上げて首をかしげる。

 

「……高町、今週の土曜は何か予定があるか?」

 

「特に無いですけど、それがどうかしたんですか?」

 

 セルジオがああ、と頷く。

 

「その日、ある違法研究所へ行こうと思う」

 

 

 

 ────俺たちの、初任務だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 







stsなのはにすら戦いたく無い、それ以前のなのは、フェイトに負けることはないと言う公式設定を持つクロノくんと大体互角なセルジオくんです。

個人的になのはさんは本番で爆発的に強くなるタイプだと思っているので、模擬戦ではこんな感じ。

というかまだなのはさん十歳だし。ミッドの蛮族世界で犯罪者を取り締まってきた局員とは経験値が違います。
今回なのはさんが負けちゃったのはセルジオが強いというより、セルジオの手札がわかってなかったというところが大きいです。
純魔導師タイプのなのははある意味倒し方のセオリーだけはあるわけです。それが実行できるかは置いといて。

次回違法研究所へピクニック。
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