ナレーション「第一管理世界ミッドチルダ。魔法世界の中心とも言えるこの世界では年々犯罪率が増加している。危険はいつも我々に迫っている」
テロによって倒壊する建物。暴走するリニアレール。空を飛び回る犯罪者に、それを不安そうに見上げる市民の映像。
爆発が起こる中次々に魔導師から救助される子ども。そして、最後に映し出される管理局地上本部。
ナレーション「だがそうした恐るべき犯罪に立ち向かう人々がいる。時に迅速に、時に大胆に、罪なき人々を守るプロフェッショナル集団。それこそが航空魔導隊三課、通称『三課』である!」
番組のハイライトシーンが次々に。
にこやかに「おはようございます」と挨拶をする高町なのは。
真剣な表情で魔法を用いての激しい模擬戦を行う三課の局員たち。
デバイスのメンテナンスをして、軽くシャドーをするクイント・ナカジマ。
真面目な表情で捜査資料を睨むセルジオ・アウディ。
「つまり三課というのは地上本部の精鋭部隊の一つなんです」と硬い表情で説明をするメガーヌ・アルピーノ。
「航空魔導隊三課、出動!」と叫ぶゼスト・グランガイツ。
ナレーション「取材をする中事件が発生! 現場へと急行する三課に同行する取材班。そして引き起こる緊急事態! それに対して三課はどう対応するのか!」
ビルに立て籠もる違法魔導師。あたりを飛び回る円筒状の十体あまりの機械兵。
機械兵の放った弾丸が辺りへ雨あられの如く降り注ぐ。砕け散る道路のアスファルト。流れ弾が市民へと飛んでいく。
「急いで避難を!」との叫び声が響く中突如カメラがあらぬ方向を映し出す。誰かに押し倒されたのだ。「何やってるんだ! 死にたいのか!」と叫ぶセルジオ・アウディ。
次の瞬間、崩落するビル、そして聞こえる子供の甲高い悲鳴。
疾走するセルジオのバイクと、その背後でレイジングハートを構えるなのは。
ナレーション「今日の『突入サーズデイ』は、日夜卑劣な犯罪者と戦う人々への密着取材を敢行。普段明かされることの無い彼らの日常と、その真実へと迫る」
一際派手なサウンドとエフェクトに合わせてテロップが出現する。
「密着! 航空魔導隊三課24時!」
地上本部三課隊舎。小走りで出勤するなのは。少し鈍臭そうに走る彼女に動きに合わせて栗色の髪が揺れる。
ナレーション「某日、一人の少女が三課に出勤してきました。高町なのは空曹長、十一歳。管理外世界での事件解決に貢献後、二年前に三課に配属されました。まだ幼いながらもその実力はエースにも劣りません」
「おはようございます」
三課のオフィスに入ってにこやかに挨拶をするなのは。まだ人のまばらなオフィスからいくつか挨拶が帰ってくる。
ナレーション「彼女は三課の『アウディ分隊』に所属する魔導師。緊急時には分隊長である彼女のコンビとともに出動することも多いそう。その為に日夜努力を惜しみません」
シュミレータールームで模擬戦をするなのは。その相手には、クイントや三課の他の局員が当たる。
ナレーション「今日の高町空曹長は午前は内勤。報告書を仕上げ終わった後には、自主的に過去の事件を調べたりなどの、作業を行います」
分厚いファイルを難しい顔でめくるなのは。
ナレーション「事件が起こらなくても暇などではありません。こうした地道な努力が、まだ若い自分にとって必要なことだと彼女は知っているのです。それは時に一日十時間以上にもなることもあるそうです」
「いえ、流石に十時間もやらせて無いですよ」
「あ、そうなんですか」
こういう風に撮ります、とディレクターに言われた事を慌てた様にセルジオが否定した。
「局員と言えど、高町はまだ幼いですから。私が引き受けたり、させるとしても負担になりすぎない様にさせています」
「そうなんですか?」
「は、はい。最近は任せてもらえてますけど、流石にそこまで書類仕事をしてたりは……」
「なら空いた時間とかは何してるんですか?」
「模擬戦をしたり、魔法理論の本とか読んだり、お茶とか飲んだり、後は他の局員の人とお話ししたりでしょうか?」
「それは、あまり良く無いですね」
なのはの言葉に、中年のディレクターが眉を寄せた。割と優しげな顔をしている為怖いわけでは無いのだが、どうやら少しばかり困ってるらしい。
「ちょっとそれは頂けないです。模擬戦はともかく、他のは税金使って遊んでるのかってクレーム来ちゃいますよ。ただでさえ、最近の地上本部は支持率が低下してるのに」
「ああ、今回のはイメージアップを図る為、でしたもんね」
「はい。なので、ここらはばしーっと、こんなに可愛い子が頑張ってるんだぞ、という事を示していきたいんです」
「でも嘘はちょっと……」
「高町さん、あなたは今まで一度も過去のデータを確認したことがありませんか? そんなことないでしょう? ならそれはバッチリ真実です。嘘にはなりません」
「はあ」
釈然としない様子で頷くなのは。
「(セルジオくん、これって私たちの本当の姿を映すんだよね)」
「(一応、コンセプトはそうだな)」
「(ならちゃんと本当の姿を映したほうがいいと思うの)」
「(まあ、それはそうなんだが……、ここらはぐっと抑えてくれ。全くの嘘でも無いんだし)」
「(セルジオくんがいうなら、わかった)」
いかにも渋々といった様子で頷くなのはにセルジオが苦笑いで頭をかいた。
ディレクターの言うことは間違っていない。真実を映す、という点ではなのはの行為に一つも嘘はない。かといって映した事が100パーセントの真実か、と問われると首を傾げざるを得ない。
でも、そういった誇張が社会では、特にテレビなどでは必要だという事が、情報収集や他の部隊との対応に当たってきたセルジオはなくとなく理解している。
だが、真面目ななのははイマイチ納得いかない事であるらしかった。
「あー、じゃあそこら辺でモニタを見て、こう、シリアスな顔頼みます」
「は、はい」
シリアスな顔、と言われてなんとか表情を作るが、そんな上手くいくわけもなく、何か気に入らないことでもあったかのような不機嫌そうなしかめっ面になってしまう。
「あ、そうだ、アウディさんも背後から何か指導してる感じでお願いします」
「私、でしょうか?」
「はい。さっき言ってたじゃないですか、指導もするって」
「いえ、ですが何故今?」
「だって、アウディさん顔がいいですから。高町さんと並べると画面が映えます!」
「…………そうですか」
ディレクターの言葉に微妙な気持ちになりつつデスクでモニタを見ているなのはの背後に立った。
「それじゃあカメラに入りませんって。もっと寄って寄って」
「あ、あーと、その、高町」
「う、うん、いいよ」
「すまん」
セルジオが腰を折って椅子に座っているなのはの真横まで顔を持ってくる。すると、肩が少しなのはの髪に触れてしまったのか、二つに結んだ栗色の髪が揺れて、ふわりと匂いを立ち上らせた。
(あ、やばい。なんかいい匂いする。鼓動もなんか早いぞ)
甘い、けれど嫌味のない花の様なにおいがくすぐってきて、セルジオの胸が少し跳ねる。
(落ち着け。相手はカメラだ。誰が見るかわからない。気持ちを入れ替えろ)
原因不明の動機に、顔に次第に熱が集まる様な感覚がする。それをなんとか顔に出さない様にしながら、モニタを睨む事で気をそらす。
「あ、あの、それじゃあ使えないんで、せめて何か話してくれません?」
「え、あ、はい。ええと、高町、ここはな」
「ひゃ、はい」
動揺をマルチタスクに押し込めて過去の記憶を引っ張り出して、トレース。いつかのように何食わぬ顔で説明を始める。
いつもより僅かに赤いなのはの顔を無視して。
(くそ、なんだってこんな事……!)
セルジオが心の中で毒づいて、思わず出そうになるため息を押しとどめた。
少しばかり時間は巻き戻る。
その日、朝のミーティングの後、ゼストに三課のメンバー全員が集められていた。
「話ってなんですか、ゼストさん」
なんだなんだと首をかしげるセルジオたちにゼストは低く唸って、口を開いた。
「今度三課にテレビが来る。準備しろ」
「てれび、ですか?」
「そうだ。今度の土曜にな」
「随分急な話ですね。時々あるインタビュー系ですか?」
「いや今回は密着だそうだ。二十四時間」
「はーい、隊長質問です」
「なんだナカジマ」
「密着系いくつかありますけど放送局ってどこですか?」
「MHKだ」
「なん……だと……?」
そのビッグネームにざわざわと三課の面子が沸き立つ。
「ミッドチルダ放送局……MHK俺のボケたばっちゃんも見てるデカイとこだぞ……」
「ああ、イエスマムと一緒はウチのガキも見てるぞ……」
「それに伝説のおとうさんはべっきょを作ったところだ。あの筋金入りのやべーやつ」
「そうと決まればこうしちゃおけねえ! さっさと準備するぞ!」
「準備って何を」
「馬鹿野郎パイ投げ祭り用のパイに決まってるだろ! やってきたプロデューサーとかをパイの海に沈めるんだよ!」
「サイコパス発言やめろ」
MHK。ミッドチルダ放送局。
「イエスマムといっしょ」「おはよう朝DEATH」などの他の世界に類を見ないオリジナリティあふれる番組を数多く持つ有名放送局の一つだ。それが三課に来るのだという。
思いがけぬ話にざわつく三課の面々を占めるようにメガーヌが手を打ち鳴らす。
「ほらほら、バカなこと言ってないでひとまずは片付けよ。土曜まで時間ないわよ」
「へいへーい。あ、メガーヌさん新しく作ったくす玉バズーカどうする?」
「もちろん捨てなさい」
メガーヌの指示でぼちぼち動き始める仲間たちの中でセルジオ一人だけ微妙な顔で立っていた。
「これって何で俺たちにお鉢が回ってきたんすかね」
「おそらく地上本部のイメージアップの一環だろう。最近の支持率低下は否めないからな」
「ああ、だから、高町がいるウチに投げた、と。ははあ、考え方は間違ってないですが」
「ああ、間違ってないが…………」
二人が机の中の質量兵器スレスレのグッズを見つかってメガーヌに怒られているメガネや、そこから逃げるようにものを隠し始める他の人員に目を向けて、そして頭を抱えた。
「「ウチで本当に大丈夫だろうか…………?」」
たぶん、一筋縄じゃいかない。
時刻は昼休み。この時ばかりはディレクターもカメラマンの姿もない。今はなのはと連れ立ってゼストのインタビューに行っているのだ。
「だ、はぁーー」
ごん、とセルジオが自分のデスクに額をつけた。
(くそう、あんなに予定コロコロ変えられたらやってられねえぞ……)
心の中でボヤくセルジオ。すると、オフィスの扉が開いて露骨に疲れた様子のメガーヌが入ってきた。
「あーーー、疲れた」
そして、彼女もまた自身のデスクに額をぶつけて深い嘆息を漏らした。
「フォードーー、冷蔵庫からお茶とって頂戴」
「ーーー」
「あ、俺にもくれるのか? ありがとう」
「ーーー」
メガーヌの召喚獣であるフォードからお茶が渡される。その黒い甲殻をてらてらと光らせるだけで特に何も言わないが、礼を言われると少しだけ嬉しそうに羽を震わせた。
二人が自棄酒を煽るようにペットボトルを傾けていると、先ほどメガーヌの入ってきた扉が勢いよく開け放たれた。
「やっほー、お昼食べましょー!」
「……元気ですね、クイントさん」
「まあいつもと変わらないしねー。あ、フォード、私にもお茶ちょうだーい」
「ちょっと私の召喚獣をパシリにしないで欲しいんだけど」
「ーーー」
「まーまー、フォードは良いって言ってるしさ」
「本当にフォードがそう言ってるあたり、ほんとに貴女は……」
メガーヌが頭を軽く押さえる。
「それで? 何で二人はそんなに疲れてるの?」
「……わざわざ言う必要ある?」
「わかってるわよ、テレビ屋さんでしょ?」
「正解」
はあ、とメガーヌがまた嘆息。
「私、さっきまで視聴者向けに、三課の成り立ちからその役目まで説明してたんだけど、なんか上手く話せなくて、というか会話のキャッチボールに疲れたの」
「どういうこと?」
「ああ、それ俺見てたからわかりますよ。なんかディレクターに会話誘導されてる感じでしたよね」
「そう、そうなのよ。言いたいことも伝えたいことも伝わってるのに、少しずつ言葉が変えられていくこの感じ……」
例えば、メガーヌが三課の成り立ちを法律や、過去の事例などを含めながらレジアスの後見から作られた、素早い対応を旨とした部隊であることを説明する。
ディレクターはそれを聞いて、「これはこういう事ですか?」と聞く。それに対しメガーヌは「いえこういう事です」と訂正する。すると「ならこう言い方に変えても良いですか?」と提案される。それに渋々頷くというようなめんどくさいことを一時間はやっていたのだ。疲れるなという方が無理がある。
「最終的には、『つまり三課というのは地上本部の精鋭部隊の一つなんです』とか死ぬほど不本意な事言わされたわよ……」
本当は「三課は地上本部の精鋭部隊なんです」だったのだが、言い方を少し変えたのはメガーヌの少しの抵抗だったりする。
「俺の方は今日の全体の調整を任されてるので、あの人たちが動き回るたびにその対応に回らなきゃいけなくて……正直きついです」
「二人ともお疲れ様、としか言えないわね」
「なので昼休みは最大限休みます。この時ばかりはカメラが回ることもないでしょうし」
「そうね。ここにはテレビ屋さんたちに面白いものなんて……」
「すみませーん、カメラ回して良いですかー」
扉が開いてカメラが入ってきた時の三人の対応は迅速だった。メガーヌはフォードの使役を終了して居住まいを正し、クイントはいつもの明朗な笑顔を浮かべ、セルジオは余所行き用の表情を貼り付ける。
「はい、もちろん良いですけど、特に面白いものなんて有りませんよ」
「良いんです良いんです。捨てカットを撮りに来ただけなんで普通にしてくだされば」
「捨てカット、ですか」
「ああ、所謂映像と映像の繋ぎのカットですね。尺とかに困ったら使ったりするんですよ」
たははーと笑うディレクターにセルジオは曖昧な笑顔で応じておく。カメラマンが多くの局員が昼食を食べに行っているせいで疎らになったオフィスを撮影する。その横で、ディレクターが腕を組んだ。
「にしても、案外平和なんですね。もっと四六時中事件に関わってるものかと」
「平時はこんなものですよ。最近のミッドは犯罪率こそ増加してますが、それに管理局が対応できていないというわけではないです」
「ははあ、つまり緊急性の高い事件の際なんかじゃないと、三課が緊急出動する事はない、と」
「そんなところですね」
「なるほどー、なら緊急の事件とか起こりませんかね。このままじゃ番組の盛り上がりにかけそうだなー、なんちゃって。たははー」
「あはは」
一応笑っておいたがセルジオの目は笑っていない。「これ以上の予定変更など勘弁してくれ」というのが正直なところだった。
そうこうしていると、ぼちぼち昼食を終えた局員がオフィスに帰ってき始める。
「よーう、セルジオー。ん、カメラ?」
「なんでも繋ぎの映像を撮りたいらしくて、しばらくここにいるそうです」
「なん……だと……? やべえ、早くあいつら止めねえと」
「へ?」
「忘れたのか、今日の昼休みはパイ投げ祭りの予定だったんだぞ!」
「知るかそんな事! なんでわざわざ今日やるんだよ!」
「馬鹿、今日やるからスリリングで楽しいんだろうが」
「あんた達のこと尊敬してるけどその思考回路はマジで理解できねえよ!」
小声で怒鳴るという器用なことをやっていると、どたどたと数人の騒がしい足音が聞こえ始める。急いで念話を送ろうとするが、もう遅い。
「ハッピィィィィィ──」
「(クイントさんメガーヌさん!)」
「クロスシフトD!」
扉が開かれてパイを片手に入ろうてしていた局員を襲うセルジオ達のコンビネーション。
投げられそうになったパイはセルジオの極小魔力砲撃に撃ち落とされ、中に入ろうとしていた数人の局員はクイントの蹴りで吹き飛び、最後はメガーヌの熟達した召喚魔法で三課の屋上に転移させられた。
その所要時間実に三秒。カメラマンとディレクターに振り向く暇さえ与えなかった。
なんでこんな事に完璧なコンビネーションを見せているのか。
「あの、今何か変な声が」
「幻影魔法です」
「でも」
「幻影魔法です(鉄の意志)」
「そ、そうですか」
流石に声は聞こえたのかディレクターは首を傾げていたがセルジオの笑顔に気圧されたのか最終的には納得してくれた。
(もうこんなのは勘弁だぞ……!)
なんで地上本部の評判をあげようとする番組で醜態を晒されそうになっているのだ。
思わずセルジオが隠す事なく嘆息を漏らした。それを目敏く見つけたクイントがセルジオの背中を叩いて喝を入れる。
「こら、セルジオくん、ため息つかないの。幸せ逃げるわよ」
「別に今更一つ二つ逃げたところで大して変わりませんよ」
「そういう問題じゃないの。あなたの幸せが逃げたのがきっかけでこれ以上悪いことが起きたらどうするのよ」
「…………それって例えばどんな」
「そうねぇ、例えばこの後緊急出動が起こるとか」
「やめてくださいよ、口は災いの元って…………」
────ジリリリリリ。
「……………メガーヌさん」
「……………メガーヌ」
「「今のってどっちのせいだと思う?」」
「知らないわよ」
メガーヌが頭を抑えながら天を仰いだ。
「このタイミングで緊急出動とか、本当に勘弁して頂戴よ……」
一応、今年クリスマス短編書こうと思います。
活動報告に投票形式で置いておくので良ければ見てください。興味ある人は明日くらいまでに反応くれたら嬉しいです。