この前には『密着!航空魔導隊三課24時!「中編」』があるので読んでない人はそちらを先にどうぞ。
「何やってんだ! 死にたいのかあんたら!」
紅い瞳のセルジオが怒鳴るとディレクター達が目を丸くしてこくこくと何度も頷いた。
直ぐにガジェットに向き直ろうとするセルジオ。しかし、ビルから飛び出した数体のガジェットはいかなる原理か鉄の体を宙に飛ばして都市の方へと逃げていく。
その姿にセルジオが小さく舌を打った後、背後で弾け飛んだレーザーの残滓へと目をやって、遥か後方で待機するヴァイスへと念話を送った。
「サポートサンキューなヴァイス」
『(アンタまじで無茶苦茶しますねぇ! 俺が間に合わなかったらどうするつもりだったんすか!)』
「んー、お前ならレーザーくらい撃ち落としてくれるかなって」
『(先輩はもう、ほんとに……)』
よっぽどなにかを言おうとしたヴァイスだったが、セルジオの背後、後方のメガーヌのそばにいる少女の姿を見て言葉を飲み込んだ。
どうやらセルジオが座標を送ったお陰で召喚魔法によっての救出ができたらしかった。
「セルジオくん!」
「高町か、どうした」
「どうしたじゃないよ! また無茶して──セルジオくん、目が……」
「ほらほら、なのはちゃん。この子を叱るのは良いけど今はそれよりいうべきことがあるわ」
「そういうのは三課に帰ってからやりましょ、ね?」
「……はい。そう、ですね」
一瞬何かに気づいたようになのはが息を飲んだが、それを言葉にするよりも早く、ウイングロードに乗ったクイントと、フォードを伴ったメガーヌがセルジオの側までやってくる。
「状況を教えてもらえますか、メガーヌさん」
「さっき私が回収した人質の子に怪我はない。それになのはちゃんが撃った魔導師の男も気絶してるわ。ただ、問題は……」
「AMFのついたガジェットが逃げてるってこと。しかも最悪なことに人口密集地の方に」
「なるほど。ガジェットの数と、その追跡は?」
「数は小型のものが八体。マシンアームが伸びるタイプだね。追跡は陸士の人たちがやってくれてるけど、AMFのせいで追いつけてない。このままじゃ警戒網から出ちゃうと思う」
「わざわざ市街地に行くとは少し厄介な思考ルーチンだな」
話を聞いてふむ、とセルジオが腕を組んだ。
「高町、お前ならAMF抜ける弾丸作れたりするか?」
「それって、ティーダさんがやってたみたいなヴァリアブルバレット?」
「そうだ。術式は持ってるか?」
「一応持ってはいるけど、正直負担が大きくて飛びながらとか、エリアサーチをしながらとかは無理かも」
「わかった。そこあたりは俺がカバーする。クイントさん、今から言う場所にウイングロードお願いできますか」
「いいけど…………ここってAMFがあるんじゃないの?」
「はい。なのでAMFでも消えないような特別固いやつをお願いします」
「ちょ、ちょっと待ってセルジオ君、貴方何するつもりなの?」
メガーヌが問いかけると、セルジオは何でもないようにさらりと答えた。
「何って
「走って?」
首をかしげるメガーヌにセルジオが不敵な笑みを浮かべて頷いた。
「なので、メガーヌさんちょっと召喚して欲しいものがあるんです」
ナレーション「予期せぬ緊急事態が三課を襲う! 不運なことに人質の少女がスナイパーの妹だったのだと言う。なんとかフォローに回り立てこもり犯は確保したものの中に潜んでいた機械兵を取り逃がしてしまう」
空撮されたクラナガンの都市街。デパートの周囲は人が少ないものの、ある地点を超えると一気に野次馬が詰め寄せている。
管理局員が避難をさせようとしているものの人の多さから避難がうまくいっていない。
ナレーション「今回逃げた機械兵は高速道路の立体道路沿いに飛行。それぞれがバラバラに飛ぶ事で一掃が難しくなってしまっている」
クラナガンの映像から都市の簡易マップとガジェットの位置を指し示す光点。八体どれもが離れており砲撃などでの殲滅は難しいことがわかる。
ナレーション「現地武装隊も頭を悩ませる中、高町空曹長の相棒であるアウディ分隊長が驚きの行動に出た!」
真剣な表情でウイングロードを作り出すクイントの側で、『バイク』のエンジンをかけるセルジオの姿。
ナレーション「そう、分隊長は魔法で組み上げた足場の上をバイクで走ろうと言うのだ」
セルジオの顔のアップ。その表情はいつもとなんら変わりない。
ナレーション「刻一刻と迫るリミット。その中でやはりアウディ分隊長の顔に緊張はない。これがエリートと呼ばれる彼の実力の一端なのだろうか」
体を内部から歪めるような振動がシート越しになのはへと伝わってくる。
「せ、セルジオくん」
「ん、どうした」
メガーヌに転移で持ってきてもらったセルジオのバイク、その後部のなのはが不安そうにセルジオの名を呼んだ。
「ほ、ほんとにやるの?」
「……まあそれしか方法がないからな」
「でもぉ……」
「今のガジェットが大体時速50キロ。それに追いつこうと思うなら俺のバイクで行くのが良い。ほら、さっさと諦めて捕まっとけ。射撃はお前だけが頼りなんだぞ」
「うぅ……」
レイジングハートを手にしたなのはがおっかなびっくりバイクに身を委ねた。だが、体がイマイチ安定しないのか何度も座り直そうとしている。
「セルジオ君、そろそろいけそうよ。準備はいーい?」
「はい、俺は……って、何やってるんだ高町。さっさと俺に掴まれ」
「へ、セルジオくんに?」
「当たり前だ。他に何に捕まるって言うんだ?」
「で、でもむ、胸とかが……」
「安心しろ、俺は年下に劣情を抱くほど飢えてはいない。そんなことはどうでもいいから、さっさとしてくれ」
「なんか凄く失礼なこと言われた気がする……」
釈然としない表情のなのはが左手でセルジオの腰辺りに掴まって自分よりも随分と大きな背中へと身を乗せた。
(セルジオくんの背中、けっこう大きいな)
とくん、となのはの胸が小さく跳ねる。セルジオと二人乗りをしたことがないわけではない。けれど、今はなぜか、いつもより心臓がうるさい気がした。
思わずなのはの思考がどこかに飛んでいきそうになるが、それを一際大きなエンジン音と振動が引き止めた。
「よーし、行くわよー、『ウイングロード』!」
クイントの掛け声とともに青色の帯が現れてその魔法名の通り、空への道を作り出した。その色は魔力が最大限に込められているのかいつもよりも濃い。
「本当にバイクで空に行くんだな」とウイングロードを見たなのはの思考が一瞬でフラットに戻ってくる。
「ねえ、セルジオくん、これもしかしてウイングロードから外れたら私たち地上に真っ逆さま?」
「もしかしなくてもそうだな」
「それって私たちでも死ぬんじゃない?」
「…………バリアジャケットを信じろ高町!」
「全然信用できない! ねえ、セルジオくんウイングロードから落ちたりしないでよ!?」
「安心しろ高町、俺はゴールドドライバーだ!」
「何一つ安心できる要素がないよ!」
「さあ行くぞ高町……!」
「ちょっと待って心の準備が───きゃああああああああ!」
グッとサムズアップしたセルジオが思いっきりアクセルを入れると、バイクが一気に加速、空へと繋がる道を一気に走り出す。
響く轟音の中でなのはの悲鳴が木霊する。その背中を見送りながらメガーヌが小さく敬礼した。
「頑張って来てね、なのはちゃん。後で空のドライブの感想聞かせて頂戴」
いまセルジオのやっていることの難易度がどれだけ高くても、失敗するとはさらさら思っていないし、あまつさえ軽口すら叩く余裕がある。
そこのあたりにセルジオに寄せられている信頼と、いわゆる三課『らしさ』が現れていた。
空に現れた青色の道の上を一台のバイクが疾走する。
太陽光を反射して銀光を瞬かせるセルジオの愛騎の速度はあっという間に100キロを超えて、尚も速度を上げながらガジェット達との距離を縮めていく。
「高町目を開けろ! そろそろ俺の広範囲解析に敵影が引っかかる!」
「で、でもかなり速いよ……」
「安心しろもし落ちたらお前だけはなんとか無傷で降ろす!」
「私が聞きたいのはそういう決意じゃないんだけどな……」
嘘でもいいので「絶対に落ちない」くらいの言葉は言って欲しかったなのは。けれどいつまでも怯えているわけにもいかない。言われた通り、そろそろと目を開いて、え、と小さな声が漏れた。
「なに、これ……」
クラナガンの市街を縫うようにして走るバイク。頰を撫でる風はいつもよりも強く、周囲の景色も飛ぶように変わっていく。
そう、これはまるで──
「私が、風になったみたい」
なのはの言葉に運転していたセルジオがわずかに頰を緩めた。
「(感動してるところ悪いが敵影だ。ヴァリアブルバレット、行けるな?)」
セルジオに言われてなのはが軽く息を吐いて、目線を前へと向けた。
「(──うん。任せて)」
なのはの言葉に応えるようにレイジングハートもデバイスコアを淡く光らせる。
「(俺がサポートしてお前が決める。いつも通りだ。緊張することはない)」
「(そうだね、いつも通り)」
そしてなのはの答えを聞くとセルジオも既に別の用途の為に起動していたゼファーの演算補助のシステムを駆動する。
(マルチタスク駆動───ワイドエリアサーチ)
セルジオの翠の目が紅混じりの白に染まり、自身を基点に前面への座標解析を始める。
空気の構成要素、ビルの材質、その他諸々の高速で叩き込まれていく情報の中から目当てのガジェットの反応を拾い上げようとするが、いつものようにすんなり発動してくれない。
(く、そ……! 破壊衝動を抑えてる分割思考のせいでいつもより演算が遅い)
忌々しげに舌を打つセルジオ。
いくらセルジオが解析魔法に秀でるとは言えマルチタスクを余分に二つ使いながらの広範囲解析は難しいらしかった。
(仕方ない、マルチタスク凍結解除、EC抵抗破却ーーーーー演算式駆動)
セルジオの目の紅色の割合が増して、思考がじわりと端から何かに沈み始める。そしてさらに畳み掛けるようにリンカーコアが少しばかり痛みを訴えかける。
セルジオが歯を噛み締めて演算を続行して、包囲網ギリギリでガジェットの姿を捕捉した。
「──高町!」
ゼファーを通してなのはへとデータが送られてきて、レイジングハートを右手で掲げるとセルジオの肩に乗せて固定した。
「──敵影捕捉、撃ちます」
なのはがレイジングハートの助けを借りて、普段より難解な演算をゆっくりと、しかし確実に組み上げていく。
まず相手を貫く弾丸を、そして周囲を魔法を弱められるAMFのフィールドから守るための魔力層でコーティング。生み出した七つの魔力弾を遍く貫く一撃へと変える。
《 Variable Bullet 》
「────シューーーーートッ!」
拳大の風穴が体を貫通したガジェットがばちり、とスパークし、次の瞬間には音を立てて爆発した。
その事を解析魔法で感じ取ったセルジオが小さく息をついてバイクのスピードを緩めていく。
(なんとか、終わったか……)
広範囲解析の負担と紅く染まり始めてる思考からくる頭痛に耐えながら、作戦終了の念話を送ろうとする。だが、それよりも早くなのはに軽く肩を叩かれた。
「セルジオくん、あと一体は?」
「──? ガジェットは今……」
「何言ってるのセルジオくん、ガジェットは『八体』いたよね? 残りの一体を探さなきゃ」
「え…………ああ、クソそうか! 今すぐ残りのを探す!」
セルジオが苛立たしげに舌打ちをした。
(ミスった、負担のせいで上手く思考が回ってなかったのか……いや、反省は後だ。今は残りのガジェットを早く探せ)
がんがんと頭蓋骨の内側を打ち付けるような痛みが襲ってくる中、必死に広範囲解析の演算式を組み上げていく。
(でもどうして引っかからなかった。いくら疲労していたとは言え俺が解析魔法で読み逃すなんてあるわけがない)
かちり、と何かがハマった音がした。
「まさかっ!?」
セルジオが叫んで、バイクの真下へと目を向けようとした瞬間、ぐらり、とウイングロードの輪郭が歪んだ。
「きゃあっ!」
「やっぱ隠密特化か、通りで、いやそれよりも──」
真下に見える四足歩行のガジェットからウイングロードへと目を向ける。真下のガジェットのAMFのせいか、ウイングロードの構成が弱くなったのか、バイクの重さに耐えきれず軋み始めていた。
飛行魔法はAMF下の為満足に使えない。よしんば使えたとしてもガジェットのレーザーを躱せる程の機動が可能とはとても思えない。
「高町、ヴァリアブルバレットを」
「無理だよ! あれ最低でも十五秒は演算時間がないと……」
「くそ、なら何か別の方法を……」
めし、とウイングロードに大きく亀裂が走った。
「やばい、落ちる……!」
セルジオが焦ったように声を漏らし、そしてゼファー内部の『切り札』を使用しようとした瞬間、銃声が響き、ガジェットが粉々に砕け散った。
「──え?」
「これは、ヴァリアブルバレットか……?」
なのはが呆気にとられたように目を開く。それに対し、セルジオはガジェットを撃ち抜いた見覚えのある魔力光の残滓に、遠くへと目を向けた。
『(よう、セルジオ先輩、勝手に撃ちやしたが、余計なお世話でしたかね)」
頭へ響く、スカした声。聞き覚えのあるその声に、セルジオが参ったとばかりに薄い笑みを浮かべた。
「ったく、相変わらずお前は信頼はできないが、カッコイイやつだよ、ヴァイス」
夕方。映像は砕け散ったガジェットドローンと、そのレーザーの流れ弾によって被害を受けたビルへ。
ナレーション「事件は終了した。負傷者はゼロ。けれど予期せぬ機械兵の行動によって周囲の建造物には被害が出てしまった……」
砕けたビル、崩落した立体道路。魔導師の男との交戦によって割れてしまったガラスや、デパートの壁。
そしてそれを見て表情を曇らせる三課、武装隊の面々。
ナレーション「この結果では、任務は完全に成功とは言い難い結果となってしまったと、後に武装隊の隊長は語った」
事件は終わり、セルジオは撤収の準備をしていた。そんな時、セルジオへと念話が繋がった。
『(セルジオ先輩)』
「ヴァイス?」
『(その、言いたいことがあって)』
「んー?」
『(ラグナの、妹のこと、ありがとうございます)』
「仕事だからやったんだ。お前にわざわざ礼を言われることじゃない」
何でもなさそうに言ったセルジオが、それに、と言葉を続ける。
「お前だって俺を助けてくれたろ? おあいこだ。今さら気にすんなよ」
『(……ですね。──と、すんません隊長に呼ばれたんで俺はこれで)』
「応。せいぜい言い訳してこい」
『(たはは、そうするとします)』
二人で軽く笑うと念話をきる。そして、再び撤収の準備をしようとしたセルジオの視界の端で、走り回るカメラマンの姿が映った。そんなセルジオへ声をかける人物が一人。
「お疲れ様でした、アウディ二尉」
「ディレクターさん、ですか」
「あれもしかしたら頭痛でも? 随分とお辛そうですが……」
「いえ、大したことじゃありません。ただ、こういうのも使うんだな、と」
そういうセルジオの目線の先には被害が出たビルなどを撮り続けるカメラマンの姿があった。
「……すみません、私たちは……」
「真実を映す、ですもんね。良いんです、貴方達に非はありませんよ」
小さく頷いたセルジオが空を仰いだ。
「やっぱり難しいですよね」
「へ?」
「本当なら人質の子も怖い想いなんてさせずにしっかり助けて、建物の被害なんかも出さずに、犯罪を起こしてしまった人の心だって助けてあげたい」
ふ、とセルジオが小さく嘆息。
「でも現実はそうじゃない。俺たちはヒーローじゃない。だから全てを助けられないけど、せめて、涙を流す人が一人でも減ってくれれば、そう思います」
そしてセルジオはディレクターに頭を下げて背中を向ける。その背中へと、自分より一回り年下の青年へとディレクターが声をかけた。
「アウディ二尉」
セルジオが振り返ると、そこには真剣な表情で見つめてくるディレクターの瞳があった。
「今のカメラの前でもう一回お願いします。『涙を流す人を一人でも減らしたい』ってくだり、最初から」
その後、この映像が流れた後はやたらと地上本部の一部(特になのはとセルジオ)の株が上がったとか上がらなかったとか。
ただこっぱずかしい台詞を言わされたセルジオは三課で死ぬほど弄られた。