Force Detonater   作:世嗣

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心の光

 

 真夜中の道路を一台のバイクが風を切るようにして疾走する。

 

 運転するのはセルジオ・アウディ。航空魔導隊三課に所属する武装局員である。

 士官学校をそこそこの成績で卒業した彼は、多くの部隊から勧誘がくる中、その全てを蹴って現在の部隊を希望した。その理由を知る者は多くはないが、わざわざ後始末部隊と呼ばれる部隊に行った事もあり彼の顔はそこそこ知られていたりする。

 まだ十六歳という若さながら既に空戦AA-を取っているあたり優秀さがよくわかる。

 

「(うわー、バイクって早いんですねー。なのは初めて乗りました)」

 

「(この風を切る感じは空を飛ぶ時とはまた違うよな)」

 

「(これってアウディさんの私物ですか?)」

 

「(まあ一応な。給料貯めて去年買ったやつだ)」

 

「(アウディさんってもしかして結構稼いでたりします?)」

 

「(流石に陸とはいえ俺も三尉だからな。それなりには貰ってるよ)」

 

 興奮したように念話を飛ばしてきたのは高町なのは。本人の希望と上層部のあれこれで三課に配属された未来を嘱望される魔導師である。

 一年前、第97管理外世界で起きた二つの大事件の解決に大きく貢献し、雑誌などにも大きく取り上げられた。現在は順調に三課に馴染み始め、マスコットキャラとしての地位を確立し始めている。

 

「(目的地はクラナガン郊外の廃棄都市……その地下道でしたっけ?)」

 

「(ああ。1035陸士部隊の捜査官が見つけた研究所なんだが、どうやら厄介らしくてな。既に重体が二人出ている)」

 

「(それで三課に回ってきたって感じですか。本当に後始末するんですね)」

 

「(まあなぁ。でもこれって言い換えると手柄の横取りだからな。まーた、嫌味を言われるかもな)」

 

「(でもやるんですよね?)」

 

「(当たり前だ。人は救う。そこに俺たちの感情は関係ないからな……っとそろそろだな)」

 

 二人の視界に映る風景が次第に寂れていく。クラナガンの様に高層ビルが立ち並んで入るが、その多くは途中で崩れ、窓ガラスが割れている。道路も同様にひび割れているため、セルジオがなるべく走れそうなところを探してバイクを走らせていく。

 

 ミッドチルダにはこうした廃棄都市がいくつか存在する。

 

 そも、ミッドチルダというのはとにかく発展と荒廃のスピードが早い。

 それは『魔法』という科学文明が発展しやすい土壌があってこそなのだが、これは良い面だけではない。

 盛んに行われる革命的発明。インフラ整備などではどうしようもない交通システムの進化。そうした早すぎる発展に都市自体がついていけなくなる。

 

 故に、捨てる。

 

 ある程度使って付いていけなくなった都市は捨ててしまう。

 そうして、発展と荒廃を繰り返し、都市機能を移すことでミッドチルダは栄えてきた。

 

 これは言うなれば副産物だ。影の面だ。

 

 一部の廃棄都市は管理局が買い取り訓練などに使用することもあるがそんなの全体に比べればごくわずかな数である。

 

 人々が喜ぶ発展の影で、こうした廃墟は増え続け、違法犯罪者や、社会的に行き場を失った人の温床となるのだ。

 

 そうした、問題の一つが、今夜セルジオとなのはが担当する違法研究所の調査だった。

 

「ほれ、ヘルメット」

 

「あ、お願いします」

 

 セルジオがバイクを停めて軽く結界を発動。封鎖結界の中に自身のバイクと受け取ったヘルメットを隠した。こうすることで事件解決後帰ってきたらバイクがパクられてましたという悲しい事態を回避できる。

 

 そんなことがあったらなのはの前でも少し涙を流す自信があった。

 

「高町、そろそろバリアジャケット起動させとけ」

 

「わかりました。レイジングハート、セットアップ」

 

「S2U・カスタム、セットアップ」

 

 なのはが桜色の魔力光に、セルジオの身体が白色の魔力光に包まれ、次の瞬間には二人の身体がバリアジャケットへと変わった。

 

「アウディさんのデバイスって、もしかてクロノくんのもののチューン機ですか?」

 

「今俺のデバイスはメンテ中でな。友人にいじって貰った奴だな、コイツは」

 

「え、そうなんですか。知りませんでした」

 

「そういえば言ってなかったか。今度見せてやるよ」

 

 さて、とセルジオが切り替えるように口を開く。通常の杖のものから僅かに変形して、魔力刃を使った槍へと形を変えているデバイスを肩に担ぐと情報のあった辺りをにらんだ。

 

「情報ではここあたりだが……このマンホールかな」

 

 槍の穂先を隙間に差し込んで蓋を弾く様にして開いた。その中は黒々とした闇に包まれており、どれほどの深さがあるかはわからない。一応はしごも付いているため降りるのは問題なさそうではあるのだが。

 

「高町サーチャー下の方まで飛ばしてくれるか?」

 

「わかりました。どこあたりまで偵察しますか?」

 

「真下まででいい。とりあえず罠とかがないかだけ確認頼む」

 

 なのはがレイジングハートを闇の中へと向けるとその先端から、魔力光と同色の拳大の球がゆっくりと射出される。

 

 その可愛らしい顔を引き締めていたなのはは、やがてセルジオの方を向いてこくりと頷く。

 

 問題ない、と瞳が語っている。

 

「じゃあ、高町から降りてくれ。俺はお前の後で降りるから」

 

「えぇっ! なのはからですか?」

 

「なんだ、ダメな理由があるのか」

 

「べ、別にないですけど……」

 

 なのはとしては真っ暗な中一人で降りるのは怖いなー、とか思っていたりするのだが、それを言うとセルジオに子供扱いされそうでなんだか嫌だった。

 

 だが、一人で降りるのに抵抗がないかと言われればそう言うわけでもなく。

 

 なので、なんとかセルジオから下に降りてもらおうとする。

 

「セルジオさんから降りてください。なのはは後から降りるので」

 

「いや、それは駄目だ」

 

「な、なんでですかっ! 別にいいじゃないですかっ」

 

 だが、セルジオは首を振るだけで先に降りてくれそうにない。

 なのはが頰を膨らましながら文句を言うと、セルジオは人差し指で頰を掻きながら、言いにくそうに、非常に言いにくそうに、なのはから目をそらす。

 

「だって俺から降りたら高町のスカートの中が見えるかもしれないだろうが」

 

「にゃっ!」

 

「別にめくりゃしないよ……」

 

 ばっと弾かれる様になのはが自身のバリアジャケットのスカートを抑える。いくらバリアジャケットとは言えやはりスカートの体をなしているので、なんとなく見られるのは恥ずかしさがある。

 

「先におります……」

 

「そうしてくれ」

 

 セルジオとしてはガキのパンツの一つや二つで騒ぎ立てる様なことはないが、言わなくて後で騒がれるのも面倒だった。

 彼の好みは気立てのいい長髪の女性なのでなのははストライクゾーン外である。

 

「アウディさん、そこに居ますよね」

 

「あーいるよー」

 

「……居ますよね?」

 

「おー」

 

「返事が聞こえないですぅっ」

 

「いいから早くおりなさいよ……」

 

 そんなこんなで二人がマンホールから地下水路に入る。

 

「水とか無いんですね」

 

「ここは廃棄されて長いしな。もう水道はとっくの昔に通ってないよ」

 

 なのはの疑問に答えながら、セルジオがしゃがんで目に魔力を流し込む。

 

解析(アナライズ)ーーーこっちか」

 

 セルジオの瞳に白が走り、暗闇の中で残っていた前回の捜査員の足跡、そして更に他の人物のものを発見する。

 

(この新しいのが1035の捜査官のもので、こっちの古いのはここの主人のものか。この感じからしてもう研究所はもぬけの殻だな)

 

 読み取った情報を整理しながら研究所についてあたりをつける。

 

(血痕とかも無いし人体実験とかじゃなくて、マシンかなんかのラボが妥当か)

 

 セルジオが立ち上がって遠くを見渡す。次回は薄暗く遠くまで見渡せるわけではないが、解析魔法さえ飛ばせれば構造だけは完璧に把握できる。

 

 光源もなしにセルジオは迷いなく通路を歩く。その後をなのはがレイジングハートを握ったままついていく。

 

 暗い通路で二人の足音だけが響く。

 

 それがなんだか不気味で、なのはが思わず目の前でひらひら揺れていたセルジオのコートの裾を握ってしまう。

 

 それに気づいたセルジオが足を止める。

 

「これは……?」

 

「へ、あ、ごめんなさいっ。今離しますっ」

 

「いや、別に心配なら握っておいてもいい。いざという時に仕事ができなきゃ困るが……高町なら問題はないだろう」

 

 それ以上セルジオは何も言わずまた黙々と歩き始める。なのははとりあえず今回はその言葉に甘えておくことに決めて、裾を控えめに握って足を進めた。

 

「ここ、かな」

 

「え? でも何もありませんよ?」

 

「いや……」

 

 しばらく歩いてセルジオが下水路の壁に手を触れた。薄い翠の瞳が白く光り解析が開始されると、どうやら壁の一部分がやたらとすり減っているのがわかる。

 

「たぶんパネルを投影してパスワード打つタイプだな。前にメガーヌさんと潜入した研究所で似たタイプを見たことがある」

 

「そのパネルはどこにあるんですか?」

 

「いやそれはわからないな。だが、これは触るところをしっかりさわれば開くタイプだ」

 

「で、でもただの壁を見分けることなんて……」

 

「開いたぞ」

 

「えええええ!」

 

「声がでかいな」

 

 解析魔法で得た情報から、セルジオはどういった形のパネルかを推測し、磨り減り具合やどこが一番触られているかなどの情報からさくっと扉を開いてしまう。

 

 目を見開くなのはの前で下水路の壁が重苦しい音ともに開いていき、研究所への通路が姿をあらわす。

 

「ど、どうやったんですか今の」

 

「別に? 戦うのと違ってこういうのは頭を使うかどうかだ」

 

 なんでもないことのように言うセルジオ。それに一瞬そうなのかな、と騙されそうになるが、すぐにそんな訳ないと思い直した。

 

「高町、念のためいつでもシューターが撃てるようにしとけ」

 

「は、はい」

 

「今回の通路は狭い。シューター系はともかくバスター系を撃つなら念話で俺に合図を送ってくれ」

 

「じゃあ前衛はアウディさんが?」

 

「ああ。昨日確認した通りだ」

 

「が、頑張ります……!」

 

「ああ、そいつは結構。裾を掴む手をそろそろ離してくれればなお嬉しい」

 

「すすすすすみません」

 

 なのはの手がセルジオの裾から離れてレイジングハートを強く握る。それを見て、ふ、と薄く笑って後でしっかり労ってやらなきゃなぁと考えながらセルジオが槍を構える。

 

 静かに通路を進んで行く。

 

 一定のリズムで刻まれる二人の足音。

 

 耳に痛いほどの静寂が広がる中をしばらく歩いたところで、セルジオの解析魔法に反応があった。

 

(これは、なんだ……? 魔力反応がないぞ)

 

 その物体の不可解さに眉をひそめると、それと時を同じくして、ソレが小さな機械音とともに起動する。

 

 ブゥン、という低い音がなのはとセルジオの耳に届いた。

 

「高町! 敵がくるぞ! 光源頼む!」

 

「了解です!」

 

 なのはが数発の魔力弾を通路の天井近くに滞空させ、即席の光源として、そのタイミングでソレが姿を現した。

 

「これは、なんだ……?」

 

 卵のような体に多脚生物のようにカサカサと動く足、アームと思わしき部分には巨大な鎌が付いており、胴体の中央の単眼はなのはとセルジオを捉えて離さない。

 

 ソレが、同時に三体。

 

 この時の二人は知らないが、そのマシンの名を、『ガジェットドローン』と言う。

 

「高町!」

 

「はい! アクセルシューター!」

 

 セルジオの背後からなのはが六発の誘導弾を発射する。以前模擬戦した時よりも数が少ないのは通路ということを考えてか。

 

 なのはのアクセルシューターのうち三発ずつがガジェットの後続二体を弾いて先頭の個体だけを孤立させる。

 

「はぁぁぁあッ!」

 

 セルジオが魔力刃を纏った槍を胴体を薙ぐようにして振るう。しかし、ガジェットの体は固く、槍は半ばまで食い込んでその動きを止めた。

 ガジェットの体から電弧が走り、辺りを白く照らす。

 

(固いッ!)

 

 素早く槍を引き抜きながら、袈裟懸けに振り下ろされるガジェットの右手の鎌を魔力刃で受け止める。

 つばぜり会う槍と鎌が軋み、がりっと魔力刃が削れる。

 

(くそ、やっぱ魔力刃は安定しねえな)

 

 ちっ、と小さく舌打ち。

 

「(アウディさん、三秒後砲撃を打ちます!)」

 

「(──! 了解した)」

 

 セルジオがガジェットのアームの力に逆らわず、刃の上を滑らせるように受け流すとバックステップで距離を取る。

 

『Three』

 

 今度は左から横薙ぎに振るわれる鎌を下から弾くようにそらしたセルジオはマルチタスクで待機させていた加速魔法に魔力を流す。

 

『Two』

 

 セルジオの体が白い燐光に包まれてガジェットの眼前から消える。

 

『One』

 

「ディバイン────」

 

 ブレーキをかけながらなのはのすぐ隣まで来たセルジオが加速を終了させると、ちょうどなのはが砲身に魔力を充填し終える。

 

 そして、大きく目を目を見開いた。

 

『Zero. Divine Buster』

 

「────バスター!」

 

 魔法陣が強く輝き、なのはの砲撃の代名詞、『ディバインバスター』が炸裂した。

 

 辺りの空気を纏めて薙ぎ払うようにして放たれた魔力砲はその全てを桜色に染め上げながら先程までセルジオが相手にしていたガジェットを粉々にした。

 

「oh…………」

 

 その威力を見てセルジオが絶句する。

 

 何も初めて見るわけではないが、こうして自分が先程まで対峙していた敵を粉々にされるとその規格外さに開いた口が塞がらない。

 

 砲撃を打ち終わったレイジングハートが排熱機構を開いて、使用済みのマガジンを排出する。

 

「第二射、行きます!」

 

「え、それ連射できんの」

 

 なのはがベルカ式を応用したカートリッジシステムをを起動させ、次のカートリッジを装填。再び砲身に桜色の魔力が収束されていく。

 

 狙いは先ほどアクセルシューターで弾いた二体のガジェットドローン。

 

 一秒ごとになのはの砲撃は光を強めていき、臨界点まで達した魔力が一気にビームとして放たれる。

 

 再び根こそぎ辺りの空気を巻き込むようにして極太の砲撃がガジェットへと向かっていき、()()()()()()()()()()()()

 

 え、となのはから驚きの声が漏れた。

 

「な、なんでディバインバスターが?」

 

 ばしゅう、と砲撃を終えたレイジングハートが再び熱を輩出して数発のマガジンを吐き出した。

 

「高町、もう一度だ! 次撃つまでに何秒かかる?」

 

「ええと、じゅ、十秒! それで間に合わせます!」

 

「なら俺は十秒時間を稼ごう」

 

 ブリッツアクション、そう呟くと魔法式をS2U・カスタムに乗せて演算を代行させ魔力を温存した加速を行う。

 十メートルはあった距離が瞬時に半分まで詰まり、セルジオが魔力刃を纏った槍を踏み込みとともに突いた。加速のスピードと鍛えた踏み込みの最大限にスピードとパワーの乗った一撃は手前のガジェットの体を突き刺した。

 

「お、らぁっ!」

 

 そして、今度は身体強化で膂力を強めてもう一体のガジェットを挟み込むようにして通路の壁に叩きつけた。

 機械同士を叩きつけた物凄い音が辺りに響く。

 叩きつけられた一体が足がひしゃげてしまったのかごろん、と無様にひっくり返る。

 

 だが、ガジェットもそれだけでは終わらない。

 

 セルジオに突き刺された方のガジェットが跳ね上げるような軌道で鎌を振るおうとする。瞬時にセルジオが槍を引き抜いて、魔力刃で逸らそうとする。

 音を切って鎌が走り、セルジオの魔力刃がしっかりとそれを防ぐ。

 

 

 

「────は?」

 

 

 

 

 ことはなく、槍の白い魔力刃が()()()()()()()し、ガジェットドローンの鎌がセルジオの腹部に突き刺さった。

 

 はじめにセルジオの腹部に冷たい感覚が、そして次に炎をぶち込まれたかのような感覚へと変わり、一瞬遅れてその全てが痛みへと変わる。

 

(魔力刃が、消えた……? いや、それよりも今は離脱を……!)

 

 セルジオがあらかじめ待機させていた短距離転移に魔力を流し込んで、()()()()()()()()

 

「な、にが……?」

 

 口から苦悶の声を漏らしながらセルジオがガジェットのマシンアームを掴んだ。これ以上押し込まれれば背中から鎌の先端が突き出しそうだった。

 必死に力を込める、が、いつのまにか身体強化魔法すら解除されているため、引き抜くことができない。

 

(これはまさか、AMFか……?)

 

 痛みではっきりしない思考で、いつか聞いた魔法理論を思い出す。

 

「くそっ、たれ……ッ!」

 

 セルジオの口から汚い言葉が溢れて、唇を強く噛んだ瞬間、視界の端で桜色の弾丸が走った。

 

「アクセルシューター!」

 

 なのはの誘導弾がセルジオを綺麗に避けてガジェットの装甲だけを叩いて、押しのけるように距離を取らせた。

 その拍子にガジェットの鎌部分が腹部から抜けていく。

 

「あ、ぎ……」

 

「アウディさんっ! 大丈夫ですかっ?!」

 

「問題、ない」

 

「そんなはずないです! だって血がこんなに……」

 

 倒れ込んだセルジオの元になのはが駆け寄ってきて、刺された腹からとめどなく溢れてくる血を見て顔をさっと青くした。

 

 鎌という武器は先端は細く、根元に向かうにつれて太くなる構造をしている。そして、セルジオはその鎌の半ばほどまで突き刺されて、腹に小さくない切り傷が生まれていた。下手すればそこから腹の中身が溢れるかもしれないレベルの大きさである。

 セルジオの体を支えるなのはの白いバリアジャケットが血で濡れる。白の中で血の赤が、その色が、薄暗い通路の中でも良く映えていた。

 

 なのはの雰囲気が一変する。

 

 今までの年相応のものから、強い決意を孕んだ強さを持ったものへと。

 

「私、行ってきます。だからアウディさんはここで待っていてください」

 

 そして、儚げに笑みを浮かべた。

 

「あなたを、助けます」

 

 なのはがレイジングハートを構えるとベルカ式の物を応用したカートリッジシステムが駆動し、次々にロードされていく。

 

 彼女は自身の魔法を『人のためになる素敵な力』と評している。

 

 偶然、なのはの中に宿っていた魔法の力。多くの人と出会い、成長して、それでも救えなかった人がいて。

 

 だからこそ高町なのはは誓ったのだ。

 

『絶対に救う』、と。

 

 故に、友人のいる『海』ではなく『陸』の舞台を選んだし、必死に三課で努力してきたのだ。

 

「レイジングハート・エクセリオン、フルドライブ────」

 

 だが、彼は、『それ』をなのは一人で背負うことを認めない。

 

「待て、高町。フルドライブは、使うな」

 

「アウディさん、安静にしてないと、あなたは──」

 

「俺は!」

 

 なのはの心配する声をセルジオが遮る。そして、ゆっくりと迫ってくるガジェットを視界の端に捉えながら、なのはと見つめ合う。

 

「俺は、高町の何だ」

 

「コンビ、です」

 

「……高町が、まだ信頼できないのはわかる。信用できないのもわかる」

 

 セルジオが少女の肩を掴む。

 

「でも、さ。『それ』は、()()が、守るんじゃない。()()()が、守るものだ」

 

 なのはが、セルジオの翠の瞳の奥に、強い光を見た気がした。

 

「だから、俺にも、一緒に無茶くらいさせてくれ」

 

 最後に、ふ、と笑って見せて、セルジオが目の前に迫っていたガジェットに向けて、魔力刃の消えた槍を突き出し、叫ぶ。

 

「ブレイクッ、インパルスッ!」

 

 先端から衝撃波を叩き込む()()()()()()()。ズ、と槍は僅かにガジェットの体に食い込むが、威力が足りなかったのか粉砕までは行かず、軽く吹き飛ばすだけにとどまった。

 

「今のって、魔法?」

 

「へ、やっぱりな」

 

 今の光景を見てセルジオが、白く目を輝かせながら不敵に笑う。

 

「高町、この魔法使用不可の空間は、常にそうってわけでもないみたいだぞ」

 

「それって、どういう……」

 

「あそこにある、馬鹿でかいマシンが見えるか?」

 

 セルジオの指差す方向をなのはの視線が追うと、二体のガジェットの後ろに薄く光る自動車サイズのマシンがあった。

 

「詳細は省くがあれが原因だ。どうやら完成品ってわけじゃないみたいだな、一瞬だが、出力が低下してる」

 

「ならその瞬間を狙いすませば魔法が使えるって事ですか?」

 

「ああ。でも砲撃とかは無理だ。魔力が多過ぎて途中で解けちまう」

 

 だから、とセルジオが額から流れる汗をコートで拭って、槍を握る。

 

「俺が短距離転移(ショートシフト)であそこまでとんで、マシンを壊してくる」

 

「アウディさん、その怪我で……」

 

「やる。だから、高町はそのタイミングで機械二体を破壊する砲撃を叩き込め」

 

 できるんですか、という質問が来るよりも早くセルジオが答えた。そして、また強い光を宿した翠の瞳でなのはを見つめた。

 

 その目が、出来るか、と聞いてくる。

 

「わかりました。私の全力全開で、砲撃を撃ちます」

 

 なのはの答えを聴くとセルジオは満足そうに頰を吊り上げて、翠の目を白く染め上げる。

 

「頼むぜ、相棒」

 

 今の状態では解析魔法はうまく機能しない。だが、常に発動していれば、()()遠くまで解析できてしまうこともある。あの、ガジェットドローンの背後の機械の方まで。

 機械の引き起こす現象に偶然はあるのか。その答えは否であり、ならば偶然は必然へと変わる。

 解析魔法が遠くまで届く、それがすなわち魔法使用不可の効果が弱まる瞬間である、と言うことだ。

 

(────今ッ!)

 

 短距離転移。

 

 言葉に出すことはないが、心の中でそう唱える。そうする事で、研ぎ澄ましたひと時の間に、なのはの隣からガジェットの背後へと瞬時にセルジオの体が転移する。

 血を吹き出しながら酷い痛みを訴えかけてくる腹部を無視して、槍を強く握った。

 

「ぶっ壊れろぉぉッ!」

 

 そして、槍を振り下ろす。

 

 魔力刃はないが、それがそもそも鉄の塊であるデバイスは、精密機械であるそれに鈍器のごとく叩きつけられる。

 マシンが、光を大きく瞬かせて、動きを止めた。それと同時にいつもの、魔法が使える感覚が体に戻ってくる。そこまでやって、セルジオの体が崩れ落ちる。ひどい出血と、無理な魔力行使でついに体力が底をついたのだった。

 

 暗くなっていく視界の中で、最後にぼんやりと目を開ける。

 

(ああ、本当に綺麗な光だ────)

 

 淡い桜色。

 

 それがセルジオ・アウディが最後に見た光景だった。

 

 

 

 

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