Force Detonater   作:世嗣

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静かな足音

 

 

 

 

「ハイペリオンスマッシャー!」

 

 《 Hyperion Smusher 》

 

「ディバインカノンッ!」

 

 三課の訓練場で、天上から押し潰すような桜色の砲撃が、空へと突き上げるような白色の砲撃が、それぞれ炸裂した。

 威力は桜色の砲撃が遥かに上だが、白い砲撃は正面から威力勝負はせずに、僅かに発射角をずらす事で、砲撃の軌道を逸らそうとする。

 弾頭が炸裂しピンクの光条がたわんだように見えたが、横合いからの一撃を食らっても勢いはほとんど死ぬことはなく、白を飲み込みながら直進した。

 

「相変わらずの馬鹿魔力ッ!」

 

「褒め言葉どうも!」

 

 淡い金髪の青年、セルジオが舌を打ち、艶やかな栗色の髪の少女、なのはは皮肉たっぷりに言い返す。

 短距離転移ーーーではなく、砲撃のせめぎ合いで生じた勢いで体を吹き飛ばしてなのはの射程から逃げ出したセルジオ。一旦距離をとって仕切りなおそうとしているのだろう。

 

「アクセルシューター!」

 

 だがそれをわかっていてみすみすセルジオを逃すなのはではない。レイジングハートに命じて瞬時に魔力を凝固、拳大の魔力弾を周囲に生み出した。

 

「シューーーート!」

 

「───ッ!」

 

 無数に迫り来る誘導弾に息を呑むと、ゼファーのシステムへとアクセス。戦闘データを元にして、一気に三十秒後未来を読み取るために分割思考を三つ増やした。

 

(模倣解析接ぞ──ッ!)

 

 だが突如セルジオの思考が揺れた。今まではものともしてなかった数の分割思考の負担に耐えきれず、ぐんにゃりと視界が歪んで、少しずつ色合いが消えていく。

 

「く、そ…………!」

 

 毒づくセルジオは増やすマルチタスクを止む無く一つに減らす。覗き見れる擬似的な未来は、万全の時から半分以下になるだろうが制御できないのでは仕方ない。

 

(予測ーーーーー十三手)

 

 セルジオの瞳に八秒後の未来が映し出され、果たして予測の通りに飛来してきた桜色の弾丸を砲撃形態のままの砲身で殴るようにして払う。

 

「ーーーシッ!」

 

 収束された魔力弾が魔力を込められたゼファーに砕かれて燐光を舞わせる中、セルジオは天井をバックにしたなのはを見上げる。

 

(並列思考演算ーーー加速機動)

 

 今のセルジオの瞳には未知はない。ゼファーのシステムによってなのはの行動全てを把握し、八秒間という限定した間でのみ彼女を上回る行動をとれる。

 故に、次になのはが何をしてくるかもセルジオには分かっている。

 

「ディバインーーー!」

 

 《 Divne Buster 》

 

 迫り来る砲撃を旋回して躱すと槍に魔力を纏わせてなのはとの距離を縮めていく。すかさずなのはは砲撃を中断すると、誘導弾(アクセルシューター)を射出、セルジオの行く手を阻む。

 

(既に。見えてる)

 

 だが、それはセルジオの予測の範疇だ。アクセルシューターで補助、ディバインシューターで相手を狙う、というのはなのはの得意戦術であるが、それはイコールでセルジオにとってはよく知ったものであるとも言える。

 

 故に、それは既知だ。

 

演算式駆動。加速機動(それはもう知っている)

 

 並列思考、マルチタスクに待機させていた術式に数値を代入して瞬時に発動させる。するとセルジオが白光に包まれ、なのはへと迫っていた肉体が数倍の速度に加速する。

 

「ディバイン────ッ!」

 

 白い閃光となったセルジオの握るデバイス砲身に眩い魔力が充填されていく。

 

「そう来ると思ってたよ!」

 

 けれどセルジオが()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。なのはは迎え撃つようにレイジングハートの矛先をセルジオに向けてブレードを展開し、砲撃しながら突撃する、A.C.Sを起動。マガジンに指をかけて、楽しそうに笑みを浮かべた。

 

「これで、私の勝ちだよ!」

 

 セルジオは優秀だが、なのはの才能は彼のものの遥かに上をいく。砲撃も飛行も魔力量も、まともに争えばセルジオがなのはに勝るものなどほとんど存在しない。

 けれど、そんななのはでも、唯一速度だけはセルジオに敵わない。長年ゼストの下で培ってきた戦闘経験と加速魔法、それによってなのはにはない誰よりも早く動き回るという力を得ている。

 

 けれど、なのははここで切り札を切った。

 

 収束砲撃突撃機構(A.C.S)。それはフォーミュラを失ったなのはにとっては唯一のセルジオに追いすがるための翼で、勝負を決めるための決定打。

 

「いいや、俺は()()()()()()()()()ッ!」

 

 だが、セルジオもまた、この未来を予測していた。

 

「エクセリオンバスターA.C.S.スタンバイ!」

 

「ブリッツアクションッ!」

 

 なのはが加速してセルジオに向かってくる。それを八秒ギリギリ、十三手の攻防で読み切っていたセルジオが、待機させていた加速魔法で回避する。

 

「───っ」

 

 かわされたなのはが旋回して再びセルジオを追おうとするが、遅い。セルジオは加速のスピードを緩めることなくなのはへと迫っていく。

 ごう、と風をきって白光が吠え、直撃を覚悟したなのはがシールドでの威力減衰の為にと魔法陣を構築する。

 

「喰らえ、ディバインカノーーーーあれ?」

 

 そして、セルジオが左手の砲身をなのはへと向けて、特にブレーキをかけることなくなのはの目の前を素通りしていく。

 

「ほへ?」

 

「んー?」

 

 これには歯を食いしばろうとしていたなのはも首を傾げたし、「これで勝った!」と確信していたセルジオも加速魔法の勢いで宙を滑りながら間抜けな声を漏らした。

 

「ごふっ!」

 

 そして上空のなのはを目指していたセルジオは、当然のように天井に激突、頭を強かにぶつけ、呻き声を上げた。

 

 なのはが微妙な顔で天井にぶつかってふらふらと頭を振るセルジオを見つめて、砲身の先を向けた。

 

「えーと、ディバインバスター」

 

 ばきゅん、とレイジングハートから飛び出した砲撃は、これまた当然のように無防備なセルジオに炸裂し、季節外れの花火となって訓練室を彩った。

 

 

 

 

 

 

「お疲れさん、高町」

 

「……セルジオくんもお疲れさま」

 

 二人で訓練室のベンチに腰掛けてスポーツドリンクで喉を潤す。

 

「今日の試合を入れて、俺の勝率は……おお、ついに4割か。ついに高町に負け越しかー」

 

「…………そっか」

 

「ん? なんだよ、浮かない顔だな。俺に勝ち越したことがそんなにご不満か?」

 

「そ、そんなことないもん。セルジオくんに勝てたのは嬉しいよ。明日のご飯奢ってもらえるんだし」

 

「なら何がそんなに気に入らないんだよ?」

 

「べつに」

 

 二人はこうして時々模擬戦をすることがある。それはコンビとして互いの戦法を理解するためでもあり、また事件のない間勘を鈍らせないようにする為でもある。

 そして、今日の模擬戦は五試合中三勝二敗でセルジオの言う通りなのはの勝ち越しだった。

 

「全く、よくわからんやつだな、高町は」

 

 やれやれとセルジオが息をつく。するとその態度にイラっとしたなのはが少し不機嫌そうに口を開いた。

 

「なら言わせてもらいますけどアウディ二尉」

 

「はい、なんでしょう」

 

 すっとなのはが居住まいを正して向き直ってきたので、思わずセルジオの方も背筋を伸ばした。

 

「手、抜いたでしょう」

 

「いや抜いてないが」

 

「嘘です」

 

「ノータイムで断言されると俺でも傷つくぞ」

 

「誤魔化さないで」

 

 ずびし、となのはがセルジオの胸を指で突いた。

 

「今回、セルジオくん一回も短距離転移使ってない」

 

「切り札だからな。そうポンポン使うものでもないだろう」

 

「それになんか行動予測もなんか鈍いし」

 

「なるべく頼らないようにしてるんだよ。あれは便利すぎて腕が落ちそうだ」

 

「……それに、なんというか、最近のセルジオくん魔法が雑だよ」

 

「雑」

 

 セルジオの言葉に、うん、となのはが頷く。

 曰く、選ぶ魔法が間違ってるわけじゃない。威力が弱いわけではない。発動速度が下がったわけでもない。

 

「だけど、なんて言うのかな、心ここに在らずって感じがする」

 

(高町は俺のことよく見てるんだなぁ)

 

 思わずセルジオが苦笑いをこぼす。良い相棒だが、彼女に隠し事をするのは日に日に難しくなる。

 

「それにセルジオくんはこの前まで風邪ひいてたんだし……」

 

「わはは、こやつめ」

 

「わぷっ、髪崩れちゃうからっ」

 

 セルジオがわしわしとなのはの頭を撫でると、いつものようになのはが悲鳴をあげる。

 

「心配してくれてサンキューな。俺は()()()だよ」

 

「むー、誤魔化してる」

 

「誤魔化してないって」

 

「ほんとうに?」

 

「本当に」

 

「なら、良いけど……」

 

 じとっとなのはがセルジオを見上げるようにして睨む。あはは、と乾いた笑みを零したセルジオが汗顔の頰をかく。

 確かになのはの言う通り自分の魔法が少し荒いのは自覚している。そして、その原因にも心当たりはある。

 

(けどそれは、いくら高町でも、言えない)

 

 だって、自分はその事を姉同然のクイントやメガーヌ、そして養父のゼストにも黙っているのだから。

 

(……時間が、ない)

 

 ちり、と思考の端が揺らめく中で、セルジオが深い息を落とす。

 

 まだ大丈夫。まだ意識はしっかりしている。保っていられる。セルジオ・アウディは、()()大切な人を傷つけたりしない。

 

「あ、セルジオくん、今年のクリスマスってどうなってる? お母さんができれば来て欲しいって言ってたんだけど……」

 

「クリスマスかぁ……、今年は流石に無理かなぁ」

 

「そっかぁ、お父さんとかも模擬戦したいって言ってたんだけどなぁ」

 

「ふむ、シロウさんがか」

 

「それに今年はお兄ちゃんとお姉ちゃんもいるから是非って! なんかこう、山籠もりするって!」

 

「へー山籠もり……山籠もり? 家族で?」

 

「うん、お父さんとお兄ちゃんとお姉ちゃんの三人でやってるんだって」

 

「ほー、地球のケーキ屋さんは凄いなぁ」

 

「たぶん、私の家族が特殊なだけだけどね」

 

 

 

 かちり、と歯車が音を立てる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ドクター、彼から連絡が来ています」

 

「ほう?」

 

 暗がりの中で金眼が愉しげに細められた。

 

「私の記憶が正しければ彼の定期検診は一月後だったはずだが……」

 

 言いながら、痩躯の男は幽鬼のように立ち上がり身をひしゃげさせてくつくつと低く笑った。

 

「この前使ったECの件だね。随分と無茶な使い方をしたようだし、大方誰か親しい人を()()()()()()()()()()()()()()?」

 

 あり得る話だ、と男は半月のような深い笑みを刻んで、髪をかきあげた。

 

「お偉方よ、どうやら貴方方の欲する力、手に入るのはそう遠くないかもしれませんよ」

 

 

 

 

 




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