Force Detonater   作:世嗣

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背中を通して見えるモノ

 

「どうも、皆さんこんにちは! 今年もバリバリ大盛況で行われている戦技披露会! 次はいよいよ空戦の部の最終試合(ファイナルマッチ)! 実況は広報部期待の星こと、私、セレナ・アールズです!」

 

 二人の魔導師が向き合うステージを見下ろして実況のセレナが楽しげにマイクを握る。

 

「私のことはさておき、戦闘空間の整備が行われている間に解説のお方々をご紹介したいと思います。まずは『次元航行隊』、通称『海』から。本局人事部のレティ・ロウラン提督です!」

 

「どうも、こんにちは」

 

「そして『地上本部』通称『陸』から航空魔導隊三課の部隊長、エース級魔導師ゼスト・グランガイツ一尉!」

 

「よろしく頼む」

 

「お二人は最終試合に出場するお二人の直属の上司ということでこの場にお呼びさせていただきました」

 

 テレビ局の飛ばしている小型カメラを搭載した魔力スフィアにレティとセレナが軽く手を振り、ゼストが浅く頭を下げる。

 

「さて、会場の皆さんはもちろんご存知でしょうがここで今一度選手の紹介をさせていただきます!」

 

 カメラが白銀の杖を構えるクロノを映し出す。

 

「こちら時空管理局本局所属、現『東京支部』支部長でもありますクロノ・ハラオウン執務官! ミッドチルダ式の魔導師であり、最年少執務官の記録保持者でもあります!

 魔導師ランクはAAA+。ですが数々の難事件に関わってきた彼の実力はほとんどSランクの域にあると言っても過言ではないでしょう!

 ロウラン提督、彼はどのような魔導師なんですか?」

 

「そうですね、高い魔力量とミッドチルダ式の魔導師として典型的な全てのことを万能的にやれるタイプです。特にバインドに関して彼を上回る人物は同世代には二人といないでしょうね」

 

「なるほど。では、次はセルジオ・アウディ二等空尉。その歳の若さで航空魔導隊三課の分隊長を務める地上本部のホープです! もしかしたら先日の密着ドキュメントでその名を初めて耳にした人も多いかもしれません。かくいう私もその一人だったり。

 では、ゼスト一尉、彼についてのお話をお聞かせ願いますか?」

 

「奴の使う魔法はミッドチルダ式。けれど執務官とは対照的に近接主体。ミッド式としては比較的少数派のスタイルだ」

 

「聞けばアウディ二尉はゼスト一尉のお弟子さんだそうですが」

 

「軽く槍を指南しただけだ。師匠とは言えないでしょう」

 

「なるほどー、お、戦闘空間の整備が終わったようです。

 開始位置は例年の如く有視界範囲200mとなります!

 制限時間は二十五分の一本勝負! さあどのような戦いになるのか私も期待せずにはいられません!」

 

 空中にホロウインドウが投影され、そのカウントが刻一刻と減っていき、やがてゼロになるのと同時にブザー音が鳴り響いた。

 

「では、試合開始ですっ!」

 

 

 

 ブザー音が鳴り響くと同時にデュランダルに素早く魔法式を展開して、青光の一閃を紡いで撃ち放った。

 

「ディバインシューター」

 

「──シッ!」

 

 だが、それをあらかじめ予期していたセルジオはゼファーの刃によって魔力弾を真っ二つに斬り裂いた。

 ばぁん、と眩しい光がまき散って、華々しい開幕の一閃となった。

 

 その後クロノが無数の魔力弾を展開し、セルジオへと射出。多角的にセルジオを襲うが、それを予期していたセルジオは一瞬加速を発動して躱してみせると、一気にクロノへと肉薄していく。

 

「──せァッ!」

 

「ラウンドシールド」

 

 クロノの生み出した魔力の盾がセルジオの突きを受け止めるが、高高度からの落下のスピードを乗せた一撃は重く、堅固なはずのシールドに軽い亀裂を走らせる。

 

 それを見てこれ以上クロノも近距離型の相手の間合いに留まってやるほど優しくはない。すぐに牽制の速射弾でセルジオをこれ以上近づけさせない。

 

 ならば、とセルジオは速射弾を斬りはらいながらゼファーを砲撃形態に変形させて、魔力を充填、砲身の先をクロノへと向ける。

 

 収束される白光に迎え撃つようにクロノも魔法陣を展開、杖の先に青色の光球を生み出した。

 

「ショートバスターッ!」

 

「──ブレイズカノン」

 

 二色の光が二人の中央で炸裂し、視界を眩い光で染め上げた。

 

 

 

 

 二人の戦いを見ながら西サイド、クロノの応援席にいるエイミィが感心したように唸った。

 

「二人とも随分上手く戦うわねー」

 

「そうですねぇ、なんちゅうか、えらく結構いろんな魔法使ってますね」

 

「まあ戦技披露会の目的が『市民に魔法戦闘を見せること』っていうのもあるから、二人ともなるべく相手の魔法を色々引き出そうとしてるって所かしら」

 

「じゃあつまり、クロノもスティンガーブレイドとかの高難度魔法じゃなくて、なるべく市民の人たちにもわかりやすいような簡単な魔法を使ってるってこと?」

 

「そうそう、そういうこと」

 

 フェイトが首を傾げながらそういうといっしょに試合を見守っていたリーゼアリアが指で丸を作ってにっこりと笑った。

 えへへ、と照れたように笑うフェイト。

 

「ん、もしかしてこの戦技披露会って、一定の『流れ』があるっちゅうことですか? いっぱい魔法を見せるパートとか、そういうの」

 

「察しがいいわね、はやてちゃん。基本、戦技披露会のファイナルは二十五分。その前半二十分は演舞に近いわ。前半が魔法の応用使用による撃ち合い、そして後半は今彼らがやってるみたいな空中戦って暗黙のルールで決まってるの」

 

「二十分? じゃあ、つまり残りの五分は……」

 

「そう、そこからが全力戦闘。制限なしの、正真正銘の全力全開。一番盛り上がるパートでもあるわね」

 

「ようできとるなぁ」

 

 感心したようにはやてが唸り、ふと、自分の隣のなのはが何やら難しい顔でクロノたちを見つめているのに気がついた。

 

「なのはちゃん、どないしたん。えらい難しい顔しとるけど」

 

「んー、これなんとなくセルジオくんに不利な形式だなーって思ってただけ」

 

「ほう?」

 

「基本セルジオくんって短期決戦タイプなんだよね。魔力もそんなに多くないのに、砲撃以外は決定打にかけるから頼らざるを得ない。だからセルジオくんはあんまり長期戦はやらない。

 

 だから、となのはが言葉をつなげる。

 

「セルジオくんが残りの五分に勝負をかけるならなるべく魔力を温存しとかなきゃいけないんだけど……」

 

「そういうルールがあるならセルジオさんは魔力を変に温存もでけへん、と」

 

「まあたぶんセルジオくんのことだから色々やって最後には勝つんだろうけど……って、何がおかしいの?」

 

 真剣な様子で話している最中、はやてとフェイトが顔を見合わせてくすくす笑ってるのに気がついて、なのはが首を傾げた。

 

「だって、なのは今の言い方だったらセルジオさんが勝つのを疑ってないみたいだよ」

 

「あんなに負けちゃえばいい、とか言ってたくせに、素直やないなぁと思ってなぁ」

 

「そ、そんなことないもん。ふつうに負ければいいって思ってるもん」

 

「でもそれって妥当にやれば勝つって思ってるってことだよね」

 

「あ……」

 

 言われて気づく。そう言えば自分はセルジオが何だかんだ言いつつ勝つことを確信しているような、そんな節があるように思えた。

 

 なのはが僅かに頬を赤くして空で魔法の応酬をする二人を見上げる。

 

 その横で、エイミィが腕時計に目を落として時間を確認した。

 

「もうすぐ、残り時間五分ね」

 

 二人の本当の戦いは、もうすぐ始まる。

 

 

 

 

 

 

 

(残り六分半。もうちょいで全力戦闘だな)

 

 クロノの射撃魔法を槍で打ち落としながら自分の現在の状態を確認する。

 魔力の消費は感覚的におよそ四割と言ったところ。分割思考はその過半数をECの制御に回しており使えても五つ。それから派生する演算能力の低下により『ディバインカノン』、十秒以上の加速、切り札一つでもある短距離転移の発動も困難である。

 

 そして何よりセルジオを苦しめるのが。

 

(今の俺じゃゼファーのシステムはたぶん殆ど使えない)

 

 行動予測と技術模倣。苦しい時にいつも助けてくれたそのシステムを負担の問題で使うことができない。

 どちらも数秒程度ならゼファーのシステムがなくとも擬似的な再現は可能だろうが、それでも頼りにはならないだろう。

 

 使えるのは殆ど負担なしで使える広範囲解析、短時間加速、この一ヶ月鍛えなおしてきた体術だけ。

 

(でもやるしか無いんだ。今の俺がやれる全てで……!)

 

 満足なものなどない。

 

(けど、足りないものがあることは、何かをなさない理由にはならないッ!)

 

 故に、『セルジオ・アウディ』という人間は、不屈の想いをこの胸に、足掻き続けるしかない。

 

 もう幾度かも分からぬほどに白光と青光が弾け、交わり、ぶつかり合って、そして、ついに制限時間が残り五分となる。

 

「ーーー」

 

「────」

 

 クロノ、セルジオの間で瞬きするのも能わぬほどの刹那、視線が交わされた。

 互いに何かを語るのではない。何かを伝えるのではない。けれど二人は示し合わせたように遠慮を捨てた。

 

「スティンガースナイプ!」

 

「当たるかっ!」

 

 瞬間的に放たれた、クロノの改良魔法(オリジナル)は、一条の流星と変わり空中のセルジオを狙う。

 けれど、セルジオは空中で速度を上げて旋回して躱すと槍を構えクロノへの距離を縮めようとする。

 

「させるか、スナイプショット!」

 

 だが、そこにクロノの魔力弾が加速追尾を付与されて逃げる白光を追随する。なんとか加速を使わずに振り切ろうとするが、弾丸はまるで意思を持ったようにセルジオから離れようとしない。

 

「演算式駆動ーーー加速機動(ブリッツアクション)

 

 ならば、とセルジオが加速魔法を発動、白光を身に纏って地面ぎりぎりまで降下してから急旋回、その速度についてこれなかった魔力弾が地面に突き刺さって弾けた。

 

 その鮮やかな飛行技術に観客席からどよめきが起こる中、セルジオは残り五秒となった加速時間の中でクロノへと迫る。

 

 クロノは少し速射弾で応戦するが加速したセルジオにはそれすら遅い。

 

「──隙が見えるぞ」

 

 翠の瞳が真白に光る。その瞳に移したあからさまな空間翔けて、一直線にクロノへと向かっていき、視界に明らかに異なる色を見て取った。

 

「──ッ!」

 

 慌てたようにセルジオがブレーキをかけて無理やりルートを変更して脇へと逃げる。

 一見奇妙にも見えるその行動にクロノの目がすっと細まる。

 

「直前で気づいたか」

 

「まああんだけあからさまな術式ならな」

 

「厄介な目だ」

 

 苦々しげにクロノが吐き捨てる。

 

 彼はセルジオの飛行ルートを射撃で誘導しながら設置型バインドで捉えるつもりだった。空間の一点、敢えて空けておいた隙、迷いなく踏み込んで来ればよい。もし仮に直前でバインドを知覚されても、加速を使わせていれば回避は困難、そう踏んでいたのだが、セルジオの解析は存外優秀らしかった。

 

 クロノがスティンガースナイプで狙い、セルジオはそれを短時間加速と槍で斬り払う事でかわしていく。

 

 セルジオがちら、と空へと浮かんだパネルで残り時間を確認する。指し示す残り時間は三分。

 

 今の二人の戦いはある程度相手の手札を把握し、信頼してるが故に起こる膠着状態。このままでは残り時間全てを使っても決着がつくとは考えにくい。

 勝つためには今の手札にプラスした何かが必要だ。

 

(……使えるか、短距離転移(ショートシフト)

 

 魔力的にも演算難度の両方から見て、そう何度も多用できる魔法ではない。使うならばこの攻防で決着をつける決意がいるだろう。

 

 セルジオが青光の中を飛びながら、細く息を吐いた。

 

 勝たねばならない。ならば自分に手を選んでいる余裕などないはずだ。

 

(マルチタスク凍結部分解除ーーー短距離転移術式駆動)

 

 破壊衝動を封じ込めていたマルチタスクの一つを解放、同時に手の中に拳大の魔力弾を生み出して、クロノとの中間地点めがけて放る。

 

炸裂弾(コンカッション)!」

 

 ぱあ、と魔力弾がはじけて眩い光を生み出した。この魔力弾に直接的な破壊力はないが、こうして衝撃と共に生み出される魔力光で一時的に視界を奪うことくらいはできる。

 

解析(アナライズ)ーーー視えた」

 

 端に赤さが見えていた瞳に白が走り、得るべき座標を取得。並列思考で演算されている術式へと代入される。

 

 その間、およそ二秒。

 

「術式駆動ーーー短距離転移(ショートシフト)ォ!」

 

 クロノの射撃の只中にあったセルジオの身体が三次元平面上から消失。百万分の一秒(マイクロセカンド)のラグと共に数十メートルという距離を歪めて、()()()()()()()出現する。

 

「──白光一刃」

 

 セルジオの槍に純白の魔力が収束されてクロノへと振り下ろされた。

 

 振り返るクロノ。けれど彼のデュランダルは先程までセルジオがいたはずの空間へと向けられており、シールドはおろか、その杖で受け止めることすら叶わない。

 

「────取った」

 

 セルジオが勝利を確信する。その瞳の中に勝利への道筋を思い描き──

 

 

()()()()()()()()()()

 

 

 直前で解析にすら引っかかっていなかった設置型バインドで身体が絡め取られた。

 

「解析にはそんな痕跡──」

 

「お前用に設えた『隠密罠(ハイディングバインド)』だ! いくら君でも見つけられるものだと思うな!」

 

 両腕と両足にそれぞれ現れた青色の輪に縛られたセルジオから滑るようにクロノが距離を取る。

 

 セルジオの短距離転移は彼の切り札だ。魔力量が豊富でないため多用できないし、一度認識されてしまえば相手の不意をつくことが難しくなる。突然現れればもちろん相手は驚くだろうが、この場合相手にそういう可能性もあると認識されているだけで、優位性はぐっと薄れる。

 

(けどこのくらい五秒あれば──)

 

「五秒あれば抜けられる、か」

 

 セルジオには繋がらぬ拳がある。その能力は拘束すら物ともせず高威力の拳を叩き込むこと。クイントほどの練度がないセルジオでも五秒もあれば砕いて抜け出すことだろう。

 

 しかし、クロノにはその五秒があれば十分だった。

 

 クロノが虚空に縫い付けたセルジオを見下ろして、軽く指を鳴らした。

 

 瞬間、三百六十度埋め尽くすように青色の刃がセルジオを取り囲むように出現する。

 

「嘘だろ……」

 

「君が四方八方逃げ回ってくれたおかげで待機させておく時間が取れた。感謝する」

 

「こんのドSがっ!」

 

「好きに言え」

 

 ニイ、と唇の端を吊り上げて笑ってみせたクロノが手の中に漆黒の杖を生み出した。S2U、彼の二本目の杖。

 

 セルジオが焦ったように繋がらぬ拳で両手足のバインドを砕いたが、魔力刃の包囲網から抜け出すには時は既に遅い。

 

「スティンガーブレイド・ジェノサイドシフトッ!」

 

 紡がれる起動句(トリガーワード)。待機していた無数の刃その全てがセルジオに向かって殺到した。

 

 

 

「これはクロノ君の勝ちかなぁー」

 

「流石にこれはちょっと難しいでしょうねぇ。まあ1.5ランク差あるのによく戦ったと思うわ」

 

「そんなこと、ないです」

 

「なのはちゃん?」

 

「セルジオくんは、まだ負けてない」

 

 

 

 

 

 解き放たれた魔力刃の嵐。視界全て、三百六十度を覆う大規模魔法。絶望的な状況の中瞬時に切り抜けるための方法を模索する。

 

 加速──攻撃範囲が多すぎる。もし仮に行動は読み切れたとしても十秒という短い時間で逃げきれるとは思えない。クロノは完璧に穴を潰している。

 

 転移──不可能。セルジオの短距離転移(ショートシフト)の限界範囲をすっぽり覆うようにスティンガーブレイドは展開されている。それに演算時間も足りない。

 

 ならば、セルジオに残された手札は一つだけ。

 

(全部、受けきるしかない)

 

 槍で斬りはらうことでこの嵐を乗り切るしか勝利への道はない。

 

 だが瞬時に胸の中でできるのか、という声が響く。

 

 上下左右、自身の動体視力で捉えることすら難しい魔法を、行動予測も何もなしに槍で斬り払う。そんなこと、非才のセルジオができるのか。

 

 弱気が叫ぶ。心の中で無理だと弱音が溢れる。

 

 でも、やらなければならない。できるできないでなく、今ならなければならない。

 

 セルジオがゼファーを強く握る。

 

 視界、解析にかけられた情報、今までの経験を以って相対して、嵐の向こうのクロノを見て、ふと、目が観客席の方へと滑った。そこには、見慣れた『彼女』が、自分を静かに見つめていて。

 

 

『 頑張れ 』

 

 

 声が聞こえた気がした。

 

「────」

 

 ふ、とセルジオが緩く笑んで、その佇まいが自然と緩んだ。

 

 脳裏に蘇る声があった。

 

 ──自分を信じろ、セルジオ。

 

 ──例え自分が信じられなくても、大切な人が信じる自分を信じて刃を握れ。

 

 ──それが、強さだ。

 

 始まりの刃が迫る。僅かに冷気を帯びたそれはセルジオへと迫り、唯ひたすらに鮮やかに銀閃に叩き落とされた。

 

「全部、視える」

 

  強くなることを望むならば、ゼストへと自らの覚悟を示すならば、己を信じて、この現実を振り払え。

 

「────は」

 

 短く息を吐いて、下方から、上方から、横合いから、死角から、刃に隠れるようにやってくるもの、その全てを見切って槍で撃ち落とす。

 

(研ぎ澄ませ、直撃するものだけを選び出せ、全てを予測しろ)

 

 修行はした。死ぬほど槍を振った。

 

 ならば、この程度()()()()()()()()()

 

 斬る。払う。突く。薙ぐ。叩く。弾く。いなす。

 

 何百、何千、何万と繰り返してきたその動作。ゼストに鍛えられ、士郎にしごかれ、恭也に磨かれたセルジオの槍技。

 

 その全てを総動員して──()()()()()

 

「──ッ」

 

 一撃、知覚から漏れた刃がセルジオの腕をかすめて白のバリアジャケットを削る。クロノのスティンガーブレイドの数は多く、セルジオの全力をとしても、手が足りない。

 

(この速さ、覚えてる。よく似たものを俺は知っている)

 

 襲い来る冷気を纏った刃の群れが、恭也の振るう二刀と重なる。

 

 どうしても手が足りず、槍一つじゃ凌げる数に限界がある。

 

(なら、手を増やせばいい)

 

 セルジオが両手で握っていた槍から()()()()()、胸元から一つのデバイスを抜き取った。

 

「──来い、S2U・カスタム!」

 

 ティーダに託された銀色のカードが、白色の短槍をへと形を変えて、セルジオの右手に握られ、振るわれた。その太刀筋に淀みはない。はったりや、思いつきなどではない、()()()()()()()()()()()()()

 

「──セ、ァッ!」

 

 斬、と氷雪の嵐が切り裂かれた。

 

 

 

 

 

 

「な、なんと、ハラオウン執務官が二つのデバイスを手に魔法を行使したのちアウディ二尉も二つの槍を展開! まさかこのようなことが起こるとは誰が予想したでしょう!」

 

「ハラオウン執務官の方はデュアルデバイスですね。非常に器用な彼だからこそできることです。おそらく同じことができる人はそういないでしょうね」

 

「なるほどー。グランガイツ一尉、一尉はこの状況を……一尉?」

 

 その光景に会場の誰よりも驚いたのはゼストだった。

 

 彼はセルジオの師匠である。幼き頃からセルジオに戦闘のイロハを叩き込んだのはゼストで、今までセルジオが使う魔法、技術、そのほとんどがゼスト直伝のものだ。

 故にセルジオの技術に未知はなく、万が一にも自身が負けることはないとは思っていた。

 

「二槍……俺の知らない、バトルスタイル」

 

 けれど、今の弟子は違う。

 左に長槍、右に短槍、両手を器用に使って魔力刃の嵐の中を駆け抜けている。

 

「そうか、お前はいつのまにか……」

 

 ふ、とゼストが遠くを見て薄く笑んだ。

 

 セルジオには積み重ねた努力があった。才能はなくとも頭を使って、その技術を積み上げようとする意思があった。

 けれど、セルジオの槍の技術が今ひとつ伸びきらなかったのは、非才故の自信のなさ。非才故に努力できるその姿勢は、裏返せば自らを信じていないということ。

 

 力は既にあった。後は、それを貫く想いさえあればよかった。

 

「想いを絶やすな、か」

 

 いつのまにか大きくなったその背中に、いつかの『彼女』の姿が見えた。

 

 

 

 

 氷雪の嵐を斬り裂いて二槍のセルジオが加速した。

 クロノの切り札であるスティンガーブレイドは破られた、そう誰もが思う。それ程にセルジオのやったことは意表をついていたし、誰にも予想はできなかった。

 

 ()()()()()()()

 

()()()()()()()()()()()()()!」

 

 ニイ、とクロノが笑みを浮かべて、魔力刃をS2Uで演算する間、並行してデュランダルで演算を進めていた『エターナルコフィン』を発動させる。

 クロノへと肉薄していたセルジオの姿が吹雪の中に閉じ込められ、いつものように忽然と搔き消えた。

 

 そして、セルジオがクロノの背後に──

 

(現れ、ない?)

 

 クロノが眉を寄せた、その刹那、自分の上で何かがきらり、と光ったのを感じ取る。

 

「まさかっ!?」

 

 弾かれるように上を、眩い太陽が輝く青空を見上げると、槍を白く光らせながら堕ちて来る姿を見つけるが、回避をするにはもう遅い。

 

「セルジオッ!」

 

「クロノォォォッ!」

 

 クロノが瞬時にS2Uの杖先を向けて魔力を収束し迎撃を試みようとするが、セルジオと重なる太陽の光に、上手く照準が合わせられない。

 

「紫電一閃改────白光双刃ッ!」

 

「く、スティンガースナイプ!」

 

 二振りの槍と、青色の流星。

 放たれたのは殆ど同時、けれど果たして打ち勝ったのは槍の方だった。

 

 クロノの砲撃が短槍を吹き飛ばしながらも、軌道をわずかにそらされて空の彼方へと伸びていく。そして、長槍は真っ直ぐにクロノへと吸い込まれていく。

 

「僕を、舐、めるなっ!」

 

「そうそう簡単には勝たせちゃくれないかッ!」

 

 だがクロノもみすみす直撃をくらうほど甘くはない。ゼファーによる唐竹の振り下ろしになんとかデュランダルを滑り込ませることで見事受け止めてみせる。

 

 金属同士が甲高い音を響かせて、鍔迫り合い二人分の重量を受け止めきれなかったクロノとセルジオがもつれ合うように地上へと堕ちていき、激突寸前で離れた。

 

 ガガガ、とブレーキをかけながら地上に降り立ったセルジオが手の中で軽くゼファーを回して、最後の加速を発動させる。

 

 白光に包まれるセルジオ、そして墜落してすぐさまの迎撃は不可能と見てラウンドシールドを展開して凌ごうとするクロノ。

 

 これが、最後の交錯だ。

 

「────は」

 

 短く息を吐く。

 

 思い描くのはいつか見たゼストの一撃、そして、恭也にあの日見せてもらった疾風のような一閃。二つに武器の違いはあれど、根源たる技術は同じである故に、その模倣は難くない。

 

(擬似再現────)

 

 クロノを前にして、瞳が白光が走り、二人の動きと技術がセルジオの動きと重なる。

 

「────ゼァッ!」

 

 セルジオの槍がクロノの青色の障壁に触れると、杖を通してクロノへと()()()()()()()余すことなく伝わっていく。

 

 『鎧通し』。

 それは物体を通して衝撃だけを伝える技術。約束の見返りとして恭也が特別に見せてくれた『徹』という技であり、ゼストもまた好んで使う技の一つだった。

 

「──か、はっ」

 

 クロノが、訳がわからないというように目を剥いて膝を折るーーー直前に根性だけで持ちこたえると、目の前の友を強く睨んだ。その目に未だ闘志は消えていない。

 

「う、おおおおおッ!」

 

 セルジオが槍を構えて、吼える。

 

「────スナイプ、ショットォ!」

 

 クロノが消えゆく意識の中、最後の力を振り絞って腕を振り下ろした。

 

 二人の叫び声の中、白光と青光が弾けて光った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 結論から言って、戦技披露会の最終戦は引き分けということで決着がついた。

 

 最後、セルジオの槍がクロノを捉えるかと思われたが、その直前でクロノの操作するスティンガースナイプの弾丸がセルジオの後頭部を撃ったのだ。

 流石にこれは予想できていなかったセルジオが膝をついて、それと同時に制限時間のブザーが鳴った。

 結果、二人ともノックアウト寸前で試合が終わり、解説の二人が今回は引き分けである、との判断を下したのだった。

 

 そして、試合を終えたセルジオはと言うと。

 

「あいた、いつつつ、メガーヌさん、扱いが雑! 雑です!」

 

「はいはい、文句言わないの」

 

 控え室に戻ってメガーヌに軽い治療を受けていた。

 

「この後にはもう一回インタビュー、その後には閉会のあれこれがあるんだから、のんびりはやってられないの。我慢なさい」

 

「そりゃわかってますけど……」

 

「なら文句言わずに頑張って頂戴ね……よし、治療おしまい」

 

「あいた」

 

 ぽん、と軽くメガーヌがセルジオの体を叩くと立ち上がって一息。

 

「じゃあ私は先に行って段取りしとくから十五分くらい休んだらきて頂戴ね」

 

 そう言ってメガーヌが控え室から立ち去ろうとして、ふと、振り返って柔らかな表情を浮かべた。

 

「セルジオくん」

 

「はい?」

 

「その、大丈夫?」

 

「なんのことですか? 怪我なら平気ですよ」

 

「……そう」

 

 いつもと変わらない笑顔を浮かべて応じると、メガーヌは小さく首肯して部屋を出て行った。その背中を見送って、広範囲解析にも反応しないほど遠くに行ったことを確認する。

 

「────ッ!」

 

 セルジオが、拳を壁に打ち付けた。ぎりぎりと歯を噛み締めて音を鳴らし、手が白くなるほど強く握ったセルジオには隠しきれない悔しさの色がある。

 

「勝てなかった……!」

 

 努力はした。対策は立てたし、自分にやれることはなんだってやったつもりだった。上手く扱えるかわからなかった二槍だって使えた。鎧通しだって、加速も、転移も、今自分にできる全部をやって戦った。それでも、望む結果は得られなかった。

 胸の中にもしたられば、そんな女々しい後悔と仮定の事ばかりが浮かび、そして消えていく。そんなこと、考えても意味はないのに。

 

「ああ、クソ、悔しいなぁ……」

 

 ガン、と再び拳を壁に打ち付けると、痺れるような痛みが肘先まで伝わった。

 

「あの、セルジオくん……」

 

 不意に扉がノックされて意識が現実まで引き戻される。ふう、と短い息を漏らすとセルジオが顔を軽く叩いて気分を入れ替えて、いつものように笑って扉を開けた。

 

 そこには視線を下に落としたなのはの姿が。

 

「どうした、高町」

 

 努めていつもと変わらない調子でそう言った途端、なのはが顔を上げてセルジオを覗き込んだ。

 

「セルジオくん、なんか無理してる?」

 

「──そんなこと、ないよ。俺は普通だ」

 

「……そっか」

 

 ほんの少しの間を置いての答え。なのはは少しだけ眉を寄せたが、それ以上セルジオを問い詰めるようなことはしなかった。

 

「高町も、悪かったな」

 

「え?」

 

「せっかく応援してくれたのに負けちまって。あっちでは応援しにくかっただろうにさ」

 

「……見てたんだ」

 

「偶然目に入ってな」

 

 ははは、と乾いたように笑うセルジオを見つめたまま、なのはがスカートの裾をぎゅっと握った。

 

「それ、クロノくんの応援だとか、思わなかったの」

 

「え、あ、ああ……た、たしかにそういう見方もできたか」

 

 セルジオが苦笑して頬をかきながら、でも、と言葉を繋いだ。

 

「なんとなく、『高町は俺を応援してくれてる』って、思っちゃってさ」

 

「ーーー」

 

「たぶん、それはどこにいてもそうだって思ってた。でも、確かにクロノの席にいるんだもんな、そりゃクロノの応援だよな……ははは、すまん、なんとなく自惚れて──」

 

 その言葉の先をセルジオが言うことはなかった。

 なぜなら、その先は言わせないとばかりに背伸びしたなのはがセルジオの頭を軽く抱き寄せて、優しく撫で始めたから。

 

(だから、私に応援して欲しいって、言わなかったんだ。私のこと、信じてたから)

 

 すとん、となのはの中で何かが腑に落ちた。

 

「セルジオくん、よく頑張ったね」

 

「なんだよ、子どもみたいに。俺はお前より年上なんだが」

 

「うん。だから、私がこうしたいから、そのわがままに付き合って欲しいんだ」

 

「なんだよ、それ」

 

 ふっと、セルジオの体から力が抜けた。

 

「ありがとう、高町」

 

「どういたしまして」

 

 それ以上言葉はなく、セルジオは悔しさを胸に瞳をゆっくりと閉じた。

 

 

 

 

 

 セルジオの始めての戦技披露会は、こうして引き分けという形で幕を下ろしたのだった。

 

 

 

 

 

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